大義名分
夜中、エッタは目を覚ました。やはり、怪しい気配には敏感らしい。オスカーが起きていて、影に注意しながら小窓から外を覗いていた。彼女は素早くその隣に並び、同じように外の様子を確かめた。
そこには、群れを成した黒豹族の姿があった。あれは敵が送り込んできたのだろうか?しかし、コスタト人の姿は見当たらない。軍の一部であるなら、黒豹が独立して動くはずがなかった。では、彼らが彼らの意思で動いているのだとすれば?
エッタの頭の中に、ある考えが浮かんだ。彼女はオスカーと目を合わせ、頭を傾けて隅のほうで眠っているミカゲを指した。オスカーは大した反応を示さず、ただ委ねるように小さく頷いた。
エッタはミカゲに忍び寄ると、近くに落ちていた外套を取って彼に被せ、首を絞めた。もがく彼の力は思いの外強かったが、大した苦労もなく彼の気を失わせることができた。彼女は他の仲間たちが起きていないか部屋を見回したが、問題なさそうであった。ミカゲを担ぎ、できるだけ静かに扉を開けた。
黒豹たちは、夢でも見ているかのような顔でエッタを迎えた。彼女はミカゲを地面に下ろし、彼を顎で示した。
「こやつが狙いであろう。連れて行くが良い」
群れているのが嘘のように、黒豹たちは囁き声一つ漏らさなかった。エッタが戻ろうとすると、群れを率いているらしい一匹が前に進み出た。
「白狼の始祖よ…何故我が一族の始祖を殺めた?」
それは少し古びた昔の出来事だった。私にはそんな出来事になど興味がないし、またわざわざ語り直すほどの値打ちがあるわけでもない。彼女は黙ったまま振り返り、黒豹が続けた。
「あなたがかの御方を殺めなければ、我々はあなたの一族と同様の自由を得ていたはずだ」
「…おぬしらは、その自由で儂の子らを食いつぶしていたであろう」
今度は黒豹が沈黙する番であった。
「儂にはおぬしらが人間共に支配されるであろうことくらい、よくわかっておった。しかしおぬしらの始祖は儂の子らに仇なす存在であった。…あの日、儂は選んだのだ。どちらの一族の命を取るかをな。今も同じことよ。そやつの命は捨て置く。おぬしらと争っておる場合ではないからのう。わかったら、そやつを連れて失せよ」
黒豹はまたしばし黙っていたが、やっとミカゲを抱え上げ、静かに引き上げていった。その背中に、エッタは呟いた。
「粛清など、早うやめてしまえ」
「…あなたの与えた道だ」
波が引いていくように、黒豹たちは姿を消した。彼らが本来あるべき自由を得る日など来ないと、私は確信する。エッタは中に戻り、横になった。オスカーはじっと外を見つめていた。誰かが身動きしたような気配がしたが、彼女は気にも留めなかった。
翌朝、ミカゲが単に出て行ったのだというエッタの説明をわざわざ疑う者はいなかった。戦力が大きく欠落したものの、セレスティアは決着をつけるという意志を貫くつもりのようであった。彼女はテオを偵察に送り出した。戻って来た彼は、王城でヴァレンティノが残っている兵力をかき集めていると報告した。
「ついでだけど、町は昨日のことで持ち切りだったぜ」
テオが言うと、寝そべった姿勢のリーンが首を回して彼を見た。
「どっちのこと?」
「え?ああ、襲撃のことで。黒豹のいざこざなんか、こっちじゃ日常茶飯事だからな」
「そういうものなわけ?」
「おう。で、町の奴らが噂してたところじゃ、ヴァレンティノの野郎は城の兵士じゃなくて傭兵らしいぜ。それが、戦力不足のせいで総大将扱いなんだと」
「大した出世ね」
セレスティアは皮肉っぽく鼻を鳴らした。テオは同意を示すように肩をすくめた。
「ま、とりあえず、奴をねぐらから出て来させることには成功したわけだ」
「あとは首を取るだけ、か…」
