200話 いざ行け! ブリリアント王国! (新人冒険者の洗礼?)
◇◇レンside◇◇
「おいおい、嬢ちゃんたち! ここはあんたらのようなもんがくるとこじゃないぜ? 依頼の申し込みなら隣でしな!」
と、奥にあるのは酒場だろうか? そこに座ってたガラの悪そい大男が冒険者ギルドに入ってきた僕たちにガンを飛ばしながら近づいてきて恫喝するように言ってきた。
これはあれか? ラノベによくある冒険者に入って巻き込まれる的なめんどくさいあれ?
というか、こんな強面の人が怒鳴ってきたりしたら華憐とか怯えて縮こまっちゃうんじゃ……。
そう思って華憐の顔を見てみると、怖がってるどころか真顔で、「あれ? なんか思ってたんとちゃう」みたいな顔してる。
「「…………」」
「あぁん? どうやら怯えて声も出ないみたいだな! そんなひよっちい奴らはさっさと出ていきな!」
そんな様子を強面のにーちゃんは怖がってると思ったのかさらに大声でまくしたてる。
あ、さっきクルアたちが言っていたことが分かったぞ! 新人冒険者への洗礼ってそういうこと! こうやってやってきた冒険者志望の人たちを脅して覚悟を見ようとしてるわけだ! あぁー、すっきり。
でも、この強面のにーちゃん正直あまり怖くないな。
そしてそう思ったのは僕だけじゃないようで……。
「ねぇ、クルア。これがアレ?」
「えぇ、やってることはそうなのだけれど」
「でも、なんていうか全然怖くなくない?」
「そうね、なんか肩透かし食らった気分ね」
華憐とクルアが強面のにーちゃんを見てなんかがっかりしたように話し合ってる。一応強面のにーちゃんには聞こえないようにしてるみたいだけど。
「おおい! 俺を無視するな聞こえてるからな? いうこと聞かないなら少し痛い目を見ることになるぜぇ?」
強面のにーちゃんが指の骨をぽきぽき鳴らすけど、どうしてだろう、全く怖そうに見えないのは。
「あのですねちょっといいですか? 私、あなたに言いたいことがあります」
華憐は強面のにーちゃんに一歩近づくとピシィっ! っと、指をさした。
「な、なんだよ! 言いたいことがあるなら言いやがれ!」
「あなた、新人冒険者の洗礼という大事なイベントをなめてるんですかっ!? なめてるんですねっ!? なめるなっ!! コラァ!!」
と、ついに華憐がもう我慢ならんって感じで吠え始めた。
新人冒険者の洗礼は確かに必要で異世界転生物なら使い古された定番イベントだから大事なのは分かるけどそこまで怒ることかね?
「な、なんだコイツ! なめてないわっ! なんて言ったって俺は怖いだろう? なんか文句あるか! ああん?」
「えぇえぇ、怖いですよその顔は! でも顔だけですね! 顔だけの男なんかにこの役目が務まるわけないでしょう!」
「か、顔だけ……」
おおう、なんか強面のにーちゃんが押され始めた。悲しんでるのかな? どちらにしてももう新人冒険者の洗礼もくそもなくなってるな……。
「あなたはその怖い顔を使って大きな声出して自分を大きく見せてるだけ……そう、心がこもってないんですよ! あなた、悪いことしたことないでしょう? 根っからの善人臭が漂ってるんですよ!」
「失礼な! 俺は悪人だぞ! 過去には人に言えないようなことだってしたことあるんだからな!」
あぁ、なんかその言い方があの強面のにーちゃんはどことなく良いひと感があるな。こんなとこでこんなことしてないで遊園地とかで風船配ってた方が性に合ってる気がしないでもない。親御さんが近づくことを止めるかもしれないけど。
「ほぅ? ならその人に言えないようなことを教えてくださいよ! それが本当ならあなたが新人冒険者の洗礼役にふさわしいと認めてあげましょう」
「ふっ、そうか。いいだろう、果たして俺の悪事を知って怖がらずにいられるかな?」
いつの間にかおかしなことになってきた。僕たちが洗礼? を受けてたはずなのに強面のにーちゃんがその役にふさわしいかどうか認めるっていう。
なんだろう、やっぱり顔はすごい怖いんだけど、さっきまでの華憐との会話を聞いてると期待できない……。でもなんか、こんな強面な顔なんだからなにかしら極悪非道なことをやってくれていたら安心できる僕がいる。
「いいか? 俺はな過去に……」
強面のにーちゃんはそこでニヤリと悪意のあるような顔で笑った。
「「「「「「「「……ゴクリっ」」」」」」」」
怖っ! あの笑顔恐ろしっ! みんなも思わず唾を飲み込んでるし。これは……これは本当に相当ヤバい悪を働いたのか……? 期待できるのか……?
