無知の衣
馬鹿な男
失望こそは、最も醜い想いだ。そのとめどなさは羨望を凌駕し、かつ人から向けられれば、その刃は絶望のそれよりも鋭い。
あなたは一度、そう言った。失望された人間はおしなべて終わりの予感に打ち震え、消えゆく光に必死で手を伸ばすことになるのだと。
もしこのことがあなたのすべてとなっているのなら、何故あなたが一人きりだということを思い出してはくれないのか?良くも悪くも、あなたは一人のはずではないか?よもや、ロイドやジリアンのためではあるまい。無論、私のためでも。まさか、死者のためだとでも言うつもりだろうか?そんな馬鹿なことがあっては堪らない。それとも、終わりへと一歩踏み出せば、二度と止まることができないのか?
ああ、一体何故、逃げ出してはくれないのだ!あなたが永遠に奪われてしまうのを、私はこんなにも恐れているというのに!
騒動に怯えて隠れていた町人たちのうち、好奇心の強い人々が崩れた城の様子を見ようとやってきて、ちょうど道化と、それを血眼で追う女性がその瓦礫の山に飛び込んでいくところに出くわした。人々は後者が紫苑を持っていることには気が付かなかったようだが、まだ騒ぎが落着していないことを察し、そそくさとその場を後にした。町は静寂が我が物顔で歩いているのを許容した。
セレスティアは不安定な瓦礫の上をできるだけ迅速に渡っていった。しかし、ぐらつく足元に注意を払う度、ベッファの背はひどく遠ざかってしまうように思えた。同時に、その姿は常に彼女の視界に入るようになっていた。
きっと万が一でも彼女が道化を見失うことがないようにしたいのだろう。罠であることは疑う余地はなかった。が、罠を踏まなければ狩人が姿を現さないとわかっている以上、彼女には他に道はなかった。たとえ野兎のように屠られようとしているとしても。
やがて瓦礫の道は途絶え、セレスティアはかろうじて美しさを保っている庭園に辿り着いた。そこには数名の兵士の死体が転がっていたが、仲間の姿は見当たらなかった。そのことを喜ぶべきか、彼女には判断がつかなかったことだろう。
ベッファは庭園の反対側で両手を後ろに組んで立っていた。足で弄んでいるのは、ヴァレンティノの頭だろうか?散々踏みつけられたようで、断定はできない。彼女が立ち止まると、ベッファはその頭を蹴って泉に落とした。
そして、道化は唐突に手品を始めた。種も仕掛けもないと言いたげに両の掌を見せてから、まずは万年筆を出現させる。それはオスカーに預けてあったはずの、ベラディールに保管されていた黄泉忘れの禁であった。
次に、刃の折れた剣の柄。ゾルギック皇家に代々伝えられていたエルフリーデの宝剣のようである。ゾルギックの禁はそれであったということか。
そして、何の変哲もなさそうな本。当然、元々カルツァの大図書館に安置されていた禁である。最後に、サルヴァトーレが身に着けていた指輪。彼が簡単に手放したと言われても驚かない。ベッファはそれらを順に砂の上に放り投げていった。満足気に地面を眺めると、彼は不自然な動きで顔を上げた。
「お前の負けなんだァよ」
切って貼ったかのような笑み。すでに見慣れたものであるとはいえ、不気味であることに変わりはない。相手からの反応がなかったので、ベッファは両腕を広げ、さらに声高に言った。
「略奪の天使が戻って来るんだァよ!」
セレスティアはオスカーか誰かに魂を連れ去られてしまったのかと疑ってしまうほど静かだった。抜け殻のような瞳で道化を見つめ、しばし考え、やがておもむろに口を開いた。
「多くの人々を死に至らしめてまで蘇らせるほどの価値が、彼女にあると言うの?」
「もちろんだァよ!尊い犠牲だァね!」
