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39/39

39:準決勝



 私も衣装チェンジをする。

 応援に映えるカラフルな法被風のはおり!

 日差しが肌を焼くからね。


 午後の太陽の光は、いちだんとサンサンと照りつけている。


 今日がいちばんの真夏日なくらい。ボアナちゃんに聞いてみたら、生まれてから今までで一番暑い日だって感じているって……つまり、ホヌ様がもっとも調子がいい?

 プライベートも周りからの信頼も最高潮だもんね。



 …………あ、警報!?


「あれは祝砲ですわ! 10年ぶりの祝砲! 昼の花火は、祝いの証。ホヌ様がお喜びになられて、波高く海が荒れ踊っております!」


 荒れ踊るーーーー!?


 そんな表現が夏にはあるんだ……。


 ふとみれば、外国人風の集団と、ダンドン王子たちは、頭を守るようにして地面に伏せていた。


 ……?

 ……あ、鉄砲の音と勘違いした……とか?


 私はSNSのニュースで聞いたことがあるけど、鉄砲沙汰が日常茶飯事な国では、破裂音がしたら地面に伏せるらしい……銃撃戦にまきこまれないように。クラッカーの音が鳴ったパーティで外国人が伏せていて、日本人が不思議そうにしていたんだっけ。


 夏の島も、そのような感じ。

 商店街の人たちが、びっくりしちゃったのかい? と不思議そうに声をかけているだけだった。


 ホヌ・マナマリエ島は今のところ平和で、この雰囲気が好き!


 銃声を気をつけなくちゃいけないような、そんな時代に変わってほしくないな。


 だから、ビーチバレー大会をきっちり運営しないとね……!


「コーラル姫。みなさんに声掛けをお願いします」


「きゃー! ホヌ様がご覧になっておりますわよー! 午後からも盛り上がってまいりましょう!」


 テンション高!


 そして露出度が上がっている!?


 ほとんどビキニスタイルに近い。

 効果音をつけるなら「ふわ〜ぉ」となるだろう。


「あら? そんなに暑い視線でご覧になって……あなたさまもこのスタイルが気になっておられるの? ふふ、衣装を貸しましょうか?」


「け、けっこうです。冬の魔力のおかげで熱中症にはならないから。薄手の長袖でも十分過ごせます。そのぅ、小声で言いますけど、お姫様にしてはかなり攻めてますね」


「合法ですのよ」


「ご、合法なんですか!?」


「そうですの。もともと暑ければ脱ぐのがホヌ・マナマリエ。けれどお父様ったら外国の方に配慮して、肌を隠すようにさせていました。年々布が多くなってきて、わたくしうんざりしていましたから。今年の祝砲をきっかけに脱いでしませば、よい前例になりますわ! わたくしが夏の基準点を守ってみせます!」


「守って……」


 コーラル姫はその軽やかな言動に、パフォーマンスとしての信念を示しているんだ。きっと、兄よりは過激かつ妹として許されるくらいの、起爆点になろうとしている。


 どっしりとした冬の国の背骨になろうとしているミシェーラとは正反対のやり方だな。


 小川に流される葉のように自分の将来に行きついた緑の姫ともやり方が違う。


 夏の小さな太陽は、地上で晴れやかに輝くのだ。


「みなさん準決勝の準備はよろしくてー?」


「質問を」


 ダンドン王子だ。


「二つのコートが用意されていますね。これまでは一つの試合をじっくりとみんなで鑑賞していたはずです。なぜ、準決勝からこのようなことにしたのですか? よろしければ教えてください」


「それについてはエルが答えます。私の発案ですから。まず、午前の部でけっこう長引いてしまったこと。時間の都合であるのがひとつ。

 そして準決勝前のみなさんの気合いが見て取れたので……全力を出したいのだけど決勝戦まで手の内を明かしたくない、というお気持ちもあるかなと。選手から隣のコートの様子が見えないようにこのしくみにしました」


「なるほど。タイムパフォーマンスは大切ですね」


 にっこり。

 ダンドン王子は(でも動体視力で隣のコートを見てしまう分には問題ありませんよね?)と目で訴えている。そりゃどーしようもないけど、そんなことできますかねえ。


 正直なところ、この4チームはどこも決勝戦への熱意が高い。技術力も高い。


 手の内を抑えたまま負けてしこりが残るよりも、準決勝時点で戦いきってほしいのだ。


 誰かは、負けるのだから。


 負けた人だって、スッキリするほどの試合がいい。


 ビーチバレーのボールを砂についてバウンドをさせるんじゃありません。

 ドォムドォムドォム!!って体育館でバスケをするくらいの音が出てるんですけど、どーやってんの!?


 長は「顔面セーフも狙え」ってバカ! 使える手段全部使って目的を達成する島裏しぐさよくないぞ! 抜け道を悪用するんじゃありません。ピピー(故意にしないよう注意しておきました)


 ジオネイド王子が手首を回転させながらビーチボールを投げるとおそろしくぐにょぐにょ曲がってるんですが。これくらいの情報開示は序の口、試合前にさらしても余裕、ってことか、あおるじゃん……。


「ねえ、選手のみんな、本当に大丈夫なの?」


「怪我とかしないのかね、ここ最近金勘定しか見てなかったが」


「ビーチバレーって危険なスポーツだったのか……?」


「誰かが怪我をせんだらええがのう」


「でもアツい。盛り上がってきた」


「わかる」


「ワクワク、ゾワゾワ」


「これが、夏の本能ってコト……!?」


 夏の民ーーーーー!!