オスカーが物憂げに呟いた反面、リーンは勢いよく起き上がり、輝くような笑みを浮かべた。
「なんか、いける気がしてきたかも?こっちにはセーちゃんも、騎士様も、エッタさんもいるんだもんね!」
「うむ、腕が鳴るのう!」
決戦が近いことに、エッタはひどく昂っているようであった。あの死体の群れの一件があったとはいえ、彼女は長いこと血が湧きたつような戦いの舞台に立ってはいなかった。そんな彼女を一瞥しながらセレスティアは言った。
「悪いけれど、私とオスカーは別行動よ」
「えー、また?今度は何?」
リーンは辟易したように言ったが、その態度は明らかに、不安を覆い隠そうとして出た反発の産物であった。セレスティアはそれとなく目を逸らした。
「どういうわけか、サルヴァトーレはもう一度私と会う気でいるの。私はそこで彼を討つ。殺し合いになるとわかっている以上、さすがの彼も丸腰では来ないでしょう。だから、確実に彼を葬るならオスカーを連れていくのが賢明、というだけ。心配をしなくても、終わり次第合流するわ」
彼女はそう言うと、皆に向かって勇気づけるように微笑んだ。まるで未来がすべて決定しているかのように、勝利は確実だとでも言うかのように。当然、それは仲間を鼓舞するために使われる常套手段ないしささやかな遊戯なのであるが、こういった状況では誰もその虚偽を咎めはしないし、そもそも気付きもしないものだ。
「聖騎士オスカーも、セレスティア様にかかりゃ武器扱いか」
テオがにやにやと笑いながらオスカーを見やると、彼は窘めるような視線を投げ返してきた。
「僕はそれで本望だよ。あと、元、聖騎士だから」
「細けえ男は嫌われんぞ」
二人の軽口を尻目に、リーンは唇を突き出して俯いた。
「でもそうなってくると、自信なくなってきちゃうなあ、なんて?ほら、あたしなんか援護くらいしかできなそうだし」
「そう言うと思って…」
セレスティアはリーンの傍まで歩いていき、短剣を取り出して彼女に渡した。リーンは鞘から刀身を抜き出し、物珍しそうにそれを眺めまわした。
「これ、あたしに?」
刃の妙なる曲線を見つめながら、彼女はおずおずと尋ねた。まさか我が王女から武器を賜るとは思っていなかったのだろう。
「ええ。私の緋石をはめてあるわ。持ち合わせがなくて、あなたの分しか用意できなかったけれど」
「一応俺も凡眼なんだけどな」
短剣を食い入るように見るテオが横で呟いた。セレスティアは親が子を諭そうとするときのような真面目さと穏やかさで彼に頷きかけた。
「そうね。けれど、私はあなたの実力を信じているのよ。私の目的の半分を、預けても良いと思えるくらいにはね」
彼もまた、彼女から親愛の言葉を賜るとは思っていなかったと見える。彼はしばし呆然と彼女を見つめ、やがて照れ笑いをしながら床に目を落とした。
「…何だよ、嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。そんなこと言われちゃ、ちゃんとあの野郎をぶっ飛ばしてくるしかねえな」
「まったく、僕の立場がないよ」
オスカーは寂しそうな顔で冗談めかして言った。エッタはもう少し不満気だった。
「儂のもな」
「アメラも」
負けず嫌いが発動して真剣に言うアメラに目をやり、セレスティアは優しい笑みを漏らした。彼女はアメラの頭を撫でながら、一同の顔を見回した。
「言葉の綾よ。あなたたち全員のこと、ちゃんと信じているわ」
団結だとか、絆だとかいう言葉に弱いリーンは、彼女の言葉に大層満足したようであった。心躍る様子で同じように面々を見ていき、何とも取り難い表情で立っている医者に目を止める。
「そうだ。ジョーイ、あんたは?また待ってるの?」
