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第11話 逃げた鶏

 その日、ウィルが魔女の家に行くと、庭でミリィが頬に左手を当てて、何か考え込んでいた。



「困ったわ」


「おはようございます。どうかしましたか?」



 ウィルは荷物を下ろしながら、いつもと様子の違うミリィを心配して声をかけた。

 ミリィは目の前の鶏小屋を指さして言った。



「鶏が逃げてしまったの。小屋の壁に穴が開いていたみたい」


「ああ、本当だ」



 ウィルが小屋の横を覗き込むと、ちょうど鶏が一羽、逃げられそうな穴が開いていた。



「今日はアルトさんはいないんですか?」


「ええ、昨日から出かけているわ」



 アルトがいれば3人で悩むことができたが、いないのであれば仕方がない。



「昨日の夕方はまだいたと思うわ。今日の分の卵もあったから、朝卵を産んで、そのまま逃げたんだと思う。でも、こんなこと、今までなかったから、どうしたものかと悩むわね」



 ウィルは珍しく自分が役に立つことができるかもしれないと思った。ウィルの家でも鶏は飼っていて、たまに逃げ出していたからだ。鶏を追いかけるのはウィルの役目だった。



「鶏はあまり遠くへはいかないはずです。このあたりの森は足も踏み入れられないくらい、木が生えていますしね。とりあえず道を見張りながら、近くを探しましょう」



 ウィルはミリィに町への道を見ておくようにお願いして、自分が魔女の家の周りを見ることにする。荷物を届けることはあるが、裏手などには行ったことがない。

 家の脇に井戸があり、念のためにその中ものぞいてみる。中はふかく暗く、声や音は何も聞こえなかった。


 裏手に回り、また表にもどってくる。畑の周り、小さな倉庫の中も見てみたが、鶏は見つからなかった。

 ウィルはミリィのところへ帰ってきて報告する。



「いませんね」


「そう、仕方がないわ。かわいそうだけれど、明日、新しく雌鶏を一羽お願いできるかしら」


「はい。若いのを買ってきますね」



 そう言ったところで、ウィルは後ろから、コッコッと鶏の声が聞こえるのにきがついた。



「あれ、今、聞こえました?」


「ええ、鶏の声よね」



 二人がみまわすが、やはり鶏の姿はなかった。

 しかし、声だけは聞こえる。コッコッと鳴いている。近くにいるのは確かだった。



「家の中はもちろんいなかったですよね。いたら気づいてるでしょうから」


「そうね。いなかったわ」



 家のドアはしっかりしまっていた。ミリィが出てきてから、入ったということもなさそうだ。



「窓までは上がれないでしょうしね」


「そんなに飛べないんじゃないかしら」



 二人は窓のほうを見て、そして、同時に鶏がどこにいるのか見つけた。


 鶏は、暑くて開けっ放しになっている窓から家の中に入っていたのだ。よく見ると、窓の下には箱がおいてあり、箱を使って2度3度飛び上がれば、鶏にも窓枠を越えることができたのだ。

 ミリィが外に出た時はまだ外にいて、鶏小屋を見に行っている隙に、家にはいったのだろう。



「だめよ。だめ。そっちには食べたら毒になるものがたくさんあるから!」



 慌てたミリィが駆けだす。ウィルはとっさに動けず、ミリィが家の中に入るのを見ていた。

 ミリィはいつも穏やかに微笑んでいるイメージがあったので、ウィルはミリィの慌てた様子に驚いた。何百年生きていても、慌てることがあると知って、新鮮な気持ちだった。

 窓から、中のミリィの様子が見える。ミリィが鶏を捕まえようと、あっちにいっては逃げられ、こっちにいっては逃げられをしている。ウィルはそれをみて、一つ思いついたことがあり、ミリィに窓ごしに伝えた。



「ミリィさん、ドアのほうに鶏を追ってきてくれませんか? でてきたところを捕まえてみます」


「そうね、お願いするわ」



 ミリィは鶏を追いかけて疲れたようで、息があがっていた。

 ミリィがウィルの言う通り、後ろから鶏を追い立てて、ドアの方に誘導する。3回失敗をして、鶏は中に戻ったが、4回目でようやく鶏が外に出た。

 ウィルは鶏が外に出るまでの間、ドアの近くの外壁に背中をつけて、出てくるのを待っていた。4回目でようやく鶏が庭に飛び出てきた時、いまだ! と後ろから捕まえた。羽のところを畳むように上手に持てた。



「やっと、捕まえられたね」



 ミリィは疲れたように言った。家の中を追いかけまわしたからか、すこし息がきれていた。



「あの、大きめのかごとかないですか。鶏がはいるくらいの。あと、板と釘もあればください」


「あるよ。持ってくるね」



 ミリィが言って、奥から木の皮で作られた大きな籠をもってきた。ウィルはその籠をひっくり返して、その中に鶏を入れて、上から抑えるようにミリィに言った。



「抑えていてもらってる間に、僕が鶏小屋を修理しますから」



 そう言って、ミリィが持ってきた板と釘をもって、鶏小屋へ向かった。郵便局でも、古くなった郵便受けや、郵便局の施設は自分たちで修理している。ウィルもその手伝いをすることがあったので、要領はわかっていた。

 手早く穴をふさぎ、釘でけがをしないように釘の端を折る処理をする。



「ミリィさん、できましたよ」


「もう? すごい、あっという間ね」



 ウィルは籠の中から鶏を取り出し。腕に抱くような形で、抱き上げて、ミリィと一緒に修理した鶏小屋に向かった。

 ミリィはウィルが直したところを見て、よろこんで、声を上げた。



「きちんと直ってるわ。ありがとう」


「いえいえ、お役に立ててよかったです」



 鶏を小屋の中に放つと、鶏はコッコと鳴きながら、次の瞬間には外のことは忘れたようで、餌箱から餌をたべていた。


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