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8 生真面目な公爵令嬢、ありのままで





王都の中心街、

フェリアス・シュトラーセについた。



石畳の道が複雑に交差し、

狭い路地と広場が織り交ざった独特の雰囲気を持つ。

街の中心には壮麗な大聖堂がそびえ立ち、

その尖塔が空を突き抜けるように見える。

広場では市場が開かれ、色とりどりの屋台が並び、

香辛料やワイン、パンなどの香りが漂っている。

建物は灰色の石で作られており、赤や茶色の屋根瓦が並び、

ところどころに華やかな窓飾りや彫刻が施されている。




人々は賑やかに行き交い、

広場では道化師や楽器弾きが

パフォーマンスを披露し、

笑い声と楽器の音色が響き渡る。

何やら人だかりのできているイベントもあり、

人々の楽しげな話し声や笑い声が聞こえてくる。




石畳に入ると、馬車の車輪がうるさく、

ラニウスは、御者に何かを話しているが

聞こえない。

私は久々の中心街を窓から見るのに夢中になっていた。

美味しそうな甘いものを売る屋台や、おしゃれなカフェがいっぱいある!!

なんて幸せの詰まった街なのかしら!!

以前来たのは半年以上前で、お店や広場で行われている行事も変わっている。

私はラニウスとのお忍びということを

忘れかけ、純粋に久々の街歩きにわくわくしていた。





中心街を少し外れたところで馬車が止まった。

ラニウスが先におり、

私が降りるのを助けてくれた。

王宮の馬車ほど豪華ではないが、

かなり高級な馬車から人が出てくるので

周りからは注目が集まる。

私はラニウスに耳元で

「本当に大丈夫なの?気づかれない?」

と聞くと

「大丈夫大丈夫。」

と呑気な声が返ってきた。





馬車から少し歩いて、目に飛び込んできたのは

ドーム型の屋根をしており、広いガラスを存分に使ったおしゃれなカフェだった。

店名を見ると「レッカー・ズーシィー」

ここは最近新しくできて話題になっている、種類豊富なケーキで有名なお店だ。

確か自分でたくさんのケーキをその場で選んで食べられるとか。

サンドイッチやパニーニ、サラダの軽食も美味しいと、行列ができるらしい。

ずっと来てみたかったが、平日は王宮での妃教育、

日曜は屋敷で歳の離れた弟の勉強をみたり、遊んだり、

普段たまっている用事を済ませるので、なかなか足を運べなかった。

「ここ!!!まさか!!!」

と私が目をキラキラさせていると

「やっぱり、ライナは知ってたか。驚かせたかったのにな。」

とラニウスが笑った。

「名前くらいは聞いたことあるわ!ここ半年くらいこの街の話題のカフェ1番でしょ?」

「そうそう。まだお昼食べてなくてお腹空いてるでしょ?ほら、いこ!」

と自然と手を掴み、私を引っ張っていく。

店の前には行列ができていたが、

ラニウスはそれを無視して店員に話しかけた。

店員は少し店内にはいるとまた出てきて、

私たち2人を2階に案内してくれた。

「え?いいの?並ばなくて?」

「ん?気にしない気にしない。」

と言ってラニウスがくったくなく笑った。

私は並んでる人を差し置いて店に入ることに

なんだか気が引けてしまったが

ラニウスに連れられて、入り口からすぐの

螺旋階段をあがった。





螺旋階段をあがると、

目の前がぱっと広がり、光が差し込んできた。

天井は外からみた通りドーム型。

全面がなるべくガラス張りになっていて

街の中心部を見渡せるようになっていた。

「素敵……」

思わず声を漏らしてしまう。

ラニウスは

「そうでしょ?絶対ライナが気にいると思って。でもこれだけじゃないんだよ?」

といたずらっ子のように笑った。

昔と変わらず、私になんでも先回りして

サプライズしてくれるんだな……

私はついついまた昔のことを考えてしまった。

ふと2階の席を見渡すと、お客さんは誰もいない。

「ラニウス……?もしかして?」

と目を見つめると

「2階を貸し切っちゃった⭐︎」

とてへっと笑うラニウス。

だからあんなに行列がすごかったのか……。

まったく……。

やることが大胆すぎる。もうちょっと節度ってものを知ってほしい。

私は少しため息をつきながら

「すごく素敵…でもこれじゃ全然お忍びになってないじゃない!

こんな話題のカフェの2階を貸し切ることができる一般市民なんているとおもう?

あとここにくるの楽しみにしてる人に迷惑でしょ?もうっ!」

と思わず言ってしまった。ラニウスはバツが悪そうに

「そうだよね……ごめん……。

でもライナと初めてのデートだから……。

完璧にしたくて……」

としゅんとしている。

なんだか落ち込む姿も昔と変わらない。

なんかちょっとかわいいな。

と私は笑いそうになる。

がそれどころではない。

「気持ちはありがとう。うれしい。

でも誰かの迷惑をかけるのは嫌なの。

目立つことも。だからもう大掛かりなことはしないで?」

というと、さらにしゅんとした。

さすがにせっかく私のためにやってくれたのに

怒りすぎたかとあわてて、

「私は……花冠とか…そういう気持ちのこもったものが嬉しいの。

だからあまりこういうことは…」

と取り繕う。

その言葉にラニウスがこちらをみて一瞬目を大きくして表情を固めた。

それから今度は小さい頃とおなじ屈託のない笑顔で

「変わらないね。ライナは。」

と言って、さらに笑顔を輝かせた。




そして店員の方をむき、

「1日の2階貸切りの代金はそのままでいいから、

いまから、並んでる人を

全員2階にいれてもらってもいい?

