魔王討伐後国外追放になった勇者は、まだ王都に居座っている
・2025年7月15日 誤字修正
誤字報告ありがとうございます。
おかげさまで、
7月9日には[日間]異世界転生/転移〔ファンタジー〕 - 短編 で一位、
7月11日には[日間]ハイファンタジー〔ファンタジー〕 - 短編 でも一位にランクインしました。
たくさんの評価、ブックマーク、リアクション、そして感想をありがとうございました。
・2025年7月11日 誤字修正
誤字報告ありがとうございます。
・2025年7月9日 誤字修正
誤字報告ありがとうございます。
・2025年7月8日 誤字修正
誤字報告ありがとうございます。
ある時、強大な力を持った魔王が現れ、世界の全てを支配せんと企んだ。
多くの魔物を従えた魔王の侵略に幾つもの国が滅び、このまま全て魔王に奪われてしまうのかと思われたある日、とある国で異世界から勇者が召喚された。
幾多の試練を越えて戦い続けた勇者は大きく成長し、ついには魔王を討ち果たした。
魔王の脅威は無くなり、世界に平和が訪れた。
人々は勇者に感謝し、役目を終えた勇者を手厚くもてなした。
一方通行の召還で元の世界に帰る術の無い勇者に対して、召喚を行った国で責任をもって生涯の生活を保障することとなった。
だが、魔王なき世界に勇者は不要、むしろ邪魔だと考える者も少なからず存在した。
「魔王が討伐された今、もはや勇者は不要。役に立たない勇者をいつまで飼っていれば良いのだ?」
「国の復興にも金はかかりますし、無駄飯ぐらいは早くいなくなっていただきたいものですな。」
「魔王と相打ちになっていればよかったものを。今からでも急逝しないものか。病気とか、戦いの傷が悪化したとか、いくらでも理由は付けられるだろう。」
「既に腕利きの暗殺者を送り込んだ者がいるそうですよ。結果は全て返り討ち、毒も効かなかったそうです。」
「腐っても勇者か。力尽くとは行きそうもないな。」
「正面が駄目なら搦め手で行けばよいのです。」
「確かに。奴は異世界から召喚された後は戦いばかりで、この世界の事には疎いはずだ。だが、死罪にできるほどの罪を捏造するのは難しいぞ。」
「世界を救った恩があるから、国家反逆罪でも恩赦が与えられるかもしれませんね。ですが、別に処刑する必要はないのです。国から追い出せば面倒を見る必要も無くなります。」
「それだと、他の国が勇者を取り込まないか?」
「今はどの国も復興で手一杯です。役立たずの勇者を受け入れる余裕はないでしょう。それに、受け入れられたって問題ないでしょう。勇者の面倒をその国が見てくれるのですから。」
「それもそうだな。今更勇者に何ができるわけもないか。」
「ついでに、勇者が復興資金を着服していたことにしましょう。民衆からの支持も失うでしょう。」
「それは良い。勇者には色々と罪を背負ってもらおう。」
「それでは、私は勇者の着服の事実を作ってまいりましょう。」
勇者を追い出す陰謀が秘かに進められた。
そして、準備が整い次第速やかに実行された。
「……以上の罪を以て、国外追放を言い渡す!」
最低限の手続きを最優先で行い、異例の早さで勇者に対する刑は確定した。
もとより被告の権利を保証するような人権意識の薄い世界である。
陰謀を進める者達だけで固められた密室裁判で、擁護する者から切り離された勇者に抗弁も異議申し立ても行う暇も与えられなかった。
急ぐ必要があったのだ。
この陰謀は国の総意ではない。
国の有力者の中にも勇者の恩義に報いようと真剣に考える者もいれば、勇者を国内に留めることで政治的に利用しようと考える者もいた。
陰謀が露見すれば、必ずどこかから横槍が入ることは間違いなかった。
だから、妨害が入る前に全てを終わらせる必要があった。
勇者を処刑ではなく国外追放にしたのも同じ理由だった。
処刑を実施するには、刑が確定した後にも煩雑な手続きが必要になる。特に勇者は平民ではなく国賓扱いだったので余計に大変だった。
時間がかかれば必ず横槍が入り、確定した刑が覆される恐れもある。
