226話 いざ行け! ブリリアント王国! (夢幻世界)
◇◇レンside◇◇
「……はっ!?」
今、ぼぉっと意識が飛んでいたような? ていうか、さっきまで戦闘中!
僕は咄嗟に我に返ってあたりを警戒する。
「……ここは、どこだ?」
段々と目が覚めていくと、自分がさっきとは違う場所にいることに気が付いた。
「ふぁっ!?」
っと、背後からシンパシーを感じる声が聞こえた。
振り返ってみると、そこには予想通りルカがいて、突然我に返ったのに驚いたのか尻もちをついてた。
「ルカ、大丈夫?」
「あ、レン……ふっ、問題ない! って、ここは?」
「いや、僕も分からないんだけど」
僕たちがいる場所は先が見えないほど遠くまで続く地平線とピンクや紫、薄緑に黄色と様々な色に変わる空、確かにここに立ってるはずなのにどことなくフワフワした感覚があって立っているのにそんな感じがしない不安定な地面、そして至る場所で区間の歪みが発生してるっていう奇妙な場所だ。さっきまでいたベットだけがあった無骨な部屋とは大違い。
「うーん、この空間全体から微弱だけど『夢』の勇者の神気を感じるよ」
じっと目を凝らして空間を見ていたルカがそう言った。
そういえば、ここにくる直前に巨大魔法陣をノノちゃんが発動させたっけ。
「ということは、転移の魔法……いや、これが異界魔法ってやつかな? 初めて受けたけど」
前にクルアに魔法を教えてもらったころ、結界魔法や空間魔法、幻影魔法などを使う特殊な魔法使いは自ら自分の得意な環境に整えた異世界を作り出し、そこに敵を閉じ込めて戦う人もいるって言っていた。それがこの空間だろう。
「正解なの~」
するとそんな声と主にぐにゃりとゆがんだ空間の一部からノノちゃんとさっきまで無双に近いことをしてたのに今はすっごく眠そうなネネちゃんが出てきた……ネネちゃんの槍だったであろうベットに乗りながら。
いや、なんていうか微笑ましいよね、あそこだけ見てたら。
戦闘中なはずなのにあの眠気顔、ほんとに寝るのが好きなんだなっていう呆れの視線を向けてると、槍を構えたノノちゃんがベットに立った。
「さて、お待たせしましたなの~。ここからはノノもちゃんと相手するの~、もちろんネネも相手するの~」
「……なの」
「もう、ネネったらこういう時はしっかりするの~」
なんだか二人のセリフが言った人が変わったような気がする。
ネネちゃんはごしごしと目をこすって大きなあくびをすると、ノノちゃんと同じようにベットの上に立ちトロントした目を向けてきた。
……迫力がないね。
「それじゃあ、ネネも準備できたし第二ラウンドなの~。まずは天使さんからなの~……ってことで、『でっかい壁』! なの~」
ノノちゃんがそう言って、構えていた槍を振り下ろすと「ゴゴゴゴゴゴゴ!」って音とともに地面が揺れ始めた。
「とっとと、なんだ?」
「レンっ!?」
突然の揺れに耐えてると、いち早く異変に気が付いたルカが慌てて僕の方へ近づいて来ようとしたが、それは叶わず、僕とルカの間を勢いよく突き出てきた壁によって阻まれた。
その壁は長さ、高さ共にどこまでも続いていて向こう側に行けそうにない。僕とルカは完全に分断されてしまった。
「ルカっ! 聞こえるか!」
「残念だけど無駄なの。この壁は、というよりこの世界はあなたたちの都合の悪いようにできてるから声が届くことはないの、もちろん念話の類も通じないの」
壁の向こうに向かって声をかけてみたり、念話で声をかけてみたりしたけど言われた通り完全に遮断されてるようで返事は帰ってこなかった。
「なら、この世界から出る方法は?」
「うーん、ノノを倒せば出られると思うの」
「じゃあ、さっさとこの壁壊して倒しに行くか」
僕は左腕の義手に神気を集めて思いっきり殴りつけた。