ベッファは即答し、耳障りな声で笑った。すると、彼女が何かを呟いた。よく聞き取れなかったが、直後に拳を握りしめたので、彼女がひどく動揺しているのだとわかった。彼女はまだ道化のほうを見ていたが、その瞳は何も捉えていないようでもあった。
「他人の人生を勝手に奪っておいて、正当化なんてできるはずないわ。あなたも…そして私も、いつか必ず裁きを受ける日が来る」
そして燃え盛るような緋が紫苑を隠した。
「それでも、私は信じるもののために同じ選択を繰り返すわ。…それはあなたも同じかしら?」
その問いかけに、ベッファは上がりきったように見える口角をさらに上げた。セレスティアはその笑顔を鋭く睨みつけた。そして彼女が足を踏み出そうとしたまさにそのとき、背後でかちっと音がした。後頭部に何かが強く押し付けられる感覚に、彼女は動きを止めた。
「利口な奴は嫌いじゃないぜ」
彼は言った。その声で彼女は愕然とさせられる。
「…テオ」
「ああ、俺だよ。生きてて良かったろ?―ほら、歩け」
彼は武器で軽く彼女の頭を小突いた。彼女は言われるがままに歩き出し、ベッファの前で止まった。道化はくすくすと笑い声を漏らしながら彼らを見ていた。やはり、すべて仕組まれたことだったのだ。セレスティアの心は空洞になった。
「余計な真似はすんなよ、セレスティア。何をするにせよ、俺がこの引き金を引くほうが早いからな」
その警告も不要のものであった。テオは鼻で笑うと、演説でも始めようとしているかのように咳払いをした。
「さて…まずは、ご苦労さんっと」
言い終えるが早いか、轟音が鳴り響いた。しかし、火を吹いたのは彼女の頭に押し当てられた武器ではなかった。煙を吐き出すそれは彼のもう一方の手に収まり、口は彼女の身体の横から道化に向けられていた。弾が赤い霧と共に道化の首の後ろから飛び出した。道化の笑みは消え、聞くに堪えない声が漏れ出た。
それだけでは飽き足らず、テオは彼の白い額にもう一発弾を撃ち込み、彼が倒れる様を冷ややかに見下ろした。道化は泉に落ち、白化粧が水に浮いて靄のように彼の周りに一瞬広がり、消えた。テオは屈託のない表情でセレスティアを振り返った。
「やってやったぜ、セレスティア!」
彼女は目を見開き、わずかな期待に揺れた。が、彼はすぐに態度を切り替えた。
「…っていうのは冗談だ。こいつは正真正銘、俺の部下だった。ま、邪魔だから消えてもらったけどさ。俺って元々、一匹狼なんだよな。なのに―」
やけに肩の力を抜いたような調子で話し出すテオを遮るように、セレスティアは尋ねる。
「あの子たちはどこ?」
その声は、綯い交ぜになった感情を押し殺そうとして震えていた。テオは首を鳴らしながら考え込んだ。
「ん?ああ…あんま知らねえんだけど。リーンは兵士の奴らに連行されてって、エッタは瓦礫の下だろ。多分お前、踏んづけてったぜ。んで、アメラは…そうだ、人質に使ったまま、ジョーイが仕留めたんじゃねえかな。うん、割と知ってたぜ」
彼はそう言ってせせら笑ったが、彼女は反応を見せまいとして強く目を瞑った。大きく息を吐くと、彼は両の武器を収めた。
「さてと。お前をこいつで脅しておく必要はもうねえかな。俺を殺す気なんかまるで起きてねえんだろ?」
彼は嫌な笑みを浮かべながら彼女の前に回り込んだ。が、彼の言う通りなのか、彼女は鋭い目つきで彼を見るばかりで、飛び掛かるような気配はなかった。彼は堪えきれない様子でさらに笑った。
「不思議か?だよなあ。ま、何だ、昔話でもするか。時間なら腐るほどある。昔々―」
「…ふざけないで」
セレスティアはやっとのことでそう言ったかのように見えた。テオは軽く肩をすくめ、抑揚をつけて話し始めた。
