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婚約者と親友がキスしている場面に出くわした

作者: 瀬崎遊

修正を入れました。すみません。

 私の婚約者が私の親友と口づけているのを見てしまいました。

 どうして……?

 言葉では思いを告げ合っていはいないけれど、心を通い合わせることができていると思っていたのに……。


 私が目を見開いて立ち尽くしているのを婚約者は気付いているのでしょう。婚約者の視線が私に向きました。

 それでも口づけをしつづけ、そのうえ婚約者の手は親友の胸に触れました。

 

 私の親友はそれを嫌がらずに受け入れ、頬を染めています。

 唇が離れると、婚約者は親友の首筋に顔を(うず)めました。

 背後から友人に「アリスティーノ()」と呼ばれ飛び上がってしまいました。

 驚いて手にしていた教科書と筆記用具を手から落としてしまいました。


 親友がビクッと体を震わせて私の婚約者から離れて、私を見ました。

 私の婚約者も、私の親友も私を見て何事もなかったかのように私に笑いかけてきて、何を信じればいいのか解らなくなってしまいました。





 それからの二人は(わざ)と見せつけているのでしょう。

 そう断言したくなるくらい私が通る場所と時間で逢瀬を重ねています。

 今はもう私の婚約者と私の親友のことを学園で知らぬ人はいないと思われます。

 婚約者も親友も何事もなかったかのように私に話しかけてきて、婚約者であること、親友であることを辞めようとしません。


 二人の考えていることが解らなくて二人から距離を取ろうとすればするほど、二人は私に(まと)わりついてきます。

 二人の関係を知った頃は毎日泣いて過ごしていましたが、段々馬鹿らしくなっていつの頃からか二人が触れ合っていることに何も思わなくなりました。


 婚約解消したくて父に伝えましたが「伯爵家から侯爵家に婚約解消を願い出られない」と謝られてしまいました。

 仕方なく父には内緒で婚約者の父親に面会依頼を出しました。

 面会の許可が下りたので会いに行き、婚約解消をしたいことを告げました。


 ヨシュアーノ(婚約者)がその場に呼ばれ、小父様が問いただします。

 ヨシュアーノは飄々(ひょうひょう)(うそぶ)きます。

 一時間以上話し合いましたが、私の勘違いだということにされてしまいました。


 婚約者は「馬鹿だな」と言って私に口づけようとしてきたので思いっきりひっぱたいてやりました。

 ひ弱な私の力でも手形がきれいに付いていました。

 いい気味と思いましたが、私の手もかなり痛かったので今度からはなにか物で殴ろうと決心しました。




 結果、婚約解消も破棄も出来ず、結婚式の日になってしまいました。

 わたくしの親友だった女は厚かましくもわたくしの親友だと言って堂々と結婚式と披露宴に参列しています。


 だからわたくしは披露宴の大勢人がいる場所で大きな声で挨拶をすることにしました。


「あら。わたくしの親友だと(いつわ)ってわたくしの婚約者、いえ。ほんの少し前に夫になったんだったわ。私の夫の愛人のアマンダ様。ようこそいらっしゃいましたね。どれほどの(つら)の皮をお持ちなのか知りたいので、よくお顔を見せてくださいませ」


 わたくしが騒いでいるのを聞きつけて慌ててやって来た、今日から義父となった侯爵にも紹介します。


「あら、お義父様。こちらの女性がわたくしが婚約解消したいとお義父様にお願い申し上げても認めていただけなかった婚約者、いえ今は夫でしたわね。その愛人のアマンダ・コルリアート様です」

 直ぐ側にアマンダの婚約者が立っています。

 後数ヶ月すれば結婚するらしいです。


「ああ、アマンダ様の婚約者のリリアルト子爵令息様もいらっしゃいますね。お会いするのは初めてですね。ごあいさつ申し上げます。婚約者のいえ、夫となってしまいましたヨシュアーノがアマンダ様に大変お世話になっております。私の夫の子供が生まれるのか、リリアルト子爵令息様の御子を生むのか、その時までドキドキすることになりますね」


 リリアルト子爵令息様がわたくしとアマンダとヨシュアーノを何度も見比べています。

 わたくしはリリアルト子爵令息様にニッコリと笑いかけました。


「アマンダ様は未通の綺麗な姿でお嫁には行くことはできませんが、婚約解消せずにおられるのですから全てご承知の上のことでしょう。夫とアマンダ様の関係は清算されておりませんので、アマンダ様を夫と仲良く共有することとなりますでしょうが、よろしくお願いしますね」


