その先にあるもの
昼頃に起きてきた面々は、遅い朝食が用意された食堂に、一人また一人と入って来た。セレスティアとロイドが、そこで言葉を交わすことなく紅茶を啜っていた。入りが途絶えたとき、ロイドはジリアンに尋ねた。
「黒豹の三人は?」
「生き残った仲間たちを探しに、日の登らぬうちに出て行きました。後で戻って来るようですが」
彼は質問した本人とは思えないほど淡白な相槌を打った。リーンが匙に自身の顔を映しながらぼやいた。
「あーあ。やっぱり何か変な気がする。ね、ジョーイ。ほんとに治せないの?」
彼女の隣の席に座る医者は、深い悲しみの籠ったぎこちない微笑を浮かべた。
「嫌なことを聞くねえ、嬢ちゃん」
二人は会話を続けることなく食事に没頭し始めた。少しして、アメラが椅子から跳ねるように降り、部屋の隅で丸くなった。ロイドは眉を動かしたが、他には誰も彼女に注意を払わなかった。それはごく日常的なことだったからだ。やがて、食事を貪り尽くしたテオが口を開いた。
「なあ、ロイド。これからどうすんの?」
「その話をするつもりで来たんだけど、食事中にするものでもないかと思ってね」
「今話してよ。食べながらのほうが気が紛れるし」
リーンが匙を振りながらそう言い、ロイドは取り繕うことなく渋い顔をした。彼女はいたずらっぽい表情で匙を置き、両手を膝の上に固定した。軍師は呆れた顔をしながらジョーイ、アメラと視線を移し、彼らが了承の意を示すのを確かめた。それから小さく咳払いをした。
「話はそう複雑じゃない。セレスティアをこの国に譲ってほしいんだ」
「えーっと…つまり、どういうことだ?」
「僕は彼女をルーセチカの玉座に就かせたい。それが妥当だからね。だけど、当の本人はそれを良しとしてくれなくてね。で、朝から問答を繰り返して、君たちが納得するなら武器を置いても良い、と言わせるところまで何とか漕ぎつけたというわけなんだよ」
にこやかに説明するロイドの横で、セレスティアは辟易したように頭を振った。
「本当に、聞く耳を持たないの。何とかしてくれないかしら」
「それは僕の台詞だ。オスカーさえ僕についているっていうのに」
その場に姿の見えない男の名に、テオは素っ頓狂な声を上げた。
「え、あいつが?まだ寝てんのかと思ってたぜ。この大事な話をしてるってときに、一体どこほっつき歩いてんだよ?」
少なくとも、お前が言って良い台詞ではないがね。
「二度寝だよ。まったく、この癖さえなければね。とにもかくにも、君たちの意見を聞きたいんだ。彼女を王位に就けるか、敵に無謀な戦いを挑むか?」
「補足しておくけれど、私が何もせずに玉座に座っていたところで、向こうの動きが止まるわけじゃないでしょう。戦力が皆無に近いこの国で敵を迎え撃つほうが、無謀で犠牲も大きいはず。わざわざ国を巻き込む必要はないわ」
セレスティアはわざと嫌味な言葉を選んで言った。ある程度は元気を取り戻したようで何よりだ。
「何もせず座っているだけとは、また語弊のあることを―」
ロイドが小言のように言い出しそうになったところで、リーンが口を挟んだ。
「ちょっと待って。セーちゃんが女王様になったら戦えなくなるの?」
「今までやってきたようなことはできないと思ってほしい。何せ、国を背負う存在になるんだからね。軽率なことは僕がさせない」
「私、隠居の意味を取り違えていたのかしら」
「いいや。玉座の裏で隠居するってだけだよ」
セレスティアの皮肉に、ロイドは目配せをしながら答えた。彼女は鼻を鳴らして背もたれに身を預けた。すると、床から身体を起こしてアメラが言った。
「なあ、アメラは反対だ。セレスタは王様になっちゃ駄目だと思うぞ」
「それは何故?」
「エタは、長になったことを後悔してた。外では色んなことが起きてたけど、皆がいたから、エタには何もできなかったんだって。ほんとなら、もっとできることがあったのにって」
