177話 氷界の竜人 (空から女の子が!)
◇◇レンside◇◇
突然起き上がって部屋を出て行ったレオとレアを追って、僕も外に出てきた。
外は相変わらずの猛吹雪。しかも、朝よりもさらに酷くなっている気がする。
正直、ちゃんちゃんこ着てるだけで中は部屋着だからめっちゃ寒いけれど、そんなことが気にならないくらいの緊急事態だ。
それは、レオとレアが出ていった理由が、たぶん僕の予想だとこの肌がひりつくような感じの存在が今こっちに向かってやって来ているから。
この感覚は前にも味わったことがある。そう、レオが前に僕達を襲ってきた時のような。
つまり、レオ並の存在がこっちに来てるわけで、もしもレオの時みたいに問答無用で攻撃なんてされたらせっかく作ったエリュシオンの町や城がどうなるかなんてわからない。
あともう一つ、レオが飛び出していったのはいい。レオみたいな存在にはレオを当てるのが一番いいと思うし。
けど、レオのあの性格だからもし戦闘なんてことになったら周りの被害が凄いことになりかねない。そういう懸念もある。
「でも、正直これはわっかんないな」
「………ん、本当に何も見えない」
さっきからドゴンドゴンとすごい音がして、時より竜の咆哮みたいなのも聞こえるから、どこかでレオが激突してるんだろうけど、この猛吹雪のせいで姿は見えない。
「蓮くん!」
と、どうしたものかと思ってた時に後から追いかけて来た華憐たちもやってきた。
「華憐、レオとレアがどこにいるかと何が近づいてるのか分かる?」
「任せて! 『神気解放:飛耳長目』!」
華憐の髪が金髪になり、周囲に青金色のオーラが漂う。
僕もエリュを剣状態にして構えて何時でも何が起きても対応できるようにしておく。
「見つけた! レオさんはなんか白い竜と戦ってるみたい、なかなか善戦してる! それで、レアさんはレオさんが撃ち逃した流れ弾が街を壊さないように守ってくれてるみたい!」
なるほど、じゃあこっちに近づいてきていた存在はその白い竜で、この雷が落ちたような音はレオがその竜とタイマン中。
そして、予想通り周りの被害を考えないレオの尻拭いとしてレアは頑張ってると……これは、終わったらレオはまたレアにチクチクと嫌味を言われるな。
「ミーナ、城の放送局に行って、街に外出禁止令ともしかしたら滝の方に避難するかもしれないことを伝えてきて」
「はい! 分かりました!」
とりあえず、今できるのはこんだけかもしれない。加勢にいってあげたいけど、この視界不良の中飛んでいくのは自殺行為な気がする。
でも、そんなこと言ってられなくなった時のためにレオの様子は聞いておきたい。
「華憐、戦いはどんな感じ?」
「えっとね、お互いにしっぽ叩きつけあったり爪で攻撃したりしてる。おっ! いけっ! そこだっ! レオさん頑張れ! ……って、やばい蓮くん、来るっ!」
と、プロレスの観客みたいなことを言ってた華憐がそんな焦った声をあげた。
「来るって?」
何が来るのか聞き返そうとしたけど、その前に目の前の猛吹雪から突如、レオの大きな二つの火球が僕達に向かって降ってきた。
「あのバカドラゴンっ!」
咄嗟に『神気解放:才気活発』を発動して、エリュを大剣にしてひとつの火球を切り返した。近づいてきた時に熱で肌がジリジリと焼けて、数ヶ月前の大火傷で死をさまよった時のことを思い出す。
「『魔力障壁』! くっ……」
「『光輝の絶壁』! わわっ!」
もう一つの火球はクルアとルカが防御魔法で防いでくれたけど、さすがはレオの火球。守れたことは守れたから当たった瞬間二人の障壁は割れてしまってた。
これじゃあ、あと数発被弾してくればすぐにもたなくなってしまうかもしれない。
まぁ、もしもの時は華憐の魔法を解放して全力で防御魔法を使ってもらえば何とかなるかもだけど。で、とうの華憐はというと、
「そこだー! おぉ! レオさん前よりも強くなってる! いけっ! いけっ! 君ならできる!」
そんな感じで、僕には見えないけど竜同士の戦いにファンタジーな気持ちでも刺激されたのか、少しテンションが上がってるみたいだ。
危機感はないのだろうか……って、思ってると、
「あっ………これはまずいかも」
「退避! みんな逃げて!」
顔を青くした華憐とアルカが全力で叫んだ。
瞬間、猛吹雪を割って青いビームみたいのが迫ってくる。そのビームが通ったところは凍ってくから、さながられいとうビームってところ。
「よし、これも弾き返してやるか!」
と、思って構えたんだけど、
「あっ! こら、エリュ! 逃げるな!」
(………無理! 無理! 冷たいのは嫌!)
