第1話 拝啓かあさま
こんにちは。
「ねぇ、かあさま。」
その幼い声に答えるように、こちらに振り向き瞬きをする、ふわふわで温かい私のかあさま。
話の続きを促すように首を傾げられ、慌てて話し出す。
「どうして、かあさまのお耳はまあるいの?」
そう訊ねられたかあさまは、キョトンとした表情をしてから、クスクス笑った。
「おかしな子ね。お耳は丸いものよ。あなたのお耳も丸いでしょう?」
そう言われて、自分の耳を触って確かめる。
「ほんとだ!なんで?」
うーん、と少し考えたあとで、またかあさまに質問をする。
「じゃあ、どうしてかあさまは尻尾もまあるいの?」
すると、かあさまはまたクスクスと笑って答えてくれる。
「あなたの尻尾もまあるいわよ。細長い尻尾や、ふさふさな尻尾を持つひともいるけれど、私達の尻尾は丸いの。そういうものなのよ。」
と優しい声で教えてくれた。
やっぱり私はうーん、と少し考えてまたまたかあさまに質問をした。
「じゃあ、どうして私達は二本足で歩かないの?」
そうしたら、かあさまは驚いたような顔をした後、私をぎゅっと抱きしめた。
「二本足で歩くのは人間だけよ。猫は二本足では歩かないの。」
かあさまは、そっと力を緩めて私の目を見つめた。
「森の外へ出ては駄目よ。約束してね。」
初めて見るかあさまの表情に、ビビりながら黙って頷いたのだった。
「約束よ。私のかわいい子。」
そう言ってまた抱きしめてくれた。
…そして現在、お母様の可愛い娘は追いかけられています。
追いかけてくる其奴は二本足でも、ましてや四本足でもありません。
ツルツルの体に大きな口の長ーい奴です。
物凄く凶悪な見た目です。
とにかく全速力で逃げています。
お母様が亡くなり、1人でも逞しく生きていかねばと、森で食べ物を探し回って、ようやく木の実を見つけたところ、今度は喉が渇き水辺を探して歩いてたら、いつの間にか、このツルツル頭の長い奴の縄張りに入っていたようです。
たまに遠くで見かけていた、あのツルツル頭の口がこんなに大きいとは。
あのツルツルの背中に乗って滑ったら、楽しいだろうなぁ。
と、思っていた私が愚かでした。
何でもいいので、とにかく
「わあぁぁぁぁ!誰か助けてくださーい!」
ありがとうございました。