58話 夢
僕は夢を見ていた。
懐かしい夢を。
彼女と出会ったのは中学生になったその日、入学式の時。
中学校が楽しみだった僕はその日をかなり早い時間に登校した。
桜が綺麗だなぁー、なんて思いながら歩いてたら目の前に女の子がいた。
僕と同じ真新しい制服を着ていて新入生だということがわかる。
僕と同じで中学校が楽しみで早く来たのかな?
なんだか僕は、僕と同じ気持ちの子がいたことに嬉しくなって話しかけようと思った。
どうせならゆっくり近づいて驚かせたろって思ってソロリソロリと近づいていくと、
「君も中学校が楽しみで早く来たの?」
僕が話しかけるより前に彼女が振り向いて声をかけてきた。
僕は驚いた、結構上手く気配を消してたと思ったのに、まるで近づいていくのが分かってたかのように振り向いたから。
彼女は髪型は肩にかかるくらいで、まだ幼いけど成長したら美人になりそうな容姿をしていた。
「今、驚かせようとしたでしょ」
バレてた、一体いつから?!
「そ、そんなわけないじゃん!」
「ほんとかなぁ〜? 君、雨宮蓮くんでしょ?」
「え? なんで知ってるの? 僕、君のこと知らないけど」
「知ってるからだよ、君は今日少し早く学校に来るって」
「え、なにそれこわい! ストーカーさんですか?」
「ストーカーってひどいなぁー、あたしは時任ゆいりっていうの、よろしくね蓮くん」
「ん、よろしくー、蓮でいいよ」
「そう? じゃあ、あたしもゆいりでいいよ」
それから僕達は桜が綺麗だねとか、中学になったら何したいとか、小学校の時は何してたとか、とりとめのない会話をした。
何分たったのか、他の新入生たちもぞろぞろとやってくる中に友達を見つけた。
「あ、友達見つけたから向こう行ってくるね」
「そっか、話し相手になってくれてありがとね」
「こっちこそ、同じクラスになれたらいいね」
「なれるよ」
ゆいりは確信してるような顔で言った。
「なれるよ、同じクラスになって、今日の最初の席替えで隣同士の席になるよ」
「そんなのわかるの?」
「そう、わかるの」
「嘘だ〜、じゃあもしそうなったら僕がなにか一個言うこと聞いてあげる」
「ほんと? 約束だからね」
「おっけー、そのかわり外したらゆいりが言うこと聞けよー、じゃあねー」
僕は友達の元に向かった。
それから入学式で校長先生の長いありがたい話を聞いて、先輩たちからの拍手を受けて無事中学生活が始まった。
掲示板でクラスと番号をみて、自分のクラスに行って席に座る。
席に座って名札とかの荷物の確認をしていると後ろから肩を叩かれた。
「蓮、同じクラスになれたね」
振り返るとゆいりがイタズラが成功したみたいな顔をして僕に声をかけてきた。
「まじか〜」
「なに? 嬉しくないの?」
「いーや、逆だよ、ちょー嬉しい!」
だって、あんまり知ってる人いないんだもん
「あたしもちょー嬉しい、次は席替えだね」
「あー、朝のやつ? 流石にそれは当たらないでしょー」
「当たったら約束守ってよ?」
「わかってるって」
そんなことを話してると「席に付けー」と担任の先生が入ってきた。
中学生活のあれこれを聞いて、くじ引きで席替えが始まる。
僕は苗字が雨宮だから2番目にくじを引く、引いたくじは窓側の一番後ろ、いい席だ。
全員が引き終わって席替えが始まった。
僕は早々に席に着いて窓の外を覗く、窓側の席ってこれができるからいいよなー
そんなことを思って、そういえば隣は誰だろうと思って目を向けるとゆいりがいた。
「ね、言った通りになった、あたしの勝ちだね」
「…………しくんだ?」
「ひどいなー、そんなこと出来るわけないでしょ」
まぁ、たしかにね
「じゃあ約束だね、なにしてもらおっかなー」
「なんでもいいよ」
「なら! これからあたしと仲良くして私のことをたくさん知ってほしい!」
「わかった、じゃあ、改めてよろしくね、ゆいり」
「うん! こっちこそよろしく、蓮!」
この時からもう、僕は彼女に恋してたんだと思う。
それから僕とゆいりは学校ではいつも一緒にいるようになった。
部活も同じ陸上部になったから、本当に平日はゆいりと一緒。
友達とかに「付き合ってるのかよー」とか冷やかされることもあったけど、それが気にならないくらい仲良くなった。
