第38話 林に住む理由
その先を促すように、私は黙ってアライグマさんを見つめる。
「ここだけじゃねえ、精霊様の生まれた場所はどこもでけぇ街になってる。そこでは大抵、精霊様と同じ姿の動物が大事にされてんだ。」
この街だけじゃなかったんだね。そりゃそうか。
「信仰のおかげで精霊様がいない動物も、大切にはされないが特別悪く扱われるわけでもねぇ。人間にとっては益獣か害獣かそれだけだ。林にいる連中は俺も含めて皆、人間にとって害獣なんだとよ。」
そっか。動物全てに、精霊がいる訳じゃないんだ。私って何にも知らない。
「林にいる奴は全員、街の外から来た連中さ。食いもんがなくて、畑を荒らして人間に追い立てられた奴。可愛いからって小さい頃はペットとして飼われてたが、結局精霊様のいない動物だからってデカくなりゃ捨てられた奴。まあ皆、境遇は似たり寄ったりだな。」
「でも、森に住めば食べ物は沢山あるでしょう?」
少なくとも私が暮らした森はそうだった。
「森なんかに住めるかよっ!あんな魔獣がウヨウヨいるところ、死にに行くようなもんだ。外で暮らす小動物のほとんどは人里の近くや小さな林、危険だが森の外縁部に住んでる。」
物凄い剣幕で怒られる。
「ごめんなさい。」
「いや、気にするな。お前はまだ小さいし外のことを何にも知らないんだろうな。まあ、だから食う物に困ってこの街に辿り着いた奴らは、苦労の知らねぇ猫に対して多少の不満はあるが、それだけだ。でも捨てられた奴らは、人間に大事にされてるお前ら猫のことが気に食わねぇんだろうよ。」
「そんなの…」
どうしたらいいの?
「分かってらぁ。本当は猫共は悪くねぇってな。でも感情はそう簡単にはいかねんだ。だから、俺達はこれからもお互いに関わらねぇ方がいいんだよ。それが一番平和だ。」
「そんな話を聞いちゃったら、もっともっといやだよ。だって誰も悪くないじゃない。うう。」
悔しくて、もどかしくて視界が滲んでくる。
「それなら僕が手伝うよ。」
「ぴっ」
「うわっ」
いきなり声がして驚き、ふたり同時に声の方へ振り向くと、掃除道具を持ったアランが立っていた。
「アラン!?」
何話しちゃってるのー!ダメだよー!
「何だ人間が来たのか。じゃあ、俺はもう行くぞ。」
そういって林に帰ろうとするアライグマさんに、アランが話し掛ける。
「ねえ、待って。」
ピタッとアライグマさんが足を止め、私の方を見る。
「あの人間、今俺に話しかけたのか?」
「うーん、えーと。どうかな…」
私は目を泳がせながら、曖昧な返事しか返せない。
「そうだよ。君に話しかけたんだ。」
「アラン!」
「いいんだ、オヴィ。…林の動物達にそんな過去があったなんて全く知らなかった。僕にはスキルがあるからそれができたのに、知ろうともしていなかった。」
「でも、アランはまだ子供じゃない!スキルを使わないようにしているのだって、リリーちゃんと引き離されないためなんだから。」
「それでも、こんなに近くに悲しい思いをした動物達がいるなら、僕は助けになりたいんだ。それにオヴィが悲しいのに、何もしないなんて友達失格だろ?」
「そんなことないよ。何もしなくてもアランは大好きな友達だよ。」
「ありがとう、オヴィ。でも僕が助けたいんだ。」
アランは意志の強い視線を私に向ける。
「わかったよう、アラン。よろしくお願いします。」
私はぺこりと頭を下げてから、ぎゅっとアランの足に抱きついた。それをアランは、ふふと笑い撫でながら、受け止めてくれた。
「あのよー。和んでるとこ悪いんだが、この状況を説明してくれ。」
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