97話 幻獣種 空の王者 襲来
エリュシオンとポムのことをみんなに紹介して、ポムが撒き散らしたプリンを綺麗にして、せっかくだから精霊化した剣を使ってみようとみんなで外に出た。
そろそろ夏が終わるからか珍しく華憐も着いてきた。
外に出ると、ハルと折り鶴のお初がいつもみたいにいがみ合ってて、そのまわりをピィナがくるくるしてた。
ハルとお初はキャラが被るからかなにかとよく勝負をしていることが多い。
そして、その二人が僕達が来たことに気づいてこっちを見た。
僕と手を繋いでるエリュシオンと僕の腕にしがみついてるポムを見て、
「レン! その二人は誰ー?!」
「レン様! その御二方は誰ですか?!」
そう、エリュシオンとポムは見た目中学生、ハルとお初とまるっきりキャラ被りだ。
もっというと、ピィナも人型は見た目中学生だし、ポムの監視とうい名で珍しく着いてきてるルンも見た目中学生。
今ここに、我が家に住む見た目中学生少女たちが集ったことになる。
「………エリュは蓮の剣、だからいつでも振れるように手は繋いでおくもの」
「ポムはご主人様に作ってもらったプリ!」
「むぅー! その位置は私の場所なのぉーー!!」
「なんで後から来たあなた達がレン様の腕をとっているのですか!!」
「レンお兄ちゃん! この子からプリンの匂いするよ?」
「ふん、レンは汚物スラ」
睨み合い取っ組み合いを、始める四人とポムをみてヨダレを垂らしてるピィナに不満そうにそれを見て僕を貶してくるルン。
キャラ被りとは言ってもそれぞれ個人はまったく被ってないからいいと思うんだけどなぁー。
そんなことを思ってると、
「蓮くん、あの畑はなに??」
あ、しまった……バレた……
いや! まてまて、まだなにを植えたかはバレてないはず、ならなんとかなる!
「えーとね、果物を植えたんだよ!」
嘘は言ってない!! ワイン用だけどぶどうだもん!
華憐が冷たい目線を送ってくる。
「あんなに沢山? 今までの畑と同じくらいの大きさの畑だけど」
「ほ、ほら! ガルさんたちも美味しいって言ってくれるし」
華憐が目を細めた。
「じゃあ、蓮くん、『開花』させてみてよ」
「え、えーーと、あ! この果物たち才能がないから開花できないやー……あはは、残念……」
「………レン、嘘は良くない……『開花』!」
なっ! なんでエリュシオンが『開花能力』を使えるの?! うそぉ! 確かに僕の神気だけどさ!!
僕がなんとか誤魔化そうと思ってたら、エリュシオンが神気を使って『開花』させてしまった。
それはもう立派なブドウ農園の完成だ。
そして、一際大きな1本の木もある。
華憐はちらりとそちらを見て、
「『探知』!………ねぇ、蓮くん、どうして私が預かってた柿ピーが蓮くんの部屋にあるのかな?」
その底冷えするような声に僕と今まで沈黙を貫いて気配を消していたミーナがピクリと背筋を伸ばす。
「はぁ、だからやめておきなさいって言ったのよ」
「か、カレン、私は今回は何もしてないからね?」
呆れたような声を出すクルアと華憐の気配に当てられたのかルカもちょっと弱々しい声を出してる。
これはまずい……もう、隠し通すのは無理か? ならばっ……
僕はミーナに視線を送って、お酒同盟を組んだダシンさんたちドワーフに来てくるように頼む。
ミーナはバレた時に決めた作戦通りドワーフたちを呼んでくれた。
ドワーフたちはすぐにやって来てくれて、
「カレン様! 違うのじゃい!」
「あれ? ダシンさんたちも関わってたのですか? ならそこに蓮くんとさっきから気配を消しているミーナも正座してください」
その温度を感じさせない声にドワーフたちはビクリとして、黙って正座をした、僕とミーナも隣に正座をする。
「とりあえず、どういうことか説明して?」
「か、カレン様! 違うんです! これはレン様がやろうって言い出して!」
「そ、そうなんですわい! わしらは止めたんですがレン様はやる気満々だったみたいでなぁ……」
なっ……裏切られた?!
