184話 冬が終われば春が来る! (おねむキャラ)
◇◇カレンside◇◇
まぁ、登るって言っても運動音痴で不器用な私は上手に木登りなんてできないし落ちるのが関の山だろうからそんな無謀は最初から諦めてキュウちゃんを召喚して乗せてもらってアルカちゃんのところまで連れて行ってもらう。
「っと、アルカちゃんおまたせ。寝てる子って?」
「報告。もう少し上の太い幹で横になってる」
ということで、アルカちゃんについて行ってその子のところに登る。なんだかこの木、階段みたいに幹が生えているから私でも足元に気を付ければ落っこちる心配は無さそう。
なんだ、これならキュウちゃんを召喚しなくても自力で登れたかも! それに私も最近は少しは運動してるし案外楽勝かも!
……って、思ってた頃もありました。
「あっ……」
「カレンっ?!」
調子に乗ったせいかも。幹にしかっりと足をついていたのに丸みを帯びた不安定な形をしていたからか滑って足裏が宙を蹴り真っ逆さまに落ちていく私。さすがのアルカちゃんもあんな太い幹でまさか落ちるとは思ってもみなかったようでいつもの話すときにつける二字熟語も忘れてる様子。
いや、私もさすがにこんなに自分がニブチンだなんて思ってなかったよ、やっぱり油断は禁物だね。今日は私だけで蓮くんはいないから交通事故の時やレオさんの火球の時みたいに庇ってくれる人はいない……あれ、もしかして私、死んだ?
そう思って、やって来るであろう大きな衝撃にギュッと目をつむって備える。即死だけはしませんようにって祈りながら。即死さえしなければルカがいれば瀕死の状態からでも治せるかもだからね。
「………あ、れ?」
けれど、地面にぶつかる大きな衝撃はいつまでたっても訪れない、というかむしろそんな固い感触じゃなくてポフッて感じの柔らかい衝撃が来た。それに心なしかフワフワと浮かんでる気がする。
ゆっくりと目を開けるといつもより視線が高い。そして落ちた私の衝撃を受け止めてくれたのは触り心地の言いクッション。
「うーん、どゆこと? おわっ?!」
すると私を乗せたクッションはフワフワと浮かび上がって、私を木の幹に放り投げた。
「ぐえっ!」
ちょっと乙女にあるまじきカエルみたいな声が出たけどしょうがない。放り出された私は幹にお腹から突っ込んで布団みたいに干されてるんだから。助けてくれて文句は言わないけどそう少し丁寧に扱ってほしかったです、はい。
「あ、ごめんなの」
と、頭上からなんだか眠たげな声が聞こえてきた。アルカちゃんが言ってた眠ってた子かな?
見上げると、さっきのクッションを片手に抱えてもう片方の手で眠気眼をこすりながら欠伸をする女の子が一人。絶対この子だね、異世界に一人はいそうなおねむキャラだもん。
「だ、大丈夫。けど、自力で上がれないから助けてください……」
うん、情けないけどこの干された状態から自力でのし上がることはできそうにない。
「わかったの」
すると、お眠少女はまたクッションを浮かせて、クッションで持ち上げてくれた。どうしてうかんでるのかわらないけど、なんて便利なクッション、一家に一台欲しいね。そして今度はお腹からじゃなくて足から丁寧に降ろしてくれた。
「ふぅ、ありがとう」
お礼を言って、少女を改めて見てみる。再び宙に浮かぶクッションを手元に戻した少女は今度はそれを抱え込んで机に乗っかるようにする。というか、クッションを抱えると少女自身が浮かんで空中で仰向けで寝てるみたいになってる。
パジャマみたいなゆるふわなけれどどこか軍服を思わせる服を着ていて目はトロンとしていて瞳は薄紫、これぞおねむキャラって感じの全体的に脱力感ある雰囲気がある。少女は瞳と同じ色の薄紫の左にサイドテールに結んだ髪を振った。
「気にしなくていいの。助けたのは気まぐれ、お昼寝してるときにあなた達が来て起きちゃったから」
「それは、ごめんなさい。うるさかったですよね」
