205話 いざ行け! ブリリアント王国! (王都に向けて)
◇◇何かを企む男達◇◇
レンたちが冒険者登録をした翌朝。一分一秒が惜しいと思ってるレンたちは、ランクスキップ制度の推薦者になってくれるジャックとさっそく合流して、朝早くに宿を出てブリリアント王国の王都を目指して都市アムニスを出ようとしていた。
その様子を少し離れたところで見ている男たちの姿があった。
「おい、あの二台の馬車か?」
「うーん、どれどれ? おっ、あれあれ。あの黒髪の女が持ってたのを見たんだ」
「どうやら、向かう先はあっちみたいだな。すぐに全員に伝えるぞ。見たところ護衛もいるようには見えないし、いいカモだな」
「ははっ、ちがいねぇ! ついでにいい女もいる。これはついてるなぁ」
「げへへへへ!」っと、下品な笑い声をあげながら男たちは木陰に隠してた馬にまたがる。
「それじゃあ、俺はあいつらに準備するよう伝えてくる。お前はしっかり見張りの役、任せたぞ」
「おうよ、任せときな! 今夜はお愉しみだぜ!」
そうして、一人の男は馬をかけさせ仲間のもとへ、もう一人の男は出発したレンたちの乗る馬車をつかず離れずの距離を尾行始めた。
「ん? くそっ、あいつらの馬車早いな」
尾行している方はちょっと厳しかもしれない。
■■
◇◇カレンside◇◇
「たぁ~! なんだよこの馬車! 全然揺れないじゃねーか!」
「それはそうだよジャックさん、これには蓮くん全く自重しないで作ってたもん」
「ったく、お前らの正体だけでそうと驚いたっていうのに」
アムニスを出て少ししたところ、私たちは王都に向かって馬車に揺られてる。
昨日は冒険者登録をした後、オリアさんたちがとった馬車を置くことができる割と高級な宿に戻り、お礼と謝罪をして、出発は翌日ということでまだアムニスの都市を満喫しきれてなかった私は蓮くんと一緒に都市を探索した。
陽が沈んでもかなり出歩いてたから宿に帰った時はずいぶん遅い時間になっちゃって宿で待機してたクルアに結構怒られちゃったけど、かなり楽しめた!
翌日はまた朝早くから出発するってことだから早めに寝ることにしてベットに入れば都市探索して程よく疲れていたからかぐっすりと眠れて、気持ちよく起きることができた。
それから、宿を出て都市の入り口で待ち合わせしていたジャックさんと合流、オリアさん達には事前にジャックさんのことははなしてあったけどやっぱりそのいかつい強面な見た目からかミライア達ヒト組は完全に怯えててその様子に悲しんでるジャックさんについ同情しちゃった。
それでも私がちゃんと優しい人であることを説得して、お互い自己紹介をしあいその時にミーナ、クルア、ルカ、ティエちゃんの本当の種族名を打ち上げて、なにか色々悟ったようになったジャックさんと今に至る。
「で、こんなデタラメな馬車を作っちまうレンや精霊を召喚できちまうカレンもただの人間じゃないんだろ?」
ジャックさんのその言葉に私と蓮くんはキョトンとしてしまう。
「うーん? 確かにただの人間かどうかって言われたら違うかもだけど、普通のヒト種ではあるよね」
「うんうん。あれ? でも蓮くん翼はやせるじゃん、もう普通の人じゃなくない?」
「あ~、確かにそうだね。確かこれもらったときあまちゃんにそういわれた気がする」
「じゃあ、この中で正真正銘の真人間は私だけだね」
「「「「…………」」」」
「えっ? なに?」
私がそう言うとミーナ、クルア、ルカ、ティエちゃんは「何言ってんだコイツ」みたいな視線を向けてきた。
「カレン、真人間に精霊を使役したりするだけではなく魔物に名前を付けてあげるだけで擬人化させれるような人は真人間じゃない」
「それにもう、身分的にも普通の人ではないですよ」
「そもそも、この世界に来た経緯で普通じゃないわよ」
「はいっ! お二人は神様の御使い様ですからね!」
「な、なんだそりゃ……」
あちゃ~、ルカたちの言葉にジャックさんがもう理解不能みたいな顔してるよ。
