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3:王族の庭園

 



 リゾートのような宮殿庭園に招いてもらった。


 南国特有のヤシのような木々や濃い緑の低木とともに、たくさんのトコ向日葵ヒマワリが咲いている。

 そして意外に思ったのは、とても広いプールがあること。近くに海もあるのにどうしてなのかなって思っていると、すぐにその理由がわかった。私たちが立っているところよりももうしばらく遠くの方で、とあるプールの水を使って空中海路を作った夏の民の方が、サーフィンのようにボードに乗りながら街に降りていく──。そのためにあるんだね。


 そしてホヌ様が水浴びをするために、でもあるのかな。


 私たちを魔法マンタで連れてきてくれたホヌ様は、きまぐれに走り去ると、バシャーンと水しぶきを上げてプールに飛び込んだ。

 からりと乾いた肌は海水でよく潤ったのか、気持ち良さそうだ。

 彼女は”夏亀”様という名称のとおりの姿を持つんだろうけど、ウミガメ型なのかもしれない。とても大きなウミガメの姿を想像してみる。神秘的だなあ。


「エル! 入ろ?」


 ホヌ様が両手をぶんぶん振ってそう呼ぶので、私は困っちゃった。


 だって、私たちが来るだろうと待ってくれていたホヌ・マナマリエ島の王様が、すぐ前にいるんだもん。南国の装飾品できらきらとおめかししていて、そこまでして駆けつけてくれたのにほったらかしにしてしまったら、申し訳ないじゃない?

 けれどホヌ様をほったらかしにするのも失礼なのかな……。

 この国における大精霊様の扱いってどんな感じなんだろう?


 これまでのカイル王子は、しょうがないなあって見守りながら手厚くサポートしている感じだった。王様のまなざしも同じ。ホヌ様をたしなめたりしないようだ。


 じゃあ、おそらく王族よりもホヌ様は重要視されているはず。


 それでは"私たちが大切にするべき"なのはどっちかな?


 と、ここまでは元社畜の精神ですぐに疑問をまとめ上げることができた。ここからの現場の空気というのは、私よりも詳しい人が他にいる。


 ちらり、とまなざしを送ったのはジェニ・メロ王子たちへ。


「「こんにちは!」」

「「ハッピーサマー・サンシャイン♪ とご挨拶させてもらったらよろしいでしょうか」」


 にっこりと微笑み、淡い金色の双子王子が南国の王様に問う姿は、おとぎ話みたいだ。アンバランスな風景にはメルヘンさを感じることができる。この次に何が起こるのだろうかとワクワクしながらページをめくりたくなる童話の導入みたいだね。


「ほほほ。ハッピーサマー……はホヌ様がとくに気に入っている言葉なので、こちら側で独占させて頂いてもよろしいですかの?」


「「わかりましたー!」」


 あ、なんかちょっとわかった。

 ホヌ様が無邪気に私を呼んだから、まだ幼いジェニメロも無邪気に話しかけたようにしたんだろうな。ええと、だから、双方の会話がかみ合っていなくてもまあお互い様だよね、っていう空気感を作り上げた。


 そしてホヌ様に視線を戻せば、私のことを見ていた輝く瞳は何処へやら、プールに深く潜ってイルカジャンプを披露したりと、気ままに動いている。

 あんまり構えなくてもよかった……みたいだ。ふうー。

 王様の眼差しからも労わるようなニュアンスが伝わってくる。私が今回、すぐに返事をしなかったのが正解であるのだと、諭されているような気分になった。


 私は小さな頷きを、彼に返した。


 けれどやっぱりホヌ様のことをこれきりスルーすることも出来なくて、ずっと意識の隅で気になっている。

 私を名指しして声をかけてくれたから。

 自分の胸に手を当てて、自分の考えを探ってみる……。私は……たとえホヌ様の気まぐれだったのだとしても、夏島のみなさんにとってはいつもの彼女の気まぐれだったのだとしても、私がそれだけで納得するには、圧倒的に経験が足りてなくって。


