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35:第二試合はなごやかに

 

 ……試合順はくじで決めたはずだったけど、因果のようなものがあるのかもしれないな、と思う。


 第一試合は、港の水夫グループと、夜の守人族グループ。島裏出身のものたちが戦うことになったわけで、選抜されたのは原生林側だった。


 第二試合は、ジオネイド王子といとこなど裕福な友人たちと、商店街のおばさまたちという島表のチームたち。

 ここでも選抜される。


 もっと交差するかと思ったのに、できあがってみればやけに綺麗なくみあわせだ。私たちフェンリル族も見ている中で正確にくじが引かれたから、陰謀の入り込む隙もなかったのにね。


 ところで、チームの数は直前にやや増えた。


 国王様は「王宮チーム」で護衛たちとともに戦う。


 ジオネイド王子と組むわけではないらしいんだ。


 さらに、コーラル姫と友だちも、別のチームなわけ。


 手元の紙と睨めっこして考えてると「エル、眉間にシワが寄っている」とフェンリルにつつかれた。あ、恥ずかしい。


「どうしてこんな枠組みになったのかな〜って思ってさー」


「開催前、ジオネイドが私に話しに来たのだが」


「……いつぅ!?」


「エルが周りに声をかけに行っているときに」


「教えてくれたらよかったのに」


「まだ、彼に迷いがあったようだから、相談の段階でエルに話すことは避けようと思った。すまなかったね。実際に別チームで登場した今だから言うと、父と息子で、真正面からの喧嘩をしたそうだ」


「…………あのお二人が?」


「ああ」


「びっくり。そんなふうに動く方だとは思ってなかったから」


 ジオネイド王子を眺める。


 ビーチに到着した彼は、友人たちと作戦会議をしており、その様子は終始穏やかで声を荒げるところもなく。喧嘩をふっかけるような人にはみえない。

 まあ、公の場だからとりつくろっている可能性はあって、身内の父にだけは甘えたり反発したりするのかもしれない。私が知らないだけで。


 ただ、夏の魔力のゆらぎがゆるやかな人だからそのような性格なのだろうし、もし喧嘩したのだとすれば、相当頑張ったのだろうな。誰かに立ち向かうには、たくさんの勇気がいる。流されて自分が苦労する方がよっぽどラクなことが多い。


「エル。彼を眺める視線が優しくなっている。少し嫉妬する」


「ええ〜」


 と、空気が軽くなったところで。


「実は、私も彼に相談を受けていたんだよね」


「そうなのか? 聞いていないぞ」


「二人で話したって言いにくくてさ。向こうもあんまり言ってほしくなさそうだったし。今ならフェンリルに言ってもいいかと思って〜。ね?」

「あとで教えてくれたから、よしとする。でも危険にさらされそうになったらすぐ私を呼ぶこと。判断は?」

「してました」

「なら、冒険と成長を見守ろう」


 コートの片隅で準備をするジオネイド王子たちに目を向ける私たち──。


 海パン一丁だったところから、サンオイルを塗り、その上にラッシュガード系の上着を着ているところだ。


「"あれ"、見て?」


「エルのアイデアなのだろうな、と言う気がする。合っているか?」


「大正解。いい案はないか、って聞きに来られたんだよね。私の答えはご覧の通り受け入れられて、でも、発覚するまでは内緒にしておきたかったみたい」


「なるほど」


 フェンリルはこくりとした。


 私はニヤリとしながら、ラッシュガードに書かれている文字を読み上げる。


「新商品カキゴオリショップ、異国の煌めき宝石屋、薬ならデザイアにおまかせ、──……」


「店のアピールか?」


「そう! 広告を出すこと。これを話したんだ。……それにしてもダサいな……」


「……やはり、か?……」


「うん」


 私たちは思わず小声になった。


 ジオネイド王子はその高貴な顔立ちにふさわしくなく、服装はまるでピエロのようである。でかでかとした文字、ロゴのようなマーク、それらがぎっしりと描かれた服なのだ。


 商店街のおばさまにはバカウケしているね。


 思い返す──。


 彼は、相談にやってきたときに思い詰めたような表情をしていた。


 フェンリルが席を外した時にタイミングよくやってきたのは、待ち構えていたのだろうと、あのときの私は警戒していた。

 あらゆる装飾品を外してシンプルな格好をしていたから、一般人の格好をして何を仕掛けにきたのかとも思った。


 でも、両手を挙げて敵意のなさをアピールするさまは、情けなくて、カイル王子のようになりふり構わない動きだったし。


 彼の横にいる聖獣が、彼自身には見えていなくても「助けてやって」というくらいには、誰かがこの人を大事にしたくなるような方らしかった。


 だから話した。


「そうなのですね。お父様の近くにおられる人たちが、ビーチバレーを悪用しないかと心配なのですか。 なぜそれほど……? いえ……新たな企画のたびそのような心配をしなければいけないような、経緯があったのでしょう。短期滞在の冬の民である私よりも、あなたは夏の王宮に詳しい。わかりました。”ひとりごとを言います”。


 たくらみがある人は、表舞台で積極的にウソをつく人と、裏で隠れて参謀をする人が多くいるようです。

 ビーチバレーに宣伝・広告を出すように尋ねてみれば、どの方が表舞台を好み、どの方が裏を好むのかわかるでしょうね。


 そして──逆にしてしまえば、動揺してボロを出すかも。

 そのような現場に遭遇すれば、冬の訪問団が動きやすくはなりますね」



 言いながら、そこまで踏み込んでいいのだろうか、言いすぎたか、と不安にもなった。

 私一人でいるから、フェンリルのストップもなく喋りすぎてしまったかもしれないって。


 ジオネイド王子は思慮深い。


 なんというか、各秘境の姫君はその魔力量の多さから天真爛漫か自由奔放になりやすいらしいので、ともにいる王子たちはしっかりものになりやすいのかも?


