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89話 蓮の水泳教室

 


「足止めないでーー、腕は大きくしっかりと水をかくようにーー!」


 私は今、蓮くんにクロールの泳ぎ方を教わってる。


 まだぎこちないけど、始めた頃よりはだいぶ泳げるようになったと思う。


 まぁ、まだ蓮くんに引っ張ってもらわないと進んだ感じがしないんだけどね。


 うっ……そろそろ息が……


「ぷはぁっ! はぁ……はぁ……」


「華憐! 半分くらいのところまでこれたよ! 」


 蓮くんに言われて後ろを振り返ってみる。


 確かに半分くらいまで来れてる!


「とりあえず、沈まなくなってよかったよ」


「はぁ……はぁ……蓮くん、ありがとう」


「お礼は早いよ、まだ完璧じゃないし、コロッケに落とされても生きて帰ってくるまではもう少しだ!」


 そうなのだ、なぜ蓮くんがいきなり泳ぎの訓練をしようと言い出したのか……


 それは、私がたまに、いや結構コロッケにイタズラで湖に落とされるから。


 あのガキンチョ、怒っても怒っても懲りずに突き落としてくる、なにがそんなに面白いのか……


 その度に蓮くんに助けて貰ってるから、そろそろ自分で脱出できるようになりなさいと言われてしまった。


 それで蓮くんに泳ぎを教えてらっているという今の状況の完成。


「レン兄ちゃん! あそぼーぜ!!」


 コロッケがこっちに来た。


「んー? いいけど、華憐が泳げるようになったらなー」


「わかった! カレン姉ちゃん、早く泳げるようになってくれよ!!」


 だ、誰のせいでこんなことになってると……


「はぁ……」


「あはは、そんなため息つくなよー、どっちにしたって泳げるようにはなった方がいいって」


「むぅ、オタクに水泳は難しい」


「まぁ、でも、ここまで来れたんだからあと半分だし、あとは息継ぎを上手くできるようになったら泳げるようになるよ」


「息継ぎしようとすると水が鼻とか口に入ってくるの」


「んーー、それは上を向きすぎなんだよー、息継ぎは上を向くより横に向く感じだよ、まぁとりあえず壁まで戻ろう」


「わかった!」


 練習を再開するために蓮くんと一緒に壁際まで歩いていると、事件が起こった。


「痛っ?! 」


 そう、あの足がピーーーンってなってとてつもない痛みがするやつ、正式名称『こむら返り』。


 いわゆる足がつるってやつ。


 まずいっ! って思った時にはもう遅く、まだ完璧に泳げない私はぶくぶく溺れてく。


 ああ……私はついにミジンコになるのかな……


 そう思ってると、いきなり体が浮いた。


「華憐、どうした? いきなり沈んでったからびっくりしたよー」


「れ、蓮くん、足つっちゃって……」


「ああ、ごめんー、無理させすぎたね、首捕まって」


「え、あ、うん……」


 蓮くんの首に腕を回す。


 今気づいたけど……私、蓮くんに水中でお姫様抱っこされてる……


 蓮くんの体、前も思ったけどしっかりしてるなぁ……


「少し休憩しよっかー」


「う、うん」


 思ったよりも蓮くんの声が近くで聞こえて、つい気恥ずかしくなっちゃうよ……


 それから蓮くんは私をプールサイドまで運んでそのまま下ろしてくれる。


 ちょっと残念……


「まだ足つってる? 」


「あ、えーと、うん……少しだけ」


 ちょっと痛みのこと忘れてた。


「足をつった時はね、つった方の足の親指をゆっくり脛の方向に伸ばしたり、つま先立ちでゆっくりしゃがんで屈伸したりするのがいいよ、今は僕がマッサージしとくから、あとは水分補給をしっかりねー」


 そう言って、私の足を伸ばしたりして蓮くんがマッサージしてくれる。


「蓮くんは本当になんでもできるね」


「ま、僕は陸上部だったからねー、足がつるなんてしょっちゅうあったんだよー」


 こういうとき、なんか蓮くんが少し遠くにいるみたいで寂しい。


「どう? 治った??」


「うん! もう痛くないよ、ありがとう!」


「ん、ならよし! 少し休憩しよっか」


「わかった! 」


 それから私たちは隣に並んで座って、みんながプールではしゃいでるのをなんとなしに眺める。


「人、たくさん増えたねー」


 蓮くんがぽつりと話しかけてくる。


 私も同じこと思ってた、同じ光景を見て同じことを思ったんだね。


 なんだか、うれしっ!


