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第10話 ウィルの体調不良

 暑い日が何日か続いたその日。ウィルは朝から体調が悪かった。

 しかし、熱はなく、なんとなく本調子じゃない程度だったので、ごまかしながら仕事をしていた。

 なんとか配達は終わらせようと一歩一歩進み、魔女の家についた。



「おはようございます」



 いつものあいさつだったが、声に力がないことが自分でもわかった。

 いつものように荷物を置いて、ほしいものリストがあるかみるために郵便箱の中を確認する。

 その時、家のドアが開いた。



「あら、ウィル。来ていたのね。今日もご苦労様」


「はい」



 ウィルは頭が回っていなくて、そう答えるのが精一杯だった。いつもなら、ミリィと話ができることが嬉しくて、その機会を逃さないように話し込んでいたが、今はそれどころではないくらい、頭が回っていなかった。



「どうしたの? 疲れているように見えるけど」



 ウィルの体調の悪さはミリィが見ても明らかだったようで、心配そうな声がかかる。



「すみません、少し体調が悪くて、無理をしてしまったみたいで」


「じゃあ、少し休んでいきなさい。お茶しか出せないけれど」


「いいえそんなことしてもらうわけにはいきません」



 今は仕事中だという義務感から、ウィルは必死に断ろうとしたが、ミリィは優しく諭すように言った。



「そんなこと言ってここから戻ることだって難しいんじゃない。外で待つのも、中で待つのも同じよ。入って、ね?」



 ウィルはとても疲れていて、それ以上の誘いを断ることができなかった。


 家の中に入って、すぐの場所においてある椅子に座らせてもらうことにした。ミリィはそんなウィルのためにもう一つの椅子も並べて置く。



「辛いようだったら横になってね」



 それだけ言い残すと、ミリィは調理場から手早く片手鍋を取り、隅にあった水瓶から水をすくい入れる。

 片手鍋を持った手はそのまま、反対のてで炉端の棒をもつ。その棒で残り火を集めて細長い筒から息を吹くと、たちまちに火がついた。

 火のちょうど上に鉤が天井からつるされている。そこにミリィは鍋を吊るした。

 ミリィはそのままの足で薬草棚へ向かう。いくつかの引き出しを開けて、香草を取り出した。香草を手で揉みほぐして粉末にした。



「この薬草を組み合わせると、体を温める効果があるの」



 ミリィが説明していたが、ウィルは答えられなかった。椅子の背もたれに体を預けて、うんとうなずくだけだ。

 ウィルは火がパチパチと思える様子を見ていた。火がついていても、外より家の中は涼しい。窓が開いていて、風が通っていた。心地よく感じて、ウィルは軽く目をとじた。

 ミリィはそんなウィルの様子を見て、ほっとしたように目を細めて笑った。


 しばらくすると、鍋の中の湯が立ってくる。ミリィは鉤から鍋を下ろし、先程の粉末と一緒にポットに入れた。



「匂いはちょっとあるけど飲んでみて」


「なんだかいい香りがします」


「薬草茶よ。そういえば、普段、お茶は飲まないの?」



 ミリィに聞かれて、ウィルは自分が普段何を飲むかあまり気にしてなかったことに気がついた。



「お茶は飲んでます。ただ食堂に大きなポットが置いてあって入れたのかもわかりません。色もすごく薄いんです。多分郵便局の奥さん方が入れてくれてるんだと思います」


「だれも自分でいれたりはしないの?」


「そういえば年上のじいさんなんかは自前で道具を持っていってコーヒーを入れたりしていますね。僕は食堂のばっかり飲んでます」


「じゃあ、少し飲み慣れないかもしれないわね」


「今日はアルトさんは…」


「昨日から買い物に出かけてるの。今日には戻るはずよ」



 そういうたわいもない話をしているとすぐに数分が経った。ウィルは少しの時間でも自分が普通に話せるくらい回復していると感じた。ミリィにポットからカップにお茶を注いでもらう。



「はい、どうぞ」



 ウィルはカップを両手で包むように持ち、ゆっくり鼻から香りを吸い込んだ。



「あったかい」



 香りだけで、もっと癒されるようだった。1口、口をつけると多めに入った蜂蜜がおいしく感じられて、すぐにいっぱい飲んでしまった。


 飲み終えると体に元気がもどってきたように感じる。

 ウィルは気分が悪かったのも、どこかへ行ってしまったような気がした。

 とても気分がよくなった。



「すごい、さっきまでの調子の悪さが、どこかにいってしまいました」


「ふふ、魔女の魔法」


「他にはどんな魔法が使えるんですか?」



 ウィルに問われて、ミリィは少し困ったように笑った。



「本当はね、魔法なんて、使えないの。さっきのはただ、よく効く薬草茶の作り方をしっていただけ」


「そんな、でも魔女は存在自体が魔法みたいなものじゃないですか。普通の人間はそんなに長く生きられません」


「そうね。でもそれだけ、それ以外に魔女らしいことなんて、ほうきで空を飛ぶくらい。今は目立つから、もうあまり空を飛ぶ人もいなくなっちゃった」


「そうなんですね。町では、魔女の薬はよく効くって評判です。だから、魔法を使ってるんだとばかり思っていました」



 ウィルは郵便局に来る薬目的の客たちのことを思い出していた。ミリィの作る薬は日常使いの薬ばかりだ。やけど、手荒れに効くものや、熱さまし、胃薬等だ。ただ、ほかの薬と違うことが、とても効きがいいということだった。遠くは都のほうからも、効能を聞いてやってくる人もいた。



「魔女はただ、長く生きる分、いろんなことを知っているの。どういうお茶を作れば、どんな効果になるか、薬をどうやって使えば病が癒えるか、そういうことをたくさん知っているから、魔法のようにみえるのかもしれないね」



 ミリィは空になったウィルのコップに、ポットに残っていたお茶を注いだ。



「さっきより、少し濃いから、効果もその分あるはずよ。もう少し、休んでいってね」



 新しいお茶はミリィの言った通り、先程よりも濃かったが、蜂蜜の味も濃く感じる。ウィルは、ことさらゆっくり時間をかけてそのお茶を飲んだ。

 その間に、アルトの好きな食べ物の話や、次に来るときに配達を頼みたいという話をしているうちに、ウィルはすっかり気分がよくなり、いつも通りといってもいいくらいまで回復した。



「ありがとうございました。ご迷惑をおかけしました」


「いいえ、私も話ができてうれしかったよ。戻ったら、今日は早く休みなさいね」



 まだ、心配そうにしているミリィに手を振り、ウィルは元気よく帰りの道を歩き始めた。日が高くなって、暑さは増していたが、風が吹いていて、森の中は涼しく感じられた。

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