ロイドはアメラの言葉を吟味するように数秒押し黙ってから言った。
「確かに、一族の面倒を見るために領地から出て来なくなったことで、彼女が実力に見合わない影響力しか持たなくなってしまったのは事実だ。ただ、今回の場合とは訳が違うからね。セレスティアにはこの国の他に気にかけてやるべき場所があるわけでもないし、来たる戦に備えるためには自由も犠牲にしないと」
「…でも、アメラは駄目だと思う」
白狼の少女はふてくされたように伏せ、呟いた。ロイドはジョーイに目を移した。
「君は?」
「俺かい?いやあ…知っての通り、俺は新参者でな。お嬢さんの未来を左右する議論に参加する資格はないと思うんだが」
「そんなことはない。そういう君でこそ、客観的なものの見方ができるはずだよ」
ロイドは随分な熱意を込めて言った。彼はどうしても我が王女を王に据えたかったし、打てる手段のうち、それが最も合理的だと考えていたし、さらに言えば、他者によってそう見なされるのが至極当然だと思っていた。ジョーイは困ったように頭を掻いた。
「率直に言えば、俺はどっちにも賛同したいところなんだ。俺たちだけじゃどうしようもないのも事実、予想される犠牲に対して得られる戦力が見合わないのも事実、そうだろ?とにかく、俺はこれ以上意見しないことにするよ。あとでどっちかに恨まれても困るしな!ハッハー!」
「じゃ、あたしはロイドさんに味方しちゃおうっと」
リーンが言うと、セレスティアは目を上げずに首をゆっくりと振った。
「…信じられないわ」
「やだなあ、怒らないでよ。ね、あたし、セーちゃんにまで死んでほしくないんだ。少しでも足しになるなら、お城でどーんと構えたほうが良いに決まってるじゃん。それに何よりも、ルーセチカを王様がいないままにしておくわけにもいかないでしょ?」
その点には誰も異存はないようだった。欲しかった意見をもらい、ロイドは満足して頷いた。
「良い仲間を持ったみたいだね」
「黙って、ロイド様」
セレスティアにぴしゃりと言われると、ロイドは気を悪くした様子もなく、小さく笑った。それから、話を聞いているようには見えないテオに向き直る。
「それで、テオ?あとは君次第だけど」
「え、俺?ジルは?」
振り返る彼に、侍女は淡々と答えた。
「私はセレスティア様のお考えを尊重いたします」
「そりゃそうか。…いやあ、俺、こういう大事なやつの決定権とか握りたくねえんだけど」
テオはきまり悪そうに言った。今度はセレスティアが微笑む番だった。
「それで良いわよ。あなたたちを納得させることができなければ、ロイド様の提案はなかったことになるものね」
「ちょっと二人きりで話そうか、テオ」
「やべえかも」
笑い声を立てるのはどこか憚られたようだが、部屋に微かに和やかな空気が流れたのは確かだった。そのとき、セレスティアが静かに立ち上がった。
「私、そろそろ出ないと」
「どこへ?」
さっさと扉に向かう彼女に、ロイドが尋ねた。彼女は扉を開ける前に振り返った。
「カルツァよ。今夜は聖女祭でしょう」
「近くで戦があったってときに、んな暢気なことしねえだろ」
テオが苦笑して言うと、彼女は仕方ないと言いたげに肩をすくめた。
「それはその通りかもしれないけれど、お祭り気分の道化ならいるみたいだから」
「えー、またあいつ?ほんと、いい加減にしてほしいよね」
のけ反るように彼女のほうを見ながら、リーンが大声で言った。一人釈然としない様子のロイドが呟く。
「道化?」
「敵の一人よ。戦の最中、大図書館に火を点けるとわざわざ言いに来たの。神聖な日だと承知の上で、聖女を愚弄する気なんじゃないかしら」
「それは腹立たしい奴がいたものだな。止められるんだろうね?」