「…いや、俺もお前さんたちと一緒に行こう。大一番ってときに、一人で何もしないわけにゃいかないからな!何、俺だって戦えるさ!ちょいと惨たらしいやり方になるんで、普段は遠慮してるがな」
ジョーイは軽快に笑った。それにつられたように、テオの口角がぐいと持ち上がった。
「そりゃ楽しみだ」
その後、セレスティアは切り替えるように一同に出撃を命じた。ヴァレンティノを討伐せよ―その指示は明確かつ失敗の許されないものであった。彼女はその使命を仲間に預けざるを得なかった。が、そうしても良いと思えるほど、確かに彼女は彼らを信じていたらしい。
彼女はよく理解していた。いまだ敵の得体が知れないということを。しかし、ヴァレンティノの死は敵の角を落とすことと同義であるに違いなく、またベッファまでもを仕留めてしまえば、敵は翼を失うことになるはずであった。
そうなればいよいよ、相手はその身一つで戦わねばならなくなるのだ。彼女の望みはそれであった。敵を知ること。敵を抹殺すること。その先に安寧の日々が待っていることを祈り、光なき道を踏みしめて歩く。どんなに運命が残酷でも、せめて死力を尽くしたと納得できるよう舞い続ける。それが彼女だった。
そんな彼女だからこそ、私には見届ける義務があるのかもしれない。
太陽がその至高の玉座から見下ろす中、コスタト王城では奇襲に始まる戦闘が勃発した。巨大な体躯を持つ白狼が先陣を切る謎の一団は、再編が済み、迎撃準備を整えつつあったコスタト軍に突撃、捨て身の策かと思われるほど無謀な作戦を決行した。
その圧倒的戦力差にもかかわらず、コスタト軍は劣勢に立たされ、国王リナルドは護衛のため残った兵士を率い、美しき泉のある広大な庭園に布陣、王自ら戦う意志を固めた。
軍の劣勢を受け、大将ヴァレンティノもまた庭園への撤退を決めた。あからさま過ぎるその撤退は罠と考えるのが妥当であったが、テオは単身それを追い、気付くのが遅れたリーン、アメラが後から彼らに続いた。
期せずして一挙に敵兵の猛攻を受けることとなったエッタであったが、彼女は怯むどころか攻撃の勢いを増していった。鮮やかに敵を葬る彼女は、いつの間にかジョーイが姿を消したことに気付いてはいなかった。
さて、無策にも庭園に飛び込んだテオを待っていたのは、緋眼を輝かせるヴァレンティノであった。なるほど、庭園であれば、自身までも瓦礫に押し潰されてしまうなどという心配がないというわけである。しかし、彼はテオの姿を目にしても、攻撃を開始する素振りを見せなかった。ただ不敵な笑みと共に立っているのみ。
テオはヴァレンティノを睨みつけると、辺りを見回して兵士の数を確認した。多くはないが、一斉に飛び掛かられてはひとたまりもない。彼は刀の柄を握り直した。すると、その仕草で彼の不安を感じ取ったとでも言うかのように、国王は兵士たちに侵入者への攻撃開始を合図した。テオは舌打ちをしたが、引き下がるつもりはなかった。
先陣を切った若い兵士を一撃で斬り落とす。ついで二度刀を振り、二人分の雄叫びが呻き声に変わる。兵士はたじろぐ。対する彼は極めて冷静だ。駆け、斬る。行き過ぎないよう自制する。背中は見せない。隙を見てヴァレンティノを見やる。変わらず、癇に障る態度で立っており、戦闘に参加するつもりはないらしい。国王リナルドもそんな彼を快く思っていないようだ。当然のことだが。
七人目が地面に伏したとき、リーンとアメラが到着した。二人は即座に状況を理解し、テオに加勢した。リーンが我が王女から授かった短剣は、風すらも斬り裂くかと思われるほど鋭く、軽い。それを振るう彼女の身体もまた、不思議と軽やかに動く。
