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あなたを愛してる。だから逃がしてなんてあげない……。

「立花さんでよろしいでしょうか?」


「……はい、そうですけど……」



 警察からの電話はそんな風に始まった。


 まるでテレビドラマを見ているように、その電話は旦那の死を告げた。交差点でのトラック事後。相手はスマホを持ったままのわき見運転だという。



「落ち着いてきいていただきたい。実はあなたの旦那様が交通事故に巻き込まれて……」


「え?」



 わけもわからぬまま警察署を訪れ、冷たくなったあなたと対面した。確かに今朝、『行ってきます』とキスをしてくれたはずの彼はもういない。



「どうして……なんで? なんで私を置いていなくなっちゃうの!」



 泣き崩れる私を、女性の警察官が抱える。確認をと言われ、彼の荷物を受け取った。ロックのかかったスマホを彼の指紋で解除して持ち帰る。



 そしてあれよあれよという間に、通夜葬式は行われた。ただ一人残される二人の部屋。思い出だけが詰まったその部屋は、ただの寂しさとどこか息苦しさだけが広がっている。



「……辛いよぅ……なんで……なんで……一人でなんて……」



 私と彼の二人が写った写真が、色あせて見えた。




 彼との出会いは、大学時代の同じサークルだった。


 彼の周りにはいつも男女問わず仲間がたくさんいた。そんな彼に一目惚れをした私。大好きで大好きで、何度もアタックした上で付き合うことに成功した。


 そしてそのまま卒業後に結婚。誰もが羨むようなラブラブな家庭を築けてきた自負もある。結婚一年目。まだ子どもはいなかったが、週末には必ずデートもしていた。



「私にはあなたが全てだったのに……」



 そう。全て。どんな日もずっと側にいてくれて、いつでも声を聞いていたくて……。



「いやだ、いやだよぅ。……置いて行かないで。一人にしないでよ」



 今更一人の生活なんてもう私には、無理だ。アルバムをめくり、零れ落ちる涙を拭う。二人で撮った画像を流せば、大好きだったあなたの声が流れた。



「うぇーーーん。無理だよ。どうすれば……どうしたら……」


 不意に、警察署から引き揚げた彼の荷物に目が留まる。彼の財布。いろんなお店のポイントカードが入れられていた。


 その中に見たこともないお店の名前のものがあった。私はそのままスマホで検索をする。



「アニメのお店?」



 彼にそんな趣味があったのは初耳だった。


 家ではゲームやアニメを見ることなんてほどんどなかったのに。本を予約したレシートも、大切に折りたたまれてしまってあった。



「これが……大切だったの?」



 財布の中には私を思ういつもの彼は、どこにもいない。


 いつも買ってきてくれるお菓子屋のポイントカードとか、二人の写真とか。二人の思い出は彼の中には欠片もなかった。



「私はちゃんとあなたの写真入れてあるのに」



 これが男女間の違いかな。財布だもんね、仕方ない。きっとそういうのは恥ずかしくて入れなかったのかもしれないし。


 私は彼の財布をポイっと投げ捨てた。私にとってソレはもう必要のないものだった。



「あ! そうだ、スマホ! あれならきっと……」



 ちゃんと指紋解除したスマホは、いつでも使えるように充電してある。


 忙しさと彼のいなくなった虚無感から、確認するのを忘れてしまっていた。まずはスマホの着歴。そして電話帳。


 彼と付き合って結婚する際に、女友だちの連絡先は全部消してもらった。だって嫌だった。モテる彼を、私が見ていないうちに誰かに盗られてしまいそうだったから。


 彼のスマホを見ない約束と引き換えに、私が一番にお願いしたことだ。



「さすがに女の子はいないねー。でも、男の名前に変えてる場合もあるし……」



 信頼していないわけではない。ただ不安なだけ。履歴は特に気になることもなく、私はスマホの写真を眺める。そこには二人で写した数々の写真がちゃんと保存されていた。



「待ち受けとかには恥ずかしがって、絶対にしてくれなかったよなぁ~」



 こんなにラブラブだったのに、なにが恥ずかしいというのだろうか。私にはまったく理解できない感情だ。



「んんん? あれ、このフォルダーはなに?」



 私と写る写真とは別に、わざわざ無題で写真のフォルダーが作られている。


 クリックして開けば、そこにはたくさんの女の子のキャラ画像。



「あれ、この子さっきも見た」



 彼が予約した本のキャラだ。今流行りのラノベで、コミカライズ作品とネットには書かれていたっけ。



「なにこの子……」



 その愛らしく、可愛い女の子の画像が何枚も収納されていた。


 彼が生きてる時だったら、気にならなかったと思う。でも死んでしまった今だからこそ、なぜだかそれが余計に許せない。



「この本、どんな本なの?」



 彼のスマホからも、レシートと同じ本が電子版で購入されていた。


 ただの二次元。頭では理解している。でも私よりも、彼を独占するこの子。私にはなぜかそんな風にしか思えなかった。


 イライラする。悲しみよりも自分の中の感情が黒く染まっていくのが分かった。



「なによ! なんなのよ! 私の方がずっとずっと好きなのに。私が一番だったはずなのに」



 怒りにまかせて、その書籍を読む。


 よくある転生モノのお話で、#トラック事故__・__#に巻き込まれた主人公が異世界にて無双する。その後、この子を含む女の子とハーレム状態になるというもの。


 最近の流行りといえば、流行りなのだろう。そしてトラック事故に巻き込まれて亡くなった彼。



「ねぇあなた……もしかしてあなたは……」



 これも浮気ではないだろうか。彼女のいる異世界へ旅立ってしまったのかもしれない彼。私はずっと愛してる。いや、愛してたのに。


 こんな風に最後に裏切られるなんて。許せると思うの? 違う……許してもらえるとでも思っているの? かな。


 そう。ああ、そうね。私はやっと、今自分がすべきことを理解した気がした。



「私から逃げたくてそっちへ行ってしまったの? 私のコトそんなに好きじゃなかったの?」



 彼のスマホを持ったまま、私は立ち上がった。そしてそのまま、フラフラと部屋を出る。



「……そうね、よくあるトラックの事故……。でもね……私は絶対にあなたを手放したりなんかしない。異世界? そんなトコに逃げたって、絶対にあきらめないから……。誰にも渡さない。逃げるなんて、許さないから」



 逃げたのならば、追いかければいい。推し? そんなものは知らない。


 だって、私が一番あなたを愛している。あたなは永遠に私だけのモノ……。



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