218話 いざ行け! ブリリアント王国! (ブリリアント王国軍の現状)
◇◇レンside◇◇
「えーと、それじゃあまずは、これを読んでください。ギルド総長のガウルさんからオルトさん宛ての手紙です」
そう言って僕はガウルさんから渡された手紙をオルトさに渡す。オルトさんは目も開いてないのによどみなく僕から手紙を受け取って封を開け始めた。
この人、本当に寝てるんだよね?
「ふむ、ガウル殿からの手紙か、どれどれ……おっと、某は今寝てるのであった。これでは文字が読めん、済まないがケイトよ、読み聞かせてくれ」
「了解しました!」
…………本当に寝てるんだよね?
僕たちを砦の入り口で検問しここまで連れてく来てくれた騎士さんはケイトさんという名前らしい。オルトさんはケイトさんに手紙を渡すと、腕を組んで手紙を聞く姿勢になった。
「それではお読みします。『暖かな心地よい風が頬に感じる季節となりました。そちらは砲弾の雨が降り注いでいるでしょうか? きっと魔法の飛び交う戦場で貴君は華々しく戦っていることでしょう。さて、今回手紙を書いたのは…………」
ケイトさんが手紙を読んでいく。
あ、ちなみにだけど、ガウルさんの手紙じゃないです。もとのガウルさんの手紙は華憐の噓っぱちを信じ込んだガウルさんが書いたやつだから不安になって渡された後に読んでみたところ、案の定びっしりと僕たちの家族が~とか、実は吸血鬼賊、竜人族や天使族で~とか書かれてたからこっちで内容を変更しておいた。
そうしないと、僕たちはいもしない家族を探さないといけなくなるし、それにキャンベルさんやガウルさんには冒険者プレートを作ってもらう手前クルア、ルカ、ティエラたち三人が特殊な種族であることがバレるのは仕方なかったけど、隠せるならあまり知る人は少ない方がいいと思う。
その代わりに、僕たちは新人だけどAランク冒険者以上の実力はあって即戦力であることや国王の呪いが進行中、すぐにでも眠らせてあげないと限界が近いかもしれないなどなどの内容に変更しておいた。
まぁ、文章を考えたのが華憐だから最初の方はなんか卒業式とかの答辞みたいのなっちゃっているけど。
「オルト騎士団長の勝利を祈って手紙といたします、まる』……団長聞いてました?」
「…………zzzZZ……ほえあ? うむ、もちろんだとも!」
あ、本当に寝てたわ……。
「つまり、レン殿たちはかなりやれるってことだろう。そして、某たちに残された時間もあまり多くはないということであろう」
そういうこと。まぁ、王様と宰相は顔色こそ悪いもののまだ大丈夫そうだけれど、ここに来る時に見た砦にいた兵士や騎士さんたちは限界が近いと思う。人間、永遠に眠りつつければご飯が食べれず栄養が取れず死んでしまう。地球なら点滴でなんとかできたけれどこの世界の医療はそこまで発達していない。逆にいつまでも寝ることができなかったらいつかは体力が限界にきて死に至るかもしれない。いつまでも寝たまんまで生きていけるのは目の前にいるオルトさんくらいだろう。
「そうです。それで、僕たちが助力に来たわけですがブリリアント王国軍、そしてサンクランド帝国軍の現状はどうなってるんですか?」
「助太刀、感謝する。では、戦端が開かれてからのこれまでの戦歴から説明しよう」
オルトさんはそう言ってこれまでの戦いを説明してくれた。その時の話す姿は、まるで寝ていることを感じさせないような一人の将軍としての威厳に満ちていた。まぁ、実際は寝ていて話したことは寝言なのだが……。
それで、戦端が開かれてからまずはサンクランド帝国軍の押せ押せ攻め攻めの猛攻撃だったらしい。勇者の二人はあまり積極的な戦闘はしておらず、数日に一度戦場で戦っていたよう。そ戦場に出てきた時の被害は大きいかったみたいだけど。
それでも、ブリリアント王国軍は砦の武器やオルトさんの活躍でなんとか抑え込んでたらしく、そんなブリリアント王国軍にしびれを切らしたのかサンクランド帝国軍の将軍が出張ってきたらしい。
