甘やかしてくる職場の後輩君
私はずっしりと重たい体を引きずって、自分の部屋に向かってマンションの廊下を進む。
それで今朝も出てきたドアをだるい腕で鍵を開けて開ける。
「おう。おかえりなさい先輩」
それで迎えてくれたのはワイシャツにエプロンを重ねた青年だ。
「お疲れさんっす。メシも風呂も用意できてるんで、どっちからにします?」
もうとにかく一回さっぱりしたいからまずお風呂。
「あーそっちは相変わらずキツかったみたいでしたからね。じゃあゆっくりひとっ風呂どうぞ」
予想通りって感じで、はいこっちーって送られるのがありがたくはあるけど、なんか他人事っぽくない?
そりゃあさあ、異動してしばらくたつけどさあ。それでも古巣で、その時に面倒見た先輩が、チームのフォローで残業までしてるってのにさあ。
「あいあーい。じゃあブローしますからねー。そしたら晩酌してごはん食べましょうねー」
そんな風にイライラしながらのお風呂だったけれど、上がってきたら待ってましたって感じで髪を整えてくれるからさあ!
「ちょちょちょ。先輩やりにくいやりにくい。オレをタオルがわりなんかにしたら髪が痛むから……」
なんかもう疲れたやらなんやらで、後ろに回ってくれてる彼に八つ当たり気味に寄りかかってく。あーあー、きーこーえーなーい!
「しょうがないっすねぇ」
それでもいいよーって受け止めてくれちゃうからさあ!
あーもう。年下の癖にさあ、あんなに不器用な新人だったのにさあ。どうやってそんな安心感身に付けたんだかさ!
「そりゃ酔い潰れてグチる先輩を介抱してたらこれくらいは」
ぐぬっ!? 痛いところを……そりゃあ飲めない彼を付き合わせては後始末してもらっちゃってたことは何度か……うん何度かはあったけれども。
「まあ世話するポイントは違いましたけど、弟妹の面倒見るのも苦じゃなかったんで、そういう慣れもあるかもですけど」
妹扱いしてるっての? 私先輩ぞ?
「下に見てるつもりはないですって。先輩が寄りかかってきてくれるのは、頼られてるんだなって思えて嬉しいんで。おまけの役得付きっすからね」
ううー……ここまで真正面から受け止められると、悔しいけども甘えたくなってしまう!
思えば私も昔から回りの面倒を見るばかりで、甘えたりとかそんな覚えがない。
だから彼のようにおいでって感じで寄りかからせてくれる人が新鮮で……。
でもそう言えば仕事にこなれてきた頃から、彼は色んな用事を任されたりしてたような?
「……誰でもお世話してるんじゃないかって? そりゃあ仕事してたら見過ごせないトコはありますけども、私生活まで手出し口出ししてるのは先輩だけですよ」
彼はそう言うが心配だ。信用してない訳じゃないけど、この居心地の良さに気付いてすり寄ってくるのが出ないとも限らない。だからマーキングしなくては!
「先輩がその気なら俺だって……っと、まずは先に食べてからにしましょうよ」