221話 いざ行け! ブリリアント王国! (先祖返りの吸血鬼の本領)
本当はカレンsideを始めようとしたのですが、それだとレンsideが中途半端でややこしくなることに気づき変えました。
◇◇レンside◇◇
翌朝。僕とルカの二人はイグリス平原の上空で並び立つ二つの軍を眺めている。
これからこの場所で戦端が開かれようとしているのだ。僕達がその上空にいるのは、奇襲するのを気づかれないようにするため。
イグリス平原は身を隠せるような障害物などないため、こうして空を飛べる僕達は空から奇襲を仕掛けることにしたのだ。
「しかし、カレンたちはもう王様と接触したなんてね。予定が前倒しになっちゃったけど大丈夫なの?」
僕と同じように眼下を眺めてたルカがそう聞いてくる。
「まぁ、問題ないんじゃないかな? 遅かれ早かれ接触はするつもりだったし、僕達の予定はあんまり変わらないしね」
昨日の夜、華憐から電話がかかってきてお互いの状況を伝えあったところ、華憐たちは半ば強制的に王城にお呼ばれしたらしい。
そこで知らされた驚愕の事実には僕も驚かされたけど、結局のところ今のままじゃいずれ王様と宰相は呪いで死んじゃうし、僕達のやることは変わりない。
華憐に何があったのかは聞かされたけどまた後日ってことで、まずは自分たちのやることを片付けてしまおう。
「あ、ガウルがなにか叫んでる」
ルカの視線を追って僕もそっちの方を見てみると、ガウルさんが剣を掲げながら鼓舞してるようだ。
次の瞬間「うおおぉぉぉぉぉー!」っていう、 兵士さんたちの叫び声が聞こえてきた。どうやら士気は高そうだ。
「うーん、これだけなら体育祭とかの応援合戦みたいなんだけどな」
でも、そんな平和な日本のヌルヌルの感覚は無くさないと。これから始まるは正真正銘の戦争、気を引き締めなくちゃ。
その時、サンクランド帝国軍の方で激しい閃光が走ったかと思った瞬間、雷が落ちたような耳に残る音が轟いた。
いや、それは実際にそこに雷が落ちたのだ。落ちたところにいるのは大剣を掲げて身体に電気を纏わせてる偉丈夫な男。
「あれが、向こう側のキーマンの一人の『雷将』さんか……ほんとに雷を食らってもピンピンしてるな」
オルトさんが教えてくれた、勇者の二人と並ぶ実力者の一人だ。
あまり多くはないけれど教えてくれた相手の情報としては、あの人は雷将と呼ばれてるだけあって、雷魔法を得意としてるらしい。
さっきの雷は彼が自分自身に向けて落とした雷だろう。自分に雷を落とすなんてちょっと頭イッてるような気もするけれど、それはその場に如実に効果を表した。
雷なんて自然現象、そもそも人間が立ち向かおうとは思わないだろう。その稲光に驚き、その轟音に恐慄く。それを真正面から受けたブリリアント王国軍は旗目から見ても狼狽えてるのが分かった。
逆に、それが味方であるサンクランド帝国軍の士気はうなぎ登りだ。
これ、まずいんじゃない……?