そう、サンクランド帝国軍のは勇者二人のほかにもう一人実力者がいたみたいだ。話を聞く限りはその人は前に華憐たちが追いかけられたという筋肉モリモリマッチョマンと同等くらいの実力だと思う。
ブリリアント王国軍にも決して弱くない人たちが何人かはいるが流石に勇者二人+将軍には耐えられないかと思ったが、将軍んがでてきから勇者二人は出てこなくなりなんとか猛攻は防げていた。
このままいけば戦場は膠着状態になるかと思われた時、ある報告が届いた。国王と宰相が呪いにかかったという報告で、原因は『眠』と『夢』の勇者であると思われた。その時、勇者二人が戦場に出てこないのは王都に国王たちを呪いにかけに行ったのだと知る。
それが数日前の出来事で、それからはサンクランド帝国軍が攻めてくることはなくなった。つまり、現在は戦場の膠着状態である。ただし、ブリリアント王国軍に最悪な形での。
「この現状を破るには某たちが攻勢に出るしかない。今はそれをするための準備をしているところだ。決行は明日を予定している」
「勝算はどれくらいなのかしら?」
話を聞いたクルアがオルトさんに聞く。
「絶対に勝つ! っといいたいところだが、このままだと実際はかなり厳しい。守るのならまだしも攻めるのはな。ここに来る時に見て来ただろうが兵たちはかなり永眠していたり、不眠で疲れがたまっていたりしている。まぁ、その二種類の症状の者はまだましだろう。永眠してるものは静かで不眠の者はまだ自我を保っているからな」
「え、もっとひどい症状の人がいるの?」
今度はルカが驚いたように聞く。
「あぁ、あいつらの症状は場を乱すために作戦に組み込めないし、かなりはっちゃけている奴もいるから作戦会議中に邪魔をしてくる奴もいるな」
オルトさんがそう言って、いったいどんな症状なんだって思ったその時、会議室の扉が勢いよく開かれた。
「ぶーーーーん! ひゃっほーー! 俺は今空を飛んでるぜーー!!」
「金だ金だ! 俺が億万長者だ!」
「あ、おいっ! そっちは今会議中だ! 勝手に入るな!」
廊下から会議室に入ってきたのは、若めの男性二人と兵士が一人。
若めの男性の一人はなぜか手を広げてバサバサ振り回しながら会議室内を走り飛び回り、もう一人の若めの男性はお金をすくって放り投げるような動作を繰り返してる。最後の兵士さんはそんな二人を会議室から連れ出そうと必死だ。
「おい、そこの鳥ども! この俺より早く飛べるかな!? ぶーーーーん!!」
「ふっふっふ、この俺に買えないものなどこの世にない! さぁ、新たなる金貨を求め私は旅だとう」
「ケルト先輩、ありがとうございす! 団長、会議中失礼しました!」
数分後、ケイトさんも手伝って何とか若い二人を会議室から追い出すことに成功していた。
その間、僕たち三人はいったい何が起きたのかわからず茫然としていた。
「わかったか? 今のがもっとも症状が重たい者たちだ」
「今のはどういう? 寝ているわけではないみたいでしたけど」
「うむ、あいつらは寝ているわけではない。そして、夜になればしかっりと睡眠もとる。ただ、寝ているときも起きているときもずっと夢を見ているようだ」
オルトさんの説明によると、さっきの奇行をしていた二人は『夢』の勇者に攻撃された人たちらしい。その結果、寝ることも起きることもできるけど常に夢を見ている症状に陥ってしまい、夢と現実が交じり合って幻覚や幻聴を起こしているという。それも無自覚で。
つまり、さっきの奇行は自分が空を飛んでる夢を見てる人と自分が億万長者になった夢を見てる人たちのようだ。
「だが、さっきの二人はまだましな夢を見てる方だぞ。例えば女を抱いている夢を見てる奴はレイプしようとするわ、殺人する夢を見た奴は本当に殺そうとする。しかし、それをする者たちはそれを夢だと思っているから止まれない。本当に厄介な症状だ」
実に辟易した感じにオルトさんはブリリアント王国軍の現状を教えてくれた。
華憐が会った『眠』の勇者ネネも厄介だけど、ルンたちが会った『夢』の勇者も実に厄介な能力を持っているらしい。




