186話 冬が終われば春が来る! (ルンの苦労)
◇◇ルンside◇◇
「ストップ! みんな一旦ストップスラ!」
ルンが近くにいれば絶対に聞き逃すことは無い大きな声量で静止の声をかけたスラ。それでルンが乗っていたチュンはもちろん止まってくれたんだけど、
「ピィナ! ストップスラ!」
「え? なに? ルンちゃん! 今度こそは捕まえるよ!」
予想は付いてたけどやっぱり周りが見えてないしルンの声も聞こえて無いスラ。頼みのポムは白目を剥いてるスラ。そしてピィナがまた突っ込んでくるスラ。
「止まって! 止まれスラっ!!」
「えぇっ!? わわっ! ルンちゃん、チュンちゃん避けて避けてっ!!」
「チュン! 緊急回避スラ!」
「了解チュン! ……ったぁ! あ、足が吊ったチュン」
嘘スラっ?! こんなところで?! こ、こうなったらルンがスライムボディで衝撃を……。
吸収しようと思ってピィナのほうを向いたときには、ピィナはすでに目の前にいてとても間に合いそうになかったスラ。そして、
ドッゴオオオォォォォォン!!
「「「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁ」」」
ルンたちは錐もみ状態で高高度から落下することになったスラ。
■■
「「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁ」」
徐々に迫ってくる地面がだんだんと見えてきたスラ。けれど、気絶してるポム、足が吊ったチュン、どっちもこのままだと地面に大激突で大けが間違いなしスラ。ピィナ? そんなのははなからなんのあとにもしてないすら。
ルンとポムはスライムだから一瞬べちょっとなって復活するスラが、ピィナとチュンはぐしゃっとつぶれちゃうスラね。しょうがない、ここは冷静になれたルンの出番スラ。
「スラ? あれは……」
落下の衝撃を受けるために、チュンの真下に来て地面を見ると、何かテントらしきものがいくつか見えたスラ。
「っ……! このままじゃあそこに落ちてテントの中の人にもケガさせちゃうスラ。何もないところは……あそこがいいスラね」
テントから離れたところに何もないところがあったから、そこに着陸できるように擬人化を解除して、ルンのスライムボディを薄く延ばして風を受けてそこまで移動するスラ。
そして、着陸寸前にチュンの下で体積を大きくすれば、
ぽよよぉぉぉ~~ん!
「ふぅ、なんとか間に合ったスラ。みんな大丈夫スラか?」
「あはは! 今のなんだか楽しかったね!」
「イテテテ……やっと治ってきたチュン」
「……………はっ!? ピィナちゃん、もっとゆっくり!! ……あれ、ここはどこプリ?」
ルンが三人に目を向ければ、いつも道理上機嫌なピィナと吊ったのが治ってきたらしいチュン、やっと目お覚ましたポム、それぞれ擬人化に戻っていてみんなけがは無さそうでよかったスラ。
「三人とも、ちょっといいスラか?」
ルンがそういうと三人の視線がルンに集まるスラ。
「まず、空の上で言いそびれたことを言うスラ。今、ルンたちは絶賛迷子スラ」
ルンの言葉を聞いて周りをキョロキョロと確認した三人は状況を理解したのか途端に顔色が蒼くなっていく。
そう、ルンがみんなを静止させようとしたのは、トンネルのある山がいつの間にか見えなくなって、どこまでも続く草原にどっちから来たのかわからなくなったからスラ。
「ど、どうしよう!」
「カレン様に怒られるチュン!」
「ぽ、ポムが気絶してた間にそんなことになってただなんて……」
「と、とにかく戻らないと!」
「待つスラ! 慌ててやみくもに歩いても戻れるとは思えないスラ」
と、いきなり駆けだそうとしたピィナを慌てて止めるスラ。というか、ピィナが適当に歩けば二次災害になる可能性しか思い浮かばないスラ。
「じゃ、じゃあどうするの……?」
そんないつもの元気溌剌とした顔じゃなくて目じりに涙を浮かべた表情なんてされたら調子狂うスラね、まったく。
「大丈夫スラ。さっき、落ちているときに向こうのほうにテントが立ってたスラ。だからまずはそこにいる人たちに山がある方向を聞いてみるスラ」
「そういえば、ちらっと見えた気がするチュン。確かにそれはいい案チュン!」
うん、ピィナの表情もましになったスラ。これでいきなり不安に押しつぶされそうになることは無いスラね。
「それじゃさっそく行くプリ!」
と、ポムがしっかりとピィナの手を繋いでテントのほうに向かおうとしたとき、知らない人の声が聞こえてきた。
「あ、見つけたの~」
やってきたのは、薄緑の髪を右にサイドテールにした眠たげな眼をしたどこか軍服を思わせるパジャマのような服を着た少女。
「わ~~、なにそれ! 何で浮いてるの!?」
ピィナが驚くのもわかるスラ。この人がそれに乗ってやってきたからスラ。何かの魔道具スラか?
「これはそういうクッションなの~」
「すごいね! 触ってもいい?」
「いいの~」
その人はクッションから降りて、ピィナの興味がクッションに逸れるスラ。相変わらず現金な奴スラね。とりあえず、たぶんこの人はさっきのテントからやってきた人スラから話を聞くことにするスラ。まずは挨拶を、
「ルンスラ。ちょっと聞きたいことがあるスラがいいスラか?」
「ノノなの~、教えるのはいいけど確認することがあるの~」
む、確認することスラ? なんだスラ?
