90話 マールをお見送り
華憐が泳げるようになってから数日が経った。
もうすぐ夏休みも終盤、日本の小中高生は夏休みの宿題を、「へっ! まだよゆーだわ〜、鼻くそほじってでもできるわ〜」って余裕ぶっこいてる奴と、「あ、夏休みもうあとこれしかないの?! 急いで宿題終わらせなきゃっ!」って少し危機感を抱いている奴に別れてるはず。
え? 季節感分かりにくい? 華憐ならこれで通じたんだけど……
まぁ、とにかくもうすぐ8月も終わりっていう今日、マールちゃんが天使族の国に帰ることにしたみたい。
それで今、天空庭園でお見送り中。
「マールがいなくなると寂しくなるわね」
「マールさん! マヨネーズ、ぜひ天使族の国で流行らせてください! 」
「マールちゃん、またぜひ来てね!!」
「はい! 大変お世話になりました!」
みんなそれぞれお別れの挨拶をする。
ああ、マールちゃんにはここで作った調味料とか、作物とか果物を持って行かせることにした。
ミーナの采配でマヨネーズ多め……さすがマヨラー。
「気をつけて帰れよー、またデミゴルゴンみたいなのに捕まらないようになー」
「大丈夫です! もし、あいつらが現れたとしてもレンさんに教えて貰った魔法でぶっ倒します! 」
僕はマールちゃんに『花火』以外の僕のオリジナル魔法を教えてある。
「マール、私が追い詰められてた時いつもそばにいてくれてありがとね」
「そんなの当たり前だよ、だってあたしのお姉ちゃんだもん!」
「本当にありがとう、あなたが無事国に帰れるように……『祝福』」
こういう時は厨二病の也が潜めるよなぁ……
ルカは基本的に光魔法を扱えるが堕天してからは闇魔法も使えるようになったみたい、そのなかでも治癒魔法が凄まじくて、本人が言うにはもともと治癒魔法は得意だったが僕に堕天を治しかけられた日から、さらに効果とかが上がったらしい。
なぜ? って思ったけど、その理由は華憐が見抜いた。
この前プールで華憐が溺れたあと、色々あって結局華憐は50メートルを泳ぎきった。
そのあと華憐は「なんだか、もっと早く泳げる気がする! 」って言って再挑戦。
すると、なんてことでしょう、カナヅチでコロッケに溺れさせられていた華憐はオリンピック選手も目指せるくらい凄まじい速さで泳ぎきった。
たぶん、僕より全然早い……神気解放使えば負けないし……
そのあと、華憐が自分を『鑑定』でステータスチェックをすると『付与才能:水泳』というのが増えていたらしい、そして僕には『付与能力』というのが増えているみたいで、ルカにも『付与才能:治癒魔法』というのが増えていた。
つまり、僕の新しい能力の効果で、二人に僕の才能を分け与えていたみたい、そのかわり僕の水泳と治癒魔法の技術は一般人並になってた。
『付与能力』は僕の<才能>の力を対象に分け与える能力みたい、ちなみに分けた才能は取ることも出来たから、華憐からは水泳の才能は回収しといた。
だって、華憐に泳ぐので負けるのとかなんかやだし……最後まで抵抗されたけど僕が勝った! 水泳勝負で神気解放使ったけどね、それに華憐、一般人並には泳げるようになってたし。
回想終了! 今はマールちゃんのお見送りだ!
「大丈夫だよ、お姉ちゃん! 私も中位三隊の『能天使』だもん! そろそろ行くね!」
マールちゃんは羽をパタパタさせて空中に浮かぶ。
「それもそっか、じゃあお父さんとお母さんのことよろしくね!」
「うん! 昨日話した通り、お姉ちゃんのことはお嫁に行きましたってしっかり伝えるから安心してね!! それじゃっ!!」
「「「「え?! 」」」」
今、お嫁とか言った?!
問ただそうにもマールちゃんはもう空の彼方へ……もう一人の当事者に視線を向ける、みんなもルカの方を見ていた、代表してミーナが
「ルカさん、いったいどういうことか説明してもらいます、レン様もです! そっちに並んでください!」
え、えええええ?! なんで僕まで……
抵抗虚しく、ルカの隣に並ばされる。
「え、えーーとね、昨日マールと話し合って、私の事どう伝えるかってことで、堕天したなんて言えないしだから……」
「それで、一体どうしてお嫁なんてことになるんですか?」
「そ、それはちょっと誇張しちゃって……それに……き、キスだってした仲だし……」
ルカは顔を赤らめモジモジ、自慢のポニーテールで顔を隠してる。
「「「私だって、キスしたもん!!(ました!!)(わ!!)」」」
三人の声が重なる。
た、確かにしたけどさぁ……クルアとミーナは半ば無理矢理されたし、華憐とルカに関しては救助なんだけど……
これじゃあ僕が誰彼構わずキスしてるみたいじゃん!