それからジャックさんに私と蓮くんのルーツや、実はもうすぐできる予定の王様なんですってことを伝えたら本当に理解のキャパシティーが越えたみたいで途中から「そうかそうか」と相槌を打つだけになってしまった。
ちなみに、私と蓮くんが転生者であることは特に隠していたりはしない。自分たちから言いふらすことはしないけど、ごまかすのは面倒くさいから隠すこともしてなくて聞かれれば話してる。これはこの世界に来て最初のころに蓮くんと話し合って決めてた。
「はぁ~、冒険者ギルドであった時から思ってたが元エルフの姫様に吸血姫の真祖、『熾天使』の天使様、伝説の竜人族で終いには神様の御使い様の新国王って、お前ら非常識の塊だなぁ」
「「「「「「えへへ~、それほどでも」」」」」」
「褒めてねぇよ! はぁ~、胃が痛くなってきたぜ……」
そんな感じに和やかに馬車が進んでいるときだった。もうそろそろ今夜の野営場所と探す時間帯に入った時、馬車が急に止まった。
それと、なんだか外にたくさんの気配がする。
「オリア、なにかあったのかしら?」
クルアが御者のオリアさんに代表して声をかけるとすぐに返事が来た。
「賊です。前方を丸太で塞がれてます。数は五十人くらいでしょうか、数えるのが億劫になるくらいいますね。どうしますか?」
賊って、盗賊のことだよね? うわぁ、本当にいるんだ……フィクションの世界の人種だと思ってた。ちょっと見てみようかな。
異世界物のラノベなんかで定番の盗賊ってことで少し興味が引かれた私は、チラっと外を覗いてみた。
そこにはいかにもTHE盗賊って感じの薄汚れた服を着てサーベルやら、こん棒やらを持った男たちがにやにやと笑みを浮かべてじりじりと馬車を囲んでた。
っと、その時一瞬盗賊の男と目が合う。
「おっ! 見つけたぜぇ! お前が金貨持ってたやつだな!」
「ふぇっ!?」
えっ? えっ? なんか私のこと知ってる風だったんだけど?
混乱して顔を引っ込めるとクルアが私にジト目を向けてきてた。
「カレン、あなた街中で金貨出してたの?」
「え、え~と? どうだろう……?」
アムニスを探索してるときはオリアさん達が金貨を両替してくれた銀貨と銅貨を使ってたし、金貨なんていつ出したんだろ?
「あ、あの時じゃない? 僕たちが暴走して突っ走ってた時に吟遊詩人に金貨渡してたじゃん」
「あぁ!! 確かに! あの時はそれしかなかったから!」
「はぁ、そんな堂々と金貨なんて出してたら狙われるに決まってるわよ」
えぇっ!? この状況、もしかしなくても私のせい?
「うぐぐ……。まさかこんなことになるなんて」
「本当よ、普段から危機感持ちなさいって言ってるでしょう」
「だってぇ~……」
「だってじゃないわよ! バカレン!」
バカレンっ!?
「なぁ、それだと僕までバカみたいじゃん」
「何言ってるの? レンもバカでしょう?」
「えぇ~……」
あ、蓮くんにも飛び火した。
と、そんな馬鹿なやり取りをしてるとジャックさんが焦るような声を出してきた。
「お、おい! 何そんなにのんびりしてんだ! このあたりで五十人以上の盗賊団、これは確実にあのクロネコ盗賊団に違いねぇ!」
クロネコ盗賊団? なんか、盗賊団なんてしてないで宅急便でもやったらいいのにって思った。
「お嬢様、どういたしますか?」
「そうね、これはカレンが原因なんだし、カレンが責任もってかたずけなさい」
「えぇっ!?」
そんな理不尽な、どこに五十人以上いる盗賊団に女の子一人で迎撃させる人がいるの? ここにいた。「嘘だよねっ?」って視線を向けても厳しく睨まれる。どうやらマジみたい。
「うぅ、アルカちゃんお願いね」
結局私が折れて盗賊討伐のために馬車を降りた。
「おいっ! カレン一人で行かせるなんて正気か!?」
「カレン様なら大丈夫でしょう!」
「自らの不注意が招いたことなんだから当然よ」
「クルアはずっと気を付けろって言ってたからな」
「まぁ、銃をもった華憐は人が変わるから問題ないさ」
私を心配してくれるのはジャックさんだけ……かなしいなぁ。
 