だが、国外追放ならば刑を言い渡した時点で即時実施することができた。
一度確定し、実施されてしまった刑を覆すことは難しい。特に陰謀に加担した者の中に王族が含まれているとなればなおさらだった。
こうして勇者は、身に覚えのない幾多の罪を着せられ、追放処分となった。
それから半年後。
国外追放されたはずの勇者は、まだ王都に居座っていた。
王都の一角にある安宿は一階が大衆食堂になっている。
王都には魔王との戦乱で流れ着いた独り暮らしの日雇い労働者も多く、安価で量のある食事を提供する大衆食堂は一定の需要があった。
朝晩の食事時には、宿屋と食堂のどちらが本業か分からないほどに混み合う。
そんな混み合う食堂で、多くの客に交じって勇者が朝食を取っていると、場違いな闖入者が入ってきた。
「なぜおまえがこんなところにいる、勇者!」
「おやおや、これは王子様じゃありませんか。『こんなところ』と言うなら、あんたらの方がよほど場違いだぜ。」
茶化す勇者にいら立ちを隠せない王子だったが、確かに場違いだった。
身分を隠す気もない格好の王子に、護衛の騎士の一団。
王都の中でも底辺に近い労働者が集まる大衆食堂の中では非常に浮いていた。
あまりにも的を射た勇者の発言に、周囲で聞き耳を立てていた客たちばかりか背後に控えていた騎士達までもが頷いてしまっていた。
「そんなことはどうでもいい! 国外追放になったお前が何故ここにいるかと聞いているんだ!」
空気を読まない王子は、苛立たしげに勇者に詰め寄った。
それに対して、勇者は肩をすくめて言う。
「なあ、王子様よぉ。お前はこの国の法律を知っているか?」
「? 当然だ!」
「俺は何も知らなかったから、必死に勉強したぞ。この国の法律に『国外追放』という刑罰は存在しない。」
「何を戯言を!」
「戯言ではないぞ。『国外追放』は通称で、正式には『王国法第四十八条第三項に基く国民の権利の剥奪』とかいう長ったらしい名前だ。」
「同じことだろうが。」
「同じじゃないんだな、これが。そもそも、国の法律で国外追放を行うのは無理がある。国法は国外には及ばないからな。」
「国内で通用すれば国外追放はできるだろう?」
「追放だけならな。国外に出てからの行動は国法では縛れないから、そのまま再入国しようとすることを止められないんだ。」
「バカな! 追放処分を受けて戻って来るなんて……」
「だがな、国法が国外に及ばない以上、一度国外に出た時点で刑罰としての国外追放は執行が終了したことになる。一度終了した刑罰をもう一度執行することはできないから、再入国した者を国外に追い出したければ、別の罪に対する刑罰として執行する必要がある。」
「いや、国外追放された者が国に戻ったら違法だろう!」
「国の法律で国外の行動に罪を問えないから無理だな。密入国したのなら罪に問えるが、密入国であることを立証する必要があるし、何らかの手段で合法的に入国されたら手が出せない。」
「そもそも、お前は刑を受けてから一度も国外に出てないだろうが!」
「最後まで話を聞け。お前の言う『国外追放』は国内からの退去命令を出す刑罰じゃない。」
「違うのか?」
「やっぱり分かってなかったか。あれはそんな生易しい刑罰じゃない。刑罰を言い渡した後に、俺に対する国内退去命令を出す手続きはしていないだろう?」
「た、確かに。」
「あの刑罰は、国民、外国人を含めて国内にいる人間全てに対して法を守る限り与えられる人としての権利を剥奪し、国内にいられなくするというものだ。」
「どういうことだ?」
「平民でも受けられる公共サービスも受けられないし、法の庇護も無くなる。簡単に言えば、俺から物を盗んでも窃盗にはならないし、俺を殺しても殺人罪にはならない。この処置は国内側の対応なので、本人が出国しようと継続される。」
「なるほど。」
「普通ならば全財産を奪われて殺されるから、生きるために刑に処されたことが周知される前に国外に逃げる。さもなくば奴隷になるかだ。奴隷なら他人の財産だから勝手に殺すことはできなくなる。」
