73話 ピィナ
「お腹すいた! お腹空いた!」
ひよこにピィナって名前をつけた次の日、私はすごく焦ってます。
「カレンお姉ちゃん、お腹空いた!」
「わかった! わかったから少し静かに、 しーー」
ピィナを侮っていました。
ひよこだから何かが起きてもちっちゃくて隠しやすいものだと思っていました。
が、今私の目の前にいるのはでっかいでっかい黄色くてまんまるのひよこ。
どれくらい大きいかというと、運動会の大玉2個分くらい大きい。
それに少しカラフルになった、黄色の羽毛にちょくちょくオレンジや赤っぽい羽毛が混じってる。
それと人間の言葉を喋るようになった。
それにその声が大きい! こんなんじゃ全くもって隠せないよ!
「華憐ー、なんか獣人族の里からドワーフの人達が来て話を聞いて欲しいって、華憐にも聞いて欲しいから応接室に来てー」
え?! ドワーフ?! 会ってみたい!!
でも今はまずい、ピィナをなんとかしないと!
「わかったー! すぐに行くから蓮くん先に行ってて!」
「お腹空いたー! お腹空いた!!」
あー! ピィナ! 静かにしてて! しーーーー!
「ん? 華憐お腹すいたのー??」
まずい、きかれた?! えーと、
「そうなの! だからキッチン寄ってから行くから先に行ってて!」
「おーけー、じゃあ待ってるねー」
蓮くんが遠ざかってく気配がします。
ふぅー、バレなかった……
「ねぇー、お腹空いた!」
「ピィナ、今から私はキッチンに行って食べ物を取ってくるからここで静かに待ってて?」
「静かに?」
「そう、暴れたり叫んだりしないでお利口さんに待っててくれたらご飯をあげる」
「本当??」
「本当!」
「わかったー! 待ってるね!」
ピィナはドスンと座って毛繕いを始めました。
私はとりあえずキッチンにダッシュ! あの大きな口ならなんでも食べるだろうと思ってニギリメシコシヒカリの朝食の残りと、大量にあるナスときゅうりを持って部屋に戻ってきた。
「ピィナ、食べ物持ってきたよ!」
「わーーい! ちょうだい!!」
「はい、どうぞ」
ピィナに持ってきた食べ物を渡すと羽を使って食べ始めた。え? どうやって掴んでるの?!
まぁ、いいや、そんなことより蓮くんのとこに行かなきゃ、たしか応接室って言ってた。
「ピィナ、私は今から行かなきゃいけないところがあるからここで待っててくれる?」
「んー? うん! わかったー!」
「じゃあ、いい子で待っててね」
私はそこはかとなく不安だけど、応接室に向かった。
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応接室は大ホールの大量にある部屋で大きめの部屋に作りました。
エルフが作って蓮くんが装飾した低めの長テーブルにエルフとお鶴さんたちが作った高級感のある革のソファー、下はお鶴さんたちが作った絨毯を敷いてここでも高級感を出している。
私の隣には蓮くんが座っていて、その後ろにオリアさんが立ってる。
オリアさんは侍女長だけど、普段は蓮くんのそばに立っていて最近は秘書みたいな感じになってきている。
私たちの正面の席に座るのはずんぐりとした体躯に短い手足で髭を生やした、ファンタジーのTheドワーフって感じの人が3人、その真ん中の人が話している。
その人の名前はダシンさんと言って、獣人族の里から来たらしい。
ダシンさんの話は、ここに移住したいとの事だった。
ダシンさんたちドワーフはガルさんたちが私たちの所から里に帰って来た時たまたま獣人族の里にいて、その時に私たちがガルさんに渡した野菜、果物を食べてあまりの美味しさに感激したらしい。
特に果物に感激してぜひこの果物でお酒を作りたいという話だった。
この世界のドワーフは2種族に別れる。
一つ目は、今私たちと話している、リカードワーフ。
お酒をこよなく愛し、お酒を作ることが得意なドワーフ、世間では『酒のおっさん』とか呼ばれてる。
二つ目は、スミスドワーフ。
こっちは武器をこよなく愛し、武器製造が得意なドワーフ、世間では『武器のおっさん』とか呼ばれてる。
まぁ、つまりダシンさんは私たちの果物でお酒を作りたいから住まわせて欲しいという話。
お酒は盲点だったなー、まだ18歳だからお酒なんて考えたこと無かったし。
蓮くんにドワーフの説明をしてそんなこと思ってると、なんだか背筋がゾクリとして嫌な予感がした。
嫌な予感……はっ! ピィナ?!
どうしよう、今抜けられないし……でも気になる。
あっ! こういう時は神気解放だ!