「嫌だね。昔々、天上におわす女神様は、凡庸な人間共を教え導くことのできる存在を創り出し、この地上に送り出したそうだ。それがいわゆる天使というわけだ。メルクーラだの、バキアだのがいたわけだが、最終的に生き残ったのはアストルとエリシアだけだった。エリシアが他の全員の能力と、ついでに命も奪っちまったからだ。
ついに怒り狂ったアストル!均衡を司る天使殿は、どういうわけか天使と似たような力を持って生まれたクレアを聖女として連れ回し、ご立派な志を持った仲間を集めた。
んで、まあ、なんやかんやでエリシアは討たれ、アストルはご満悦。身勝手なことに、自らの命と引き換えに、人間たちに天使の力を分け与えてしまった。そんで今に至る、と。
こんな話は、どんだけ学のねえがきんちょ共でも知ってる。けどな、この話にはもうちょい続き…っつうか、裏話があるんだぜ」
彼はどこか得意げに彼女に目配せしたが、彼女は沈黙を貫いた。
「エリシアは、聞いた話じゃこれが禁じられていたことだったらしいんだけどよ、どこぞの男との間に子どもを儲けたんだと。けど、その赤ん坊を産んですぐ、アストルがやってきちまった。見つかりゃ、ただでは済まされねえとわかってたもんだから、エリシアは随分慌てたらしい。あろうことか、赤ん坊の心臓をくり抜いたんだぜ。
な、びっくりだろ?で、その心臓と死体に途方もねえくらいの生命力をぶち込んで、別々に居城の奥深くに隠させ、アストル一行を迎え撃ったというわけだ。そんでもって、こっからが面白いんだけどよ―」
まるで酒の肴にするために話しているかのように、彼は至って楽し気だった。彼女はついに痺れを切らして声を上げようとした。
「いい加減に―」
「しねえぞ。黙って聞いとけって。―えーと、何だっけ?ああ、そう、そんでさ、これはつい最近…っつっても、四、五十年くらい前か。ま、そんくらいの話なんだけど。ある略奪の天使の熱心な崇拝者が、彼女の居城だった廃墟を訪れた。そいつは廃墟をぐるっと見て回ったが、ただの瓦礫の山だと確信させられただけだった。
ところが、だ。そこらの半端な崇拝者とは違って、そいつは瓦礫をどけて、どけて、必死にエリシアの痕跡を探したのさ。丸一年そうしていた結果、ついにそいつは地下へと繋がる階段を見つけた。城が崩れたおかげで、その階段を隠してた仕掛けがぶっ壊れてたらしい。
エリシアが結界でも張ったのか、地下は随分綺麗な状態で残ってたんだと。で、その熱心な崇拝者氏は探索に乗り出そうと、一番手前にあった扉を開いた。するとなんとびっくり、その部屋には小さな心臓っぽい何かが妙に厳重に保管されてたんだ!しかもそれが瓶の中で生き生きと動いてるときた!
どうも怪しいと踏んだその男は、瓶を大事に抱えて次の部屋に行った。ま、そこには何もなくてだな、結局一番奥まで行って、ようやく心臓のない赤ん坊の死体を見つけたんだと。その死体も、ついさっきまで生きてたみてえに瑞々しかったらしい。
そこでぴんときた崇拝者は、慎重に心臓を死体に戻し、傷口を癒して赤ん坊の身体を復元させた。学のねえ奴だったからさ、逆さまに入れてたかもしれねえよな?や、そういうことにはならなかったけどよ。まあ良いや。んで、そいつの思った通り、赤ん坊は蘇ったわけだ…」
テオは静かに言い切ると、反応を期待するようにセレスティアの目を見つめた。彼女は実に従順であった。
「…それが、あなたなの?」
「御明察。大喜びの崇拝者は、赤ん坊の俺を連れ帰って、これまた熱心に教育を施した。あ、ちなみにこの崇拝者ってのは、ジョーイの父親だぜ。あいつもついてねえよな。そう、で、頑張って育ててみたんだが、この俺はいつまで経っても天使の力らしい何かを発現しなかった。上達するのは剣の腕前だけ。
