26話 スライム
◇◇カレンside◇◇
私は朝から少し不機嫌ですって雰囲気を全力で出してる。
なんでって? そんなのミーナと蓮くんが朝からベタベタだからだよ!
昨日せっかく蓮くんともっと仲良くなれたと思ったのに!
ミーナに腕とか組まれちゃって! なのに満更でもなさそうで、二人に「お二人は付き合ってるのー?」って聞いても、二人とも違うって言うし!
それに、『私!不機嫌です!』ってアピールするためにフグの真似してほっぺ膨らましてみても、蓮くんにぷにぷにつつかれるだけだし!
もう! なんか私だけ仲間はずれな気がして悲しいよ! こうなったら蓮くんの反対の腕は私が繋いでやる!
「ほら! 蓮くん!湖の東側に行って、南国エリアの畑作るよ!」
「ちょっ、華憐?! 引っ張らないでー」
ふふっ、華憐って呼び捨てもなんだか耳に心地いい。乙女ゲーとかの親密度が上がった感じ?
「わー、カレン様、私のレン様を取らないでください!」
「うおっと!?」
と、ミーナが蓮くんの腕を引っ張って自分の元へ引き寄せる。
なんか、このままにするとなんか負けた気がするな~、よしっ!
「蓮くんはミーナのじゃありませんー!」
「おわっと!?」
今度は私が蓮くんの腕を引っ張る。
よしっ! 今度は私の方が近くなったね! どうよミーナ!
「カレン様のものでもないじゃないですか!」
「あわっと!?」
む~、懲りないエルフ。こうなったらもう女の意地だね!
「二人とも、僕は! 僕のものだァー!!」
「「うるさい!!」」
全く、女の意地の張り合いに割り込んでくるなんて、これだから蓮くんは。そんな何て理不尽なっ! って顔してもだめだよ。
それから、蓮くんを黙らせた私たちは、キャットファイトしつつ南国エリアの予定の所に到着した。
■■
「そもそも、ここ南国じゃないけど育つのかな?」
南国エリア予定地に着いてから作業を始めて蓮くんが今更なことを聞いてきた。
「どうだろう? 柿ピーを使うんだし大丈夫だと思うけど」
「まぁ、あの不思議な種ならどうにでもなるか。じゃあ、さっそく木を切るところからはじめるかー、久しぶりの木こり!」
そこからはいつも通り蓮くんが木を切って、私とハルちゃんで枝葉をとり、コロッケとポテトが木を運んでるというパターン作業の開始。
ただ、いつもと違うことがひとつ、それは蓮くんに木を切ることを教えてもらってるミーナ。
私も前に教わろうと思ったけれど、非力な私だとどうしても斧が上手く振れなくてできなったんだよね。ミーナはさすがエルフというべきか、人間よりも身体能力がいいからうまくやれてるみたい。なんだか、悔しい……。
「私には私にできることをやろう!」
とっ、ミーナと蓮くんをちょっと不満げに見て、自分の仕事に戻ろうと思った時、森の方にプルんとしたものが見えた。
「………あれはまさか」
私はいったん自分の仕事のことは頭から離れて森に向かって走る。私の予想が正しければあれは異世界の風物詩で、色々な色がいて、エロ同人とかでもお馴染みの……。
「スライムだぁー!」
そう! ぷるんっ、としたあの水色のスライム! ひょーーー! こんなに早く出会えるなんて! テンションあがる!
「わぁー! プルプルしてる! 服とか溶かすのかな? エロスライム?」
私はスライムをつんつんしてみる。襲ってくる様子は無さそう、ぷるぷるしててひんやり、それに服の裾で触ってみたけど服が溶けるスライムじゃない、健全なスライムだ! あれ、なんだか意思を伝えるみたいに動いてる?
「スライムとも会話できるかな? 『言語』! 話せますか? スライムさん」
私はつんつんしながらスライムに語りかけてみる。
スライムはプルプルしてる、やっぱり会話できない? そもそも口とかあるのかな?