「努力はする、とだけ言っておこうかしら。宣言してきた以上、私に邪魔をされるのも計画のうちでしょうから」
ロイドは納得がいかないようだったが、特に何も言わなかった。猫のような伸びを終えたリーンが立ち上がる。
「あたしも行くよ。他にやることもないし」
「アメラも!」
そう言うが早いか、アメラはセレスティアの足元に立っていた。我が王女は関心なく頷いた。
「そう。別に構わないわ」
「なら俺も行くわ。ベッファの奴、俺たちにも気になること言ってきたからな」
そう言って、テオはだらしない姿勢で天井を仰いだ。リーンは片腕で椅子にもたれながら怪訝そうに尋ねた。
「何それ?いつ?」
「お前が寝込んでたとき。宝石がどうのって…何だっけ、ジル?」
「新しい世界の王にお飾りの宝石はいらない、だったかと」
ジリアンがばつの悪そうに見えたのは、主への報告をすっかり忘れていたからだろうか?テオは上機嫌に指を鳴らした。
「あー、それだ!意味はよくわかんねえけどな」
「でも、セレスタに伝えてほしそうだったぞ、あいつ」
アメラは真剣に言ったが、セレスティアは無気力に首を傾げるばかりだった。
「私にとっても、何か意味を成すとは思えないけれど」
「…いや、その宝石って、王家の瞳のことなんじゃない?」
と、ロイドが口を挟む。リーンは長年の謎が解けでもしたかのように目を輝かせた。
「あー!絶対そうだよ!すっごい綺麗だもんね!あ、だけど、そうなると…」
「敵が目論んでいるのは各王家の断絶、ということになるね。君に対する宣戦布告と取って良さそうだよ、セレスティア」
ロイドは暗い顔つきでセレスティアをじっと見つめた。道化師の言葉が、気味の悪い予言のような響きを持って彼らに降りかかっているようであった。
「そうだとしても、私には何の意味も成さないわ」
そう言いながらも、彼女の表情は硬くなったように見えた。彼女は何かを振り払おうとするように首を振った。テオが大袈裟な身振りで立ち上がった。
「やることは同じってか。ま、とりあえずカルツァに行ってみようぜ。ジョーイ、お前は?」
「ついていくさ。残っても仕方なさそうだしな」
セレスティアは二人をじっと見つめたかと思うと、ついと扉に向き直り、出て行き際に言い残した。
「遅れたら置いていくわ」
ジリアンが彼女に付き添って出て行った。残された一同は、ロイドを除き、慌ただしく動き始めた。皆がおざなりな挨拶と共に部屋を出ると、ロイドは物思いに耽り始めた。片付けのために戻って来たジリアンが声を掛けても、彼は微動だにしなかった。
カルツァには、日が沈み始める前に到着した。この町は国々の中央に位置するので、戦のあったルーセチカやゾルギック、また戦をけしかけたコスタトに挟まれる形にはなっているのだが、その影響を受けているとはとてもではないが言えなかった。
むしろ、聖女祭に対する熱気のほうが強く感じられた。そうすることで、彼らは明確に平和を謳おうとしているのかもしれない。聖女祭は年に一度、しかも聖女クレアがもたらした平和に感謝し、祝う日なのだから。
あっという間に祭りの空気に呑まれたテオとリーン、そしてアメラは、目的を忘れてしまったかのように出店に引き寄せられていってしまった。この日は、商店通りをはみ出して店が立ち並ぶのである。セレスティアは三人の目付け役をジリアンに任せてから、傍に残るジョーイに尋ねた。
「あなたも行ってきたら?」
「気にしないでくんな、お嬢さん。俺は聖女祭には慣れてるんだ。ここの生まれだからな」
ジョーイはどこか皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「あら、そうだったの。まあ、医者だものね」
「そういうこった。こういう町に生まれなきゃ、医者なんざ目指さないってな!」
