223話 いざ行け! ブリリアント王国! (クルア&オルト VS ボルグ)
◇◇クルアside◇◇
ふふ、何が起きたのかわからないって顔ね。
ボルグはいったん距離をとって警戒するように何が起きたのかを考察してるよう。
けれどやはり分からなかったの、かもう一度確かめるように一瞬の光と音とともに私の目の前に迫ってきて大剣で切り付けてくる。
私は雷を目で追うなんてことはできない、実際本当に消えたように見えるもの。だから反応なんてできない、ただ突っ立ってるだけ。
「だけど、あなたの剣は届かないわ」
ボルグが振るった雷の大剣は私の目の前で止まる。
お返しとばかりに軽く手を振って、風の刃を放つ。
ボルグは後退しながら雷の盾で防ごうとするも、それをものともせず風の刃はボルグを切り裂いた。
「……なぜだ、なぜ届かない!? それに俺の盾も効かないだと……」
「そんなの決まってるじゃない? あなたのちんけな雷じゃあ、私の防壁は突破できないってこと」
「そんなわけがあるかぁぁぁあああ!!」
ボルグは目にも止まらぬ雷の速さで連続で切り付けてきた。
どんどんとバチバチ威力はあがっていくけれど、やっぱりその剣は私に届くことなどない。その間ピカピカゴロゴロとやかましく、耳と目が先に悪くなりそう。
「なぜだ!? こんなにも威力をあげてるのに通らないだと!?」
あぁ、そっか私が防壁って言っちゃったから威力が弱いと彼は勘違いしちゃったのね。でも他になんていえば分からなかったし……空気の層って言えばいいかしら?
とりあえず、また風の刃を発生させてボルグに向かって放つ。
ボルグは今度は雷の盾を使う余裕がなかったのか、その手に持つ大剣で向かいうち上空に跳ね返すことでギリギリ防いで見せた。
そして風の刃と雷を纏った大剣が激突した時、その纏ってた雷だけが消えたことが不思議そうにしてる。
そろそろネタバレをしてあげましょうか。これで一方的にやられて拗ねて相手してくれなくなると困っちゃうし。
「そろそろわかったかしら? 私にあなたの雷が届かない理由が」
「…………」
ボルグが私のことをジトっと睨みつけてくる。それにふふっと余裕の微笑みを返して、ゆっくりと私の周囲を囲うようにしている空気の層を可視化できるように見せる。
「これがあなたの雷を拒んでた正体、ただの空気よ」
そう、私は別にとてつもなく強固な『魔力障壁』を使ってるわけじゃない。実際は私の周りの空気の気圧を操作して高気圧にしているだけ。
昨日、団長さんから『雷将』のことを聞いた時のこと。
『クルア、相手は雷らしいから一つアドバイス。本来空気は絶縁体で雷を通さない、雷等が空気を伝うのは超高電圧によって絶縁状態が破壊されるからなんだよ。つまり空気が高気圧であればあるほど絶縁破壊は発生しなくなる。ということでこの魔法、『気圧操作』。『雷将』と戦う時はこの魔法で常に自分の周りの気圧をこのくらい変化させておいて、そうすれば相手が雷である限り二億V以上は出ないはずだから絶対に雷が届くことはない』
って、レンが私に『気圧操作』という魔法を教えてきた。
「つまり、あなたが雷を使ってるうちは絶対に私にあなたの攻撃は通らないわ」
ちなみに、雷の盾を無視した風の刃は『気圧操作』を応用し魔法の上書きをしたことで、雷に対して絶対防御不可避の風の刃にした。発想や知識ではレンに負けるけれど、レンに魔法を教えた師匠としてはこうゆうところは負けられないじゃない。
「なるほど、実に勉強になった。だが、それを教えていいのか?」
「いいわよ、だってあなたから雷を取ったら何が残るのかしら?」
「……貴様、俺がただ雷だけで将軍になっただけと思うなよ!」
ボルグが大剣を構え、今度は雷にならず走って迫ってくる。
う~ん、人間でいえばかなり早いのでしょうけど、さっきまでピカピカしてたのにはどうしても見劣りしちゃうわね。気持ちゆくっりに見えるし、目が慣れたのかしら?