ミーナとドワーフたちは華憐に向かって開口一番、まさかの全責任僕に擦り付けるという暴挙に出た。
僕はどういうことだとミーナとドワーフたちに視線を送る。
ミーナとドワーフたちは僕の視線に示し合わせたかのように明後日の方向を向いて誤魔化しやがった!
こいつら……後で覚えてろよォ!!
「ふーーーん、それじゃあ蓮くん、説明してくれるよね?」
「は、はい……」
僕は鬼のような華憐に観念してやったことを全て話した、ただしジダンさんとミーナを悪者に仕立てて。
「はぁ、まったく、ちゃんと言ってくれれば柿ピー渡したのに」
「え?! まじで?! てっきり反対されるのかと……」
「それはまぁ、したかもしれないけど、話くらい聞いたよ、とりあえず蓮くん、さっき私にお酒禁止したんだから蓮くんもこれでお酒禁止だからね」
え……そ、そんなぁ……
「か、華憐様ぁ……慈悲を……どうか慈悲をください……」
「うーーん、そうだなぁー……」
お! 華憐様はお慈悲をおくれになるのか……
そう思った時だった、空からなにかが飛んできた。
ドゴォォォーーーーン!!
飛んできた何かは、巨木な我が家に激突して大爆発を巻き起こした。
巨木な我が家は頑丈だから衝撃には強く破壊されてはなかった、しかし火には弱かった。
飛んできたものは火炎弾だったため燃え移ってた。
「なんだ?!」
「きゃあっ!!」
「家が燃えてるわ!!………『水砲撃』!!」
「あれは………幻獣種……?」
「えっ?! うそ……」
火を消そうと思ったけどクルアが先にやってくれた。
華憐とルカが火炎弾が飛んできた方を見て絶句してる。
なんか、幻獣種とか聞こえたけど……
僕も気になったから華憐とルカが見てる方を見てみる。
「まじか……」
そこには、某狩りゲームの空の王者様がいらっしゃった……
赤黒いボディで大きな翼を羽ばたかせて上空からこっちを睨んでいる。
ゲームをやってる側だと楽しめるけど、いざ自分がハンター側になるとこの威圧感は半端じゃないな……
ハンターさんすみません……大剣の攻撃遅いんだよ! とか愚痴を沢山言ってました……
僕達が空を見上げながらアホみたいに固まってると、空の王者様の顎にまた火炎が溜まっているのがわかった。
「全員備えろ!! また火炎弾が来る!! エリュシオン!!」
「………うん!」
僕は全員に衝撃に備えるように言って、エリュシオンと手を繋ぐ。
すると、エリュシオンの身体が光となって、ロングソードの形になる。
その時ちょうど、火炎弾が再び発射された。
「はぁ!!」
僕は剣に神気を流して振るう、すると神気でできた斬撃が飛んで火炎弾と突撃、相殺する。
それでも、火炎弾の熱は抑えられなくて、熱波により肌がジリジリとする。
「全員退避だ! ミーナはハルたちを連れて、家に戻ってみんなに滝の洞窟に避難するように言って! ルカは怪我人がいないか見てくれ! 華憐、あいつの討伐経験は?」
「もちろんあるよ! そして私は弓使いだった! 砲撃は任せて!」
「よし! なら華憐は後方支援頼む、クルアは華憐の護衛をしてくれ!」
「分かったわ!」
「さぁ! ひと狩りいこうぜ!!」
僕達は空の王者を討伐することとなった。
とりあえず、ミーナと中学生グループが退避するまでは僕がヘイトを稼がないとな!
そう思ったんだけど、いきなりとんできた攻撃は火炎弾連射だった。
一発は僕に、一発はミーナたちに、最後の一発は巨木な我が家へと飛んでく。
「蓮くん! ミーナたちに飛んでったのは任せて! これでも喰らえ! 『ファイ〇ルフ〇ッシュ』!!」
えっ?! 華憐いつの間にベ〇ータになったの?!
