217話 いざ行け! ブリリアント王国! (オルト騎士団長)
◇◇レンside◇◇
騎士さんに先導されて砦の中に入った僕らは騎士団長に会うためにその人の下へ向かってる。
イグニス砦の内装は特に代わり映えのしない石の床、壁、天井。機能性重視の砦の中の砦のような砦、まぁ要するに砦だ。何言ってんだ僕。
でもまぁ、ちょっと現実逃避したくなるようなおかしな現象が起こってたんだ。
「ルカ、クルア、これって」
「えぇ、十中八九『眠』の勇者の仕業ね」
「みんな寝てるし」
そう、砦内の邪魔にならなそうなスペースにはもう既に朝日も昇り切り起きてもいい時間なのにもかかわらず雑魚寝で寝ている人がたくさんいた。静かに寝てる人、いびきをかいて寝ている人、寝相が悪い人と決して周りは静かとは言えない、むしろうるさいくらいなのに一向に目を覚ます気配はない。
「それじゃあ、あれもそうなのかな」
「まぁ、そうでしょうね」
「みんなめっちゃ寝たそうにしてるし」
目覚める気配のない人たちの次に見えてきたのはもっとつらそうな人たちだった。
「お、おい、お前今日で何徹目だ?」
「そうだな……もう一週間……七徹だな」
「うわぁぁぁ! 眠りてぇよぉぉぉ!!」
「おい! 誰か救護班呼んで来い! こいつ白目向いて倒れ……いや、意識がある! 白目向きながらも起きたまんまだ!」
「身体は……身体は眠りたいと言ってるのに……頭が冴えて眠れない」
っと、まるで眠りの亡者のように……いや、事実眠りを求める亡者なんだろう、睡眠を求めて徘徊する人がたくさんいた。必死に目をつむって眠ろうとしても眠れないようで、目を開けた時に見える目は赤く充血していた。そして限界が来て意識を失おうとしても、それも許されないらしい。
なんて恐ろしいんだ『眠』の勇者……。
「クルア、前にマールちゃんが倒れてた時目覚めさせる魔法使ってたけどそれで起こせない? あとは逆に眠らせる魔法とか」
僕はなんか助けられないかと思ってクルアにそう聞いてみるも、
「いや、たぶん無理ね。数人はできるかもしれないけど全員は絶対無理だわ。それにできたとしてもまたすぐに寝るし起きると思うわ。勇者の使う魔法は効力が規格外なのよ。特にそれに特化した勇者ならなおさら」
「そうなのか、それじゃあやっぱりその本人を倒すしかないってこと?」
「それが一番早い解決方法ね」
結局それしかないのか。ほんとに早いところ何とかしないと、王様もそうだけどここの人たちも限界が来ちゃうな。
そう、現状の悪さの認識を上方修正させると騎士さんが一つの扉をノックして入室の許可をとってた。どうやら騎士団地長さんがいるとこについたよう。
「失礼します! Aランク冒険者の方々を連れてきました!」
「来たか、入ってくれ」
騎士さんが声をかけると中から野太い声が聞こえてきて入ることを促す言葉が帰ってきた。騎士さんがその声を聴いた後部屋に入っていくので僕たちもそれに続いて入る。
この部屋は指令室だろうか、イグリス砦周辺の地図やこの砦の設備の詳細など軍事関連の資料が机の上に置かれてる。その机の少し離れたところに執務を行うための机が置かれていて、その正面にある椅子に腰かけてる金髪の巨漢がいた。
「勇敢な者たちよ、よくやってきた! 某がブリリアント王国騎士団長、オルト=マスタングだ!」
金髪の巨漢、オルトさんは椅子から立ち、自己紹介をして僕たちに歓迎の言葉をかけてくれた……んだけど、何故か僕たちの方向じゃなく真後ろの窓に向かってしゃべってる。
「「「ええっと……」」」
「あの、団長。そっちは窓です。扉はこっちです」
