屈辱の味
あなたに会ったとき、本当は手を差し伸べたかった。どんな手を使っても良いから、攫ってしまいたかった。
しかしそのとき、私は汚れた身であることを強く意識した。私にはあなたに触れる権利などない。
隣の紳士があなたに触れ、そして連れて行った。私にはできないことを悠々と行っている。
これが屈辱の味か。
紳士が本当は暴力的なのではないかと思う。
しかし見かけるときはいつも笑顔で、私には湧き上がる気持ちの行き場がない。
本当は裏があるんだ。そう思うことで自分を鎮めている。そんなことはわかっている。わかっているが、そう考えることくらい許してくれても良いではないか。
とにかくすべてのものを壊したくて。破壊したくて。それを伝えるほどの口はなくて。
すべての金持ちは敵だ。俺たちが正義だ。それをわかってくれ。
笑って。視線をこちらに向けて。
幻影を追いかける。
あったかもしれない一幕。あったような気がする時間。
どうしようもない私だが、あなたに関しては祈っているんだ。
どこにいるかわからないあなたに、幸せが届きますように。
何度も頭を下げた。何度も指を結んだ。
ときどきで良いからあなたを見たい。
生まれ変わったら、あなたを攫えるくらい強い男になるんだ。
今度はこんな屈辱を味合わないよ。覚悟しておいて。