Side M : 作戦会議
金曜日の夜、海華は目が冴えて仕方なかった。
理由は、
「先輩とデートっ、先輩とデートっ……むへへへ」
この通りである。
「先輩、チョロかったな~」
ベッドの上で枕を抱き、仰向けになって呟いた。
今の発言から分かる通り──あの会話は誘導尋問である。
彼女の狙いは最初からデートであり、引っ越し云々はそのための口実。
そんなことを知る由もない憐れな先輩は、彼女の想定通り「自分の足で確かめる」という趣旨の発言をしてしまった。
「先輩、私のために、あんな真剣な顔で……むへへへ」
相談した際に見た先輩の顔を思い出し、変な声で笑う。
海華は嬉しかった。実は彼女、雑な対応をされる可能性も考えていた。それが杞憂に終わったことで、不安だった分が全て喜びに変わっている。
「そろそろ明日のことを考えなくちゃ」
身体を起こし、クローゼットの前に立つ。
「……どれ着ようかな」
彼女は思う。動きやすい服が良い。
あちこち歩き回る予定だから、ガチガチにオシャレした冬着では、開始早々に後悔することが目に見えている。しかし地味な恰好も嫌だ。せっかくの私服だから、可愛く思われたい。
「……」
海華は目を閉じて考える。
やがてクローゼットから一歩下がり、スマホで写真を撮った。その写真をレインで友人に送り、メッセージを添える。
みけ『明日先輩とおさんぽデートするんだけど、どの服がいいかな?』
直ぐに既読が付いて、何やら驚いた様子のスタンプが返ってきた。
それから数秒後、友人からの返事が届く。
sakura『ごめん、私の勘違いだった』
みけ『どういうこと?』
sakura『おさんぽを平仮名で送るみけにゃんが悪い』
相変わらず変な子だなあ。
海華は方々から「お前が言うな」と突っ込まれそうな感想を抱きつつ、スマホを両手で持ち、次のメッセージを入力した。
みけ『動きやすくて可愛い服が良いんだけど、どうかな?』
sakura『この写真で判断するの無理くない?』
みけ『確かに。ちょっと待って』
sakura『よかろう』
海華は考えた。
クローゼット内の服を左から順に見て、直観的に有り無しを判断する。最後に有りと判断した服だけを平らな場所に置き、順番に写真を撮って送る。
……うん、この方法が一番だよね。
海華は直ぐに実行した。
そして数分後、友人にメッセージを送る。
みけ『どうしよう。可愛い服が無い』
sakura『だろうね。みけにゃんの可愛い服とか見たことないし笑』
海華は怒り狂うクマのスタンプを送った。
sakura『待ち合わせ、いつ?』
みけ『明日の、十時、、、』
sakura『もうスーツで良くね?』
みけ『デートでスーツはちょっと、、、』
sakura『そもそもなんだけどさ、例の先輩と付き合えたの?』
みけ『・・・共通認識が、あるとは、言い難いかもしれない』
友人の「sakura」は海華を嘲笑うようなスタンプを送った。海華は即座に怒り狂うクマのスタンプを返す。
sakura『そんな感じだと、先輩くんもスーツかオフィスカジュアルで来るかもよ』
みけ『ありそう』
sakura『すると、できることがある』
みけ『そっか分かった! 天才! ありがと! おやすみ!』
sakura『まだ言ってないんだよなあ』
sakuraの返信を見ることなく、海華はスマホを手放した。それから素早く布団に入り、満面の笑みを浮かべて目を閉じる。そして、とても嬉しそうな表情で言った。
「明日、楽しみだな」
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