4話 朝の騒動
◇◇レンside◇◇
「………ん」
僕は首の痛みで目を覚ました。やっぱり枕が必要だ。
いつもはまだ寝ている時間、こんなに朝早く起きるのなんて久しぶり、なんだか温かくて、ぼーっとしているとだんだん脳が覚醒してきて、ゆっくりと瞼をあけてみる。
そこには、美少女がいた。
小さな顔に形のいい鼻、小ぶりの口元はムニュムニュと柔らかそう……まつ毛ながいなーなんて考えてると、大きな瞳がパチリとひらいて、目がバッチリと合う。
わぁお、こんなラブコメテンプレみたいなイベント気まずいよ。
僕はどうしたらいいか分からなくて、とりあえず見つめ返した。
すると、彼女……華憐さんは起き上がって、もう一度僕のことを見る。
「おはよー、華憐さんいい朝だねっ!」
とりあえず、元気よく朝の挨拶、おはようとおやすみといただきますを言えないと人間の名折れだよね!
すると、華憐さんは周りをぐるりと見回して、俯いて顔を真っ赤にしたかと思ったら、
「……おはようございます………」
と、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で言った。
うーん、とりあえず僕は出た方が良さそうだ。やっぱり、華憐さんもこの状況は気まずいよね。ここは男の僕が気を使わなきゃ。
「うん、僕は外でてるから、落ち着いたら華憐さんも出ておいで」
と、言って僕は外に出た。
朝日を浴びて、うーーーんと一伸び、そういえば昨日から体洗ってないなー、昨日動き回ったから汗かいたし……湖だと華憐さんに丸見えだよね? 少し川のほうまで行こうか。
「水浴びしよーっと」
僕は川に向かって水浴びをしに行くことにする。
川は滝壺の湖から流れているため割と近いところにある。
「冷たっ!」
少しだけ川に手をつけてみると、予想取り流れる川は冷たかった。もっと夏とか猛暑の日には気持ちいいだろうけど、この夏になりきってない時期だと冷たくて風邪をひきそうだ。それに僕、寒いの苦手だし……。
「お湯が欲しい……」
まぁ、そんな贅沢なものは無いし、昨日の汗で気持ち悪いからワガママ言ってないで入ることにする。こんな森の中で誰かが覗きするとは思えないし全裸でいいか。
「それにしても、綺麗だなー……ひょえっ!」
服を脱いで、日本の都内の臭い! 汚い! 気持ち悪い! みたいな悪口三コンボの川みたいじゃなく水底の砂利までしっかりと見える川に足をつけると、冷たくて変な声が出ちゃった。僕の大事なところがキュッてしそう……分かるかな?
「うぅ……さぶっ……」
そんな文句を言いながら、身体を洗っていく。洗うと言ってもハンカチで拭くだけだけど。
最後に気合を入れて水を頭から被って、水を弾くために頭を振ってると、
「ん? なんだろ?」
水深の深いところに何かが動いたような気がしたのでよく見てみる。なんか、森の方でも動いたような気がするけど……。
「魚? 大きいな、とるしかないか……」
よく見てみると、それは鯉くらいの大きさのかなり大きい魚が僕の目の前をあほ面下げて呑気に泳いでた。なんだか、泳いでる魚見ると食べられる食べられない関係なしにとりたくなるよね!
そう思ったら行動するまで! 僕はそろりそろりと気配を殺して近づいていく。そして、獲物が警戒心もなしに僕の目の前を泳ぎかかった! くらえっ! ルパンダイブっ!
ばっちゃーーーーーん!!!