「何だ、勇者から奴隷になったのか?」
「俺の場合はちょっと特別だ。襲ってきた奴らは全員返り討ちにしているから問題ない。」
「おい、これ以上罪を重ねる気か!」
「周囲の人間から無条件に守ってもらえる人格者と全ての悪意を自力で撥ね退けられる強者にはほとんど意味が無いことがこの刑罰の欠点だな。それと、今の俺はこの国で何をやっても法に触れない。」
「そんなわけあるか!」
「それがあるんだな。俺は今法の保護下にない。つまりこの国では法的に人間ではないんだ。獣や魔物と一緒だ。お前は屋台の食い物を奪った猫を窃盗罪で捕まえるのか? 人に噛みついた犬を傷害罪で訴えるのか?」
「屁理屈だ!」
「そんなことないぞ。他人の作った法律を人が守るのは何故か分かるか? 法を守れば法に守られるからだ。盗まなければ盗まれない。殺さなければ殺されない。法を守る限りは処罰は受けない。法を守るメリットがあるんだ。だが、法の庇護が無くなればどうなる? 盗まなくても盗まれる。殺さなくても殺される。法を遵守しても私刑に遭う。一方的に害を受けるだけの法律を律義に守る理由が何処にある?」
「いや、だが、」
「国法にも明記されているぞ。『王国法第四十八条第三項 補足二 権利を失った者の行為に対しては、法はこれに関与しない。』つまり、あらゆる意味で法の対象外になるってことだ。まあ、刑を執行したことで受刑者が何か問題を起こしても国は責任を取らないって意味だな。」
「だとしても、それは人としてどうなんだ?」
「人として、ねぇ。」
それまで王子をからかうように弁を弄していた勇者が、一転冷ややかな目で王子を見る。
王子は背筋に冷たいものを感じた。
「異世界から人を無理やり拉致して、魔王との戦いを強要し、どうにかやり遂げて世界を救った恩人に濡れ衣を着せて追い出すことは、人として許されることなのか?」
「うっ……」
「いや、その前に暗殺者が何回か来たから、本当は殺す気だったか。殺せなかったから国外追放にしたんだな。」
「ううっ……」
図星を指されて王子は動揺した。腹芸のできない王子である。
暗殺者を仕向けたのは別の者であったが、それを主張しても意味はないし、王子が勇者に濡れ衣を着せたことを認めるようなものである。
ふと気が付くと、周囲が静まり返っていた。
食事時で混み合っていた店内の客達が、一様に押し黙って王子を見ていた。
勇者と同じ冷ややかな視線だった。
王子の護衛である騎士達までもが同じような視線を王子に向けていた。
勇者が冤罪であることは知れ渡っていた。
事を急ぎ過ぎて、情報操作が不十分だったのだ。
時間をかけて勇者の評判を落とそうとすれば勇者擁護派の貴族に妨害されることは目に見えていたので仕方がなかったのだが、民衆の勇者への支持は衰えていなかった。
圧倒的なアウェイ感に王子は焦った。
「お、お前たち分かっているのか? こいつは犯罪者だ。犯罪者に味方すれば、お前たちだって罪に問われるのだぞ!」
だが、その程度の脅しで場の空気が変わることは無かった。
権力で人の心まで支配することはできない。稚拙な脅迫は、むしろ人々の心を王子からより遠ざけた。
宿屋の女将「勇者様には戦時中に助けていただいたことがあって……じゃなくて、勇者様が暴れたらこんな安宿一瞬で壊されてしまうから拒否できないんですよ。」
工事現場の親方「勇者様は追放前から度々手伝いに来てくれて『国に養われているのだから』と給金も受け取らず……え、ああ、そうか。勇者様は時々現場に現れて、十人分の仕事をして一人分の賃金を奪って行くんでさぁ。」
冒険者ギルドの受付嬢「高ランクの冒険者が揃って『勇者には勝てない』って言うんです。ギルドでは勇者様には手が出せません。それで、困難な依頼を受けてくれるから助かって……じゃなくて、完璧な仕事をするので他の冒険者の手前報酬を出さざるを得ないんです。」
ゴロツキ「勇者を襲ってもお咎め無しと聞いたから、身包み剥いでやろうと手勢を集めて襲ったんだ。そうしたら返り討ちにあって俺達が身包み剥がされちまったんだ……」