 義父と夫がわたくしを黙らせようとしましたが、わたくしは最後まで言い切ることが出来ました。満足です。

 ざわざわとする披露宴会場で満足した顔をしているのはわたくし一人だけです。

 今日まで我慢して良かったと思うほどすっきり爽快な気分になりました。



 波乱の披露宴は打ち切られるように早々に終わってしまい、予定より早い時間から侯爵家の若夫婦の寝室へと案内されます。

 (みだ)らなと言っていいでしょう。そんなナイトウエアを着せられたので、わたくしは自室に戻って普通のナイトウエアに着替えました。


 部屋の鍵をかけ、開けられないように椅子の背でノブが下がらないようにして、眠りにつきました。

 途中ノブを回す音とドアを叩く音が聞こえましたが、すぐに夢の中に戻ることができました。


 爽やかな翌朝。夫となった男はわたくしに会うなりわたくしを怒鳴りつけます。

「初夜をしないなどどういうつもりだっ!!」

「どうして初夜ができると思ったのですか? 必要ならアマンダ様をお呼びになればよろしいのに。わたくしにあなたの相手をさせようなんて考えないでくださいませ。(おぞ)ましいですわ」


「なっ!! 妻の役目だろう!!」 

「そちらの役目はアマンダ様のものだとばかり。婚約時代からそうだったでしょう? 私はお断りいたします。お食事の時間に遅れてしまいますわよ」


 わたくしは夫に背を向けて食堂へと(おもむ)きました。

 食堂で私の顔を見るなり義父母は顔を(しか)めます。

 気付かないふり、知らぬ顔をして遠慮なくたっぷりと食事をいただきました。

 さすが侯爵家。朝食だというのに伯爵家とは違います。とても美味しい朝食でした。


「お義母様。今日のわたくしの予定はどうなっておりますか?」

「……疲れているでしょう?今日はゆっくりしたらいいわ」

「ありがとうございます。昼食後、用があってボルケニオ伯爵家の執事がわたくしを尋ねてまいりますので、よろしくお願いします」

 侯爵家の執事、ゴーガンが「かしこまりました」と答えました。


 朝食が済むと部屋へと戻ります。

 伯爵家から連れてきた侍女のシュリとエナが何かと世話を焼いてくれます。

 さすが侯爵家と言いたくなるお茶の味を堪能しながら趣味の機織(はたお)りの経糸(たていと)の長さと順番を決める整経(せいけい)をして午前中を過ごしました。



 夫が何をしているのかなんて興味がないので知りません。

 昼食は義母と二人でいただき、また部屋に戻ってお茶をしていると伯爵家から執事がやって来ました。


レイ(執事)。よく来てくれたわ」

「お嬢様のお願いならば、何事でもお応えさせて頂きます」

「では、お願い。部屋の鍵を取り替えてちょうだい。それからこちら側からだけ掛けられる鍵を付けてくれるかしら?」

「おまかせくださいませ。準備万端です」


 寝室に繋がるドアと廊下に繋がるドアの鍵の交換と内鍵を取り付けて「御用がありましたらいつでもお呼びください」とレイは言いおいて帰って行きました。


 その日の夜、夫はゴーガンから鍵を受け取っていたのでしょう。鍵穴に鍵を差し込む音が聞こえましたが、鍵が回らずまたノブをガチャガチャいわせていました。

 笑ってしまいます。


 翌朝また夫の怒鳴る声で一日が始まります。

「何故鍵が開かないのか!!」

「当然でしょう。鍵を交換しましたからね」

 昨日同様夫に背を向けて食堂に行きます。


 その日は義母から「政務を教えます」と言われ、一日義母と一緒に仕事をすることになりました。

「あなたは常識はないけど、仕事はできるのねぇ……」

 と義母に評価されたので、一応反論しておくことにしました。


「常識……わたくしが知る常識では婚約している人は浮気をしてはいけないと思っておりました。ヨシュアーノ様はわたくしに見られることで喜ぶ性癖(せいへき)があるようで、いつもアマンダ様と夜のベッドの中でするようなことをわたくしに見せて喜んでいらっしゃいました。それは常識ある行いなのですか?」


 義母は目を見開く。

「あっ!! 申し訳ありません。ドナルドハーン家ではそれが常識でしたか? 気が付かなくて申し訳ありません。必要ならばいつでも仰ってくださいね。人様の性生活を見学するのはヨシュアーノ様で慣れましたから、お義母様たちの性生活もいつでも見学させていただきますよ」