彼は痛快に笑い、セレスティアの微笑を誘った。目を覆ったセレスティアが何の支えもなしに歩いているのが不自然だと気付いたジョーイは、彼の腕を取るように彼女に言い添えた。二人は大図書館に向けて歩みを進めた。やがて、彼女が口を切った。
「エイデンに会ったことは?」
「学長かい?あるぜ、一回だけだがな。ひよっこの研究を、よくああも真剣に聞いてくれるもんだって思ったよ。…あの人が、死んじまったとはな」
ジョーイは柄にもなく湿っぽい調子で言った。彼の腕を取るセレスティアの手に、わずかに力がこもった。彼女は俯き、小さな声で答えた。
「…そうね。惜しい人を亡くしたわ」
「きっと、お嬢さんはあの人をよく知っていたんだな」
「ええ。もう過去のことだけれど」
セレスティアは割り切ろうとしてか、静かにそう言い放った。ジョーイは遠くに見えてきた大図書館をじっと見据えて黙っていた。三つの店を通り過ぎたとき、ようやく彼は開口した。
「…なあ、お嬢さん。俺は人生の半分をここで過ごしたが、もう半分はコスタトで過ごしたんだ」
「そう。コスタトで…」
「ああ。あっちにゃあ、この辺りにはちっとも流通してない発明品がごろごろあってな。そのせいかもわからないが、妙な連中も多いんだ。俺はコスタトで、色んなものと、色んな人間に出会ってきた。長いこと気付かなかったが、俺は向こうで生活するうちに、すっかり人が変わったらしくてな。ひょっとしたら、こっちで暮らしてた頃のほうが幸せだったんじゃないか、なんて思うのさ」
話の意図が掴めず、セレスティアは当惑の色を露わにした。が、彼の言葉に並々ならぬ情感が込められていることに、彼女も気付かないわけにはいかなかった。
「…何か、後悔していることでもあるの?」
「さて、どうだろうねえ。悔いるだけ無駄だと思ってるのは確かだが」
「同じ過ちを繰り返さないためには、後悔も必要だわ」
彼女は毅然として言った。その点には彼女は自信があったのだろう。そうでなくては、彼女の人生が虚無に等しいと認めなくてはならないのだ。ジョーイは低い声で応酬した。
「だがそれは、滅茶苦茶になった過去への手向けにはならない。そうだろ?」
「だから、過去を振り返るな、なんて言葉が褒めそやされるのでしょうね」
「…案外気が合うじゃないか、お嬢さん」
「わからないものね」
出店が少なくなり、人の往来も先ほどまでに比べれば減ってきていた。また沈黙が走るのかと思われたが、ジョーイが何の前触れもなく言った。
「海の向こうには、何があると思う?」
「海じゃないかしら」
彼女は至って真剣なのだが、その返答に彼は思わず笑いを漏らした。
「そうかもなあ」
「どうしてそんなことを聞くの?」
セレスティアが尋ねると、ジョーイは突然足を止めた。彼女も立ち止まり、困惑したように彼のほうへ顔を向けた。流浪の医者は、彼女を見ることなく答えた。
「お前さんに、海の向こうまで逃げてほしいからさ」
「…話が見えないのだけれど」
「そのままの意味さ。なあ、お嬢さん。俺は、お前さんが戦う必要なんてないと思うんだ。玉座に就くか就かないか以前の問題だな」
「私が逃げて良い理由なんてどこにもないわ」
セレスティアは決まり文句のように言った。すると、ジョーイはようやく彼女のほうを見た。まるで、目隠しの奥の紫苑を探り出そうとしているかのように。
「あるとも。これ以上、お前さんが何かを失っていかなきゃいけない理由こそないんだ」
彼女はどこか愕然として、ジョーイから手を離した。
「何かを失ったのは私じゃない。ずっと…ずっと、他の誰かが犠牲になり続けているのよ」
それが失うということだと気付かないなんて、愚かな人だ。彼は彼女の肩にそっと手を置いた。そして教え諭そうとでもするかのような調子で言う。