「ぶはぁっ! とったどおおぉぉぉーーー!!!!」
川から顔を上げると、僕の腕の中には魚がいた。まさか、あんなふざけた飛び込みで取れるとは思わなかった。それほどこの魚はマヌケだったのか。
それから、なんだか楽しくなってきたから、頭上に掲げて踊ってみた。
「わーーーはっはっはっはーーー!!」
高笑いしてるけど……うん、やめよう。冷静に考えたら全裸でこんなことしてたらダメなやつだ、一人でやっててもつまらないし。
川の水を再び被って冷静になった僕は、とりあえず捕まえた魚は華憐さんに食べられるか見てもらうとして、日向でしっかりと日向ぼっこして体を乾かしてから服を着てかまくらのところに戻った。
■■
◇◇カレンside◇◇
「男の人と寝ちゃった男の人と寝ちゃった男の人と寝ちゃった……」
朝、目が覚めたら蓮くんが目の前にいてビックリしました。そのせいで起動するまで時間かかっちゃった。
「どうしよう、私はもう大人の階段を登ったの……?」
男性経験なんてない私はパニックです。とりあえず、体の不調は……ない、貞操は……守られてる! 大丈夫でした。
まだ、恥ずかしながら処女です。オタクな私に恋愛感情を向けてくる男性なんていませんですしね。変な下心持った人には何回か声をかけられることもありましたが、その度に全力で逃げてました。
それにさすがに初夜が寝てる間にいつの間にかっていうのは嫌ですから。
「でも、なんで隣で、蓮くんは寝てたのでしょう?」
私は昨日のことをゆっくり思い出します。
思い出します……。
思い出します……。
思い出しました。
私のせいです。
私が一緒に寝よなんて言ったから、蓮くんに気を使わせちゃいました……思い出したら、恥ずかしくって顔が熱くなるのが分かります。
でも、逆に一晩中一緒にいたのに何もされなかったのは、なんか女としてはちょっと複雑です。そんなに魅力ないでしょうか? まぁ、蓮くんがそんなことするわけないですね。
「うん、蓮くんは優しいですね」
私のわがままにも文句言わず付き合ってくれましたし。なんだか、ほっこりしてきて落ち着きました。
外に出て朝日を浴びます。
「うーーーんっ」
基本的にどこでも寝れる私ですが、さすがに土の上だと体が痛いです。骨がボキボキなってるし。
蓮くんはどこいったのでしょうか? 姿が見当たりませんね。
「まぁ、蓮くんなら大丈夫だよね、ん?………クンクン……ちょっと匂うかな? 水浴び行こう」
私はしっかりと目を覚ますためと、昨日動き回って汗をかいたし、体の汚れを落とすために水浴びしに川に向かうことにしました。臭うのは気になりますし。
私も水浴びは行水とか、ワイルドな女になりましたね。
水浴びするために川に向かって歩いてると、川の方向からバチャバチャとなにか聞こえます。
私はまた昨日みたいにクマでもいるのかと慎重に物陰に隠れながら近づいていきます。
はたして、その先にいたのは……。
「……はっ! 蓮くん……??」
なんということでしょう、川には蓮くんが水浴びしてました。
もちろん全裸です。
全裸……。
「キャッ………」
私はその事実に気づいて、とっさに顔を掌で覆いました。
ですが、指のあいだは空いていてガッツリ見てます。違うの! 見たい訳じゃなくてっ! 見たい訳じゃ…………ちょっと気になるじゃないですか……。
「はわわわわ……」
蓮くんの身体は綺麗です。
長身で引き締まった肉体美、綺麗に割れた完璧なシックスパック、濡れた髪は垂れないように上げられて、爽やかに磨きがかかっています。
そう、まるで川が蓮くんのためにあるよう……。
時間を忘れたみたいにもはや隠す気もなくじーーっと見つめていると、蓮くんがいきなりこっちに体を向けました。
「はっ……バレた?」
私はとっさにしゃがんで、おそるおそる見てみます。
「なっ………お、お、おおお、大きい………/////」
具体的に何がとは言いません! 何がとは言いませんが、弟のはあんなにちっちゃかったのに……びっくりです/////
蓮くんはなぜか水面をじーーーっと見つめています。
どうしたんでしょうか?