 だから、またホヌ様に向き合おう。

 すぐには返事をできなかったことを謝りたいな。あとできちんと声をかけよう。


 よぅし、と思った気合いのため、私の尻尾はゆらりとゆれた。

 その尻尾に何か触れた?と思ったら、隣に立っていたフェンリルの尻尾がくすぐってる。

(何か思いついたならやってみなさい)って励ますように、尻尾のさきっぽで撫でられた。

 ふふふ、頑張ってみます。


「はるか北国からお越しの皆様。ハネムーンにいらしたフェンリル族のお二方」


 王様が私たちに向けて、礼をしてくれる。

 ここまでの歓迎をいただくのはありがたいことだなぁ。

 大勢に頭を下げていただくのは、フェルスノゥ王国からの敬いとか春のラオメイでの挨拶とかでさすがに私も慣れてきたから、堂々と胸を張ったまま受け止めさせてもらう。

 返事としてこちらからは頭を下げずに、ニコリとして真心を伝えた。


 …………ちょっと心を込めすぎたかも?


 国王様の周りに、小さな雪が花のような形で出現する。


 おおお……とあちらからの声が漏れる。その声にはちょっと恐れも含まれていた。しまった……。


 あまり雪を見慣れていないからこそ、この雪をフェンリル族が発生させたのが好意なのかマイナス感情なのか、測りかねているような雰囲気がある。困っているようだし、恐れているようでもあった。


 ここですかさずジェニメロが助けてくれた。


「おおーっ! これは羨ましい! フェンリル様の喜びのお気持ちです」

「お二人は本当に仲睦まじいつがいなのです。だから嬉しく思ったのでしょう」


 ねー? と二人が覗き込んでくるような演出。

 私はこくこくと頷いておく。


 ジェニースだけはフェルスノゥ語、というのもコツだった。

 フェンリルもおおよそを理解して、私のように頷くと「ニコリ」とした。


 夏空を背景にふわふわと雪の華が舞っているのは幻想的だ。


 ほっ、とした様子の夏の民のみなさん。

 おそるおそる雪に触れてみると、しゅわりと溶けるので、面白がってくれているみたい。


「素晴らしいです。この美しい"ふうわり"としたものを、大切にとっておけたらよかったのですが」

「夏には、雪や氷が溶けちゃうので難しいことですよね」


 ……ここでフェンリルが、ちょいちょいと私の肩をつつくのは、夏の民の様子から察して(永久氷結しても構わないが?)という意思表示だと思うんだけど、もしもそれを叶えてプレゼントしてしまったら、あの商業気質の王族のことだから、見世物としての価値を見出してしまうかもしれない……。

 心配のしすぎかもしれないけど。

 価値があるものがポンと生まれて、取り合いの争いが起こっても怖い。この島の、取引に寛容な空気はそれを発生させやすい気がするから。

 仲良くなるために夏の島に来たのに、フェンリル族が来たせいで争いが生まれたって思われてしまったら、それは残念すぎるから。


 知らんぷりさせてもらいます。ごめんなさい!


 私は笑顔を作る。


「これらは溶けてしまうけど、もっと体感してもらうことはできます。あとでかき氷をご馳走しますね。さっきのような淡い雪を積もらせて、甘いシロップをかけて食べるデザートです。暑い日に食べたらひんやりとして美味しいはずです」


「それは楽しみです!」


 王様はゆったりと笑ってくれた。


「ぜひゆっくりとお過ごし下さい。この島は商業が盛んで騒がしくもあり、けれど少し商店街から離れると、ゆうゆうと余裕のある時間の流れるところです。どちらも好きなだけ、冬の大精霊様に味わっていただきたく思っています」