もちろん私は動かない、動く必要が無いもの。
「某のことを忘れてもらっては困るぞ!」
そんな声と共に私の前に団長さんが割り込んできてボルグと大剣を打ち合う。
ここからは第二ラウンド。相手の雷さえ封じてしまえば常に睡眠状態の不調の団長さんでも相手にできるはず……本当に寝てるのが不調なのかは疑問だけれど。でも、自分で本当の実力が出せないって言ってたし。
ガンッ! キンッ! ドンッ! っと、団長さんとボルグの大剣のぶつかり合う音が響き渡る。
ボルグの言っていた雷だけじゃないっていうのは本当みたいね。
そしてひと際大きな音がして戦闘はつばぜり合いになった。
「って、それはだめよ! 団長さん、すぐに離れて!」
「やはりか、触れてあれば流石に防げまい!」
どうやら、ボルグは頭の回転も悪くないようで高気圧の層の弱点、触れられれば防げないことに気づいていたようで、つばぜり合いになった瞬間自分自身に落雷を落とし、団長さんを巻き込んだ。
閃光と轟音で一瞬目と耳の感覚が鈍くなる。さしもの団長さんも落雷になんて直撃したら無事で済むわけがーー
「「なっ!?」」
それは、私の声とボルグの声が重なった声だった。
視界が戻ってく中、見えたのは体のあちこちから煙を出しながらもしっかりと二本の足で立ってる団長さんの姿が。
「いいビリビリ具合であるな! 某を起こすのにはまだちょっと足りないが、少しは目が覚めたぞ!」
そして、そんなことを言う始末。でも実際何とも無さそう。
「いやいや、おかしいだろ! 何で、雷を直撃してピンピンしてるんだ!」
「そうよそうよ!」
あ、ついつい団長さんの非常識ぶりに敵と同調しちゃったわ。
「はっはっは! 実は某は竜人の末裔で体の丈夫さだけが取り柄であってな、さっきくらいの威力の落雷ならタンスの角に小指をぶつけるぐらいである!」
いや、それって結構痛いんじゃないかしら……? でも、納得できなくはない。過去に竜人の親族がいてその血を引いてるなら、眠りやすい体質もあの体の頑丈さも理解できるわ。流石に眠っているのに起きてるみたいに振舞えるのは異常だと思うけど。
「さて、構えよ。おしゃべりはここまでであるぞ」
すると、団長の纏う空気が変わった。それはまるで一匹の竜と対面しているようなそんな空気。
それに当てられたボルグも顔を引き締め、バチバチと雷を纏っていく。その纏い方は今までのとは違い、部分部分で操ってる。
私も魔力を練り上げていき、いつでも援護ができるようにする。
互いにウォーミングアップは終了、体が温まってここからが本番ってところかしらね。
そして、先に動いたのはボルグだった。
足にのみ雷を纏わせ、雷光の速さで私に迫ってくる。
私に狙いを定めてくるのは予想通り、なんせ私がいなくなれば十全に雷の力が使えるようになるんだから。
しかし、団長も予測してたんでしょう。私の前に立ちふさがってボルグの大剣を受け止める。
すかさず、ボルグはゴロゴロと雷を落とし放電するも、やはり団長に効いた様子はない。
団長はボルグの大剣の力を流し、体重が傾いて隙を見せたところを距離を詰めボルグを蹴り飛ばした。
竜人の蹴り殴りは竜のでやった時の力と同じ威力。純血よりも劣るものの、団長の威力は相当なもののようでボルグは吹き飛ばされる。
「--『竜砲斬』!」
すかさず、団長はボルグに追撃を放つ。竜の咆哮のような巨大な斬撃を飛ばす。
「はぁぁぁぁぁあああ! --『雷抗炎撃』!」
例のごとく雷の盾を何重か重ねて団長の攻撃を防いだボルグは、幾本かの稲妻を走らせ空気との摩擦によって発生した火炎と共に団長さんに反撃した。
すかさず私が団長さんの前に高気圧の層を作り雷を消すも、炎までは消しきれず団長さんに迫る。
「ぬるいわっ!!」
しかし、団長さんは剣風でそれを霧散させる。
その間、私はさっきボルグが迫ってきた時に繋げた影を通ってボルグの背後を取るも、何か感じたのか視線を向けることなくこっちに大剣で切り付けてきた。
それを後方へ飛ぶことで咄嗟に躱し、その瞬間にボルグと視線が交差する。
「いつの間にっ!?」
「さっきかしらねーー『乱風刃』!」
躱しながら魔法を使い、十数個の風の刃を放つ。もちろん、全て雷無効の高気圧付き。
「なめるなぁぁぁぁぁあああああ!!」
ボルグは叫びながら縦横無尽に大剣を振り、全てではないものの確実に致命傷になりうる風の刃だけはすべて打ち返した。
その間に私はさっと距離を取り、対角線上に団長さんとボルトを挟む位置につく。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
流石に二対一はきついのか荒い息を吐きながらも、私と団長さん両方を警戒しながら大剣を構えるボルグ。
きっと彼は今、どうやってここから抜けるか考えているでしょうね。けれど、
「逃がさないわよ。だってまだ戦いは始まったばかりだもの」