「ばっ! 馬鹿、あなた馬鹿じゃないのっ! そんなもの見せるわけないでしょう!!」

「ですが、ドナルドハーン家の常識なのでしょう? ヨシュアーノ様は本当に暇があればアマンダ様との行為をわたくしに見せては喜んでらっしゃいましたよ」


「も、もう今日の仕事は終わりですっ!! 部屋に戻ってちょうだいっ!!」

「わかりました。では失礼いたしますね」


 これで義母から声が掛からなくなるかと思ったけれど、何事もなかったかのように翌日も「仕事を教えます」と義母に呼ばれてしまいました。


 結婚して一ヶ月、わたくしはまだ綺麗な体のまま過ごすことが出来ています。

 夫も半分諦めたのか日に一度はドアノブが回るか試しますが、開かないと確認するとそれっきり静かになるようになりました。

 もう朝に文句を言われることもありません。




 バタン、シュッ、トントンと音を立てて機織(はたお)りをします。

 政務は義母と二人でしているので午後は暇になります。

 機織りをしていると「お手紙です」と差し出されました。


 差出人を見るとリリアルト子爵子息様からの手紙です。

『結婚式でアマンダのことを教えて下さりありがとうございました』という言葉から始まる手紙でした。

 リリアルト子爵家でもアマンダとヨシュアーノのことを調べたのだと書かれています。


 ヨシュアーノが結婚してからもアマンダと二人で連れ込み宿へ行っていた日付と滞在した時間が書かれていて、無事婚約解消することが出来たと書かれています。


「ヨシュア様もアマンダ様も馬鹿なんじゃないかしら?」

「どうかされましたか?」

 シュリが尋ねてきたので、リリアルト子爵令息様からの手紙を「読んでいいわよ」と渡しました。

「……本当に馬鹿なんですかね?」


 エナが「子爵家がこれ以上調べるのを止めるでしょうから、これからはこちらで調べますか?」と聞いてきます。

「必要ないわ。多分レイが嬉々として調べているから」

「さすがレイですね」

「本当に。お嬢様のためならなんでもするんですもの」

 二人はくすくす笑ってから真面目な顔に戻り、エナは侍女の仕事に戻っていきました。




 翌日、アマンダが侯爵家に怒鳴り込んできたらしいのだけれど、私に知らされることはありませんでした。

 後日シュリとエナが侍女仲間の噂話を聞いてきて、教えてくれました。


 それからもヨシュアーノとアマンダは続いていたらしいのだけれど、その二ヶ月後にアマンダの束縛が嫌になったのか、別れを切り出したヨシュアーノが怪我をして帰ってきたことがありました。


 大した傷ではなくて本当に、本当に残念でした。


 それも後日シュリとエナに教えてもらったのですけどね。

 ヨシュアーノは最近夕食の席にも顔を出さないので一週間か二週間くらい顔を合わせないことが普通になっています。


 ヨシュアーノが怪我したことを騎士団に告げたためアマンダは騎士団に逮捕されてしまいました。

 罰金と一年間、教会での労働を科せられたそうです。

 アマンダは強制退場となってしまいました。




 結婚して二年が経ち義母に「貴方たち子供はまだなの?」と聞かれたので「アマンダ様はちゃんと避妊していたようです。残念ですね。あっ?! それとも内緒で産んでいるのかしら? ヨシュアーノ様にお尋ねになったほうがいいかもしれませんよ。それとも今は別の女性と子作りを考えていらっしゃるのかしら?」と答えました。


「まさか……あなたたち……」

「ええ。わたくしたちは何の接触もありません。ですので子供ができることはありません」

「どうして?!」

「結婚前から浮気しているような人に触れられると考えるだけでも悍ましいですわ。お義母様はお義父様が浮気しても笑顔で許されるのですか?」


「このまま子供を産まないつもりなの?!」

「はい。当然です。子供を生むつもりはありません」

「子供を産むことは妻の役目でしょう?!」

「それ以前に浮気をしないことは夫婦として当たり前のことではないでしょうか?」

「あなたはっ! 本当に可愛気がないわね!!」


「相手によります。わたくしを可愛いと仰ってくださる方は多いのですが、一部の方には本当に不評なのです。元々はこんな性格ではなかったのですよ。ですが婚約者に浮気されて、それを見せつけられていたらこの様になってしまいました。仕方がないことですね」


「夫に言って離婚させますからねっ!!」

 胸の前で手を組んで「是非ともお願いします!! お義母様だけが頼りですね」と甘えるように言っておきました。


 なのに、義父母はわたくしのお願いを無視することにしたのか、わたくしと夫に「教えることはもう教え終わった」と言って領地へ行ってしまいました。

 無責任にもほどがある。と思うのはわたくしだけでしょうか?