僕たちは並びたくなっちゃった。」

と言った。そして私の方を見て手を差し出し

「ごめん、ライナ、お腹空いてるだろうけど、ちょっと我慢して、

僕に付き合ってもらえない?一緒に並ぼ?」

と振り向いて微笑んだ。

店員はびっくりしているようだったが、

ラニウスが「お願い」とまた微笑んだため、

急いで並んでる人を2階に入れる準備を始めた。





ラニウスと私は一階に降りて並び直した。

ラニウスが2階を開放したおかげで、

ほとんどの人が入ることができ、

あとは二組しか残ってなかった。

「これならすぐ入れるね。」

とラニウスがほほえむ。

「ほんとによかったの?私言い過ぎちゃったよね。

ごめんなさい。せっかく喜ばせようとしてくれたのに。」

「全然いいんだ。僕こうやって並んで待つのも夢だった。

しかもライナと一緒なんて。本当に幸せだよ。」

と微笑んだ。

優しすぎる……。

なんだか優しすぎてむしろ私が

悪いわがまま女のような気がしてきた。

「……ありがとう、ラニウス。

私のわがまま聞いてくれて。」

「いいんだよ。わがままじゃなくて正論だしね。

僕が悪かったと思ってる。君のわがままなんて思ってない。

というか僕は君が正直になんでも僕に言ってくれるのが嬉しいんだ。

だからむしろこのままでいてくれないかな?。」

このまま……でいいのだろうか?

このままの私を彼は受けいれてくれる?

私は頭がぐるぐるし、なんで返そうか迷っていたが、

そんなことを考えてるうちに店員さんに声をかけられ、席に案内された。






案内された席は2階すみの窓際だった。

「ふふ、ここならあんまり目立たないわね。」

と私が満足そうに言うと

「ライナは目立つのが嫌い?」

「まあそうね。でも今日はあなたが王子だってバレちゃいけないと言う気持ちの方が強いわ。」

「そっか……じゃあそれが王太子妃になりたくない理由の一つでもある?」

とラニウスが聞いてくる。

目立つから王太子妃になりたくないーーー

そう言うわけじゃない気がする。

「うーん……そういうわけじゃない…かな?」

と答えると

「じゃあ何が嫌?」

と聞かれる。




何が嫌ーーーー

何が嫌なんだろう?

冷静に考えるとわからなかった。

社交が嫌。

妃教育が嫌。

忙しいのが嫌。

王族になるのが嫌。

王宮に毎日通う今の状況が嫌。

理由を挙げればたくさんあるが、

どれも、決定的な理由ではない気がした。

私は何が嫌で、結婚をしぶってるんだろう?





「……」

私が黙ってると

「僕に言いにくいこと?」

とラニウスが悲しそうに聞いてくる

「いや、そうじゃないの。」

とすぐいうとすぐにラニウスは顔をパッと明るくさせ、

「じゃあ僕が嫌ってわけじゃないんだね。」

とニコニコと笑いかけてきた。

「それならいいや。

ライナが嫌なことなら出来る限り

全部やらなくていいようにする。

目立つのが嫌ならできるかぎり目立つ機会はへらす。

だけど僕が嫌だけは、お願いだからやめて、ね?」

と可愛い顔で私の顔をのぞきこんできた。

これは反則だなあ……

「まあ……今後次第かな。」

と言うと

「絶対、嫌いになんかさせないよ」

とウィンクした。

そういう軽そうなところは嫌なんだけどなあ。

と思いながらそれを口に出したら

まためんどくさい気がして、飲み込んだ。






それより今は目の前の!!!

目の前のケーキの山に集中したい!!!!!!!

このお店は個別に全種類のケーキを持ってきてくれて、

そこから食べたいものを全部選ぶというシステムらしい。

ちょうど店員さんが、ワゴンを引いてきて、

わたしの前に置いた。

「んんんんーーーーーっ」

私が声を殺していると

ラニウスが

「全部食べる?」

と聞いてきた。

「全部は無理よ、食べきれないもの。」

「食べ切れるなら?」

「もちろん全部よ。」

私は甘いものには目がないのだ。

「じゃ、全部ください。」

と店員にいった。

「ちょ、さっき、目立つことや無駄なことやめてって言ったじゃない。」

「そうだけど、みんな結構量たのんでるし、

わからないよ?それにもし食べきれなくても僕が食べるし、

それでも残ったら持ち帰って残りは明日デザートにして一緒にたべよ?。」

と言った。確かにその手があるのか。

「じゃあ……」

と私がいう前に、もう店員はせっせと全部テーブルに並べていた。












ありの〜ままの〜



今回もお読みいただきありがとうございました!

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