「なの」
あ、やっぱそうだよね。これは悪いことをしちゃったなぁ~。
そう思ってると、アルカちゃんがやってきた。
「安否確認! カレン、無事!?」
「あ、アルカちゃん。心配かけてごめんね。この通り……え~っと……」
そういえば、まだこの子の名前を聞いてなかった。すると、私が何て呼べばいいのか困ってるのを察してくれたのか名前を教えてくれた。
「名前はネネなの。ネネでいいの」
「このネネちゃんのクッションに助けてもらったから傷一つないよ。改めてありがとう、私は塔野華憐。カレンって呼んでね、よろしく」
「安心。カレンからはもう目が離せない。それと感謝。カレンを助けてくれてありがとう。私はアルカディア、アルカでいい」
「うん、よろしくなの。カレン、アルカ」
お互いに名乗りあって挨拶もしたし、さっそく聞きたいことを聞いてみることにする。でもまずは、当たり障りのないことを聞いてもうちょっと仲良くなってみよう。アーゼさんからは一応コミュニケーションも練習させてもらってるんだから教えてもらったことを意識していかないと。
「ネネちゃんはここで昼寝をしてたみたいだけれど、ここにはよく来るの?」
うん! これならあたりさわりのない至極まっとうな疑問だよね! ここから、あと二、三個質問してどこから来たのか聞いてみよう。
「ここは最近のお昼寝スポットなの」
「あ~、確かにこれだけ暖かくて葉の隙間から木漏れ日がいい感じに照らしてくれて気持ちよさそうだね」
「なの」
「………」
あ、無理だ。会話おわちゃった。咄嗟に当たり障りのない質問なんて思い浮かばないし。というか、ネネちゃんすっごい眠そう。私もつられて欠伸が、
「ファ~~……ムニュムニュ……」
「?? カレンもおねむなの、ならネネと一緒に寝る?」
「え、いいの?」
「かまわないの、ネネはお昼寝友達が欲しかったの。『形状変形:寝具』。はい、隣に来るの」
ええっ?! なにあれ?! いきなりクッションがベットになったんだけど! そういえば、あれ浮いてたし今更ながらおかしなものだね。
それで、ネネちゃんはそのベットに横になって隣を手でたたいてる。たぶん私に来いっていってるんだよね。
「ネネちゃん、今更だけどそれ何? なんか浮いたり、クッションになったりベットになったりしてるけど」
「これはネネの武器なの。それより早く寝るの」
「あ、うん」
武器って言われて少し驚いちゃったけどネネにとってはクッションとか寝具が武器っていう比喩だよね。
「疑問。カレン、どこから来たとか聞かなくていいの?」
「う~~ん、なんかすごく眠くて頭がもやもやするから寝てすっきりしてからのほうがいいかなって、今日は息抜きだしたまにはね。アルカちゃんもベットに入れてもらお?」
なんか、ネネちゃんと一緒にいるとそののんびりな雰囲気にあてられてかすごく眠たいんだよね。やっぱり日ごろから頑張ってるから疲れてるのかな?
「それじゃあネネちゃん、お邪魔するね」
「どうぞなの、寝心地は保証するの」
確かに、ネネちゃんのベットに乗ってみてわかったけど家にあるやつよりフワフワで寝やすそう。
「じゃあ、カレン、アルカ、ネネは寝る友ができて嬉しいの。それじゃあおやすみなの」
ネネちゃんがそう言って横になった瞬間、心地よさそうな寝息が聞こえてきた。
「驚愕。まさか、三秒で寝るなんて」
「確かに。寝る前に横になってお話して色々聞こうと思たんだけど……」
「無謀。カレンは交渉事は向いてない」
「もー、そんなことは分かってるよ! 頑張ってるのにアルカちゃんがそんなこと言うなら私はふて寝するからいいもん」
そう私も横になったら直ぐに眠気がやってきて目を閉じればすぐに寝れた。起きたらネネちゃんにどこから来たのとか聞かなきゃ。
ていうか、最後にネネちゃんが言ってた寝る友ってなんだろ? 一緒に寝る友達ってこと? 異世界には不思議な友達関係があるんだなぁ。