そして強面のにーちゃんは言った。
「過去に……弟の朝飯のソーセージを横取りしたことがあるんだぞっ! どうだ、極悪だろう!」
「「「「………………はぁ」」」」
いや、うん。よかったよ? まじで、銀行強盗とかだったらどうしようかとも思ってたし。でも、なんかしょっぱすぎるよ……もうっちょっとなんかあるでしょう?
「あーはっはっはっは! その程度の横取りで極悪? そんなの極悪の風上にも置けないっ! よく聞きなさい、私なんて弟のイチゴのケーキのイチゴを横取りしたことありますっ!」
極悪ってなんだろう? 僕はもっと強姦とか殺人とかを思ってたんだけど、この二人の極悪レベル低すぎない?
「ばっ!? お前、それは悪すぎだろっ!? 今すぐ謝れ! 全世界の弟に!」
「ごめんなさいっ!」
「まぁ、それはそれとしてだ。お前らは合格だ! しっかりと冒険者登録をしてきやがれ」
あ、なんか良くわからないけど合格もらった? ていうか、まだ新人冒険者の洗礼っていうの続いてたんだね。
「えーと、ありがとう? でも、その前に言いたいことがあるんですがいいですか?」
「おう! なんでも言ってみろ!」
「あんた、やっぱり新人冒険者の洗礼役向いてねぇよ!」
うん、やっぱり絶対遊園地で風船配ってる方が性に合ってるって!
僕が最後に言いたいことを言うと、強面のにーちゃんは笑顔が凍り付いて床に頽れた。
「そんなこと……そんなことは俺が一番わかってるんだよ! 本当はこんなことして未来に希望ある新人冒険者たちを脅すようなことはしたくないんだ!」
あぁ、やっぱりちゃんと自分でも分かってたんだね。なんだか安心したよ。
「だけど、しかたねえだろう? 俺はこの悪人顔のせいであいつに睨まれてしまったんだからよぅ……」
「あいつ?」
「『睨諦』のキャンベルだ!」
強面のにーちゃんの指さす方を見てみると、ギルドの受付にいる令嬢さんが手を振ってる。
なかなか大層な二つ名がついてる受付令嬢さんだな、強いのかな?
「いいか、ここで冒険者になるんならこれだけは覚えておけ。一つ、キャンベルには睨まれるな。二つ、睨まれたらどんなことでも諦めろ。三つ、彼女からは逃げられない。だ」
えぇ? 本当になんなのあの受付嬢さん。ここから見る限りではニコニコと手を振ってるだけで温厚そうな人に見えるけど。
「もし、睨まれたらその時は……俺みたいになるだけさ」
そう言う強面のにーちゃんはどこか哀愁が漂ってる。なんだか哀れだ……。
けれど、そんな哀れな強面のにーちゃんの肩を優しくたたく者がいた。
「今からあなたを立派な新人冒険者の洗礼委員にしてみせます」
「お前……」
「私は華憐、塔野華憐。あなたを導く者」
なーんか、また始まったぞ。おかしなことが。
「だが……だが俺には人を脅すことなんて……」
「大丈夫、あなたは顔だけなら一万人に一人の逸材。きっとこの世界最高の新人冒険者の洗礼委員になれる。いや、私がしてみせる!」
「俺が、世界最高の新人冒険者の洗礼委員……あぁ、分かった! なってやろうじゃないか! 世界最高の新人冒険者の洗礼委員に!」
「そう来なくちゃ! それじゃあ、まずは男女混合で登録に来た子たちへのセリフね! リピートアフタミー、『ぐへへ、カワイ子ちゃんじゃねーか! どうだ? そんなちんちくりんな男と冒険者なんてしないで俺たちにお酌してくれよ!』。さんっ、はいっ」
「『ぐへへ、カワイ子ちゃんじゃねーか! どうだ? そんな…………』」
もう。いいよね? ほっておいて。
「なぁ、もう先に進まない?」
「そうね、そうしましょう。みんな行くわよ」
あほなこと始めた華憐と強面のにーちゃんは放っておいて僕たちはちゃっちゃと冒険者登録をすることにした。
たぶん、華憐と強面のにーちゃんは二人とも根っからの善人で気が合うんだろうなぁ。
おぉ~!! いつの間にか200話達成!!
これも皆さんのおかげですね! これからも面白くなるよう頑張っていくのでどうぞよろしくお願いいたします。




