第6話 とりにくと大男さん
うう~ん。
まだ眠いよう。
ん?
クンカ、クンカ。
何かいい匂いがする?
小さな鼻の穴を目一杯広げで、香りを吸い込む。
何だっけな~、嗅いだことある気がするんだよねえ。
うーむ、この香ばしいかほり。自然と涎が出てきてしまいますねえ~。
「とりにくーーーーー!!」
そう叫びながら目を覚ますと、目の前には良い色に焦げ目のついた骨付きチキンが。
「いただきまーす!」
目の前の、まるでどーぞお食べくださいと言わんばかりに置かれていた骨付きチキンを、にゃむにゃむ食べているとどこからか音がした。
ぐうぅぅー
にゃんだにゃんだ?
じゃなかった。何だ何だ?と肉を口一杯に頬張りながら見上げると、そこには銀の甲冑を着た大男が立っていた。
「ひ、ひょえーー」
吃驚しすぎて、思わず食べかけのお肉を口から落とす……訳がない!死んでも落とさんぞ!口に入った肉は私のごはんだ!
見下ろしてくる大男に向かってキッと睨み返す。
ひえぇぇ。やっぱりこわぁぁ。
こ、腰が抜けそう。
「か、勝手に食べてごめんなさい。返しますから。」
頭を使ってお肉の乗った皿を甲冑の大男の方へと押しやる。
そしてついでに、ジャパニーズ土下座をやっておく。
ただこの体でやると所謂猫のごめん寝ポーズになっちゃうんだけど。でも、謝罪は気持ちが大事なんでね。
シーン
何で無音?
チラリと視線だけ上げてみると、踞る大男が。
え?どうした?
「かわいい」
ん?ボソッと何か聞こえたぞ。
「腹一杯食べな。それ全部お前のだから。」
そう言って骨付きチキンの乗った皿を押しかえしてくる。
え、ええのんか?
んじゃ遠慮なく。
はぐはぐとお肉にかぶりつく。
うまうま。
どこのどなたか存じ上げませんが、美味しいお肉をありがとうごさいます。
ぐうぅぅー
…チラリ
と大男さんに視線を向ける。
ぐうぅぅー
そこには、腹ペコなのに菩薩の様な表情で、私を見詰める大男さんが。
…うむ。
多分このうまうまな骨付きチキンは、大男さんのご飯だよね。
「あの、半分こしませんか?」
大男さんの顔を見上げて話かける。
「なんだ?もう、腹一杯か?」
いやいや待って片付けようとしないで。
「そうじゃなくて、大男さんもお腹空いてるんですよね?」
「ああ、水を出してやってなかったな。」
そう言った後、大男さんは辺りを見回して何かを探す仕草をする。
つられて私もキョロキョロと周りを見る。
改めて見ると、何処かの部屋みたい。
石造りの壁に簡素な机と椅子、それにシングルサイズのベッド。
大男さんのお家なのかな?
にしては何にも無さ過ぎる気もするけど。
「コップじゃ飲みにくいだろうしなあ。」
そう呟くと、大男さんは私の目の前に掌を上に向けて差し出した。
え、お手ですか?
一応前世人間なんで余裕ですよ。
と、右の前足を上げようとすると
「ひゃー!大男さん手が光ってますよ!だ、大丈夫ですか?」
いきなり目の前の掌が光だし仰け反り、驚いてしまう。
更に、その掌からみるみる水が湧き出し、へちゃんと尻餅をついてしまう。
「み、み、水が。あの、手から水が出てますよ?」
少しビクつきながらそう言うと、
「ほら、飲め。皿の肉を全部食べたら、そっちにもっと水をやるからな。」
「あ、いや、お肉は大男さんもお腹空いてるでしょうし、これ以上食べるのも申し訳ないんで。食べ掛けですけど、残りは大男さんが食べてください。」
尻餅をつきながらも必死にそう告げる。
「うーん。やっぱり腹一杯になったのか?まあ、取り敢えず、水を飲め。」
そう、ずいっと水で一杯の掌を鼻先まで寄越す。
んん?これ言葉通じてる?通じてない?どっちだ?
うーん。まぁ、じゃあちょいと失礼して。
お水頂きますね。
あ、もうちょっと下げてくださいな。
ちょん、と大男さんの手に前足を片方乗せる。
「くっ、かわっ」
くっかわ?
ぴちゃぴちゃと音をたてて、水を飲みながら視線だけ上げて大男さんを見る。
そこには、もう片方の手で目元を隠し天を仰ぐ大男さんがいた。
?
取り敢えずもうちょっと飲みたいので、もっと水出してくだせえ。
手に乗せていた前足をちょんちょんと動かす。
「くあっ」
?
大丈夫かな大男さん。水出すの大変なのかな?
「大丈夫ですか?もし、水出すのが辛いならもう平気ですから。」
「ああ。今すぐ水のおかわりを出してやるからな。」
…これやっぱ、言葉通じてないっぽいわ。
ありがとうございました。