 文明人が思い出しちゃいけないやつ覗いてますよ。


 フォローしていこう。フェンリル〜(相談)

 ……ふむふむ。

 ……よし。


「王様! コートの周りに空気のクッションを作りたいです。いいでしょうか」


「観客に当たらないためか。それならば、頼みたい」


「わかりました! コーラル姫、アナウンスを〜」


「はい。みなさーん! ごめんあそばせ、お耳を貸してね。今から選手がコートに入り、コートの周りは冷たい空気の壁で覆われますわ。ボールが観客席に飛ばないような措置ですの。ご理解してくださいまし。コーラルのお・ね・が・い」


「「「可愛い〜!!」」」


 アイドルだな。


 やりますねぇ。


(エル、いいアイデアだ。囲んでしまえば外部から選手やボールを操作もできないし、夏の暑さにまいっているようなダンドンも同じ条件で戦えるだろう)


(だね。ちなみにフェンリルはあちらを応援してるの? 国王様は死に物狂いで決勝戦に行くみたいだから、さすがにダンドン王子は負けると思うけどなあ……)


(ふふふ)


 フェンリルはふわりと微笑み(キレーだな〜)どこかへ消えた。パトロールに行ってくれたのだろう。




「どこが勝っても大盛り上がり間違いなし!


 長たちが勝ったら──島裏と島表の戦いになる!?


 ジオネイドお兄様が勝ったら──後続と前進の戦いになる!?


 みなさま、コーラルと一緒に、すべてのチームを応援してくださいましー!」


 おおおおおー!!!って、ここはアイドルのライブ会場か!?


 コーラル姫は、王宮の奥に引っ込んでいるのをやめて、これまでホヌ様がお一人で背負ってきた夏の民からの視線を自分も背負おうとしているみたい。

 彼女とホヌ様が重なってみえたのは、私だけじゃないはずだ。

 観客の視線は熱い。

 ──これだって、ひとつの敬愛のあらわれだよね。



「試合開始!! っ……」




 ビュンビュンビュンビュン!!


 飛び交うビーチボール!


 息もつかせぬ攻防!


 ボアナちゃんが唖然とした顔で私とコートを往復して見る!


 絶叫する夏の民!


 踊り始めて脱ぐ夏の民!


 さすがにそれはとなだめる常識人VS酒を持ち込む祭り人!


 アカーーーーン!


 この展開は想定外。

 売るな、酒を。


 って、「これだから田舎の島民は」って言ったの誰だコラ?


 さすがに見過ごせませ……「ピピーーーー!」


 やっと一点入って、私の知らせ、からの続行!!


「ナンデ試合の展開見える!?」ってボアナちゃん、それはねお姉ちゃんの目と耳がオオカミだからだよ。


 嫌味のヤジは聞こえなくなった。フェンリルが対処してくれたのかな?



 ビュンビュンビュンビュン、ドカッ!



 ビーチボールが砂浜に当たる音じゃないのよ、ピピーーー!


 打ち返している時の腕は大丈夫かと目を凝らすと、なんと、赤くなっていたところはみるみる治っている。夏の民は興奮していて血の巡りがギュンギュンと早くなっており、爆速で体の細胞が活性化して治るようだ。


 ダンドン王子たちはと言うと、そもそも耐久力の高い筋肉をまとっているし。


 伸びやかな細腕でボールを叩きつける夏の民たち。


 かわいた細い腕を魔力のみで膨らませて命を燃やしているような夏の国王。


 ──みんな、いっさい見逃すまいと声を張り応援を送る!


 ホヌ・マナマリエ! ホヌ・マナマリエ!


 ホヌ・マナマリエ! ホヌ・マナマリエ!


 ホヌ・マナマリエ! ホヌ・マナマリエ!




 ……だからこそ見逃していたのかもしれない。


 気づくのが遅れてしまった。




 夕暮れのサンセットの中、勝負が決まった。


 結果はーー




「勝者、長たちの島裏チーム。そして、ダンドン王子の帝国チーム! ……」




 そうじゃん、ダンドン王子が決勝戦に行く可能性だってあったはずなのに。ホヌ・マナマリエの熱気につられて、無意識に考えなくなっていた。


 それとどこか、彼は決勝戦くらい譲るんじゃないかと思っていたんだ。


 まさかの、決勝戦は島裏 VS 帝国チーム。

 そして、準決勝が国王 VS 王子チーム。


 ……。


 …………いや。


 ……譲ったのは、国王様の方かもしれない。


 先に決着がついたのは、ジオネイド王子と長たちのコートだった。

 ジオネイド王子は負けて、長たちが決勝戦に行くと決まったんだ。


 そのあとすぐ、隣のコートも決着がついた。

 王と息子、今代と次世代でケリをつけたい何かがあったのかも。


 不正な動きはなかった。

 正々堂々、試合に向き合っていた。この判定に文句がある人はいないだろう。何より、顔に滝のような脂汗をかいている国王様はもう限界が近い。やり直しをする余裕はないし、かといってお体のために……ととめる気にもならないような気迫を備えていた。

 みんな、息を呑んだ。


 まず、3位決定戦が始まる。





読んでくれてありがとうございました!


10月25日コミカライズはおやすみです。

11月〜をともにお待ち下さい〜!₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑

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