190話 いざ行け! ブリリアント王国! (エリュシオン会議2)
◇◇レンside◇◇
「ふむ、十中八九サンクランド帝国がブリリアント王国の侵略を目論んでると思っていいでしょうな」
全員が手紙を読み終わったタイミングで今まで黙っていたアーゼさんが口を開いた。
「大方、その双子の勇者の小国もサンクランド帝国に侵略され合併したのでしょう。それで次はブリリアント王国を狙う。それでなくとも実力主義のサンクランド帝国には実力者たちが名を上げようと集まっていますし、ブリリアント王国は近年の内乱で国力が低下しています」
そういえば前に教えてもらったっけ。僕たちがここに来る前にブリリアント王国で大きな内乱が発生して中央政権が深刻な大ダメージを受けたとか。公にはされてないけど王族の生き残りが今の王様であるアレクって人だけなんだっけ? 国民の不安を煽るから表面上はなんともないようにみえるけどいまのブリリアント王国には吹けば飛ぶような風前の灯な状況なわけだ。そこにサンクランド帝国からの侵略って……あれ? これって結構まずい?
「もちろんブリリアント王国もそう簡単に倒れるとは思いませんが、かなり厳しいでしょうね」
アーゼさんも僕と同じ考えのよう。ほかのみんなもブリリアント王国の状況は理解しているだろう。そうなれば次に考えることは僕たちエリュシオンがとるべき行動だ。ブリリアント王国を助けるのか、静観をするのか、それともサンクランド帝国に便乗して攻め込むっていう手もあるけど、さすがにこれは無いか。
「私は助けてあげたほうがいいと思うな」
そう意見を述べたのは華憐だ。やっぱり日本人としては心情的に助けたいと思うから僕としては同意したいところだけど事はそう簡単なことではなく。
「カレン、そんな率直に考えてはだめよ。そうすると私たちはサンクランド帝国を敵に回すことになるわ」
「それは、わかってるけれど……」
クルアの言う通り、ブリリアント王国の見方をするってことはサンクランド帝国と事実上の敵対関係になってしまう。サンクランド帝国の強さは直接対峙したことのある華憐たちが一番わかってるだろうし、それにさっきの手紙の人とも敵同士になる。寝る友の意味は分からないけど、友って文字が使われてるんだから友達なんだろうから華憐としては複雑な気持ちなんだろうな。
それにさっきからミライアに気を遣うような視線を送ってるからブリリアント王国が母国であるミライアたちのためにも何とかしたいって思ってるんだろう。
「カレン様、私のことは気を使わなくて大丈夫ですよ。エリュシオンのこと優先で考えてください」
その視線に気づいたミライアは華憐に大丈夫だと伝える。
「うん。わかった! ちなみに蓮くんはどう思う?」
と、ここで僕が意見を聞かれた。
「僕は助けたほうがいいと思う。不謹慎かもしれないけどエリュシオンにとっては飛躍するチャンスだと思うし。ですよね、アーゼさん?」
「はい。ここで恩を売れば今後の国交でも優位に立てるでしょう」
「でも、レン。サンクランド帝国と敵対してしまうのはどうするのかしら? 正直正面からぶつかれば負けないかもしれないけどこっちも相当なダメージをうけてしまうわ。直接対峙しなくても間接的にも攻撃はサンクランド帝国ほどの大国なら簡単にできるでしょうし」
まぁ、クルアの懸念も分かる。いくらエリュシオンが幻獣種がたくさんとはいえ被害は尋常になると思うし、間接的っていうのは貿易が始まったら関税を吊り上げるとかそんな感じだろう。
「まぁ、でも、それは僕たちがエリュシオンの立場じゃなければ大丈夫でしょ?」
「どういうことかしら?」
「つまり、冒険者とか傭兵っていう立場で参戦するのはどう? それなら表面上はサンクランド帝国と敵対したことにはならないと思うけど」
僕が考えたのは完全に屁理屈みたいなことだけど、幸いまだエリュシオンは主権を認めてられてないから正式には国とは認められてない。なら僕たちが傭兵として参戦しても大丈夫だと思うんだ。戦ってブリリアント王国を守って、そのあといくらでも主権を認めてもらえばいい。無理だったらアルメ教に頼むこともできるし。
まぁ、あとでブリリアント王国を助けたことがサンクランド帝国にバレれば恨まれそうではあるけど、国際問題にはならないはず。
「参戦する理由としては、さっき言った通りブリリアント王国に恩を売るっていうのもあるけど、僕はブリリアント王国が負けた時サンクランド帝国と隣国になることが一番まずいと思うからかな」
なぜそう思うかというと、サンクランド帝国のお国柄が野心的で攻撃的であるから。今はまだエリュシオンの存在は知られてないけど、建国宣言をしたら認知される。そして、この世界の食糧事情とかはよく分かってないけど、たぶんエリュシオンの食べ物とか技術とかは高水準だし人気が出て必ず欲しいと思われるはず。サンクランド帝国がもしそう思ったとき国境が接していればエリュシオンに攻めてく可能性は絶対とは言わないけど高いはず。
「だから、ブリリアント王国が壁になってくれていたほうがいいと思う。ということで僕は傭兵として参戦、その後国交っていうプランを提案します!」
長々と僕の考えたことを説明して意見したけど、どうだろう?
