Side M : 反省会
狭い個室に水の音が反響する。
ここは浴室。帰宅した海華は、湯船で一人、反省会をしていた。
「……ちょっとだけ失敗しちゃったかも」
全体を振り返った後、彼女は総評を「ちょっとだけ失敗」と結論付けた。
「……自分の意見を押し付けてばっかりだと嫌われちゃうよね」
彼女は自分の行いを客観的に評価できないわけではない。しかし常に最善を選ぶことはできない。簡単に言えば、まだまだ年齢相応なのである。
「……はぁ、結局先輩告ってくれなかったし。最悪だよ。もう」
彼女は日々、己の行動や言動を振り返っている。
素晴らしい心掛けだ。ただ残念なのは、前提条件を間違えることが多い点である。
「でもでもっ、アピールならできたよね!」
彼女は回想する。
『私が先輩の健康を願う理由、言わないと分からないですか?』
「こんなのもう告白だよ!」
違う。
「あれはどうだったかな?」
彼女は回想する。
『悔しかったら先輩も稼いでくださいね』
「もちろん私も稼ぐけど、先輩もやる気出してくれたら嬉しいな」
このように、彼女はまだ交際もしていないのに結婚生活を想像している。
「まあ失敗は多かったけど、最後はちょっと良い感じだったよね?」
彼女は回想する。
『分かった。今後は飲み会とかも、水で済ませる』
『……口だけなら何とでも言えます』
『なら、見ててください』
『……分かりました。見てます。……ずっと』
「こんなのもう少女漫画だよ! きゃ~!」
湯船に顔を付け、わーわー叫ぶ。
あの会話の後に彼女は機嫌を直した。彼はそれを「気を遣わせないための大人の反応」と解釈したが、間違っている。
単純に、嬉しかった。
つまりは普通に機嫌を直したのである。
やがて顔を上げた彼女の頬は、のぼせたように赤くなっていた。
「もしかして、ちょっと失敗じゃなくて大成功だったかも?」
彼女は評価を大幅に上方修正した。
「……はぁ、早く先輩の特別になりたい」
ひとしきり騒いだ後、彼女は口を閉じる。
「……やばい、ドキドキしてきた」
しかし無言の時間は一分と続かない。
「……ああもう、何この気持ち。こんなにも幸せなら、もっと早く恋をすれば良かった。でもそれじゃ先輩と逢えなかったよね。ならこれは運命だ。うん、絶対にそう……ふふふふふ、ふふ、もー!」
今度は湯船に潜り、絶叫した。
ブクブクと気泡が音を鳴らした後、彼女は一気に立ち上がる。
「よしっ、次の作戦を考えよう!」
今宵も彼女は盛り上がる。
実のところ、その想いは空回っていた。
彼女が恋心を自覚したのは、ちょうど一年くらい前のこと。それからずっとアピールを続けているのに、二人の関係は全く変化していない。
しかし数時間前、微かな変化があった。
彼女はもちろん、彼自身も自覚していないような小さな変化が、起きていた。
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