195話 いざ行け! ブリリアント王国! (何になっても蓮くんは王子様に見える)
◇◇カレンside◇◇
「それで、チラっ。クルアは何か案があるって言ってたけど、チラっ。それは?」
「そうね、これを使うのよ、チラっ」
そう言ってクルアが取り出したのは大きめの布。
「私たちが見るのをやめられないのなら逆にレンを隠していきましょう、チラっ」
「なるほど、それは名案! チラっ。流石、先祖返りの吸血姫! チラっ」
ふむふむ、逆転の発想だね。ルカの言う通り名案かもしれない。蓮くんを隠しちゃえば目を奪われることないし、この騒動もおさまるかも。つまり、クルアの出した布で蓮くんを包めばいいわけだ。
「でも、それも問題がありませんか? チラっ。今の私たちじゃレンさんを直視することもできないのに近づくなんて、チラっ。自分がどうなっちゃうかわかりません、チラっ」
た、確かに……いまでも五十メートルくらい離れているのに視線を自然と向けてしまうような存在感があるのに、これ以上近づいたりしたら自分の中の何かが崩れてしまうような気がする。
けれど、クルアはそれも対策は考えてあるのか得意そうな顔をしていた。
「ふふん、それもしっかりと対処するつもりよ、チラっ。全員に今から幻を見せる魔法をかけてレンがトマトに見える魔法をかけるわ、チラっ」
「なるほど……? ていうか、なんでトマト? チラっ」
「うん? なんとなくよ、チラっ」
「ちょっとまったぁぁぁぁああああ! チラっ……はぅ……//」
と、その時今まで眠っていたはずのエルフの叫び声が、そして新たな騒動の予感……。
「あら? ミーナ起きたのね、チラっ」
「でも、また虚無にのまれていったぞ? いや、これはあるいは幸福か、チラっ」
「あの、ミーアさん大丈夫ですか? チラっ」
やってきたのはミーナ。なんだけど、ちらっと蓮くんの方を一瞬見ただけでまた眠りについてしまった……目をハートにして。
「まぁ、とりあえずミーナはもう置いておいてなんだっけ? チラっ。トマトだっけ? チラっ」
「そう、それを使えばレンの方を向いても大丈夫だと思う……「話は聞かせてもらいましたよ!」……なによミーナ、チラっ」
クルアの話を遮って再び起き上がったミーナがクルアにピシッと指をさしてる。ていうか、回復が早いよ。
「私はそのレン様に重ねる幻影にマヨネーズを要求します! チラっ……はぅ……//」
「あ、また倒れた」
そしてなにか良くわからないことを言って再々倒れるミーナ。もう何をしたいのかわからないよ。
「ほっておいて作戦をつめま……」
しょうってクルアは言おうとしたんだろうけどそれはニョイッと起き上がったミーナによって驚きで遮られたよう。
「倒れるのも慣れてきましたね。それで、クルアさんがトマトにしようとしたのはそれがクルアさんの好物だからでしょう? それなら、私にはそれをマヨネーズにしてください! チラっ……はぅ……//」
「え、それなら我はカクタスペアという果実がいいな。なんだかかっこいい名前だし! チラっ」
「私はあったかいお味噌汁がいいです、チラっ」
「なんでそんなめんどくさいことしないといけないのよ、チラっ。ルカのにいたってはどんなのかもわからいわ、チラっ」
なんかもうみんな倒れるミーナのことは気にしないことにしたらしい。誰も気を使うこともなくなってるし、ミーナもミーナで倒れても特に何もないように起き上がって蓮くんをチラ見して倒れるっていうのを繰り返してるし。
ていうか、話の趣旨がずれてるような……ま、いっか私も希望を言っておかないと。
「私は真っ白なご飯がいい! チラっ」
食べることは好きだし色々と好きな食べ物はあるけどやっぱりなんにでも合うご飯が一番好きだからね。
「だからなんでそんな面倒なことしないとなのよ、チラっ。トマトでいいじゃない! チラっ」
