174話 氷界の竜人 (こんな日は家にいるべし)
◇◇レンside◇◇
「………うぅ、さぶい……レン、今日は行くのやめよう?」
「……そうだね、こんな日は外に出るべきじゃない」
今日もいそいそと起きて、魔力が切れるまでトンネル堀りをしに行こうとエリュと外に出てきたんだけど……今目の前の状況に今日は中止と判断された。
だって、うん。見渡す限り……っていうか、数メートル先も見えないくらいの猛吹雪。ホワイトアウトって言うんだっけ? そんな状態だから外に出たらそれはそれは危ない。
それに、こんな猛吹雪だからか今日はいつにも増して寒さが際立つ。いくらネクさんお手製のヒートテックを着るようになったからってこれは耐えられそうにない。
こういうのはもっと防寒対策の強いスキーウェアとかじゃないと全く意味がないよ。今度はそれを作ってもらうのもありかもしれない。
ただ、ヒートテックが凄く暖かいのはとてもとても実感してる。今ではもう僕を含めてエリュとか華憐とかみんなが着てたりする。一番喜んでたのはエリュとレオかな?
「…………へくちっ!」
隣からエリュの可愛らしいくしゃみが聞こえてきた。
うん、風邪をひく前に部屋に戻るとしよう。と……その前に、
「ハックショォォォォォイ………あ、見てよエリュ。鼻水が空中で固まった」
「…………レン、汚い」
あはは、確かに……けど、吹き出した傍から固まる鼻水って、今この辺りの気温がどんだけ寒いのかが分かるってものだね。
とりあえず、戻ろう。トンネル掘りは一ヶ月の間エリュシオンを留守にしてた罰だけど、今日くらいは華憐とかも許してくれるよね。
■■
「それにしても、急に暇になったなー。なにかすることあったっけ?」
今日一日トンネル掘りする予定だったから途端に暇になってしまうとどうしたらいいのかわからなくなるものだよね。
まぁ、べつにやらなきゃいけない事がない訳でもない。例えば、巨木な我が家の今後の使い道を考えるとか。
ただ、僕が考えてる宿とかそういうのだと、どうしても今の巨木な我が家の構造だと不便なんだよね。特にエレベーターが一つしか無いのとか。どうにかならないものか……。
「………ん、あれって柿ピーで作ったんだよね?」
「うん、そうだけど」
「………なら、あまちゃんに言えば何とかしてくれるんじゃない?」
んー、確かに。今度あまちゃんに電話でもして聞いてみようかな。でも最近は本当に神様事業が忙しいのかあんまりゲームのお誘いとか来なくなったんだよね。たまにはこっちからかけてみるのもいいか。
そんな結構真面目な感じの話をエリュとしながら自分の部屋に向かって廊下を歩いてるとどこからか言い合いをする声が聞こえてきた。
「お姉ちゃん! いつまでもいつまでも寝てないでお仕事に行くよ!」
「わああぁぁぁ! 嫌だ! なんでこんな寒い日に外に出なきゃならないんだ!」
「そんな寒い寒い言ってもお姉ちゃんは自分で発熱できるでしょ!」
「それとこれとは話が別だ! しかも、それの加減が難しくてやりすぎると自分の体が燃えるんだよ!」
と、まぁそんな感じでレオが自分の部屋の扉に手をかけて頑なに出てこないのをレアが足を引っ張って出させようとしてる場面には出くわした。
「いつも通りだなー」
「………ん、二人とも毎日毎日飽きないの」
エリュの言う通り、寒さに弱いレオを引きずり出そうとするのは今日に始まったことじゃないんだけど……ただ、今日は若干レオが頑張ってる気もする。いつもは渋々レオが折れるんだけど。
「あっ! レン、助けてくれ! また、レアがあたしの冬眠を妨げようとするんだ!」
「レン様、何もしなくていいですからね! ていうかお姉ちゃん、前のときなら仕方ないけど、もう冬眠は必要ない体になってるはずでしょ!」
あ〜、やっぱりドラゴンって冬眠するんだ。まぁ、なんだかんだと爬虫類だもんねドラゴンって。でもまぁ、そんな楽脈もないことより、
「レア、今日はいいんじゃないか? 外に行けるような天候じゃなかったし」