華憐が放った魔法は独特の効果音を出しながら火炎弾を破壊してた。
僕も自分に飛んできた火炎弾をさっきと同じように相殺する。
「「「『聖なる盾』!!」」」
家に飛んでったのはしょうがないと思ったんだけどクロウ、コロネ、マリアの天使3人組が守ってくれた。
任せても大丈夫だろう。
「蓮くん! 突進が来るよ!!」
おっ! やっと降りてくるか! 確かあのモンスターってずっと空中にいるからチキンだとか空の王者(笑)とか呼ばれてたよなー
空の王者(笑)は低空飛行で僕達の方に突っ込んできた。
ゲームなら避けるんだろうけど、今の僕の後ろにはミーナたちがまだ逃げてるから避けられない。
「エリュシオン、耐えれる?」
(………もちろん、任せて!)
「(『神気解放:才気活発』!!)」
剣状態のエリュシオンとは思念のようなもので会話ができる。
僕とエリュシオンは同時に『神気解放』をして突進を受け止める構えを取る。
そして、僕と空の王者(笑)は激突した。
「はああああぁぁぁーーーーー!!」
地面を抉って何メートルか押されるけど、なんとか受け止めた!
と、思ったけど受け止めてる顎から火炎の熱をかんじて……
「まてまてまてぇーー! さすがにそれは受けられないって!!」
「『超電磁砲』!!」
「『魔術五重奏:魔力砲』!!」
「ギュアアアアア!!」
「華憐、クルアナイス!! ぶっ飛べ!!」
華憐とクルアが魔法で作ってくれた隙に顎を蹴飛ばして、火炎弾の方向を空に向ける。
空の王者(笑)は無理やり頭を上に向かされたから上半身が浮いて、お腹が丸見えだ、そこに向かって
「『六〇銃』!!」
僕が出せる最大の衝撃波を食らわせて吹き飛ばした。
「さすが、レンはいつも思うけど規格外が目立つわね、幻獣種と渡り合うなんて……」
「クルア、強い光を発する魔法ある?」
「強い光? あるわよ」
「なら、準備しておいて私が合図をしたら相手の顔面で発動して」
なるほど、閃光弾か!
確か、空の王者(笑)は目が良すぎるが故に閃光弾に弱かったな。
「カレン様! 私たちにも何か出来ることはありますか?」
ザリュさんとガルさんが武器を持ってやってきた。
「隙を作るのでその時に全力の攻撃をお願いします!」
さすが華憐、ゲームとかの知識が強いな。
さて、なら僕も隙を作るために囮になるかな。
「おらっ!! 空の王者(笑)!! ヘタレ!! 降りてこいよばーーーーーか!!!」
いつの間にかまた空に飛んでた空の王者(笑)に向かって、おしりをフリフリ全力で煽る、シャドウもしておこう。
すると、ドラゴンでも人間の言葉は分かるのか、苛立ったように吠えたあと、降下してきて足の爪で攻撃してきた。
「うおっ! あぶっ!」
確かやつの爪には毒があるはず、僕は受けることはせずに避けることに専念する。
一旦距離を取ろうと後方に下がると、
「ぐはぁっ!!」
空の王者(笑)は一回転をして尻尾攻撃をしてきた。
ちょっと油断してて僕はもろにくらってしまった。
「クルア! 今!!」
「『閃光』!!」
「グアアアァァァァァ!!」
ちょうど、一回転してやつの顔が戻ってきた瞬間にクルアの魔法が炸裂、空の王者(笑)はモロにくらって地面に落ちた様子を、僕は吹き飛ばされながら捉える。
「きゃあああ!!」
ちょうど、その時後方からミーナの叫び声が聞こえた。
そっちの方をむくと、
「よし! 行くぞ!!」
「忌み子ゲットっすね!!」
どこかで見たことあるようなエルフ二人がミーナを抱えて森に走って行くところだった。
僕は空の王者(笑)は後回しで先にあっちを潰そうと思った時、
「レン! ミーナは私とルカに任せて! 今ここであなたが抜けたら戦線が崩れるわ!」
クルアの声を聞いて、空の王者(笑)の方を見ると、地面に倒れていてガルさんとザリュさんが攻撃をしてるけど刃が通ってないみたい。
たしかに、僕が抜けたらきついかもな……
「わかった! 絶対連れ戻してこい! あのエルフたちどっちかは捕まえてこい!」
