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その瞳には、毒がある  作者: 小娘
その娘、告別する
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無題

最後ですね

センチメンタル~!

「さあ、戻って来いよ…母さん」


テオが言った。



 はて、私は何故このような記録をつけているのだろう?これは間違いなく私の日記だが、何故彼を見ていたのか、自分のことであるというのに皆目わからない。彼の前に立っているのは誰だ?彼を見ていたのなら―そしてそれは寸分の狂いもなく確かであるのだが―、何故私には彼女がわからないのだ?


彼女はどこか絶望的に見える。どうやらもうテオの眼中にないらしいその女性は、まるで彼に見つかるまいとするかのようにそっと後退り、逃げるようにその場を去った。妙な胸騒ぎがする。


リーンはどこに行ったのだろう?何故そんなことが気になるのかも、私にはわからない。彼女とテオは結びつかない。


リーンは両目を潰された状態で崖の淵に立たされている。一歩下がれば彼女は落下する。コスタト兵が武器を彼女に向けている。それは彼女が緋病であるためだ。彼女は排除されなければならない。それだけのことだ、何故気にする必要があろうか?


轟音が鳴り響き、弾が彼女の胸部を貫いた。彼女はよろめき、緋き翼をなびかせて崖下の海へと落ちていく。海は彼女だけの青空となり、昇天する彼女をおおらかに迎え入れた。


緋病の女が死んだとて、別段悲しむことではないはずだというのに、リーンを見送った私の心はひどく空疎である。書き留めなければ、という衝動が襲うので、私は書く手を止めることができない。


ジョーイが歩いている。彼は両腕でアメラを抱えている。少女はぐったりとして、身動き一つ取らない。死んでいるのかもしれない。ジョーイは決然とした面持ちで、大地を踏みしめるように歩いている。しかしその背は、戦場を逃げ去った兵士のように、恥の色を帯びている。そんな気がした。



 私の意識は、絶えずあの名も知らぬ女性の元へと舞い戻ろうとしている。私は彼女の軌跡を辿ろうとしたが、靄がかかっているような感覚に囚われ、何も知ることができない。私も歳だろうか?しかし一つだけ、見ることのできたものがあった。私宛ての書き付けだ。彼女は私の名を知っていた。私が緋病であるということも。よもや、緋病狩りではあるまいか?いや、そうであるなら、わずかでも親しみが感じられるはずはない。彼女はこう書いている。


≪ルーク


見ているのでしょう、きっと。もうすぐ何もかも終わるわ。失敗するわけにはいかない。けれど、すでにどこかで道を誤ったのだという気がしてならないの。きっと、あなたを締め上げてでも、真相を知っておくべきだった。


あなたを完全に信用することはできないけれど、ルルもいないから、ジリアンに手紙を出すこともできない。だからあなたにお願いするわ。もしも私が失敗したら、誰か私の大切な人に伝えてほしいの。逃げて、と。ジョーイが助けてくれるわ。少なくとも彼の心の奥底には、そういう意志がある。


伝えるなら、ジリアンが良いわ。けれど彼女は拒むかもしれないから、アンドルーでも良いでしょうね。実際、誰でも良いの。私が大切にしたかった人たちなら。


私が失敗したなら、きっと彼らは、そしてあなたも、私を覚えておくことはできないでしょう。だから、こんなことを書いておいても無駄かもしれない。そうだとしても、私は皆を大切に思っていたと記しておかなくてはならないと思うの。多分あなたのことも、大切だった。


あなたがこの書き付けのことで、私を小馬鹿にする未来を願っているわ≫


いつ彼女がこれを書いたのかすらわからない。しかし、無碍にもできない。絶対にできない。理由は知らぬ。彼女は失敗したらしい。私が忘れてしまうということを言い当てているのは、どうしたことか?私は本当に彼女を忘れたのだ。初めから知らないわけではないのだ!



 簡単に彼女の似姿を描き、ジリアンに見せに行った。姉は眉をひそめ、そんな人は知らないと言い切った。そんなことよりも、姉は主人であるテオがいつ帰ってくるのかと気を揉んでいる。気まぐれな男だからと私が返すと、彼女は気を悪くしたように私を睨んだ。いつも通りだ。


アンドルーはというと、やはりこの女性を知らないと答えたが、どういうわけか、その似姿をいたく気に入ったようであった。彼はそれを譲ってくれるように頼み、断る理由もないので、私はそれに応じた。



 私の日記の、なんと支離滅裂なことか!膨大な量の記録は、まるで意味をなしていないようでさえある。最後のほうは走り書きに乱れていて、私でさえ読むのに苦戦するほどだ。セレスティアというのは、あの女性の名前なのか?それとも、これはすべて私の夢想に過ぎなかったのか?ここに書かれていることが現実にあったはずはない。


彼女は今、町を出て延々と続く砂の上を歩いている。何かを探しているようだ。


棍ならない。あの歩き去った従者が拾っていってしまったから。


私は何故そんなことを知っているのだ?



 妙な勘が働いて、私は彼女の様子を見に行った。彼女は深い谷底を覗いている。その麗しい紫の瞳―こんな瞳をした人を、私は他に知らない―は、大きく口を開いたその谷と同様、果てしなく虚ろである。


彼女は瞼を閉じ、躊躇もせず、自ら谷を落ちた。異様な風が吹いてきて、彼女を襲った。その風は刃のように彼女の身体を斬り裂いていく。その腿を、指先を、背を、頬を…。


一体いつ、息絶えてしまったのだろう?谷底が見えてきたときには、彼女の体躯は緋色の肉塊と呼ぶに相応しい状態になっていた。


彼女は転落した。死んだのだ。


そしてその肉体が底に衝突する、その音がしたとき、私は漠然と、すべてが無であると悟った。

ここまで読んでくださった皆様、その他諸々の皆様に感謝申し上げます。


感想などいただけましたら、私も報われるというものです。沈黙を守るというのも、また粋かもしれませんね。


改善すべき点などありましたら、矛盾点、深掘りしてほしい点なども合わせて、どうぞお気軽にお知らせください。


書くべきことはもっとあるかもしれませんが、あまり長く書いて皆様をうんざりさせるわけにも参りませんので、この辺りで失礼いたします。


改めて、ありがとうございました。


(2025.2.18 追記)

後半の章に関しましては、再び修正が入る可能性がございます。今回は軽い手直しということで、まだまだ下手な部分もありましょうが、多めに見てくださいまし。


あと、「お前、ここが持ち味だぞ!」というところがもしあるようなら、こっそり教えてくださいまし。大金を与えられた人間よろしく、歓喜大乱舞いたしますゆえ。


では、これにて。二度目のお付き合いをしてくださった方、本当にありがとうございました。

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