「あなたたちはさっき落ちてきた人たちであってるの~?」
「なんだ。そんなことスラか。そうスラ、さっき飛んでたら落下してここに落ちてきたスラ」
「ふ~ん。じゃあ、もうひとつなの~。あなたたちはブリリアント王国の者?」
「……っ?!」
この質問をしてこたとき、このノノとやらの雰囲気が変わって一瞬背筋がヒヤッとしたスラ。なんだか、ルンたち魔物の最大の強敵、勇者に睨まれたような感覚スラ。それは、もとは同じチュンも感じたようでこっちを凝視してるスラ……って、まさかこの人っ?!
「勇者……?」
はっ?! まずい、今のつぶやきが聞こえてたらルンたちが魔物だってばれるスラ。『魔』の文字を持つ者に対して絶対的な特攻を持つ存在、それが勇者スラ。もし、ルンたちが魔物ってバレれば問答無用で討伐される可能性があるスラ。
ちらっと、相手の顔を確認したけど、どうやらまだバレてないっぽいスラ。ならここは慎重に……確かブリリアント王国の者かどうかを聞いてきたスラよね? 正直に言えばブリリアント王国の者じゃないになるスラが、エリュシオンっていっても知らないはずだから疑われるだけスラ。かといって、適当なことを言ってもここはブリリアント王国とサンクランド帝国の間の草原、どちらかの国の者じゃないとおかしいスラ。だけど、今ルンたちのいる場所がどっちの国なのか迷子のルンたちにはわからないスラね。
まてスラ、相手はブリリアント王国かどうか聞いていたスラよね? ならこの人もブリリアント王国のこの近くにある村の娘スラか? それならブリリアント王国っていえば……いや、待つスラ、相手の格好はどう見ても村娘じゃないスラ。どちらかというと軍、そして一介の村娘が勇者なんかだったら今頃ルンたち魔物は絶滅してるスラ。それなら、勇者を複数人抱えるサンクランド帝国である可能性が高いスラ。
うん、そんな感じがするスラ。そして、さっきのテントは軍の野宿の演習訓練をこの勇者同伴でやってるって感じスラか。なら、ここでの答えはサンクランド帝国の者スラ。よし、さっそく質問に答えてルンたちが魔物ってバレる前にここを離れるスラ!
「ルンたちは、サン……」
「ピィナ達はエリュシオンから来たの!」
「エリュシオンなの……?」
「………」
ピィナ!? 何やってくれてるスラっ!? 何やってくれてるスラっ!? 何やってくれてるスラっ!?
「る、ルンちゃん!? まって、首しまってる! 首しまってるよ!!」
「う~ん、ノノはエリュシオン知らないの~。どこにあるの~?」
はっ!? 気が付いたらピィナの首を絞めてたスラ。そうだ、今はピィナを懲らしめるより、この勇者をなんとかしないとスラ!
ルンは、同じく相手の存在に気がついてるだろうチュンに目配せをしていつでも逃げられるように意思を伝達してから、勇者に向き直って……って、おいおいおいおいスラ!?
「……それで、ピィナ達迷子になっちゃって困ってるの……っわ、ルンちゃん次は何するの~~!」
「うっさいスラ! ほんとピィナは余計なことしかしないスラね! これだからピィナは困るスラ!」
たぶん、ピィナのやつ、この勇者に全部話したスラよね? まずいスラ、これで魔物ってバレれば一環の終わりスラ。ルンが本気出せば三人を逃がすくらいの時間は稼げると思うスラが、相手の実力が分からないのがどうしようもないスラ。
覚悟を決めて勇者の方を向いたら、当の勇者は何か得心したように納得顔をしてたスラ。どういうことスラ?
「あ~~、あのトンネルのところの人たちなの~。それならそうと早く言うの~」
あれ? この勇者エリュシオンを知ってるスラ?
「トンネルのこと知ってるスラか?」
「あそこの草原で寝てたら昨日人が来て知ったの~。山の向こうに国があるなんて初めて知ったの~」
なるほど、レンたちが見られてたスラか。それに、ピィナがエリュシオンって言ってから雰囲気がフワフワ戻ったスラね。これなら問答無用で討伐されることは無さそうスラ。
「それなら、そのトンネルの方向を教えてほしいスラ」
「そういえば、ルンたちは迷子だったの~。いいの、あの山は向こうの方なの~」
と、勇者は拍子抜けするほどあっさりと教えてくれたスラ。
聞きたいことも聞けたし、ここにいたら勇者の気が変わっていつ討伐されるかわからないスラね、早く戻ることにするスラ。
「ありがとうスラ。それじゃあ、ルンたちは早く戻らないといけないからここらへんで失礼するスラ」
「お役に立てたならよかったの~。それと忠告なの~、明日から二か月くらいはここら辺に来るのはやめておいた方がいいの~」
「わかったスラ。ご忠告ありがとうスラ」
「え~~! ルンちゃん、もうちょっとお話……痛いっ! 痛いよみんな!」
また、ピィナが余計なことを言う前にルンたちはノノという勇者の「ばいばいなの~」っていう声が聞こえなくなるまでは歩いて戻ることにしたスラ。