「何だか、取ってつけたような被害者発言をしているな。」
ゴロツキ「いや、俺達本当に被害者だから。」
騎士の一人がぼそりと呟いた。
ゴロツキの言葉は全員が黙殺した。
「形式的には俺の被害者という形にしてみた。これで、被害者を罰するようならば、次は貴族を襲ってやろう。」
一見すると稚拙な言い分、屁理屈に聞こえるが、勇者の真意に気付いて王子は青くなる。
街の人間は実質的に勇者の協力者だった。勇者の行動を制限したければ、その協力者を捕まえることは一つの手だ。
だが、それをやれば今度は貴族を襲うと勇者が宣言している。こちらは力尽くだろう。
相手は仮にも勇者だ。貴族の館と言ってもその警備の者は一般的な兵士程度の実力がせいぜいだ。勇者の実力行使を阻むには荷が重い。
貴族が被害に遭う時点で問題だが、厄介なのは被害に遭った貴族の扱いだ。
こちらは純粋な被害者であるから、捕まえたり処罰したりすることはできない。
だが、それでは同じく勇者の被害者を装っている平民との扱いの差に、民衆から不満の声が上がるだろう。
平時ならばともかく、復興に忙しく色々と混乱しているこの時期に民衆の不満が高まると、思わぬ問題が発生して政情不安を招きかねない。
さらに、勇者は襲撃対象の貴族の名前をいくつか挙げて見せた。
それらは、勇者を追放する陰謀に加担した者達の名だった。
偶然ではあるまい。
勇者は知っているのだ。誰が自分を嵌めたのかを。
勇者の背後にはどこかの貴族、おそらくは勇者擁護派の貴族が存在する。
王子はそう考えた。
「結局、お前たちは俺を追い出したのではなく、国の管理下から解放したんだよ。」
さらに王子を煽る勇者。
この時王子は焦っていた。
勇者を追い出す陰謀は上手くいっていたのだ。
勇者さえいなくなれば、その後の処理も何の問題もないはずだった。
勇者を慕う民衆は、時間をかけて情報操作を行えばよい。
勇者擁護派の貴族達だって、勇者本人がいなければどうしようもない。復興で忙しいこの時期、事を荒立てるよりも協力を望むはずだ。
だが、勇者が国内に留まっているとなると話は変わる。
勇者は王都で民衆と交流があり、それなりに評判が良い。
これでは悪い噂を流したところで効果は低いだろう。なにしろ、本人が身近にいるのだから嘘はすぐにばれる。
勇者擁護派の貴族達も勇者を取り込もうと動き出すだろう。既に勇者と接触している可能性も高い。
その時に勇者を懐柔するために持ち出す条件は、冤罪を晴らすこと、そして勇者を嵌めた者達を糾弾することだろう。
国内に留まった勇者が次々と問題を起こして評価を落とせば勇者を取り込もうという動きも無くなるかもしれない。
だが、その場合でも国外追放処分を強行し、勇者を法で裁けない状況を作り出した者達に非難の矛先は向くだろう。
逆に勇者が問題を起こさず、評判が上がり続ければ勇者の無実を信じる者も増えることになる。
調べれば冤罪であることが判明するだろう。そうなれば、やはり勇者に罪を着せた者達が非難されることになる。
陰謀を廻らせた者達の中でも、王子は特に目立つことになる。
王族の権威をちらつかせて強引に手続きを進め、反対する者の声を封じた本人だ。王族の身分も責任を取らせるには好都合だった。
場合によっては、王位継承権の剥奪や廃嫡もあり得た。
追い詰められて焦った王子は、判断を誤った。
「そうか、今の勇者が獣と同じならば……害獣は退治するしかあるまい。」
「ま、そうなるよな。法で裁けないのならば実力行使で排除するしかない。できれば、の話だがな。」
勇者と王子は、王子の護衛についてきた騎士達、それを率いる男に目を向けた。
彼は、騎士団を統率する騎士団長である。
「む、無理です! 魔王を倒した本人ですよ! 勇者殿がその気になれば、王都は三秒で火の海です!」
「いや、三分はかかるぞ。殺したく無い人間を保護する必要があるからな。王都を更地にするだけならメテオの魔法一発だから三秒で終わるけど。」
随分と物騒な話になった。
