80話 闇堕ち?
もう何分、いや何時間? 時間感覚がわからない……こうしていたか。
デモゴルゴンの触手に捕まって奴の媚薬で身体のありとあらゆるところが性感帯となり鞭でビシバシ叩かれて、初めは痛みだったのがだんだんと快楽になり、僕はもうその快楽に溺れたい一心だが、なけなしの理性が待ったをかけて必死に神気が吸い取られるのをすんでのところで防いでいる。
その状態でなんとか起死回生の一手を打つためにタイミングを狙っていたが、今はもうそんな余裕もないくらいギリギリだ、少しずつだけど神気も流れていっている。
一応、勝つ手段はある。
が、触手に縛られたこの状態や鞭で叩かれると一瞬でも意識が快楽に支配されてその手段を実行できない。
「おら! もっと声出せよ! 欲しいんだろ?! これがよぉ!」
ああ、また激しくなってきた……もう声も抑えられない……
地下室に僕の需要のない喘ぎ声が響いている。
華憐たちは大丈夫だろうか?
デモゴルゴンに堕とされるのは癪だが、もうこの快楽に身を委ねてもいいかな?
いや、ダメだ! 毎日毎日ミーナやクルアに迫られても耐えている僕の理性を舐めるなよ!
ああ、でも、もっと欲しいかもしれない……気持ちいい……
やめろやめろ! 士気を高く持て! いつかあいつが油断して触手が緩んだら一瞬で勝負をつける!
あんっ……そこやばい、もっとそこを……
耐えろ耐えろ耐えろぉぉぉ!!!
そうやって、煩悩と理性の狭間を行ったり来たりして居る時……
「蓮くん……何やってるの?」
快楽に溺れそうな僕の耳に不思議なほどくっきりとこの世の生物が耳にしたら背筋が凍りそうな冷たい侮蔑を含んだ声が聞こえた。
「『氷水砲撃』」
同じく底冷えする声で魔法名が聞こえてきたと思ったら、全身が凍りつきそうなほどの氷水が飛んできて、ぶっかけられて、快楽に溺れかけてた僕の意識が明瞭になる。
「あぁん?! 今いいところだから邪魔するんじゃねぇよ! こいつが終わったらお前らの相手もしてやるから少し待ってろ!」
耳が憎き相手の声を拾ってきて、視覚が今の状況を瞬時に把握する、そして脳が今までの僕の所業を理解した、その瞬間……
「くそっ……ちっ!」
魔法を使って一瞬で僕を捕らえていた触手を切り裂く。
拘束を解かれた僕はデモゴルゴンを見て、華憐たちを見て、もう一度デモゴルゴンを見て、
「はぁ?! 嘘だろ……お前、そんなに……」
「なんですか、あの神気の量は……」
今まで抑えていた全ての神気を出し惜しみなく全て解放、地下室に赤金色のオーラが暴れ狂う。
デモゴルゴンとマールちゃんの驚きの声が聞こえる。
地面が揺れて空気がビリビリしているのを感じる。
でも、今の僕はそんなことはどうでもいいくらい消えたい衝動に駆られていた。
理性を取り戻した僕の脳は、デモゴルゴンに捕まってた時の状況を思い出す、つまり僕が奴に嬲られ犯されていた時の僕の反応や喘ぎ声を出してたことなどを……そして、デモゴルゴンを見て、華憐を見て、あの時の僕の姿を見られていたことを理解。
「ああ……消えたい……」
再びそう思ったとき、今まで神秘的な赤金色の神気のオーラが変わって赤黒いオーラになった。
「蓮くん……髪の色が……」
僕の視界にチラチラと見える前髪は金髪だったのにいつの間にか紫色に変わっていた。
僕はこの状態を知ってる。
「………『神気解放:消滅ノ堕天』」
たぶん、今華憐の『鑑定』で僕のステータスをみたら神気解放が増えてると思う、昔もこんな気持ちになったことがあるから知ってる、消えたくて消えたくてしかない気持ち。ゆいりがいなくなった時もこんな気持ちになった。
僕はもう一度デモゴルゴンを見てみると、奴はニヤリと笑ってた。
「お前、そんなに神気があるならさっさとよこせよ! ほら、お前の大好きな鞭の時間だぞ!!」
そう言って、いつの間にか再生してい触手を再び伸ばしてくる、僕はそれを神気の圧だけで吹き飛ばす。
「なっ……まだ、神気がそんなに! よこせぇー! それを奪って俺が魔王にっ!!」
デモゴルゴンはさらに触手の量を増やして、襲いかかってくる。
ああー、消えたい消えたい消えたくて消えたくて仕方がない、あいつも消してやろ。
僕は、手のひらに赤黒い神気を集めて、真っ黒い玉を作る。
「………『パラダイス・ロスト』」
デモゴルゴンに真っ黒い玉を射出する。
真っ黒い玉はデモゴルゴンの真ん前まで飛んで、膨張しデモゴルゴンや周りの地面を飲み込んだ。玉はよく見ると渦をまいてる。
真っ黒い玉がだんだんと収縮し完全に消えた後、そこにはデモゴルゴンの姿はなく半球にえぐれた地面が残ってるだけだった。
デモゴルゴンの最後は呆気なかった。
あの魔法は存在そのものを消すから悪魔も復活が出来なくなる。
「蓮くん……」
華憐の声が聞こえ他方を見てみると、みんながこの数分で何が起きたかわからないって顔をしていた。
「ああ、そうっだった見られてたんだ……」
僕は膝から地面に崩れ落ちる。
その時に見えた前髪はいつもの黒髪だった。
地面を見ると、ぽたぽたと涙が黒いシミを作っていた。
誰が泣いてるんだ? あ、僕か……
僕は涙を流さないように上を向いて一言、
「ああ……僕もうお婿に行けないっ」
僕は溢れる涙を堪えきれずしくしくと泣いた。