「なぁ、ルカ。ちょっと様子みて不味そうだったら、もしかしたらルカにも向こうに応戦に行ってもらうかもしれない」
僕一人でも『神気解放:天照大神』を使えば大丈夫だろう。まぁ、使った後にまた反動で寝込むことになるかもだけど、最悪は避けられる。
ということで、ルカにそう言ったんだけど、等のルカは僕と同じ両軍を見て「なんで?」って顔してた。
「レン、あそこにいるのが誰か忘れたの?」
その時だ、ブリリアント王国軍からさっきの落雷と負けず劣らずの轟音と共に、黒い稲妻が走った。
かと思えば、青空が見えていた空がどんよりとした黒い暗雲に包まれ、度々至る所から黒い雷が落ちる。
「ふっ、クルアは先祖返りの吸血鬼。真の力を解放すれば、矮小な稲妻など恐るるに足ることはないのだ!」
◼◼
◇◇クルアside◇◇
「……なんて言ってそうね、あの子なら」
イグリス平原に落ちる黒い稲妻見ながらそんなことを考える。
一瞬でも天候を変えるほどの大魔法、『黒き稲妻の奔流』。普段はこんな大掛かりな大魔法を使うことはないのだけれど、私も久しぶりの戦闘で気が昂ってるのかしら? それとも昨夜はレンの血を満足するまで吸ったから? まぁ、なんであれあんなちっぽけな雷を見せられたらお手本を見せなきゃよね。
「さぁ、団長さん。挨拶は返したわよ、次はあなたの番じゃないかしら?」
未だ、私が放った魔法をみて唖然としている騎士団長さんに声をかけて正気に戻す。
「あ、あぁ……どれくらいの強さかと思ったら全く予想以上であるな。よしっ! 兵たちよ! 見たか! ここにいるクルア殿は百人力! 奴らの雷など恐れることはない! 我らの勝利は揺るがぬものだ!」
そう、騎士団長さんは兵たちを鼓舞する。
すると、私の魔法を茫然と見ていた兵たちも現実に戻ってきて、団長さんが言ったことを噛みしめるように声を出し始めた。
「勝てる! これは勝てるぞ!」
「あぁ! あの黒雷、まるで目が覚めるようだ!」
「俺はやるぞぉぉぉおおお!」
「「「「うおおおおおおおおお!!」」」」
……なんだか、ほとんどの兵が寝不足だからかしら? 深夜テンションみたいね。でも、これで相手に気圧された士気は回復した。準備は万端、ならばあとは。
「行くぞ! とぉぉぉおおおおつげきぃぃぃぃいいい!!」
「「「「うおおおおおおおお!!」」」」
団長の掛け声と主に、走り出す兵士たち。
サンクランド帝国軍も同じように私たちに向かってきて、ついに戦端が開かれた。
「さて、団長もいっちゃったし、私も行きましょうか」
私は、踵に軽く魔力を込めて、トンっと地面を優しくたたく。
すると、たちまち私の影が変形し、私はそこに吸い込まれるようにその場から消える。
『影繋ぎ』という魔法を使って、私の影とこの戦場にいる誰かの影を繋げた。そうすれば、吸血姫の特性でその影間を移動することができる。
そうして、次に私が現れたのはちょうどブリリアント王国の兵にとどめを刺そうとしてるサンクランド帝国軍の兵の影だった。
「『魔力撃』」
「なっ!? 貴様、いったいどこか……ら……」
「ごめんなさい。咄嗟に使ったから手加減しきれてないかもしれないわ……って、もう意識はないわね」
まぁ、魔力撃はその人の魔力を乱すだけの魔法だから、死ぬことはないでしょう……運が悪くなければ。
「あなたも早く後退して治療してきなさい。ここは私が引き受けるわ」
「は、はいっ! 感謝します!」
私が突然現れたことに驚いてまだ立ち上がってなかった兵士さんにそう言うと、彼は急いで後方の医療班の下へ向かっていった。
それを見送った私は次の敵を倒しに……って、あら?
「こ、こいつ只者じゃないぞ! 油断するな!」
「「「はいっ!」」」
振り返れば、本能で吸血鬼とただの人間の差を感じたのかしらか、最大限の警戒をしつつ一定の距離をとって囲むようにする敵の一部隊がいた。
バカね、近接戦闘ができないわけではないけれど、私は魔法使い。それなら魔法を打たせないよう距離を詰めて戦うのがセオリーでしょうに。警戒してやってこないなら遠慮なく魔法をぶち込んであげましょうか。
「次はあなたたちね? 『エアロ……」
「まずいっ! 奴に魔法を打たせるなっ! いけぇっ!!」
「……バースト』!」
「「「「うわぁぁぁぁぁあああ!!」」」」
全方位から私に襲いかかってきた敵兵は、私を中心に発生した爆発的な暴風によって吹き飛ばされていった。
「残念、惜しかったわね。まぁ、もし届いてても結果は変わらなかったでしょうけど。それじゃあ、次は……」
右手に魔力をため水の魔法陣を、同じく左手に風の魔法陣を発動させながらゆっくりと私を遠巻きに見てる敵兵さんを見すえる。
「レンに頼まれたら、手加減してあなたたちが即死するような魔法は使わないけれど、それでも十分あなたたちには脅威だから覚悟しなさい」
そうして私は、両手を掲げて魔法を放った。
吸血鬼の本領は夜だけれど、一線をがした吸血鬼は昼の太陽なんて凌駕しているのを教えてあげるとしようかしらね。
 