僕たちが困惑してると、ここまで連れてきた騎士さんが自分の鎧をカンカンと音を立てて叩く。すると、オルトさんは今度こそ僕たちの方をしかっりと向いた。その顔は数々の戦場を生き抜いてきた歴戦の猛者を感じさせる頼もしい感じ……なんだけど、何故か目をつむってる……まさか……。
「おおう、そっちであったか! すまんな、今は少々寝ぼけててな。ごほんっ、では改めて、勇敢な者たちよ、よくやってっきた! 某がブリリアント王国騎士団長、オルト=マスタングだ!」
今度は方向を間違えることなくしっかりと僕たちに向かって名乗ってくれるオルトさん、目はつむったままだけど。
と、とりあえず名乗られたからには名乗り返した方がいいよね。
「えーっと、Aランク冒険者レンです」
「同じくクルアよ」
「はっはっは! 刮目し、平伏せよ! 永き封印の時を超え、堕天の……痛っ! 「普通に自己紹介しなさい!」 うぅ……名乗りはかっこよくしなきゃなのに……同じくAランク冒険者のルカです」
ルカだけコントっぽくなっちゃったけど、オルトさんは特に気にした風もなく、むしろ驚いていた。
「ほう、声からしてずいぶん若いようだ。十代後半くらいか? その歳でAランク冒険者とは、恐れ入った。何とも頼もしい」
それを聞いたクルアはなぜかグッと小さく握りこぶしを握っていた。たぶん、若い、十代後半って言われたのが嬉しかったんだろう。なんかそんなとこ可愛い。
とりあえず、自己紹介はこれくらいにしてさっそくギルド総長の手紙と今の戦場の行方を……いや、その前に気なってることからだな。
「あの~、なんでさっきから目を開けないんです?」
「いやな、これは開けないんじゃなくて開けられないのだ。実は戦争初日に最前線で暴れてたら勇者に眠りの魔法をかけられてしまってな、今の某は眠りについてる状態だ。が、安心してくれ、さっきのように五感が少々鈍ったりはしてるが移動は寝相ででき、話も寝言でできるからな。はっはっは、早く目覚めたいものだな!」
え、えぇぇーー!? いや、もしかしたらそうかな~って思ってたけど! まさかこんなに元気だし寝てるなんて思わないじゃん!? というか、寝相で移動っ!? 寝言で話っ!? どんだけ寝相・寝言が悪いんじゃいっ! 僕この人と絶対一緒に寝たくないわ。
「驚いた……こうゆう人をカレンがいうびっくり人間っていうのね」
「眠りを超越したというのか……」
うん、まさにびっくり人間だね。まぁ、でもこの人の寝相と寝言のひどさで指揮系統が混乱することがないみたいだからいいのかな? 寝言で作戦指示ってなんだよって思うけど。
「そ、そうだったんですね。なんかすごいです。てっきり、すっごい薄目なのかと思いましたよ、あはは」
「ん? 某はお目目パッチリだぞ!」
「「「それはそれでなんかやだっ!」」」
はっ!? 色々衝撃的過ぎてとっさにツッコミが声に出てしまった! しかもクルアとルカとも声がかぶったし! ハッピーアイスクリーム!
「はっはっは! 正直でよろしい! さて、親睦も深まり某の眠りも深まってきたところだ、さっそく本題に入ろう」
オルトさんはそう言って色々と資料が置いてあった机の上を片して僕たちに対面に来るように促す。てか、親睦以外に眠りも深まったって言ってなかった? 大丈夫なの?
そうちょっとちゃんと話し合いできるのか不安になったのが顔に出てたのか、ここまで連れてきてくれた騎士さんが問題ないと言う。
「団長は眠りが深くなればなるほど寝相と寝言がひどくなる。だから問題ない」
あ、そうなんですか。それなら安心ですね! ……この人と寝る人は安眠できないなって思った。
 