彼女はそれらがすべて短剣のおかげであると気付かないような愚か者ではなかったが、それで調子づかないような退屈な人間でもなかった。勢いこそすべてと言わんばかりに、彼女は砂漠の楽園を踏み荒らし、敵の喉元を掻き斬ってゆく。
奥底に眠っていた本能が目を覚まし、アメラは獲物を追う捕食者へと変貌した。それはエッタにとっては自制可能な欲動であったが、それをこれまで失っていたも同然のアメラには抗い難いものであった。何をきっかけにそれが呼び起こされたのか、はっきりと指摘することはできない。長らく押し殺し続けていたのか、あるいはこの討滅作戦への強烈な拒否反応の結果か?何であれ、その豹変ぶりはまさしく解放である。
人間離れした二人の助力を得たテオは、標的をヴァレンティノに切り替えた。彼が向かって来るのに気が付くと、コスタトの将は再び瞳を緋く閃かせ、直後には地面が派手に裂けた。皆途端に体勢を崩されたが、この二人はそうではなかった。
立て続けに地面が揺れ動く中、二人は何事も起きていないかのように刀を打ち合う。安定しない大地の上を、テオは慣れた足取りで移動する。大きく飛び退いてヴァレンティノの攻撃をかわし、軽やかに三歩踏み出す。飛び上がり、勢いに任せて刀を振り下ろす。
曲刀でその一撃を受けたヴァレンティノは、奇妙な驚きを隠さずに相手を見た。着地までの数瞬、テオは決して目を逸らさず、その眼差しからは傍にある泉のように澄んだ殺意がほとばしっていた。二人の間で何かが変化する。ヴァレンティノは最早笑っていない。まるで予告されたものと異なる何かを見ているかのように、瞳は焦燥に揺れている。
刀を扱う腕はテオのほうが上であるらしく、ヴァレンティノが大地を操っていなければもっと早く決着がついていたであろうことは間違いなかった。相手の焦りを見て取り、テオは繰り出す一撃の速度をますます速めていく。
ついに攻撃を受け止めきれず、ヴァレンティノは大地になぎ倒される。敗北の決まった男の顔に浮かぶのは、死への恐怖ではなく、静かな怒りである。しかし彼は吠えない。これも運命と、理解しているのである。そして、彼の最後の務めも。緋、煌々とする。
城内にいた白狼の始祖と兵士たち―逃げ遅れた召使たちもいたかもしれない―は、あっけなく瓦礫の下敷きになった。激しい音と共に王城は崩れ、リーンとアメラの動きが動揺で止まる。力なく緋き輝きを失った漆黒の瞳をテオはまっすぐに見やる。男は怒りを押し殺すように笑っている。終止符を打とうとテオが刀を構え、同時に気を取り直したリーンが飛ぶように国王に狙いを定める。そのとき、聞き慣れた声が響く。
「…そこまでだ」
振り返ると、神妙な面持ちのジョーイが立っている。彼の前には、欲動に身を委ねたがために疲弊したアメラがいる。明らかに状況を理解していない様子である。医者はいつも施術に使っている針を躊躇いなく彼女の脳天に突き刺した。長く太い針が頭を貫く感覚に、少女は短い呻き声を漏らす。唖然としてその光景を見つめ、リーンは言葉を探して口を開閉させている。ジョーイは彼女を見て言う。
「仲間の命は惜しいだろ?その短剣を捨てることだ、嬢ちゃん」
「…裏切者!」
リーンは湧き上がった怒りに目を見開いてがなる。その怒りは見えない壁に阻まれているかのように、ジョーイには届かない。
「何とでも言ってくれ。ただし、俺は本気だ。こんな子どもの頭を破裂させるなんざ、やりたかないがね」
「よくも…」
「言っただろ、俺のやり方は惨たらしいってな。さあ、武器を捨てて、投降することだ」
いつになく非情なジョーイを前に、リーンは混乱して周囲を見回す。生き残っていた数名の兵士が同様の当惑を見せるが、彼らは直感的にあの男が味方であると知っている。