あいつは段々俺に失望し始めたんだな。俺がエリシアに関係してるわけじゃねえのかもってな。けどさあ、あいつもなかなか酷いだよな?俺をエリシアが遺していったもんだと思い込んで、勝手に連れ帰っておいてさ。ま、その思い込みも正しかったわけだけど。そのことも知らねえまま、おっ死んだんだぜ。報われねえだろ?」
「初めの犠牲者ね」
その言い草は鋭く、それを聞いた彼はほとんど傷ついたかのようであった。
「…ま、そう言いてえなら良いけどよ。そうだな、あいつは確かに、俺のせいだとも知らずに死んだよ。俺が言ってやったんだ、死ね、もう目の前に現れるなってな。そしたら、しばらくしてからほんとに死にやがった。首吊ってさ。
そんな奴じゃなかった…自分の人生に完全に満足してたし、そもそも人を殺す度胸もなかった奴だった。崇拝するエリシアの血を俺が継いでるはずだと思ってたとはいえ、その俺にちょっとやそっと暴言を吐かれたところで、わざわざ気に留めてくれるわけもねえ、図々しい野郎だったんだぜ。
その頃、俺は当然秘密裏に育てられてたわけだが、周りにいた信者共の態度はどんどん妙になっていってた。崇拝以上の何かっつうかな、心の扉ってやつを開け放つどころか、取り払っちまったみてえだった。俺を心底嫌ってたジョーイはそれほどじゃなかったけど、それでもあいつが俺を拒絶できなかったのは確かだ。そのことに気付いた矢先にジョーイの親父が死んでさ、さすがの俺も妙だと思ったわけだ。
んで、ふと考えた。俺がエリシアの奪い取る力を何かしらの形で受け継いでるとすりゃ、それは人の心を奪う力なんじゃねえかってな。わかってるよ、驚天動地、奇想天外だろ?とにかくだ、その仮説に沿って俺は実験を始めたんだ。
結果から言って、大当たりだったぜ。ある貞淑な女は夫の目の前で別の男との姦淫に耽り、ある義侠心に満ちた男は乞食のがきを広場で突然殴り殺した…俺がそう望んだから。それでいて、俺の名は決して出さないんだぜ。もっとも、そいつらは元々エリシアを崇拝してたわけで、俺に対する警戒も皆無だったんだ。支配が上手くいくのも当然だった。
だから、ジョーイに親父と同じように死んでみろって言ってやったときは、ほんとにがっかりしたんだぜ。あいつはそんなことはしなかった上、最近の周りの奴らの不審な行動が俺の差し金だったって、目ざとく気付きやがったんだから。そんでもって、見事に逃げられたしな。ま、でも、それではっきりしたわけだ。普通の奴らを支配するなら、時間をかけて、じっくりと蝕んでかなきゃならねえってな。
…聞いてんのか、セレスティア?」
「聞く以外にどうしろと言うの?」
セレスティアは苛立ちを隠さずに答えたが、それ以上のことはしなかった。彼女にはありえないことだった。氷を埋め込まれたかのように、私は体の芯が冷えていくのを感じた。すべて、過ちだったのか。
「また怖い顔しちゃってさ。ま、そういうわけだ、お前が俺を八つ裂きにしてえと思ってもできねえのは。ちなみに、俺の瞳の色が変わらねえ理由はよくわからねえ。そういうのはジョーイの専門だと思うぜ。
いやあ…ハハ、それにしてもさ、お前ってほんとに頑固なのな!正直、こんなに時間がかかるとは思ってなかったぜ!だから、奥の手の死んだふりを使ったわけだけどさ。俺の計画じゃ、黄泉忘れの禁を集めるのはもっと簡単に済むはずだったんだ。ペネロペとかルシアとかみてえな、衝動的な奴を探せば良いだけだったからな。ああいう奴らなら、俺が直接顔を出さなくても、見事に道化に踊らされてくれるってのもわかってたし。
