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ここあとトラウマの子

            ・・・・

「さ、て……じゃあ、早速おはなししましょうか」




 それほど広くない部屋の中。


 二人は顔を付き合わせる形でソファに座っている。


 学校には似つかわしくない、ふかふかの皮張りソファだ。

 やや古くはあるが、それでも決して安くはないように見える。


 その片側に座る少女は、対面の女性と目を合わせることもなく延々制服の袖を折ったり戻したりを繰り返していた。


 教員らしき女性はそんな少女の目をみると、やさしく話しかける


「精神的な原因で起こる症状って十人十色でね?当然対処法も人によって違う。……だから、まずはあなたについて可能な範囲で私に教えてくれるかな」


 少女は一瞬目を合わせ、それから頬のあたりに視線をずらして、口を開いた。


「はい…………でも、何を話したらいいんでしょうか」


 少女の問いに、女性は手に持ったクリップボードを持ち直し――その瞬間に少女がびくっ、と反応したことを「そうね~」と、そうと思わせないような様子で書き留めつつ――悩むようなそぶりを見せる。


「とりあえず、はじめてだからまずはなんて読んだらいいのか決めましょうか。何がいい?」

「……なんでもいいです。お任せします」


 丸投げされた女性はクリップボードの二枚目にいくつかの候補を書き出すと、ペンとともに少女へ差し出した。


「う~ん……じゃあ、この中だったらどれがいい?」


 少女はしばらく迷うそぶりを見せた後、その中の一つに〇をつけて女性に返す。


「――うん。じゃあ、篠月さん。改めてこれからカウンセリングを始めますね。差し当たって――――」


 女性はクリップボードに挟んでいたハガキより一回り小さいくらいの紙を美桜に差し出し――同時に、クリップボードの『篠月さん』に斜線を引いた。


「あなた自身についてのお話をする前に、まずこれを15秒くらい見て、見えたものとか、思ったこととか、何に見えるかとか、何でもいいので教えてくれますか?」


 紙には、何かの液体をぶちまけたような写真がプリントされていた。


「……シミ?」

「おー」


 女性は美桜から紙を受け取りながら、あらかじめ書いていた三つの内の一番下に〇をつける。

 

「ちなみにこれはさっき私がコーヒーを溢した木村先生の資料の裏面よ」


 なぜかどや顔をしながらそんなことをのたまった女性は、写真を机の上に置いていたファイルの中に収めると、手を合わせてこねるようにこすり合わせた。


「じゃ、これからいろいろお話をするわけなんだけど――まずはそうね、先週の金曜日は家に帰ってから何をしたか、とかおぼえてるかな?」


 女性はなるべく動きを流動的にするよう心掛けながら、再度美桜と目を合わせた。


「金曜日……は……お風呂に入って、動画を見ました」


 美桜はたどたどしくも何とか記憶をたどって言葉を紡ぐ。


「なるほど……動画はどんなものをみたの?」


 その質問に、美桜は天井を仰ぐようにしばらく眺め、


「毒物について……?だったと思います」


 そういって、顔を下ろす際に一瞬あった眼をとっさにそらした。


「毒物かー……そういうの結構好きなの?」


 女性はクリップボードの紙にメモをしつつ、美桜の目をまっすぐにみつめる。


「はい……まあ…………」


 美桜の様子に、女性は、よし、と声を出すと静かに立ち上がり沸かしてあったポットを手に取った。


「ココアかカフェラテか抹茶ラテ、どれがいい?」


 ポットの下の引き出しから取り出した二つのコップをテーブルに置くと、女性は聞いた。


「あ……じゃあ、ココアで」


 女性は引き出しからココアの瓶を取り出すと、慣れた手つきでコップに適量を入れ、お湯を注いでいく。


「私の知り合いにも毒とか好きな人がいてねー、たしか〇っくり㎞……だったかな、とかってチャンネルをよく見てるんだ~って言ってたんだけど、知ってる?」

「あ、それ、……私も、よく見ます」


 女性は美桜と自分の近くにそれぞれコースターを置くと、その上にコップを置いた。


「あ、ほんと?じゃあどんな感じの動画なのか簡単に教えてよ~」



 そうして、二人は当たり障りのない話を繰り返し、気づけば相談時間は残り十五分ほどになっていた。



「お、もうこんな時間……じゃあ、少し早いけど改めて――」


 女性は改めて美桜の目を見る。

 その目を、数秒だけとはいえ美桜は見てくれた。


「まず、最初に言った通り今日聞いた内容は許可を得ない限り篠月さんの両親を含めて誰かに話すことはないんだけど、もし許可してもらえるならその範囲内で担任の先生ともいろいろ相談したりできるから、もしこの中で先生に話してもいいよ~って部分とかあったら教えてくれる?」


 そういって女性が出したのはもろもろの美桜と趣味や授業についての話をした三枚目の紙だった。


「別に……好きにしてください」


 それは文字にしてみれば冷たく、あるいは信頼しているようにみえるかもしれないが、実際にはひどく投げやりで、無感情な言葉だった。


「ありがとう、じゃあちょっといろいろ相談してみますね。……それはそれとして、まだ残り15分あるし、もしよかったら今から一緒にヨガしない?」


 突然の提案に美桜は一瞬驚いたような感じになったが、ややおくれて、


「はい……えっと、どうしたら?」

「じゃあこっちきて~」


 女性は立ち上がると奥の方に美桜を誘い、あらかあらかじめ丸めて置いてあったマットを二人で広げると、その上に座った。

補遺

 これも関係なさそうだし、一旦おいておこう。

 それにしても、なかなか見つからんな……

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