教科書を忘れたら見せあって、行事があったら同じ班になって、テスト勉強も一緒にして、夏休みには二人でプールに行って、ハロウィンには仮装しあって、クリスマスも一緒にすごして、バレンタインをもらってホワイトデーで返して、あっという間に一年たった。
毎日毎日楽しくて楽しくて仕方がなかった。
隣を見ればゆいりがいつもいて、ずっとこういう日がいいのになーなんて思ってたりもした。
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中学二年生になる日、僕はなんとなく一年前を思い出して、少し早めに学校に向かった。
桜並木を歩いてると、見覚えのある後ろ姿が見えた。
僕は驚かせたろと思ってそろりそろりと近づいて行くと、彼女はやっぱり、振り返ってきて
「おはよっ! 蓮!」
と、満面の笑みで言ってきた。
一年前と比べて大人っぽくなったゆいりはすごく魅力的だった。
それから一年前と同じように、他愛ない話をしていて、ふとゆいりが
「ねぇ、蓮、またあたしの予想が当たったら言うこと聞いてよ」
「いいよー」
「じゃあ、今年もあたしと蓮は同じクラスになってやっぱり、最初の席替えで隣同士になる!」
「二年連続で?」
「二年連続で!」
「ゆいりが言ったらホントになりそうだなー」
「なによ、嫌なの?」
「そんなわけないよー」
普通ならそんな事起きるわけないって思うけど、ゆいりが言うとそうなる気がした。
ゆいりは不思議な女の子だ。
テストの出る問題を見抜いたり、僕が部活で関東大会に出場することを確信していたり、誰がいつ転ぶとかを当てたり、なんだか未来予知ができるみたいにゆいりの言うことは当たる。
前に「ゆいりは未来でも見えるの?」って聞いたら「何となくわかるんだよ」って言われた。
まぁ、だからゆいりが言うならなるんだろうなっておもう。
そして、二年生のクラスになってゆいりの予想は当たった。
「ほらね、言った通りになったでしょ」
「まぁー、ゆいりが言うならそんなるだろうなって思ってたよー」
「じゃあ、約束」
「わかってるよー、それで何?」
「今日の放課後になったら屋上に来て」
「ん? わかったー」
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そして放課後屋上にて
「ゆいり、来たよー」
「こんなところに呼び出すんだから流石に何言われるかはわかるよね? だから単刀直入に言うね! ねぇ、蓮……あたし、蓮が好きになった、ううん、もうずっと前から好きなの、だからさ……っん?!」
僕は、ゆいりが言い終わる前に、キスしていた。
自分でもなんでこうしたのかわからないけど、なんかもう我慢できなかった。
「そんなの、僕もに決まってるじゃん、たぶん一年前初めてあった時から僕はゆいりのこと好きだよ……だから僕と恋人になって欲しい」
「うん……うんっ! ありがと!」
ゆいりはすこし涙目になっていた。
僕達はそのままもう一度口付けをしあった。
その日は、二人で初めて恋人繋ぎで手を握りあいながらゆっくりと帰路についた。
こうして僕達は恋人になった。
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僕は左手に懐かしい感覚を感じて目を覚ました。
誰かが僕の左手を握ってくれている。
「ゆいり………?」
ぼんやりとする眼で手の出どころをみると
「華憐……」
華憐が僕の左手を握ってくれていた、その隣にはミーナもいる。
二人とも寝ている。
昨日はどうしたんだっけ、たしか……
「あら、やっと起きたのね、体調はどう?」
僕が記憶を思い出していると、クルアがやってきた
「クルア、大丈夫だけど、二人は?」
「カレンとミーナはレンが目を覚まさないし、たまに苦しそうにしてたから一晩中看病してくれてたのよ、もちろん私も」
「そっか、ありがと、心配かけて悪いな」
「ほんとよ、今日は一応大事をとって何もしちゃダメよ、寝てなさい」
「わかったよ」
まぁ、僕も流石にそこまで心配かけるつもりもないので大人しく言うことを聞くことにした。
「二人とも、ありがとう」
僕は寝てる華憐とミーナの頭を軽く撫でてお礼を言ってからもう一度眠ることにした。
もし、また夢を見るならあの頃の夢がいいな