でも、これは僕が悪いのかな? うーーん……
「レンは、誰かを選んだりしないの?」
ルカが聞いてきて、僕は少し考える。
けれど、やっぱり脳裏に浮かぶのはゆいりことで、だからしっかりと説明することにした。
「僕は、好きな人がいるんだ」
「蓮くん、それはゆいりさんのこと? 」
「ん? 華憐は知ってるのか、まぁいろいろ有名だったしなぁ……そう、ゆいりのこと」
ルカはなぜかなにか考えるような顔になった。
それから僕は、みんなにゆいりのことを説明した。
僕の彼女だったことや突然いなくなってしまったことや今もずっと好きで探してることなど。
「このままじゃいけないってことも分かってるけど、まだ踏ん切りがつかないんだよ、だからこんな気持ちで結婚とかそういうのはみんなにもゆいりのも失礼だと思うから答えられない」
「蓮くん……」
「つまり、今も昔の女が忘れられないってことよね?」
「やっぱり、レン様には無理矢理迫るのがいいかもしれませんね」
「そうね」
いやいやいや、僕の話聞いてた?! 絶対聞いてないよなぁ〜
「二人ともそれはちょっと……」
華憐だけが理解者だ! 仲良くしよう!
「ご主人様、客人が来ましたが如何しましょう?」
ミーナとクルアにもう一本くらい釘を刺しておこうと思ったら、オリアがやってきて来客を知らせてくれた。
「おおー! やっときた? ガルさんたちだよね」
「はい」
「じゃあ、応接室に案内して、それとセッテたちも呼んできてあげて」
「了解しました」
オリアはぺこりとお辞儀をして仕事をしに行った。
さすが一流のメイドさんはお辞儀も一流で惚れ惚れしちゃうね!
ガルさんたちが来ることは華憐の『飛耳長目』で前々からわかってて、そろそろ来る頃だろうと思っていた。
「まぁ、とりあえず、僕は好きな人がいる、だから答えられない、ごめん、じゃあ僕はガルさんたちに会ってくるねー」
僕はなんだか居心地が悪くて逃げるように応接室に向かう。
「あ、蓮くん! 私も行く! 待ってー!」
後ろから華憐が追いかけてきた。
さーて、久しぶりにここの主っぽいことしようかな!
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レンと華憐が去っていって、私とミーナとクルアが残された。
「レン様の意思、硬そうですね」
「そうね、まぁゆっくり時間かけていけばいいわ、それよりルカ、さっきから何か考えてるみたいだけどどうしたの?」
む、クルアには私が考え事しているのがわかるのか?
さすが、我が幼なじみだ! 以心伝心している!
「うーーーーん、『ユイリ』って名前どこかで聞いた覚えがあるような……クルア知らない?」
「知らないわね、ルカが知ってるんなら人間族のほうの情報じゃないかしら?」
「でも、ユイリさんってレン様たちの前の世界の人ですよね?」
「そうよね、気のせいじゃないかしら?」
うーーーん、クルアの言う通り気のせいなのかな?
でも、なにか引っかかる……
「まぁ、レンに好きな人がいようといなかろうと私はレンが好きだしアプローチを続けるわ」
「はい! もちろんです! ルカさんもですよね?」
「ふっ……愚問である! 私だってレンが好きなのだ!」
うん! レンのいう『ユイリ』が誰であろうと私の気持ちは変わらない!
「じゃあ、私はそろそろ部屋に戻るわね、奇術の練習しなきゃ」
「私も、エルフたちの様子を見てきます、セッテさん達とは仲が良かったですから、もしかしたら落ち込んでるかも……」
クルアとミーナも空中庭園から出ていく。
私は手を振って見送ってから、マールが飛んでいった方を見つめる。
「やっぱり気になるなぁ……」
「ユイリ」、一体どこで聞いたんだっけ?
マールなら何か知ってるかな? こんど会ったら聞いてみよう!
まっ! 今はそんなことよりレンをおとすかっこいいセリフでも考えようかな!
ふふっ、レンよ好きな人がいようが我が愛からは逃れられないと知るがよい!