ポフンポフンっ。
「ん? 今声がした?」
うーん、スライムは跳ねてるだけだけど、さっき声が聞こえてきたような……。
ポフンポフンっ。
「あ、やっぱり声が聞こえる……あなたが話してるの?」
プルプルプルプル。
「やっぱり! こっちきて、あなたのこと見せたい人がいるの」
スライムは言葉を話さない代わりに意志を伝えられるみたい。ていうか、私すごい! まさか魔物のスライムとも話せるようになるなんて!
私は蓮くんにも見せようと思いスライムを抱っこして蓮くんのところに戻ることにした。
「蓮くーーん! 見て見てーー!」
ミーナは別のところに行ってるのか蓮くんは一人で木を切ってた。
「んー? どしたの華憐さん?」
私は、自慢するように抱っこしてるスライムを蓮くんの前に出す。
「スライム見つけたの!」
プルンプルンっ。
「わっ! ほんとだースライムじゃん、ひんやりしてるなー」
やっぱりラノベ好きの蓮くんも本物のスライムにテンションが上がったのか、愛犬を可愛がるみたいになでなでしてる。
ポフンポフンっ。
「汚い手で触るなスラ! って言ってるよ? 綺麗好きなのかな?」
「え、スライムしゃべるの?」
「ううん、喋らないけど『言語能力』のおかげで意志を伝えてきてくれるのが分かるの」
「へぇ、本当に便利な能力だね。僕にはただプルプルしてるようにしか見えないや」
私の能力に感心してくれた蓮くんとスライムを観察してると、賑やかな声が聞こえたのかミーナもやってきた。
「見て、ミーナ。さっきスライム見つけたの」
すると、ミーナはすこし驚いた表情をした。
「野生のスライムなんて珍しいですね」
「えっ! 野生のスライムって珍しいの?」
そこらへんに普通にいると思ってなーんで会わないんだろうな~って思ってた私にミーナはこの世界のスライム事情を話してくれた。蓮くんも私と同じように思ってたのかミーナの話を真面目に聞いてる。
ミーナが言うには、スライムはヒト族が狩りつくしたり乱獲しまくったせいで野生ではもうほとんどいなく、大体のスライムは家で飼われていて掃除をしてくれるそう。ルンバ? ルンバスライムってこと? 一家に一台スライムを! って感じかな。
ていうか、この世界のスライムは綺麗好きなんだね。だから、蓮くんの汚れた手で触られるのが嫌だったわけだ。
「ただ、スライムも魔物なので成長します、成長して大きくなったスライムは分裂させられて売られます。スライム屋もいますしね」
わぁお、スライムも大変だ、スライムに人権はないのかな? 私の腕にいる子とかちゃんと自分の意思を持ってるのに。
それとスライムは分裂して増えるのでこの世界のある学者が『スライム統一論』。この世にいる全てのスライムはたった一体のスライムの分裂体であるという論述を提唱もしているらしい。それが、人々に読まれ大ブーム、唯一神スライムがいると信じ込み宗教に発達し、スライム教という宗教が出来たそうな。
スライムの歴史、深い……。
「そのスライムは飼うのですか?」
掃除してくれると助かるけど、あんまり強制とかはさせたくないなぁ。でも、このまま放置してほかのヒト族に見つかれば捕まっちゃうよね、こんなにきれいだし。
「うーん、どうする? あなたうちに来る?」
ポフンポフンっ。
「そう? じゃあこれからよろしくね!」
スライムは「掃除は任せるスラ!」と言うので、今日からうちで飼うことにした。それならせっかくだし、名前を付けてあげよう!
「お名前何にしてあげよう? んー、スラちゃん……ちがうな~。一家に一台……ルンバ……ルンちゃんにしよう!」
華憐命名:スライムのルンちゃん。
こうして今日からスライムが仲間になりました。