騎士団長は勇者と魔王の戦いに同行した経験があり、勇者の実力をよく知っていた。
「待て、魔王は軍の攻撃で瀕死になったところを勇者が止めを刺しただけだろう?」
「それは、俺を追い出すためにお前たちが流したデマだろ。自分で吐いた嘘に自分で踊らされてどーする。」
「連合軍は魔王軍の別働隊に阻まれて魔王とは交戦していません。魔王軍の本隊と魔王本人は勇者殿が独りで倒しました。」
王子にとっての最後の頼みの綱が、ぷっつりと切れた。
いくら勇者が強いと言っても、所詮は個人。国家や軍といった組織の力には対抗できないはず。
普通ならば、それは正しい。
だが、その国家が、各国の軍が束になっても敵わなかった魔王を倒すために召喚されたのが勇者である。
そして、実際に魔王の率いる魔物の軍団の大部分と魔王本人を一人で倒せるまでに実力を付けていた。
既に勇者単独で一国の軍隊を上回る戦力なのである。
勇者擁護派の者の中には、下手に勇者を怒らせて勇者が魔王を超える世界の脅威なることを懸念する者も多くいた。
「何なら全軍でかかって来るか? 相手になるぞ。王都では戦い難いなら、南の大樹海に行くか? あそこならどれだけ壊しても問題ない。」
「それこそ三秒で全滅じゃないですか、それ! それ以前に、あんな魔物の巣窟に入ったらそれだけで軍が壊滅しますよ!」
「そうか? 俺は戦闘訓練だと言って一人であそこに放り込まれたぞ。」
勇者と騎士団長が漫才を繰り広げている間、王子はフリーズしていた。
もはや打つ手なし。
武力では絶対に勇者には勝てない。
正面から戦うのではなく、不意を突き隙を狙う暗殺者も失敗している。
権謀術数ならば勝ち目はあったのだが、それが通用する舞台から勇者を追い出してしまったのは他ならぬ王子たちであった。
このままでは遠からず、王子の立場は危うくなるだろう。
だか、そんな先の事よりも、もっと直近に気を付けなければならない重要なことに王子は気付いていなかった。
「ところで王子様よぉ。せっかく会ったんだから、一発殴らせろ!」
「は?」
「一応一国の王子だからずぅーっと我慢していたんだ。いっつも、いっつも、越権行為の身勝手な命令を出すわ、人類の命運のかかった戦いのはずなのに自分が活躍するために作戦を無視して勝手に軍を動かすわ。」
「いや、それは……」
王子は勇者を追放するよりも前、魔王が倒されるよりも以前から勇者に恨まれてたようだ。
護衛の騎士達までが勇者に同意するように頷いている辺り、相当やらかしている。
「どーせ、今回も『自分より勇者の方がもてはやされていて許せない』とかくだらない理由で俺を排除しようと考えたんだろ?」
「うっ」
図星らしい。
周りの王子を見る目がさらに冷たくなった。
「おかげで今の俺は不敬罪も、傷害罪も、殺人罪も、国家反逆罪も、一切気にする必要がなくなった。」
「ま、待て待て!」
この期に及んでようやく身の危険を感じた王子であったが、もはや手遅れである。
勇者に国法が通用しないと判明した時点、あるいはせめて武力で勇者を抑え込めないと理解した時点で逃げ出すべきであった。
今から逃げ出そうとしても、その気になった勇者が軽く睨んだだけで威圧され、王子は身動きが取れなくなった。
ついでに、護衛の騎士達までも威圧されて、王子を守る行動を取ることができないでいる。
唯一動ける騎士団長が王子を守るように前に出るが、その顔は泣きそうだった。
「これも仕事です。どれほど無駄だと分かっていても、護衛対象は守らなければなりません。」
「あんたも大変だな……ホイ!」
勇者は軽く騎士団長を投げ捨てた。
これで王子を守る者は誰もいなくなった。
「死なない程度に手加減はしてやるよ。歯ぁ食いしばれ!」
「待て、止せ、ちょっとー」
そして、王子の悲鳴が響き渡った。
たまには普通に「ざまぁ」で終わる話を書いてみようと思ったら、こうなりました。
この王子はバカ王子です。黒幕はたぶん別にいます。
そして、その黒幕もきっとバカです。
勇者の法律談義はフィクションです。実際の法解釈がこんな感じで良いのかは知りません。