恋文
美しい君へ
君は美しい。薄い産毛は朝日に照らされ、光の膜となる。その睫毛の上を時間が滑り落ちていく。水のような瞳は僕のための涙を流す。唇は僕の命を言祝ぐ。
背を向き合わせて一糸纏わぬ姿になるとき、僕はいつも夢想する。その胸の丸さや柔らかさ。そこは君の聖域。骨ばった、君お気に入りの鎖骨から垂れるそのふたつ。たったそれだけが光そのもののように思える。汗だくになったその背をシトラスの香りが滑るとき、君はいつもなかなか引かない汗に苛立つ。そんな君に笑って声を投げる。君はそれに応える。天井から床まで、透明な空気圧があるように思えた。心はきちんと近くにある、しかし交わりはできない。しかしいつしか、君の心も溶けだして、空気と混ざって、僕の心をやわく包む。その温さに絆された心はもう戻らない。
今朝だってそうだ。互いに触れ合うことを恐れていたはずが、君はいとも容易くそれを越えた。水で濡れた頭をタオルでかき回す君は楽しげで、その実愛しさに満ちた瞳で僕を見る。まるで子供に返ったみたいにその愛に身を委ねる。髪を整えてくれるときも、洗った顔に化粧水を馴染ませてくれるときも、満ち足りた愛の居心地のよさに沈む。生ぬるい温度。そのぬるま湯の中で僕たちは指を絡める。ひとつになれなかったはずの心すら、境目が見えなくなるまで絡み合う。きっと今、僕が望めば、僕たちはあるべきように身体を重ねるだろう。心は飢えて苦しくて君を求める。しかし理性はそれを許さない。
いつも無邪気に笑う君に曖昧な微笑みを返す。みずみずしい若さに触れて、僕は馬鹿になったのか。それは僕が手に入れていいものではないのに。今でさえ君との間に滑る会話や埋められない歳月に怯えて、嫌という程思い知らされるのに。君があんまり僕のためにしか生きないから、うぬぼれてしまう。君の心は僕のもので、君がこのかたちに生まれついたのは僕のためだと。青春とは比べ物にならないくらい永い時間を僕の人生に縛り付けたいと。それを口に出してみっともなく望めば、君は応えてくれるのだろうか。僕にはわからない。
ただこの思いは、恐らく、健全さを超えている。
僕はいつでも君に狂っている。
君の愛しい人より