「………ん、今日のエリュシオンは自宅待機が必要。外に不用意に歩くのは危険」
それに、レオとレアが外に行ったらもしかしたら僕もそんな弱音言ってないでちゃんとやって来なさい! って、ドヤされて外に出される可能性があるからね。
「ほ、ほら! レンとエリュもああ言ってるんだからいいじゃないか!」
レオは我が意を得たりみたいな顔をしてレアに訴える。
「う、うーん。レン様がそう仰るなら……でも、お姉ちゃん! 日頃からちゃんと寒さの克服はしてね!」
「それは無理だ! あたしに寒さと克服することはできない!」
うん、レオのその気持ちはよくわかる。寒さに弱いエリュも頷いてるしね。
「はぁー……まったくお姉ちゃんは。それじゃあ、私はカレン様に今日はお仕事休むことを伝えてくるからお姉ちゃんは変なことしないでね」
レアはそう言って華憐を探しに行った。
なんていうか、そんな休む報告なんていちいちする必要もないんだけど、真面目というか勤勉というか。まぁ、そんなところがレアのいい所なんだろう。
「ったく、レアは本当におつむが硬いんだよな。もっと気楽に構えてないと息苦しくてたまらないだろうに」
そういうレオはもう少しレアを見習うべきだと思うんだけど。
「レオはこの後何するんだ?」
「んー、そうだな。特にやることは無いから部屋に居るか。でも、部屋もあんまり暖かくないんだよな、布団に入ってるとレアが、いつまで寝てるの! って、怒ってくるし」
レオとレアは二人で一部屋を使ってるからね。レオはべつに生活破綻者って訳ではないけど、真面目なレアのことだ、きっと早寝早起きだとかを徹底されてるんだろうな。
僕の場合は別に朝は弱くないんだけど、寒さに弱くてお布団から出られないんだよね。その場合はいつも誰かしらがお布団をひっぺがしにくるだけど……ただ、ちゃんと内鍵かけてるのに毎日毎日勝手に入ってくるのはなぜなんだろう……どこかにまた隠し通路があるような感じはしないし、本当に謎だ。そして心休まらない。
「それで、あたしが部屋を暖めようとして身体を発熱させるとたまに発火するから、それでレアに危ないでしょ! って言われて禁止されるしな」
「あー、レオの鱗は燃えるもんな」
僕も左腕に魔力を流してやろうと思えば炎のパンチみたいのができる。
「でも、部屋に暖房器具あるよね?」
この城はトーヤさんが設計して作り僕とか妖精族が後から魔術回路で魔力で動く近代的な建物にしてあるから各部屋に暖房はつけたはずなんだけど。
「あぁ、そうじゃなくてさ! 布団でぬくぬくするような暖かさがあたしは欲しいんだよ!」
あーーー、分かる! レオの気持ちはよーーーく分かるわ! 布団でぬくぬくするのは最高に幸せな気分だもんね。それを毎朝毎朝僕は邪魔をされて……ん? ぬくぬく……? 布団……?
「これだっ!!」
「おおっ?! どうした、突然大声を上げて 」
「エリュ! レオ! 今日のやることが決まったぞ! 今日はコタツを作ることにする!」
「………コタツ? それはなに?」
「あたしも知らないな。いったいどんなものなんだ?」
まぁ、二人が知らないのは仕方ない。けれど、僕はなんでこんなに寒くなるまで気が付かなかったんだ……。
思えばなにか物足りない気持ちがあったんだ! そるもそのはず、日本にいた頃は毎年毎年、秋が終われば一目散に出していたというのに……この僕としたことが不覚だった。善良な日本男子として冬にコタツに潜らなくてなんとする!
「いいか二人とも、コタツとはぬくぬくするものだ! そして、そのぬくぬくは合法。お布団でぬくぬくするのとは訳が違う! コタツでぬくぬくしていても誰にも邪魔されはしない!」
「………な、なんだって」「なんだとっ……」
おーおー、二人とも驚愕な顔して、愛いやつらめ。まぁ、合法ぬくぬくができるのはとても喜ばしいことだから分からなくもない。
こうして、今日はコタツを作ることになった。
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