第4話 友人への手紙
ミリィはその日、手紙を書くことにした。
長いこと会っていない、友人アルトへの手紙だ。アルトは、ミリィと同じ魔女で、もう100年会っていないと思う。まだ生きているのかどうか、それすらわからない。
最後に手紙が来たのも50年以上前だと思う。その頃はミリィも忙しく、また会おうねと言いながら、会わずに 100年も経ってしまった。
元気にしているといいな。そもそもここにまだ住み続けているんだろうか。アルトは移り気な性格だが、魔女の基準でいえば50年前だったらそこまで昔でもないから、まだ住み続けているかもしれない。
手紙を書こうと思いつくまでに50年かかったが、書き始めてしまえばすらすらと書け、すぐに書き終えた。手紙を久しぶりに使う封筒の中に入れウィルが来たら渡そうと横によけておく。
ウィルには手紙をお願いする他にも、注文したいものがあったので、そのリスト作りにミリィはとりかかった。
日用品の類は何曜日に何とかそういったものはもうずいぶん前にリスト化して、月に1度届くものは何。週2回届くものは何。何曜日には何があって、といった形で、もうずっと同じように配達してもらっていた。
ただ、たまに必要なものが別で出てくる。新しく作る薬の材料としてかぼちゃの葉がいるのだが、育てようにもかぼちゃの種がなかった。
ついでにそろそろ植えたい種の名前も書いていく。
それくらい自分で市場に行っても良いのだが、市場は朝早くしかやっていない。朝はやらなければいけないことが多く、長く一人暮らしをしているミリィにとって、人の営みに自分が合わせるということは、もう難しいことだった。
実際、買い物しなくてもお願いすれば届けてもらえるのだから、困る事は無かった。
「こんにちは」
ウィルの明るい声が聞こえる。ちょうど欲しいもののリストを書き終わったミリィは手紙とリストを持って立ち上がった。
ドアを開けると、ちょうどウィルが荷物を下ろしているところだった。
「ご苦労様。今日お願いしたのがこのリストと、あと手紙を出してほしいの」
「わかりました」
ウィルは幼いが自分の仕事をわきまえていて、誰に当てるかとったとか、内容についてきいてきたりはしない。受け取った手紙をすぐに懐に入れて、
「しっかりお届けしますから、安心してくださいね」
自分の胸を叩いてみせた。
ミリィはその様子がとてもほほえましくて、笑顔になる。
「よろしくね。郵便屋さん」
手紙を出してから一か月ほどたったある日、返事の手紙をウィルが持ってきた。ミリィはもらった手紙を家の中で、ゆっくり読むことにする。
手紙によれば、友人アルトは、相変わらず元気で過ごしていると言う。
「せっかくだし会いたいと思ったから、会いに行くよ」と言う文章と一緒に、やってくる日付が書いてあった。
ミリィは日付をじっと見る。見間違いじゃないかと何度も確かめるが、間違いがいない。日付は「今日」になっていた。
郵便は馬車に乗ってやってくるし、仕分けにも時間がかかる。だから、手紙を出してすぐに旅立った、とすれば、手紙よりも早くつくことだってできるのだ。とは言え、普通、常識的な人は手紙がつくのはどれくらいかを見越して、余裕のある日にちを設定するものだった。ミリィの友人アルトはミリィと同じように長い時間を生きるうちに常識をどこかに置いてきてしまったらしい。
今日来るなら、少しでも準備をしないと、とミリィが立ち上がると同時に声がした。
「こんにちは。久しぶり。元気だった?」
同時に、ドアが開いて人が入ってきた。何の断りもなく、人の家に入ってくる。アルトの無神経なところは昔と変わらなかった。ミリィは、その無遠慮な行動に、懐かしさすら感じていた。
「長いこと会ってないのにほんとに変わらないわね」
「ミリィこそ。着てる服まで100年前と一緒じゃない。最近買い物してる? 一周まわって新しいよね。その服」