 侯爵家の跡取りのことを一体どのように考えているのかと首を傾げてしまいます。



 義父母がいなくなると夫は遠慮が無くなったのか、またわたくしの部屋のドアをガチャガチャ、ドンドンと叩いたり蹴ったりしては中に入れずに諦めることを繰り返しています。

 それも十日程すると収まりましたけれど。


 さらに一週間が経つとヨシュアーノはアマンダではない平民の女の子を屋敷に住まわせるようになりました。

 ゴーガンと侍女長がヨシュアーノに苦言を(てい)していましたが、ヨシュアーノは無視することに決めたようです。

 可哀想にその女の子はヨシュアーノがいないと食事も与えられず、室内の片付けもしてもらえず、お風呂にも入れないそうです。


 使用人に存在を認めてもらえないのは本当に辛いですね。


 わたくしがさせているわけではないので「虐めのようなことは止めなさい」と使用人たちに一応伝えましたが、虐めを止めようが止めまいがわたくしはどちらでもいいというのが本音です。

 ゴーガンと侍女長は女の子への過度な虐めは止めて、ヨシュアーノの世話をしないという方向に方針を変えたようでした。


 ヨシュアーノが「お前たちは馘首(くび)だっ!!」と叫んでいましたが、人事権はわたくしにあるので二人は普通に今日も働いています。

 連れてきた平民の女の子は一ヶ月経たずに出ていってしまいました。



 更に一年が過ぎ、結婚して三年が経ちました。

 わたくしにその気はなかったけれど、ヨシュアーノが白い結婚で離婚を申し立てるのなら受け入れる気でいました。

 けれど待てど暮せど婚姻解消の連絡は来ず、ゴーガンに思わず尋ねました。


「ヨシュアーノ様はもしかして三年間夫婦生活がなければ白い結婚で離婚できることを知らないのかしら?」

「知ってらっしゃいます」

「なら何故婚姻解消しないのかしら?」

「奥様を愛していらっしゃるからではないでしょうか?」


「あはっははははっ!! やだっ!! もう!! ゴーガンったらっ!!」

 わたくしは人生で初めて爆笑するということをしてしまいました。

 そのうえゴーガンをバシバシ叩いてしまいました。


 侯爵夫人にはあるまじき行為だったと後で反省しました。

「面白い話を聞かせてもらったわ!! わたくしの人生で一番の笑い話よ!! ありがとう!! お茶会でのいい笑い話が出来たわ。きっと皆喜ぶわよ」

 ゴーガンは生真面目な顔をしていたけれど、あまりにも可笑しくて笑いを止める事ができませんでした。



 それから二週間ほど経ってヨシュアーノとすれ違うことがあったので「なぜ白い結婚を申し立てないのですか?」と尋ねると逆に「なぜそちらから白い結婚を申し立てないのか?」と尋ねられました。


「だって、最低限の仕事さえしていれば侯爵夫人でいられるのよ? 予算も潤沢(じゅんたく)ですし、欲しいと思ったものは大抵のものは買えるのになぜ婚姻解消しなければならないのですか?」


「私への愛ではないのか?!」

「そんなものあなたがアマンダ様とキスしているのを初めて見た半月後には無くなってしまいましたわ。お友達には私たちの結婚が白いものだと伝えていますから誤解されることはありませんし、実家に戻るよりいい暮らしができる。っていう理由だけです」


「嘘だろう……?」

「本当ですよ。わたくしなにか勘違いさせるようなことをしたかしら? なるべくあなたに関わらないようにしてきましたし、別の女性を屋敷に連れてきても何も言わなかったでしょう?」

「……」


「そうそう。いいタイミングだから聞いてみたいと思っていたことを聞いてもいいかしら?」

「なんだ……」

「アマンダ様のことがずっと好きだったのでしょう? なぜ婚約解消をしなかったのですか? あなたが婚約解消したいとお義父様に言えば婚約解消できたのではないですか?」


「……アマンダを好きだったことは一度もない」

「あら? そうなのですか?」

「アマンダの気持ちは知らないが……、私はアリスティーノ(きみ)と婚約解消を望んだこともない」


「そうなんですね? ……どうして? とお伺いしてもいいかしら?」

「……アリスティーノが好きだからだよ」

「理解不能です??? ならどうしてアマンダと関係を持ったのですか?」

「私を意識させたかったんだ」


「ますます意味不明です。あの頃、ヨシュアーノ様のことは意識していましたし、愛していました。アマンダ様と関係を持ったからヨシュアーノ様のことが嫌いになったのだけれど……」