「『神気解放:飛耳長目』!」
私の髪が金髪になって青金色のオーラを纏い出したことにドワーフたちはびっくりしてます。
「華憐どうしたの? いきなり神気解放して」
「え、ううん! なんでもないの! 気にしないで!」
「うん? そう? まぁそれなら、それじゃあダシンさんこの話ですが……」
蓮くんはダシンさんと話を続けます。
私は自分の部屋を神気解放の力で見る。
なっ…何やってるのあの子は!
私の部屋は扉が丸いシルエットに壊されていて、廊下に残骸が転がっていた。
その時応接室の扉が開いてルンが入ってきた。
「レン、カレン、華憐の部屋の扉が破壊されていることをルン2号が発見したスラ」
「破壊? 誰がそんなことを?」
「わかんないスラ、でも丸型に破壊されてたスラ」
「丸型? 華憐何か知ってる?」
「う、ううん! 何も知らないよ!」
「うーん、とりあえず見てみるか、ジダンさんすみませんがなんかあったみたいなので少し席を外します」
「いやいや、気にしなくてよい、ここで待っておるわい」
「オリア、お茶を入れ直してあげて」
「はい、かしこまりました」
「じゃあ、ルンと華憐行こう!」
「わかったスラ」
「う、うん」
まずいまずい! 蓮くんこういう時の指示は的確で素早いんだよ! 蓮くんよりはやくピィナを見つけないと!
私は蓮くんについて行きながら『飛耳長目』の力を使ってピィナの居場所を探す。
いた! キッチンの近く!
私はどうやって蓮くんたちから離れてキッチンに行こうか悩んでると
「レン、ルン2号がキッチンが荒らされて散らかってるのを見つけたスラ」
ルンちゃん見つけるのはやすぎだよ!
「よし、じゃあ先にそっちを見に行こう」
蓮くんたちがキッチンの方に向かう。
まずい、このまま行くと鉢合わせる!
「蓮くん、今『飛耳長目』で見つけたんだけど倉庫の方になにかいるよ!」
「おーけー、ルン、先に倉庫だ!」
「わかったスラ」
「私はちょっと向こうの方が気になるから向こう見てくるね!」
そう言って、私はピィナのところに向かった。
「ピィナ! 何やってるの?!」
「あ、カレンお姉ちゃん! ピィナお腹すいたの!」
え、あんなに食べ物渡したのに?!
「いまは、とりあえず私の部屋に戻ってて!」
「えー、お腹空いた!」
「華憐ー! なんかあったー?」
やばっ! 蓮くんとルンちゃんが来る!
「ここに入ってて!」
「わぁっ!」
私はとりあえず近くにあった倉庫の扉を開けてピィナを押し入れる。
でっかすぎてドアがちょっと壊れちゃった!
でも、なんとか入れて扉を閉じた。
「華憐どしたん? そんなに息荒らげて」
「な、なんでもないよ! 蓮くん!」
「ねぇー、お腹空いたー!!!」
「え?」
ピィナのバカー! 声が大きすぎるよ!
「華憐、そのドア開けようか?」
「え、えーとー……無理!」
「ルンさん! やっておしまい!」
「あいあいさースラ!」
「あっ!」
ルンちゃんが私に向かってスライムの体をまとわりつかせてくる。
その隙に蓮くんがドアを開けて中に入った。
私はルンちゃんを振りほどいてピィナを隠すように立つ。
蓮くんが一歩近づいてくる。
「来ちゃダメー! なんにもないわ! なんにもいないのよ!」
「ねぇ、カレンお姉ちゃんお腹空いたー」
「出てきちゃダメ!」
私はピィナに抱きついて隠そうとする。
「いや、さすがに隠れてないから」
「いやっ! なんにも悪いことしてない!」
「そんなナ〇シカみたいにやられても……隠しきれてないし」
あ、バレた。
蓮くんならこれでなんとかなると思ったんだけど……アホだし。
とりあえず続けよっと!
「お願い! 殺さないで! お願いっ!」
「カレンお姉ちゃん、お腹空いたー」
もー! ピィナのせいで締まらないじゃん!!
「いや、殺さないけど説明を求む!」
「はい…」
私は蓮くんに昨日ひよこに勝手に名前をつけて連れ出したことを隠していたことを告げました。
「はぁー、名前付けたいなら言ってくれればよかったのに、別に禁止したりしないし」
「え? そうなの?」
「うん、それより、あれだピィナが壊した扉と荒らしたキッチンこっちのほうが問題」
「そ、それは……」
「ちょうどここに裁判長ルンがいるし採決を」
「判決……被告人カレンは有罪スラ」
私の有罪が確定しました。