「蓮くん、何をしてるのでしょうか??」
そう呟いた時、蓮くんがいきなり水面にダイブしました!
ばっちゃーーーーーん!!!
「え? 蓮くん?」
私が戸惑っていると、ドバァ!!っと水面に蓮くんが戻ってきました。
蓮くんの手には大きな魚が掴まれていてピチピチとはねてます、蓮くんのは……ブルンブルンしてます/////
「とったどおおぉぉぉーーー!!!!」
蓮くんは魚を両手で掲げならがクルクル踊ってます。
裸であれはまるで原始人のよう、魚はピチピチしてます、蓮くんのは……ブルンブルンしてます/////
「わーーーはっはっはっはーーー!!」
ピチピチ………ブルンブルン……/////
ピチピチ……ブルンブルン……/////
私は、昨日一日蓮くんと一緒にいて気づいたことがあります。
蓮くんはときに馬鹿です。アホかな? まぁ、その類の人。
不可解な行動や言動をとることがあります。
私はなんだか満足しちゃって、ふらふらとしながらゆっくりかまくらに戻りました。
■■
◇◇レンside◇◇
僕は水浴びが終わって、かまくらに戻ってきた。魚はもちろん持ってきてる。素手掴みで魚をとる才能みたいのがあるのかな? 魚がピチピチする。
「華憐さん、起きた? おはよう! 見てよ! ピッチピチとりたての魚! これ食べれる?」
戻ってきたら、華憐さんが起きてたから鑑定を頼む。もしも、毒とかあったらやばいからね。
「ピチピチ……ブルンブルン……私は痴女じゃない……」
なんかよく分からないことを言ってるけど、どうしたんだろう?
「華憐さん? 大丈夫?」
「ブルンブル……はっ! 蓮くん! 私は痴女じゃありません!」
おっと、いきなり何言ってるだこの人は、昨日から思ってたけど華憐さんって時々不可解なこと言うよね。
「ん? 痴女? 何言ってるの? それより、この魚食べれる?」
「あ、はい、ちょっと待ってくださいね、『鑑定』発動! ………と、巨大魚の稚魚見たいです」
「え、これで稚魚なの?! びっくりだ……稚魚なら戻してくるか」
「はい、それがいいと思いますよ、でっかい方が美味しいみたいですし」
「わかったー、戻してくる」
僕は稚魚を逃がしにいく。
「さっきの華憐さん顔真っ赤だったけど、大丈夫かな? 風邪かな?」
風邪なら無理させるのはまずいよね。ここに風邪薬なんてないし、あとまだ環境が悪い。
稚魚を逃がして、戻ってくると華憐さんがクマの肉を焼いていた。
さっきよりは顔色は普通みたいだ、風邪じゃ無さそうだし大丈夫かな?
「蓮くん、お肉焼けましたよ」
そう言って、串替わりの木の棒に刺さったクマ肉を差し出してくれる。昨日と変わりなさそうだし大丈夫そうだ。
「ん、ありがとう、んーーやっぱり塩ほしいねー」
やっぱり、調味料は偉大だったんだね。昨日からしみじみと思うよ。
「そうですね、塩ってどうやって作るんでしょう?」
「んー、やっぱり海? 川があるから下れば行けるかな?」
あとは、岩塩とかが見つかれば塩に出来るんだっけ? こういうのはよく分からないな。
「でも、遠そうじゃありません??」
「それもそうかー、まぁ、そのうちだなー」
今の何も無い状態じゃ海に行けたとしても死ぬだけだから諦めよう。
「ですね、今日やることは道具作りですか?」
「そうだね、食べ物はクマの肉とかまだ結構残ってるし、腐らないようにだけすれば大丈夫かな」
と、今日の行動方針を決めながら朝食を食べ、それぞれ行動を開始した。
うーーん、やっぱり塩欲しいなぁぁ