「良いかい、お嬢さん。この世界は、お前さんが思ってるよりずっと危険なのさ。…毒に、塗れてるんだ。聞いただろ、奴らの狙いは導者の子孫の命だとな。逃げられるうちに逃げるべきじゃないかい?」
「それは根本的な解決にならないでしょう?馬鹿にしないで、ジョーイ。子どもじゃないのよ」
セレスティアはそう言って肩に置かれた手を払いのけた。
「わかってる、わかってるさ。だがな、お嬢さん―」
「何のつもりか知らないけれど、もう聞きたくないわ」
彼女は大図書館の方向へ歩き始めた。ジョーイはそれに付き従いながら、悲し気にため息をついた。
「…俺は、正しいと思えることをしたいのさ。久しぶりにな。まあ、良いんだ。―ここからは独り言だが…掃溜めを仕切ってる男の一人に、ブリーダーと名乗る奴がいてな。そいつが、俺がコスタトから持ち出したとある品を保管してくれてるんだ。ちょいと、俺に恩があってな。もしも海に出たくなったら、その男を探すと良いさ。俺の名前を出せば、それを引っ張り出してくれるはずだぜ」
セレスティアは彼の独り言にはもちろん答えなかった。二人はそのまま黙って歩みを進め、ようやく大図書館の前に到着した。辺りには人の姿はほとんどなかった。セレスティアは目隠しを外し、緋い瞳で壮大な建物を見上げた。
「…着いたわね」
「ああ。道化の姿は見えないが…」
聖女祭の日には、大図書館は閉館する決まりになっていた。そのせいか、祭りの雰囲気がまるでないこの場所に来た二人を、入り口に立つ守衛は怪しむように見ていた。ジョーイは何事もないように装ってセレスティアの腕を引き、道を曲がってすぐの路地裏に入っていった。
「どうするんだい、お嬢さん?中には入れそうにないが」
「向こうが行動を起こすのを待つしかないかもしれないわね。無理に侵入したところで、中にいるとも限らないのだし」
「じゃ、ここでじっとしてるとしよう。掃溜めの連中が湧いて出て来なけりゃ良いが…」
ジョーイはそうぼやきながら背後を振り返ろうとしたが、通りからの足音に気付いて動きを止めた。セレスティアも身を固くして、明らかにこちらに迫ってきている足音の主に意識を集中させた。そして眉根を寄せて低く呟いた。
「さっきの守衛…?」
「何だって?しかし、警備の任をほっぽって何をしてるってんだい?」
「知らないわよ。…嫌な予感がするわね」
セレスティアは通りのほうを向き、ゆっくりと一歩後退った。背中がジョーイに当たったが、彼が動く気配はなかった。やがて、守衛の男が二人の前に姿を現した。男はやけに帽子を目深に被っており、そのまま通り過ぎてはくれなかった。
「これはこれは。お楽しみの最中だったかな?」
男は言った。セレスティアは身じろぎもしなかったが、ジョーイははっと息を呑んだ。そして、聞こえるか聞こえないかくらいの声で言った。
「…殿下?」
守衛の恰好をした男は肩を揺すって笑うと、大仰な身振りで帽子を取り、辞儀をした。顔だけを上げて微笑むと、そこには柘榴の瞳が爛々と躍っていた。
「御名答だ、ジョセフ。声だけで気付くとは、さすが長いこと俺の傍にいただけあるじゃないか」
「その、瞳は…」
セレスティアは茫然と呟いた。コスタトの王たる証を持つその男は、素早く彼女の手を取り、そこに口づけした。
「御機嫌よう、ルーセチカ王女。俺の道化が世話になっているようだね」
「…つまり、本当にコスタトは彼らと手を結んでいるのね」
彼女は優しく掴まれた手を慎重に引き抜いた。男はようやく頭を上げ、自信に満ちた微笑みと共に彼女をまっすぐに見つめた。
「そんな醜い緋よりも、君の持つ美しい紫苑の瞳を見せてほしいものだよ。―申し遅れた。俺の名はサルヴァトーレ。コスタトの王位継承者だ」
柘榴の花は割と橙色らしい
2025.2.14