リーンは絶望感に苛まれる中、武器を放って両手を上げる。降伏してどうするのか、という疑問が彼女の中を駆け巡るが、かといってまだ年若い仲間を見捨てる度胸などない。彼女は同じようにしてくれることを祈るように、刀を構えた姿勢で止まっているテオを見る。
彼女は気付いただろうか、彼が裏切者と同じくらい冷徹な瞳をしていることに?彼は乾いた笑い声を上げる。
「あばよ」
彼女の祈りも空しく、テオは刀を振り下ろす。憎悪に満ちた瞳を彼に向けたまま、ヴァレンティノの首がこもった音を立てて砂の上に落ちる。終わりを悟ったリーンが悲鳴を上げた。
「いよいよだねえ、ルーシャ」
最早心臓の動いていない白狼の少女は楽しそうに、隣に立つ亡国の王女に語り掛けた。二人は遠くから城が崩壊する様を見守っていた。ルシアは何も答えず、すぐ下の通りで交わされている会話を聞き取ろうと耳を澄ませている。しかし通りは騒がしく、大した成果は得られない。帳を引いているので、彼らが彼女の姿を目にする心配はなかった。再びサラが口を開く。
「可哀想だよねえ、あの人も」
「…どなたのことですの?」
「さあ?皆だよ、きっと。関わってる人、みーんな。可哀想だよねえ、あの人たち」
そう言い直すサラの不自然さに、ルシアは内心首を傾げたに違いない。これはサラが言っていることなのか、それともルシアの奥底に秘められた思いが反映されているだけなのか?彼女にはそれが判断できないでいた。
「ねーえ、全部が終わったら、静かに暮らせるようになるかな?」
ルシアは沈黙した。答えを考えるのも馬鹿馬鹿しい問いだった。それに答えずとも、サラは気にしないのである。何せ、もう死んでいるのだから。それが理由ではないかもしれないが。ルシアが帳の隙間から通りの様子を覗いていると、サラは無理やり視界に割り込むようにして尋ねた。
「何でルーシャは私のこと、いつまでも傍に置いてるの?身体が腐らないようにも気を付けてくれるしい…何で?」
「…ただの話し相手ですわ」
静かに答えると、ルシアは懐から緋石を取り出し、サラに手渡した。
「ほら、持ってお行きなさい」
「持つのは良いけど、どこ行けって言うの?ていうか、これ何?」
「どこへなりとも、お行きなさい。私の緋石ですから、それを心臓の辺りにでも埋め込めば、私が直接干渉しなくても生きていけますわよ」
目も合わせずに言うルシアをサラはせせら笑う。
「もう死んでるってばあ。ルーシャの傍を離れる気もないしい」
彼女が言うと、亡国の王女は突然窓枠を握りしめ、声高に叫んだ。
「私の言うことが聞けないと?」
「私がいなくなったら、誰と話すの?話し相手なんでしょ、私?」
「あなたの気にすることではありませんわ」
平静を失ったことを恥じ入るように言い、ルシアは再び通りに目をやった。
「ま、行けって言うなら行くけどさあ。どこへなりとも?あ、あの単細胞のヴァレンティノ、死体と寝る度胸あったと思う?ないよねえ?そうだ、死なないでよね、ルーシャ。他の奴らが全員死んでもさあ。私と同じになった奴から、順番に踊ってあげるんだあ…」
今までにないほど支離滅裂なことを口走りながら、サラはあっさりとその場を去っていった。彼女は死ぬなと言うが、ルシアには自身の限界が近いことがよくわかっていた。それにもかかわらず、これから大きな力を使おうとしているのである。十中八九、無事では済まないだろう。緋石に込められた力は、所有者が息絶えても残り続ける。サラの魂を引き留め続けるには、緋石を使う他なかった。
しかし、何のために?ルシアは自身の愚行―と、本人は考えているようだ―に、呆れたように首を振った。
うほうほゴリラターイム
2025.2.18