あ、お前の兄貴なんかもうってつけだったっけ。けど、あいつは何にも知らなかったんだよな。そうそう、だからあのときお前の正体を知れたのは、まさに天の恵みだと思ったぜ!あの一件がなきゃ、俺は今でもルーセチカの禁の在り処を求めてさまよってたところだ。
と、いうわけで…」
上機嫌に捲し立てたテオはふと真剣な顔つきをして、彼女を覗き込んだ。彼女の息が詰まる。
「教えてもらおうか、セレスティア。ここに、あるんだろ?」
と、彼女の額をゆっくりと指先でつつく。
「知ってるか?ゾルギックを建てたエルフリーデは、踊るように剣を振るう屈指の戦士だったそうだ。で、カルツァのエドガールは、よく知られてる通り研究熱心な男だった。その妹だったアンナも、兄に似て本に齧りつき、こっちは数多くの童話を残したんだと。コスタトのエリザベッタは豪華絢爛を好み、特に美しい指輪には目がなかったとか。…な、俺の言いたいことがわかるだろ?導者たちは黄泉忘れの禁に自分たちを体現してくれる代物を選んだというわけだ。
となれば、ルーセチカの建国者のクロードがどんな奴だったかがわかれば良い。だが、残ってる文献には、クロードが特別何か物を扱ったり、好んだりしたっていう記録はない。…そう、物は。
エドガールがちょろっと書き残してたんだよ。クロードは言葉に炎を宿した男だった、ってな。危うく見落とすところだったんだぜ!ほんとに偶然だった、あの一文を見つけたのは。落ちた食べかすを拾おうとして気付いたんだぜ?女神様は、よっぽど俺に手を貸したがってるらしい」
テオは途中から肩を揺すって笑い出し、その笑いを抑えようともしなかった。セレスティアの顔は恐怖に、怒りに、そして絶望に引きつっていたが、彼女は動かなかった。正しくは、動けなかったのだろう。彼の言葉をすべて信じるなら、彼女はもう彼の呪縛に囚われているのだから。
しかし、何故今なのか?彼女がいつ彼を完全に信用したというのか?彼女に限って、そんなことがあり得るのか?本当に、この男が死んだと思ったせいで、彼女の心の壁が崩壊してしまったと?そんなことがあって良いはずがあるだろうか?
「俺の立てた仮説はだな、本当の意味での禁を解く鍵ってのは、ルーセチカの王族が握ってるんじゃねえかってやつなんだよ。それ以外の国の黄泉忘れの禁は鍵穴に過ぎねえってな。禁を集めて、お前が聞かされたはずの魔法の言葉を口にすりゃ、黄泉忘れが使えるようになる。大当たりだろ?俺、賢いんだから」
したり顔で見つめてくる彼に、空洞の彼女は残る意思を総動員して尋ねる。
「…何故なの、テオ?何故、エリシアを蘇らせたいの?」
「別に俺はさ、母親だからってエリシアに肩入れしてるわけじゃねえんだ。けど、人間ってのは、水浸しになるとわかっていながら、水の入った器をひっくり返したりはしねえ。どうも怖くて、できねえのさ。俺はそれがしたいだけだ。できるだけ、でかい規模でな。あとはまあ、この能力を存分に使いたかったってのもあるけど」
「今更…今更、あなたの裏切りを責めることなんてしないわ。けれど、あなたはどうしようもなく無知だわ。それがあなたの罪だった。そうだわ…あなたは、罪人よ…」
彼女の頬を涙が伝い、私の目から似たような何かが零れた。これが、あなたの涙なら!
「お前の涙を見てると心が痛むよ。ほんとにさ。…なあ、セレスティア。お前は、俺の最後の善心だったんだぜ。何でか知らねえけどな。もっと早く出会ってたら、違ったかもな。なーんて…冗談だよ。
―ま、とにかく、早いとこ言っちゃってくれ。俺も疲れたし」
言わないでくれ。
「なあ、セレスティア。言えるよな?」
言わないでくれ!
「…此岸と彼岸を撚り合わせ…今こそ忘れがたき霊魂…還り来たらしむるべし導を示さん…すべては、純潔の炎の意のままに」
2025.2.18