「そうだね! 最初は二人だけだったもんね」


「今じゃすっかり考えられないねー」


「確かに」


 それから二人でこっちに来てからの生活を振り返って話し合う。


 まだまだ日本にいた時の時間の方が長いのに、こっちに来てからのほうが濃い時間を過ごしてきたから、日本にいた時より長く感じるなぁ……


「お二人共、練習は終わったんですか? 」


 そんなこと思ってるとミーナがこっちにやってきた。


「いやー、少し休憩中だよー」


「なるほど、カレン様、早く泳げるようになって一緒に遊びましょ! 」


「うん、もう少しで泳げそうな気がするから待ってて! 」


「はいっ! そういえばルカさんは一緒に遊んでますけど、クルアさんはどこに行ったのでしょう?」


 あれ? ほんとだ、いつの間にかクルアがいなくなってる。


「ああ、クルアならさっき水中で見たよー? なんか水中で魔法の実験してるみたいだったけど……」


 クルア、そんなことしてたの? さすが魔法科学者……最近はマジシャンの方が目立つけど……


「そうなのですか、あとで声かけてみます! そろそろ戻りますね、カレン様頑張ってください!」


「うん! 待っててね! オリンピック目指すから!」


 ミーナはオリンピックって聞きなれない単語に戸惑ってたけど、いつもの私たちの訳分からん発言かって思ったのかそのまま戻っていった。


 私と蓮くんはもう少しだけ休憩したあと、再び練習を再開した。


 私は血と汗と涙が滲むような練習の成果により腕かきをマスターし、悟りを開く勢いで訓練をし息継ぎまでもマスターした。


 そして、クロール50メートルに挑戦する時が来た。


「いいか! 華憐! 君ならできる! 今日から君は富士山だ!! 」


 蓮くんはいつの間にか、熱が入ったみたいで松○修造みたいになってた。


「カレン様ー! 頑張ってくださいー!」


「さぁ! カレンよ、貴様の本気を我にみせてみるがいい! 」


「なんで、ルカはそんなに偉そうなのよ」


「カレンさん、応援してまーす!」


 ミーナたちも応援してくれる。


 私はそれに答えなくちゃ!


 ゴールをキッ!! って睨みつけて、深呼吸。


 そして、大きく息を吸って、壁を蹴って私は泳ぎ始めた。


 蓮くんに教わったとおり、バタ足をし腕かきをし息継ぎをする。


 最初の時と違ってぐんぐん進んでいく感じがする。


 半分まで来た、あと半分だ!


  水の中は何も聞こえないけど、みんなの応援がきこえてくるようなきがする。


 もう少しでゴールだ……ああ、ここまで長かった……お母さん、お父さん……私、塔野華憐は今日、泳げました……


 そう思ったのがフラグだったんだろう、また足にあの感覚が来た、そう足をつった……


 あっ……まずいっ!!


 そう思った時には既に遅く、動けなくなっていた。


 しかも、今回は一人で蓮くんはいない、私はそのまま沈んでいく。


 そして、外からさす太陽の光が水の中にもさしている光景を最後に私の意識はプツリと途切れた。





 ………………………………………………………………






「華憐! 華憐!! 起きろっ!! 」


 誰かが私のことを呼んでる。


 口から空気が入ってくる感じがした。


 少ししたらまた、胸を押されてる感覚……そして、また唇になにか柔らかいものを押し付けられる感覚がして、私の意識が戻り始めた。


 あれ? 私、どうしてたんだっけ……ていうか、この感覚は……


 私は目を開けると、目の前に蓮くんの悲痛そうな顔があった。


「華憐!! 」


「蓮くん……?」


「大丈夫か?! どこか調子悪いところはないか?! 」


「え、えーと、うん、大丈夫そうだけど……」


「カレン様っ!! 」


 私はなにか深刻なことでも起こったのかと疑問に思ってるとミーナが抱きついてきた。


「ああ、よかったです! プールに沈んだ時はどうなるかと思いました……」


 プールに沈んだ? 誰が……私が?!


「本当よ、無事でよかったわ」


「カレン、本当に大丈夫?? 」


 クルアとルカも心配してくれる。


 あ、思い出した! 私は50メートル泳ごうとしてて、途中で足がつって沈んだんだ、それでそのまま意識不明に……?


「ふぅ……前に心肺蘇生法を習っといてよかったよ……」


 蓮くんがそんなことを言ってる。


 心肺蘇生法……心臓マッサージと人工呼吸……人工呼吸……キス……?


 も、もしかしてさっきの感触は……蓮くんの……?


 そう思った瞬間、私は顔の熱が上がっていくのを感じた。


 わ、わわわ、私、蓮くんにキスされちゃった?!


「カレンさん、顔真っ赤ですよ? どこか調子悪いんですか? 今、異常状態回復の魔法をかけますね……『異常回復(リカバリー)』」


 マールちゃんが魔法をかけてくれる。


 けど、ごめんなさい、たぶんこれは異常状態じゃないです……


 そっか……私、蓮くんにキスされて……前に私も蓮くんにキスしたから、これでおあいこだね!


 このあとしっかりと50メートル泳ぎきった私は、無事蓮くんのおかげでクロールがおよげるようになりました!


 私は蓮くんにキスされたことがこれっぽちも嫌などころか、むしろ舞い上がっちゃうくらい嬉しかったことに気が付かなかった。


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