大きな衝撃音と共に少し地面が揺れ、自分的にはかなり強力なパンチを繰り出したと思ったのだけれど、しかし壁には穴どころか傷もついてなかった。
「無理なの。さっきも言った通りこの世界はレンの都合の悪いようにできてるから壊すことなんて出来ないの」
それはそれは、何とも理不尽な世界なこった。
「それに、壁を壊せるとしてもネネが見逃すと思うの?」
「でも、ネネちゃんはすっごく眠そうだし、さっきみたいに全く驚異に感じないけれど? それでも僕に勝てると?」
「まぁ、確かにネネは眠たいの。それに『覚醒』が無いと勝てないのも分かってるの。けど、ノノが来るまで時間を稼ぐ位なら出来るはずなの。ノノさえ来ればネネが戦わなくても済むの」
時間を稼ぐ、ね。またなにか大魔法でも仕組んでるのかもしれないけれど、ここで先にネネちゃんを抑えた方がいいかもしれない。
そうすれば後のノノちゃんの戦いで二対一で優位に戦える。ならここでぱぱっと終わらせちゃうか。
「それじゃあ、ノノちゃんが来る前にネネちゃんを先に倒すとするよ」
「そうだけど、今のネネじゃレンには勝てないだろうけど、そう簡単に負けることのないのーー『寝る子は育つ』!」
ネネちゃんが技名を唱えた途端、さすがに僕もびっくりな現象が起こった。
淡く金色にネネちゃんの身体が光ったと思ったらニョキニョキニョキとその身体が大きくなり、大きくなり………さらに大きくなって、僕の背丈を超え、家の大きさを超え、学校の校舎くらいの大きさになった。
「うわっ、でっか!!」
え、えぇーっ?! 寝る子は育つって育ちすぎじゃない?! 何事も限度ってことが……。
「なぁぁぁのぉぉぉ!」
すると、巨大化ネネちゃんが腕を振りかぶったと思ったら、大きくフルスイングでパンチを繰り出してきた。
けど、その速度は大きさ故にかとてもゆっくりに見える。
「これなら立ち向かえ……やっぱ無理ぃぃぃーー!」
ゆっくりに見えたそれはブラフ! 徐々に近づいてきたそれはそれなりの速さで、地面のすれすれを通れば風圧だけで抉るほどの威力もあった。
あんなの真正面から喰らえば一溜りもない! レオの突進は受け止められたけど、今回のは物量が違うんだよ!
僕は逃走を選択。スタコラサッサと全力で逃げることにする。
が、突如地面から壁がせり上がり、僕の行くてを阻んできた。それはあまりに突然のことで、そしてなにより目の前に現れたため激突するのは当然とも言えた。
「うぇっ?! ブッ! なんでいきなり……って、ヤバっ!」
そう思ったが最後、振り向けばもうすぐそこに巨大な拳が迫っていて……。
ドッゴォォォォオオオオン!!
拳が直撃した壁は僕が殴っても壊れなかったはずなのにあっさりと破壊された。
そして壁と拳に挟まれた僕はと言うと、
「うおぉぉぉぉーー『神気解放:一瞬だけ天照大神』!」
「なぁぁのぉぉー?!?!」
エリュシオンを一瞬だけ五メートルの大きさにし、両手でそれを盾にするように構えてなんとか受け止められた。
ネネちゃんが驚愕の声を上げる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
なんともまぁ、僕達に都合の悪い世界とはこうも理不尽とは、突然あんなところから壁が出てくるなんて誰も思わんだろ。まさか、あまちゃんの力を借りるとは。
けど、『神気解放:天照大神』は一瞬だけでもあまり使いたくなかった虎の子の切り札だ。あとの反動が怖い。
僕はすぐに解除すると、真っ直ぐにネネちゃんのベットに向かう。
あんな巨大なネネちゃんに直接攻撃したところでろくなダメージを与えられるとは思えない。それならばネネちゃんを巨大にしている原因であろうあのベットを叩いてみる方がいいかもしれない。
ネネちゃんは次に僕を踏み潰すつもりか、足を振り上げ振り下ろしてくる。
あんなのに踏まれたらありんこみたいにプチッといっちゃうよ! プチっと!