「婚約時代にそんなこと言わなかったじゃないかっ!!」

「ヨシュアーノ様も何も言わなかったじゃないですか?」


「そんなぁ……」

「まぁっ。すれ違いってことかしら? こういう運命だったのですね。あれ? それにしてもアマンダ様との関係は長かった気がしますが?」

「男には出すもの出したいっていう欲求があるんだよ!! ……なぁ、一からやり直せないか?」

「無理です。今はもうヨシュアーノ様のことをなんとも思っていませんし、肌を触れ合わせるなど考えるだけで鳥肌が立ってしまいますわ。ほら! 見てくださいませ」


 鳥肌が立った腕をヨシュアーノに見せます。


「なんとも思っていないならやり直せるんじゃないのか?」

「なんとも思っていないというのは嫌いを通り越して関心すらないってことです。やり直すなんて無理だとはっきり言っておきますね。聞きたいことを聞けたのでわたくしにはもう用はありません」

 がっくりと肩を落としているヨシュアーノの姿を見て、伝えておくべきことがもう二つあったと思い出す。


「あっ!そうだわ!! 伝えることが二つありました」

「何だ?!」

 何かを期待する目で見られるけれど、ご期待には添えません。

「侯爵家には跡継ぎが必要でしょう? それなりの身分の人に子供を産んでもらったほうがいいと思いますよ。それかカロリンド(義妹)様の子を養子にするか、その辺りは任せますね」


「……」

「それと、ヨシュアーノ様は結婚前から色んな女性と関係を持っていたのですから、わたくしもその気になる人が出来たら身を任せますが、そのことに口を出さないで下さいね。万が一妊娠しても、この家の子供ではないと周知させますので安心してくださいね」


「ちっとも安心できないよっ!! 他に好きな男がいるのか?!」

「今はいませんがこのまま誰も好きにならずにいられるとは思えないのと、子供を一人くらいは産んでみたいですしね」

「許さないぞっ!!」


「許可は要りませんわ。そうすると伝えただけですから」

「アリスティーノ……! 私はお前が好きなんだって言ってるだろうっ!!」

「なら浮気はするべきではなかったと思いますよ。残念でしたね。では失礼いたします」



 この会話以降毎日手紙とプレゼントが届きましたが、プレゼントには通り一遍の礼状を出すだけということがわたくしとヨシュアーノの間で三ヶ月ほど続きました。

 四ヶ月目に入ると流石に毎日のプレゼントはできなくなったのでしょう。週に一度になり、月に一度になりました。

 手紙だけは気が向いた時に日常のあれこれが書かれているものが届きます。

 最後にやり直して欲しいと書かれていて、正直面倒くさいからと最近では目を通すのを止めています。


 ここまでされたら(ほだ)されて……。

 なんてことはありません。

 手紙には返事はせず、プレゼントにだけ礼状を出すということが更に五年続いています。


 ヨシュアーノは他所(よそ)で子供を作るつもりはないのか、義父母とカロリンド様とその夫で話し合っているらしいとゴーガンから教えてもらいました。



 たまに思ってしまいます。三年目で離婚するべきだったかなと。

 このまま一人で、この家でくすぶっていくのかと思うとそれはとても寂しい事だと思います。

 白い結婚だと世間に周知されているので、ラブ・アフェアを楽しもうという誘いもありません。


 人妻で処女の相手は気が重いらしいのです。

 それとも私に魅力がないのでしょうか?


 このまま一人は嫌だなぁ……と思いながら今日も一日が終わってしまいます。





 『私』と『わたくし』を使い分けています。

 作者の勝手な思い込みで伯爵以下は『私』を使い、侯爵以上は『わたくし』を使うとなんとなく決めています。(もちろん作品によって例外はありますが……それと間違いですね(泣))


 結婚前は伯爵令嬢で、結婚して侯爵夫人になったので『わたくし』に切り替わります。



新しく知ったこと。

 !や?の後、文章が続くときは全角スペースを開けるそうです。

 全く記憶になくて私はこのことを習った時、寝ていたのだろうかと頭を抱えたくなりました……。


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