 そして、彼自身の言葉で交渉を返してきた。

 慎重だけど、大胆なものを。


「これもまたひとりごとなのですが。宣伝・広告となれば、ビーチバレー開催のための資金集めという建前をつくれます。そして、宣伝はすべての方にうかがっているものであくまで抽選である──と言いましょう。

 どのように”してほしいか”を金とともに毎度告げることが、王宮では常態化しています。いつもと同じようなシチュエーションにさらされれば、口を滑らせる。表向き・裏向きの好みが図れます。そしてくるっと逆にしましょう」


 ジオネイド王子は口調も顔つきもカラッとしていた。


 もっと不安そうにするのかと思いきや、夏の気候がそうさせるのか、覚悟さえ決めたならば後に引き摺らないようだ。


 むしろ、やるべき手順が決められたことはすがすがしそう。


「取り乱すことを誘えたら、どんなに面白い姿が見られるでしょうか。コーラルも自分も湿度が高い王宮に飽きているのです。子どものたくらみで風を通すことくらい、偉大なる国王は受け入れてくださるでしょう」


 だってさ。


 …………。

 ……。


 遠ざかっていた意識が、現在に戻ってきた。


 あれ? このあとに、喧嘩したのかもね?


 ありえるな??


 とか考えていると、試合が始まる。


 バカウケしていたおばさま方と、お上品な若者たちの和やかな試合になりそうだ。

 始まりの挨拶も笑顔で交わされた。

 前の試合がバチバチのバトルだったから、ほっとするよ。


「そおーれ、いっくよー」


「はい!」


 パスが繋がってゆく。

 おそらく、これが本来のビーチバレーの空気感なのだろう。砂と戯れ、夏風と遊ぶような。


 ビュンとボールを飛ばしていくけど、ジオネイド王子率いる若者男子チームは、先ほどの水夫のみなさんほどのパワーはない。


 おばさまたちは、彼らの服の広告に気を取られているようだった。

 珍しい店の名前が並んでいるもんね。

 普段は王宮しか取引がないような、外交商売なのかも?


 秘密裏の商売が、このような宣伝にさらされ、ジオネイド王子たちを通したならば商店街とも取引が生まれそうな予感もある。

 ははあ、けっこう無茶をしたのだろうなあ。

 私のひとりごと、そこまでは考え至ってなかったのにな……少々のアイデアはあるとはいえ、三年しか仕事をしてこなかったOLだ。


 どっぷりと商業の世界に浸かりながら生活をしてきたジオネイド王子や、個人事業主のように自ら働いていたカイル王子ほどには、視野が広くないはずだ。


 でも、彼らにアイデアを言えば、持ち前のスキルにのせて活用をしてくれる。


 もちろん、言う相手は選ばなくちゃいけないけど……(ダンドン皇子のような複雑な人を信用するのは難しい)信念や、自国民を大切にするような人にならば、私の知っていることを少し託していきたい。


 それでみなさんの生活が快適になるならば、いいな。


 おばさまたちは先手一点を取られてしまい、集中しきれていなかったことを反省したようだ。


 夏の魔力が高まってきている!


 ゴクリ、と生唾をのんだ若者男子チーム。


 私たち観客たちも、この熱さに引き込まれる!


「お兄様ー! 頑張ってくださいましー!」


 コーラル姫だ。彼女は仲良しの女の子たちときゃーきゃーと応援をしている。


 想像をしてみよう。


 宣伝広告の件で、ジオネイド王子と国王様は喧嘩をした。


 そして服がダサいことで、コーラル姫は離脱をした。


 なのではないだろうか……?


 年頃の女の子にとって、ダサいかイケてるかは重要だからなー。


「かーちゃん、いけいけー!」


 こちらは旦那衆の応援。


 ちらほらといる感じだ。そしてたまに、別の旦那さんと入れ替わる。商店街の店をきりもりしつつ、たまに見にくるようなスケジュールらしい。


 最近の治安悪化により、たとえこのようなお祭りであっても、店を見張らなくてはならないという、緊迫した時間の使い方になってしまったのは悲しいことだな。以前のことを聞かせてもらったところ、もっとゆったりと平和を信じながら商売ができる環境だったようだから。


 私たちがいる間じゃなくてもいい。

 "これからの"夏島ホヌ・マナマリエが、過ごしやすく夏の魔力に恵まれた島にまた戻っていきますように。


「揚げパン イル?」


「ボアナちゃん」


「甘いモノ 良いモノ 元気デル」


「ありがとう」


 ニコッと彼女は笑ってくれた。


 そういえば、ボアナちゃんは明るくなった。様々な仕事を手伝ってくれたことで、自分に自信がついて、また島裏だけではない広い土地を歩きやすくなったことが彼女を変えたのだと思う。


 すると、治安の悪化はこれまでの伝統を崩したけど、子供を解放したところもあるのか。


 ポーン、とボールが、行ったり、来たり。


 あんなふうに……。


 人が暮らすところって、平和なところと停滞を、そして崩れるところと新しさを、交互に動くのかもしれない。


 笛が鳴る。


 勝ったのは、ジオネイド王子たち!


 今のところ、不正や不穏な動きはなし。








読んでくれてありがとうございました!


コミカライズの予定は伸びまして、

7/25 目標です!(。>ㅅ<。)

ともにお待ちいただけますよう。


また来月お会いしましょう₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑



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