「嫌です! 確かにケチャップとマヨネーズは合いますけどやっぱり単体の方がいいんです! それにクルアさんだけ好きなものっていうのはずるいです! チラっ……はぅ……//」
「そうだそうだ! カクタスペアがいい! チラっ」
「お味噌汁、お味噌汁、チラっ」
「白いご飯、白いご飯、チラっ」
「うぐぐ……わかったわよ。でも、少し時間がかかるわよ。それとルカだけは何なのかわからないからナシにしとくわね、チラっ」
「なっ!? そんな横暴な! 私だけ無しなんてひどい! チラっ」
「無しじゃなくてナシよ! ナ・シ! ペアっていうんだからナシの仲間でしょう? チラっ」
「…………なるほど、これがダークマターか……チラっ」
「あなたも知らないんじゃない! チラっ」
クルアは頭が痛そうに額を押さえてから本来はまとめてかけることのできる魔法をなんやかんや言いながらわざわざ一人ずつ見える幻影を変えてかけていってくれた。
ていうか、そろそろチラ見止めない? あぁ、そっか止めたくても止められないんっだった。
「それじゃあ、次はカレンの番ね。白いご飯でいいのよね? チラっ」
「うん、それでよろしく、チラっ」
だけど、チラ見はクルアが瞑っていた目を開けた次の瞬間止めることができたのだった。
「はい、これで魔法がかかったわ。レンのことが白いご飯に見えているはずよ」
そう言ってクルアは自分に魔法をかけ始めた。
それを横目に見ながら私は蓮くんに視線を向けると、
「っ……!?」
そこには、息を飲むほどつやつやと光り輝くとてつもなく美味しそうなご飯様がいた。
な、なんてこと……蓮くん、まさかご飯になったとしても目を離せないほどの魅力があるなんて。ゆらゆらと立つ湯気がまるで後光のよう……いや、あれは実際に後光が出ている……? うっ……眩しい。
「……oh,tomato」
思わず目をつむると後ろから、やけに発音がいい英語が聞こえてきた。
「ま、まさか……」
恐る恐る後ろを振り返ってみると、予想通りご飯に目を奪われてるクルアの姿が……いや、クルアには蓮くんがトマトに見えてるんだっけ?
「蓮くん、まさかトマトになってもその魅力は衰えないのね……」
どうやら、一瞬だけ自分の好物が今まで見てきた中の最高傑作だったために目を奪われたみたい。クルアに至っては思わず発音が変わってしまうほどのようで。
「なんて美しいtomatoなのかしら……みずみずしく滑らかな造形、血の様に赤く深緑のヘタが私を呼んでるとしか思えないわ、かぶりつきたい……ジュルリ」
「はぁ、すごくいい匂いがします! これは絶対最高級の卵を使ってるに違いありません! 文句なしに新鮮な綺麗な色合い! 今すぐしゃぶりついてちゅっちゅしたいです!」
「ナシじゃない……? な、なんだあのトゲトゲしく紫色の塊は……あれがカクタスペアな、のか……?」
「味噌ん香りがたまらんね~、ばりほっこりするばい。中ん具は何やろう? だいこん? ニンジン? きっとどれもうまかはずばい」
「クルア、よく見れば目がトマトになってる……? みんなもミーナはマヨネーズ、ルカはナシなのか良くわからない果物に、ティエちゃんはお味噌汁になってるし。これはまた目を覚まさせないと」
そう思った私はみんなをゆすって正気に戻した。私も蓮ご飯に目を奪われて異常になってたけど、周りの人が自分より深刻そうだと冷静になれるもの。
「カレン、また助かったわ。でも、これは長く続かなさそうね。理性が崩壊する前にさっさとやることをやりましょう」
ただ、そう。チラ見やガン見で意識は飛ばなくなったもののさっきからジュルリジュルリとよだれをすする音が多発していた。
これは蓮くんがみんなに食べられるのは時間の問題かもしれない。
でも、まぁ、近づけられるだけ意識を失って倒れるよりましだよね。ご飯じゃない蓮くんだと近づくこともままならないから。
「というこで、望むは短期決戦! 蓮くんを無事馬車につめたら思う存分食べよう!」
「「「「おー!」」」」