「任せなさい! ルカ行くわよ!」
「我を怒らせたこと後悔させてやる!」
クルアと僕を治癒してたルカはクソエルフどもが向かった森に高速で飛んで行った、あれならすぐ捕まえられるだろう。
僕は、いつの間にかまた飛んでた空の王者(笑)に集中する。
「蓮くん、あいつ思ったよりも光に耐性があるみたい、最初にやったみたいに止めて大魔法を放つ方が効果的かも」
「レン様、すみません、私たちでは刃が通らず……」
「いえ、二人はまだ変なやつらがいるかもしれないので警戒をしておいて下さい!」
「わかりました! ご武運を!」
よかった、下手に残るとか言われてもちょっと困った、そういうのが分かる二人なんだろう。
空の王者(笑)は今、かなり上空を大きく旋回して飛んでいる。
「蓮くん、今ワールドツアーしてるから次の攻撃はそのまま突進系で来ると思う」
「わかった、華憐は少し下がって最大威力の魔法を準備しておいて、次で終わらせよう」
正直、空の王者(笑)とかバカにしてるけどそれでも強い。
神気をかなり使ったから結構疲れた、ミーナのこともあるしすぐに終わらせることにする。
僕は、空の王者(笑)の攻撃を耐えるために全神気をエリュシオンと身体中に巡らせる、神気のオーラで辺りの風が吹きみだれている。
空の王者(笑)は予想通り突進してくるみたいで低空飛行のモーションに入った。
だが、先程とは違った。
「あんな攻撃知らないよ!!」
「あれはまずい! 避けるぞ!!」
「わかった! きゅうちゃん!!」
空の王者(笑)はワールドツアーからそのまま低空飛行に入ったから速度がかなり早く、しかも炎を纏っていた、そのせいでやつが通り過ぎたところは焼け野原になってる。
僕と華憐は同時に横っ飛びで避けるも、攻撃は突進だけじゃなかった。
空の王者(笑)は急ブレーキをかけいきなり横回転で尻尾回転攻撃を仕掛けてきた。
僕は咄嗟に防御姿勢をとるもそんなの関係なしに尻尾によって吹き飛ばされ、木を何本も吹き飛ばしてやっと停止する。
「……………ぐはぁっ!」
(………レン!!)
痛い! 熱い! くっそ、血の味がする!
「蓮くん!!」
華憐はきゅうに乗ったから尻尾攻撃は受けなかったみたい、それで吹き飛ばされた僕の方に駆け寄ってくる。
が、その後ろには空中に羽ばたいて火炎弾の予備動作をしている空の王者(笑)がいて……
あれは……空中大火球……
空の王者討伐で絶対に受けちゃいけない攻撃だ。
狙いは華憐みたいで、華憐はそれに気づいてない。
まずいっ!! あれを受けたらゲームじゃないから絶対に死ぬ。
そして、巨大火炎弾が華憐に向かって放たれた。
その瞬間、思い出したのは日本で死んだ時のシーンで……
………助けなきゃ! 今度こそ絶対に!!!
僕は神気を全て脚力に集めて、全力で地面を蹴る。
一瞬で華憐を抜いて後ろへ、右手にはエリュシオンを持ってるから左手で巨大火炎弾を止める。
そして……
ドゴオオオオォォォォォォォン!!!!!
巨大火炎弾は大爆発をし、目の前でそれを受けた僕は上空に吹き飛ばされて、そのまま地面に落下した。
「…………がはっ……」
「………え、蓮くん……?」
華憐の声が聞こえたから華憐の傍に落ちたんだろう、けれどそんなことより全身が熱くて痛くてどうしようもなかった。
「…………レン!!」
エリュシオンが擬人化状態になって声が聞こえた。
「………エリュ……シオン、華憐を……まも、れ…」
「………喋っちゃダメ!!」
あぁ、身体に力が入らない、意識が遠のいてく。
僕はこの感覚を知ってる。
トラックにひかれた時に同じ感覚に陥ってた、だからまた死ぬのかな? もう一回生き返らせてくれるかな? さすがに二回目は無理か……
「蓮くん!! 蓮くん!! あぁ……」
華憐の声が近くだけど遠くに聞こえる、不思議な感覚だ、なんだか賢者になったみたいで……
死ぬ前にもう一度だけ、ゆいりに会いたかったな。
そう思ったきり僕の意識はプツリと切れた。