「おお、蓮くん。君は天才か……」
「ミーナはレン様の決められたことならば何でも賛成しますよ!」
「まぁ、色々と粗はあるかもしれないけれど悪くないかもしれないわね」
「そうですな、もう少しに詰めればいい作戦かもしれません。けど、根本的な問題が、サンクランド帝国、しいては勇者二人に勝てるかどうかですが……」
「亡国の王よ、愚問である! 如何な勇者であろうと我らの敵ではない。我らの前では震える子犬にすぎぬのだからな」
「いや、ルカさんが私たちの国に現れるのはまずくないですか?」
「えっ?! なんでだし!?」
「はぁ、あなたは天使族なんだからヒト族の前に出たらパニックになるのは必然でしょう」
「そこは魔道具とかで翼を隠してなんとかさぁ!」
「私は前回皆さんが妖精族に行ったときはお休みだったので行っていいですよね? ほら、ハルツァナ王国が無くなったことも正式に伝えるべきだと思いますし」
「私は行くからね! だって冒険者登録するんでしょ? そんなの私が外せるわけないもん!」
どうやら、僕の考えたことに意義は無いらしい。いつの間にか、誰がブリリアント王国に行くのかっていう話になっていた。
というか、今回は全員で行った方がいいんじゃないかな? 今僕が話したことはまずサンクランド帝国には勝たないといけないから、ルカの言うように震える子犬みたいならそれでいいんだけど、流石に勇者なんだから雑魚ではないはず。勇者の情報に一番詳しいのはルカなんだからルカはいてくれた方がいいし。
ミーナはさっき言ってたこともあるけど、戦後の交渉でうまく運んでくれるだろう。
クルアは戦後の交渉の時に交易品とかを持っていくだろうからそれを魔法で運んでほしいし、戦闘力も十分で政界にも詳しいからいてくれると心強い。
ティエラは竜状態で僕たちを戦場まで乗せてってくれるだろうし、強いから安心できる。いつもはピィナに乗っていくけれど流石に見た目中学生のピィナを戦場に連れてくのはどうかと思うし。あと、勝手にうろちょろされると何が起こるかわからない。
最後に華憐だけど、正直行かない方がいいとは思うけど、前々から人間の国に行きたいって言ってたし、冒険者登録にすごい惹かれてるみたいだから連れてかないと納得しないだろうからなぁ。それに僕もその気持ちはわかるし、この提案をしたのは僕だから問答無用で却下するのは気が引ける。
まぁ、でも、ここは僕も行くことを主張しておくべきだろう。
「はいっ! はいはい! 僕ももちろん行くからね! 僕が提案したことだししっかりと責任をとるよ!」
この後、途中話し合いが聞こえて来たのかレオが「わたしもいく!」言って来たり。妖精族のアウラが「サンクランド帝国と戦うならばあの時の恨みを晴らすべし!」って、連れてってくれって会議に混じったりしてきて誰がブリリアント王国に行くかで白熱する会議室だった。