でも、全力で走れば速さは僕の方が上! これなら受ける前にギリギリ範囲から逃れられる。
そうして、迫り来る足裏から逃れる寸前、
「やっぱりそう来ると思ったよ!」
再び突如目の前に壁が現れ、僕の行く手を阻んでくる。
が、それを予測してた僕は逆に壁を足場にし反転。その際に夜明けの翼を顕現し、低空飛行で一気に後退して避けた。
攻撃範囲から逃れた僕はそのまま上昇し、エリュシオンを構え、空中でもう一度反転してからベットに向かって急降下する。
「はぁぁぁぁぁ!!ーー『夜明けの彗星』!」
空から迫る僕を捕まえうとネネちゃんは腕を動かしてくるが、一筋の光と化した僕を捕まえることなどできない。
そして、ベットとすれ違ったその一瞬に切り結び、ネネちゃんのベットを真っ二つに割った。
「なぁぁのぉぉぉぉおおおーー!!」
ネネちゃんはまた身体が金色に光ったと思ったらしゅるしゅると収縮していき、元の大きさに戻って、地面にペタンと座り込んだ。
「あ、あぁ……ネネの、ネネのベットが……」
途端に真っ二つなったベットを見てしくしくと泣き始める。
え、いや? そんな泣くことなの……? それに元々は槍だったんだから戻るんじゃ……あ、うん、僕が悪かったからそんなに睨まないで?
「ネネの、ベットォォ……」
す、すごい執念だ……。これはパンドラの箱を開けてしまったか……? なんか、さっきとは違う変なオーラ出てるし。
そう、僕がネネちゃんに戦々恐々してると、
「あ〜! ネネのベットが真っ二つなの〜」
僕とルカを隔ててた壁に人一人くらい通れる穴が空いたと思ったら底からノノちゃんが現れた。
え? あれ? まだ、戦って五分も経ってないはず……。それなのにこの子が来たってことは……いやいや、ルカがそう簡単に負けるはずが無い。
「ルカはどうした?」
「天使さんのことなの〜? それなら、もう倒したの〜」
■■
◇◇ルカside◇◇
「う……ん……?」
ゆっくりと目を開ければ真っ暗で何も見えない空間が広がってた。
私、また意識を失ってた……?
そんな戦闘中なのに何度も何度もあるわけ、っと思いながらも床に倒れてるこの状況からすればそうなのだろうけど。
一体どうやって『夢』の勇者に何をされたのか思い出そうとするも、頭に靄がかかったように思い出すことはできなかった。
仕方ない、とりあえずまずはここが何処なのか確認を……。
ふと、私は妙に体が重く手足に異物的な違和感を感じた。
カラン……。
そんな固いものがぶつかり合う音が無機質にこだまする。
そこに視線を向けて見れば、私の手足は手錠と、足枷で拘束されていた。
それを見た瞬間、ドクンッと自分の心臓が大きく跳ねるのを感じた。血の気が引いていき嫌な冷や汗と共に恐怖が私を襲う。
嫌だ、嫌だ、そんなはずない! そう、現実逃避をしようとするけれど、徐々に暗闇に慣れてきた目で見てしまう……五感で分かってしまう。
見覚えのある壁、天井、床、鉄格子や棚に置いてある用途が分からない器具、重苦しい空気と気持ち悪い甘い匂い。
私はこの場所を知ってる。忘れたくても忘れたくても、忘れられない……。
その時、どこからか足音が聞こえてきた。
ゆっくりと私を嬲るように聞こえてくる足音……。一気に恐怖が押し寄せてきて無意識のうちに拒絶反応を起こす。
そうして、私の前に歩いてきた悪魔は寒気がするようないやらしい目で見て言うんだ、
「よぉ、これからたぁ~っぷり楽しませてもらうからなぁ」
「あ……ぁ……」
ここは、私にとって絶望の場所。そして、悪夢だ……。