アルトはミリィのスカートの裾を持ち上げ、ふむふむと重さや質感を確認している。ミリィは、人に会うつもりもなかったので、いつも通りの作業しやすい服装だ。服に関してはお願いしても、思ったとおりのものが届くとは限らないので、自分で注文書を事細かに記入して指定している。特にポケットの位置にこだわりがあり、職人のおまかせではどうしても違和感が出てしまう。
ただ、機能性以外について、ミリィは興味が薄い。たまに町の外まで出かけることもあるけれど、今の世間の様子とあまり外れない範囲で、まわりに溶け込めるようだったらそれでいいと思っていた。
場所によっては魔女狩りだとか厄介な風習がある場所もある。そのため、あまり目立つのは好ましくなかったが、逆にいえば、目立たなければミリィはそれ以上服装に関心がなかった。
「そんなに変かな」
「変って言うよりおばあちゃんみたいよ」
アルトは洒落者で通っている。今日のスタイルは、鮮やかな青いワンピースと同じ色の帽子を合わせて、帽子の飾りの白い花が良いアクセントになっている。アルトのスラっとした体型によく似合っていた
ただ、アルトの格好はあまり魔女らしい服装とは言えない。ミリィとしては魔女として生計を立てているのだから、ある程度の魔女らしさは必要ではないかとおもっていた。そういう意味では、黒一色のミリィの洋服は魔女らしくて気に入っていた。
「そういうあなたは派手ね」
「そうかしら。都会の人は皆こうよ」
アルトは首都に住んでいる。昔から流行のものに目がなく、そういう性格だから、都会の方が性に合っているんだろう。作る薬にしても、ミリィは健康に関わるような薬を作ることが多かったのに対して、アルトは美容だとか発毛とかに興味がある。そもそもアルトとミリィは関心のあるジャンルが違うのだった
全く違うタイプの魔女2人だが、逆に興味が違うからか、不思議と気が合った。お互いにお互いの興味あることに口出しをしないので、気が楽でもあった。
アルトは大きく伸びをした。
「あーもう、疲れちゃった」
アルトは手に持っていた大きめのバックをどんとテーブルの上に置いた。そのバックは大体1日分の服が入る位のバックで、普段遣いにするには大きいのだが、ミリィは首をかしげた。都市からこの街まで来て、戻るには少し足りないだろうと思った。
特に洒落者のアルトが2日と同じ服を着るとは思えない。
「荷物それだけなの? まさか今日中に帰るつもりじゃないだろうし、空を飛んだって長い距離は大変でしょう」
「寒いし、風も強いし、空なんて今時じゃないわ。最近は乗り合い馬車も良い馬車を使っててね。1人分の座席も広くて快適なのがあるのよ。もうすぐ汽車もできるっていうし。私はもう空は飛ばないわ。で、荷物が少ないって? まぁそうね1週間はいいと思っているしだけど大丈夫よ。郵便をお願いしたから、明日には届くはずね。最近は便利になったものだわ」
その話を聞いてミリィは不安になった。1週間の分の荷物なんて、普通の人ならともかくアルトの荷物であれば、馬車1台分くらいあってもおかしくない。
まさかいつもの郵便屋、小さなウィルが、1人で持ってくるなんて事はないだろう。他にも仲間がいるだろうし、それは結局あまり心配しなくてもよさそうだ。でも、それより大きな問題がある。それだけ大量の荷物を置く場所がミリィの家にはない。
「じゃあ私寝るわね。いつもの場所を使っていいでしょう。前来たときの歯ブラシとタオルまだ残ってる?」
アルトが前回この家に来たのは100年前。その時のものが残っていれば、既に骨董品の粋だ。
「あるわけないだろ」
「明日買いに行くわ。今日はここにあるのを貸してもらうことにする」
もう寝るねと言ってあるとバタバタと客室のほうに行ってしまった。
間取りは100年前から変わっていない。何か困ったことがあったら言うだろう。
ミリィはアルトに中断された研究を、また続けることにした。