 それっていいなあ。


 観光も、休憩も、どちらもできちゃうんだね。

 まさにリゾート地って感じがする。


 そろそろ解散って雰囲気がただよう。

 私がそう感じただけだけど、空気を読んだり顔色を見ることには少々自信があるから、はずれていないんじゃないかな。


 王様はカイル王子と似た雰囲気があるので、商業にも関心を割く人として、”キリをつける”ことが得意なのかもしれない。


 これだけは、と聞いておく。


「私たちはハネムーンのために来ましたが、みなさんが困っていることがあれば手助けしたいとも考えています。何か手伝えることはありますか?」


 春のラオメイがあれだけの問題を抱えていたんだ。

 夏のホヌ・マナマリエが全くの問題なしだというのは楽観的だと思うから。


 もちろん問題は基本的に現地の人たちで解決するものだろうけど、フェンリルでなければ解決できないようなものを抱えていないか?


 それを手助けすることは、いずれまた巡り来る冬を守ることにも繋がるから。

 私たちはすべてが隣人であるはずだ。


 王様はつるりとしたスキンヘッドを撫でた。

 ちなみに夏の民は、短髪以上の男子と長い髪の女の子が多い。


「問題はありませぬ。この島の民たちは、自助勉強をするものですので。ありがたいお申し出、嬉しく思っておりますぞ」


 ──……んー。


 この調子なら、安心できそうかな?

 少なくとも隠し事をしている雰囲気はない。


 自助勉強……か。えらいなあ。

 この国の人たちには、おっとりした雰囲気を持ちながらも受け答えのひとつひとつに論理的な知性を感じる。感覚派というよりも、くりかえし思考錯誤して身についた持論を自然に口にしているようにみえる。


 だから、よっぽど困っていたら、私たちにもきちんと伝えてくれるだろうなと思った。


 それまでは普通にハネムーンを楽しんでも良さそう、かな?


 ふうーーー、と私はようやく肩の力を抜いた。



「話、終わったネ? 行こ行こー♪」

「うわっぷ」


 ホヌ様が海水をまとったまま、私にへばりついてくる。

 いつのまに後ろにー!?


 そのまま足のつま先が浮かび上がる。

 やばいこれは……さっきの魔法マンタの空中海遊みたいに連れていかれる流れ?


「フェンリル、これ持っててくれる?」


 私はフェンリルに麦わら帽子を渡す。


 大丈夫か? という視線がきたから、チャレンジしてみようと思う~ってこくこく頷いた。

 フェンリルは苦笑しつつも私の手を離してくれた。


 ああ、そんな姿もかっこいい……。

 だからねー……もしも私がホヌ様の相手を遠慮したら、フェンリルの方をお誘いしちゃうのかもな?それを見たくないな?……ってところも、ちょびっとあるんだ。みみっちくて心が狭くて、あんまり知られたくない嫉妬の気持ちなんだけどね。獣耳の付け根がさわさわする。


 まあそれはさておき、ホヌ様とちゃんと話して仲良くなりたいのも本当の気持ち!

 輝くような彼女のブルーの瞳が、さっき私が答えなかったことで曇ってしまっていなくて、よかったな。


 2回目の彼女のお誘いには、きちんと私の言葉でお返事をしよう。


「いいですよ。行きましょう。安全走行でお願いしますっ」

「嬉しいナーー!」


 ざばーん!! 私は彼女と一緒に空の海路を飛んだ。


 ねえ安全性どこいったーーーーーーー……!?





読んでくれてありがとうございました!


コミカライズについて続報なのですが、実はコミカライズ作家様の体調がよくないそうで、少しおやすみ多めになります(>人<;)


お楽しみにして下さっている皆様は、どうか私と一緒に(私もコミックのファンですので)、ゆるりと更新を待ってもらえたらと思います。


毎月25日付近にはWEB小説を更新してお知らせをしますね!

引き続き四季フェンリルにつきあってくださると嬉しいです₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑



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