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第5話 すごい荷物

その日の朝ウィルはたたき起こされた。



「おいウィル、起きろ」



 先輩の郵便屋、マークの大きな声に起こされて、何事かと思い、眠い目をこする。いつもならまだ寝ていて良い時間だった。



「お前の客宛にすごい荷物が届いてる。とりあえず来てもらえるか?」


「荷物、どんなですか?」


「1人じゃ運べないような、すごい量の荷物だ。あれだけだとまぁロバも無理だろうな、馬車になる。お前馬に乗ったことあるのか」


「ないです」



 郵便屋はなんでも運ぶ、とはいえ馬車が必要になるほど大きな荷物を運ぶ事はほとんどなかった。大きい荷物ほど料金は高くなるから、自分や家族で運ぶ人が多かったのだ。小さな荷物がほとんどで、馬に乗ることなんて必要がないと思っていた。それは他の郵便屋も同じはずだ。


 どんな荷物か興味がわいて、ウィルも見に行くことにした。急いで支度をする。シャツのボタンもまばらで靴下も履きかけで、何とか靴を履いて向かうとそこには馬車に載せてもはみ出しそうな位の荷物が待っていた。




「なんですかこれ、すごいですね。誰宛ですか?」




「あの魔女の家宛だ。だからお前を呼んだんだが、どんな荷物かはさっぱりわからん。逆にお前に心当たりは無いのか? 誰かが越してくるとか」


「そういう話は聞いてません」



 ウィルは自分で言って、少し寂しくなった。同居人が増えるだとか、大きな荷物が届くだとか、どっちにしたって郵便屋に関わることだ。少しは親しくなっていたと思っていたのに、そんなことも知らされないのかと思うとなんだか寂しい気持ちになった。最初より仲良くなったと思っていたのはウィルだけかもしれない。



「とりあえずこれだけのお荷物だ下ろすのも大変だから、俺が付き添うことにした」



 そういったのは朝起こしてくれた先輩、マークだ。



「ありがとうございます。何も乗れないし、1人じゃとても運べませんでした」


「しかも日付指定だぞ。その分料金はたんまりもらってるらしいけど」



 とにかくウィルは助かった気持ちだった。大きな荷物を1人で運べなんて言われたら一体何往復すればいいか分からない。荷車に乗せたってきっと1日じゃ配達し終わらないだろう。


 一緒に行くマークは魔女の家に行くのは初めてだと不安をもらした。



「大丈夫か、怒られたりとかしないのか。まぁお前が大丈夫だから大丈夫なのかな」


「怖い人じゃありませんよ。何度も会ったことがありますけど、いつも優しいです」


「そうか。でもあの魔女だろ。信じられないなぁ」




 マークは不安そうだ。ウィルはそれも無理はないなと思った。事実、ウィルの前の担当者は魔女と会うのを避けるために、わざわざ魔女がいない時間にしか配達に行かなかったから、何十年も担当していて、1度も魔女と会ったことがなかった。


 逆にウィルはわざとミリィと会える時間に行くようになった。特に今回のような大きな荷物だと外に置いていては突然の雨にやられてしまう可能性があるので気を付けないといけない。必ずいる時間を狙っていかなければならないのだ。



「会ってみてのお楽しみですね」



 ウィルは馬車の荷台の上に乗っていた。マークは御者台に乗って、馬車を上手に操っている。



「やっぱり馬車にくらい、乗れたほうがいいんですかね」


「ウィル坊はまだ背がたりないだろう。踏んづけられる。もう少し大きくなってからでいいんじゃないかな。 早くて5年くらいして使えたら仕事の幅広がるから、悪い事はないんじゃないか。今回だっておれには特別手当が出るんだしな」



 ウィルは、今の自分が御者台にいることを想像してみた。馬の手綱を引かなければならないのに、馬の力に負けて引きずられるのが目に見えるようだった。


 早く大きくなりたいなと思う。そうすればもっと自信を持っていろんなことを仕事にできるかもしれない。


 森に入ってから、魔女の家まで馬車では 5分もかからない。

 あっという間に魔女の家に着いた。



「もっとお化け屋敷みたいなのを想像してたけど、案外まともなんだなぁ」


「そりゃそうですよ。ちゃんと人が住んでるんだから、それまで古びるわけないでしょ」



 そんなこと話していると家から様子を察したミリィが出てきた。馬車を引くガラガラと言う音が聞こえたのだろう。



「ウィル、わざわざ馬車できてくれたのね。ありがとう。こんなに荷物があるなんて私も知らなくて、何もいえなくてごめんね。私が知ったのも昨日だったんだ。とにかく荷物が多い人が昨日突然来て…」



 ミリィがそこまで言うと、家の奥の方から低いガラガラ声が聞こえてきた。



「ひどいいいぐさせっかく来てあげたのに、失礼しちゃうわ」



 家からそのもう1人が出てきた

 ミリィと同い年くらいに見える若い人物は、短い紺色の髪にスラット長い足をして、ぴったり似合う細身のズボンを履いていた。この街では短い髪にするのもズボンを履くのも男だけだ。


 ウィルはその人を見て男の人だと思った。

 ミリィの隣に男の人がいる。そのことを今まで想像したことがなくて、突然の非日常に、びっくりして声がでなくなった。



「すいません、初めまして。荷物が多いので今日だけ手伝いに来ました。家の中に運ぶ必要があるでしょうし、お邪魔しますね」



 さすがベテランの郵便屋、マークが言う。来る前にウィルに言っていた、魔女の家を訪ねる不安そうな様子は全くなくなっている。



「いやいや、わざわざ来てもらっただけでもありがたいのに、申し訳ないわ。荷下ろし、手伝います。アルト、あなたの荷物でしょう。あなたも手伝って」


「はいはい」



 アルトと呼ばれた人は眠そうに髪をかきながら既に荷物を下ろす手伝いを始めていた。マークが高いところから荷物を下ろし、アルトがマークから荷物を受け取って家へ運んでいく。

 ウィルは、アルトを見てショックを受けていたが、自分がなぜショックを受けていたのかもよくわからないでいた。とにかく、仕事はしなくてはと自分でも運べる大きさの荷物を持って、家の前まで運ぶことを繰り返した。ミリィの指示通り玄関のところに積み上げていく。



「ありがとう、助かるわ」



 ミリィにそう言われるとウィルは頬が赤くなった。同時にミリィとアルト、2人が仲良く作業しているのを見ると、さあっと血が引いて、顔色は不健康に見えるほど青くなる。



「仕事ですから」



 ウィルがそういった声はいつもより少し低い。

 ウィルはいつものように元気に話すことも、顔をあげることもせずに、黙々と作業を進めた。


 じわじわと荷物は減り、家の中に入るものかなと思ったほどの大量の荷物だったが馬車の上には何もなくなり、最後のほうにはアルトとミリィが家の中に少しずつ運び入れて、全て家の中に入った。



「それでは失礼します」



 マークと声を揃えていて、ウィルは馬車に乗り込んだ。同僚は同じように御者台に乗って馬を操る。帰りは幾分か荷物が少なくて、足取りが軽くなったのがわかる。



「若い女だって言う事はわかったが、それ以外は怖くて目を合わせられなかった。でも声の調子からしてそんな怖い人じゃなさそうだな。それにしても男連れとは、魔女ってのは保守的な奴らばっかだと思ってたけど、長生きしてると俺たちとは感覚が違うもんかね」


「そうですね」



 ウィルはマークの話がほとんど耳に入っていなかった。ただただ憂鬱で早く魔女の家から離れたいとばかり考えていた。

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