「わわわわっ?! 落ち着いて! あぶねっ……!」
僕は右に、エリュは左に逃げようとしたためにれいとうビームは僕の足のスレスレの所を通っていった。
こういう時のエリュとはなーぜか噛み合わなくて、逆の方に逃げようとしちゃうんだよね。
「っていうか、あのれいとうビームやばいな。くらったらもれなく冷凍食品みたいになれるよ」
れいとうビームが通ったところは透明な氷が剣山の様につくられていた。
「わわっ!! 蓮くんまた来るよ! しかも今度はレオさんの火球も一緒に!」
ああ、それはもう無理。もう僕たちの魔法だけじゃ防ぎきれないよ。てことで、
「華憐、君に決めた! 魔法解除!」
華憐は魔力量はそれはもうとんでもない量なんだけど、生粋の不器用のせいで魔法の制御がゼロか百しかできず、たとえ初級魔法のか弱い魔法でもすさまじい威力になってしまうために魔法を使うこと禁止している。僕ももう何回吹き飛ばされたりしたかわからない。
けれども、それも使い方次第だろう。こういうときは逆に役に立つときもあるのだから。
「やった! お許しが出た! 『サイクロンウォール』!!」
風の初級防御魔法『サイクロンウォール』。大層な名前だけど初級魔法であるから、本来なら人一人分くらいの範囲を弓矢とか小石とか防ぐことしかできず、とてもじゃないけどレオの火球やさっきのれいとうビームとかを防ぐことなどできない。
「おお~、さすが華憐の魔法だわ」
しか~~し! 華憐が使うと範囲は城一個分、そしてレオの火球さえ防げてしまう。それになんか、うっすらと風の幕のようなものまで見えて中は風が吹いているよう、本当にサイクロンになる。
しばらくすると火球とれいとうビームの地獄の豪雨はやんで、なんとか防ぎきれたみたいだ。
ただやっぱり全力で魔法を放ったからか華憐は息を切らしてもう魔法は使えなさそうだ。
「警告! レオたちは決着をつけるみたい。みんな衝撃に備えて!!」
すると、華憐のかわりに戦いを見ていたアルカがそう叫んだ。
猛吹雪がどこかに集まるように強く、そして力を集めるみたいに小さくなっていく。
その時、雲の隙間からレオの姿が見えた。それは前に見た炎を纏って激突するレオの必殺技で、アルカの言う通り決着をつけるのが分かった。反対に敵のほうもすごい力を蓄えているのがわかった。
そしてついに氷と炎が大激突する。
一瞬世界から音が無くなり、数秒後にすさまじい強風が押し寄せた。
反射的に腕で顔をかばいぎゅっと目をつむった。
次に目を開けると、さっきまで数メートル先も見えない猛吹雪だったのがウソのような光景になっていた。
空を覆っていた曇天は爆ぜ、吹雪は止み日の光が降り注ぎ太陽の光が空気中に漂うよっている雪の結晶に反射してとても幻想的だ。
「ん? あれは……」
その光景を眺めていると、空からなにか落ちてくるのが見えた。
「蓮くん、空から女の子が!」
と、同じくこの光景を見入っていた華憐がどこかの映画で聞いたようなセリフを叫んできた。
女の子なんていったいどこに……って、もしかしてさっき僕が見えたなにかじゃ……。
そう思いもっとよく目を凝らして見てみると、確かに人の様に見える……って! あの人凄い高度から錐もみ状態で落ちてきてるじゃん! 飛行石はいったいどうしたんだ!
「こうしちゃおれん、はやくいかなきゃ!」
僕は女の子を受け止めにめちゃめちゃ急いで空を飛んだ。




