171話 レンとネク (レン、囚われる)
◇◇レンside◇◇
「う、うんっ……? ここはどこだ……?」
目を覚ますと周りは暗闇で真っ暗だった。ほんの数センチ先もよく見えない。ただ、上の方を向けば少し明るいことからどこかの穴みたいな所だというのは何となく分かった。
「ていうか、動かないんだけど」
僕は何かで簀巻きにされているのか、腕も足も動かせなくて首だけ出てる感じ。強く揺らせばフラフラと揺れることからどこかに吊るされてるみたい。
なんか、前にもこんなことあったような……あぁ、目を覚ました時にネクさんに吊るされてた時か。
それより、なんで僕はこんなとこで簀巻きにされて吊るされてるんだ?
確か、今日は朝起きて雪が降ってるせいで、エリュが部屋から出てこず一人でトンネル掘りに行って、終わって飛んで帰ってくる時に……。
「うっ……」
な、なんだっ?! 思い出そうとすると頭痛が……。まるで僕の頭が思い出すことを拒否するかのように……。
「ふぅ、とりあえずここがどこかは分からないけど早いところ脱出した方がいいよな」
うん、とにかくまずはこの縛られてるのを破ろう! って、あれ?
「……神気解放! え? ……神気解放:才気活発! あれ? なんでっ?!」
いつもの感じに神気解放をしようとしてもなぜかできないことに気がついた。なんか、僕の神気解放は集めて爆発させる感じなんだけど集めるたびに吸い取られていくような……。ちなみに、華憐にどんな感じ? って聞いたら、集めて溜め込むかんじって言ってたから僕とはちょっと違うみたいだ。
カサカサ……
「っ?! なんだ?」
どうしたもんかって、思ってると今何かが動いたような気がする。
カサカサ……
あ、やっぱり気の所為じゃない! けど、真っ暗で見えないな……一体何が……。
カサカサ……カサカサ……
意識を集中させて暗闇に感覚を研ぎ澄ませていると、カサカサという何かが動く音は聞こえなくなったけど、目の前に赤い丸い光が見えた。
「なんだあれ……」
あの赤い光、なんだか僕を見ているような……って、増えた?!
赤い光は、一つが二つに、二つが四つに、四つが八つに増えていき、ゆっくりとこっちに近づいてくるような。
「あっ! そうだ、あれがあるじゃん!」
一体何なのか目を凝らしても暗くて分からないから、この暗闇を何とかしようと思って、一つの機能を思い出した。
僕の左腕にはスマホが入ってる。つまり僕の腕がスマホみたいなもの。だから、そのライトの機能を使えば!
「『科学の結晶』! よしっ! これで見え…………」
光で照らされた、その赤い光を灯す物体を見たとき、僕の脳裏に過去の事がフラッシュバックした。
子供の頃のキャンプの時に見た夢や、旅行の時にタランチュラに噛まれた時、つい最近だと僕の顔にネクさんの眷属の蜘蛛が張り付いたこと、そして記憶を失ってた、一体どうやってこの暗闇にやってきたのかも思い出す。
が、それが今分かったところで、僕にどうにかするような余裕は微塵も無かった。
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁーーー!」
「キイィィィィィィィ!」
僕の叫び声に反応したのか奴も不快感が溢れるような声で叫び返した。
ていうか、鳴くんだ蜘蛛って。ここまで大きくなると。
そう、僕の目の前にやってきたのはネクさんよりも巨大な蜘蛛。そして、暗闇に照らされて見えたのは蜘蛛の巣の中心で捕まってる獲物になった僕。
僕が空を飛んでエリュシオンに戻ろうとしてる時、こいつは糸を吐いて僕を搦め取りここに連れてきたよう。僕が気を失う前に最後に見たのはこの蜘蛛が僕を簀巻きにしてる光景だったし。
「こ、こっちに来るな! いや、まじで! おねがいだからあああぁぁぁぁぁーー!」
さっきまでシャカシャカと高速で移動してたのはなんなのか。今は何故かゆったりゆったりと八本の足を動かして、まるで僕の反応を楽しむように近づいてくる。
きっと、クモの巣に搦め取られた蝶々とかはこんな気分なんだろう。全く味わいたくなかった気分だ……。
僕は必死に身をよじったり、力を入れたり、神気解放をして身体能力をあげようとするけど、普通の力だと破ることは出来なくて、魔力や神気は出そうとする度に吸収されていくように霧散する。
そしてついに、奴は僕のもうあと数メートルの所までやってきた。もう何時でも飛びかかって僕を食えちゃう距離。
「ね、ねぇ! 僕美味しくないよ! まずいよ! お腹壊しちゃうから! ……ヒイィィィ!」
ダメだー、僕の必死の訴えも聞き入れてくれる様子はない。
それに、救助も望めない。身動きが取れないから連絡も出来ないし、今日はエリュがいなくて僕一人で来てたから誰も僕の状況を知ってる人がいない。最後にここがどこかも分からない。
蜘蛛はその口を開けて、僕を美味しくいただくようだ。
あぁ、終わった。僕の第二の人生は僕の苦手な蜘蛛に食われて終わるんだ……。もし、また次の人生があるのならあまちゃんには蜘蛛のいない世界に転生させてもらおう。
そう、僕が死の覚悟を決めた時だった。
「控えなさいっ!」
上から何かが落ちてきたと思ったら、僕と巨大蜘蛛の間に割り込んできた。
「ネク……さん……?」
そう、何を隠そう僕の窮地を助けてくれたのはネクさんだ。
ただ、今の雰囲気はいつもの気弱そうなどこか自信の無いような感はなりをり潜めて、堂々としたまるで一刻の女王のような風格をみせている。
「はい、レン様少し待っていてください」
僕の呟きが聞こえたのかネクさん後ろを振り向くとそう言って再び巨大蜘蛛と対峙する。
なんていうか、普段申し訳なさそうに被ってるティアラが今はとてつもなくお似合いな気がした。
「この巣はたった今私が支配することになりました。あなたは即刻、この場から立ち去りなさい」
一歩前に出て、ネクさんが威風堂々たる声で叫ぶ。言ってることはネクさんが普段言わなそうな暴君みたいな事だ。
「キイィィィィ!」
「この、蜘蛛の女王たる私に口ごたえするのですか……あなたは、身の程を知るべきかもしれませんね」
まるで温度を感じさせない声でそう言うと、何故か巨大蜘蛛は耳障りな奇声を上げ始めた。
巨大蜘蛛の足の下の蜘蛛の糸は灰色にないっていてそこに乗ってる巨大蜘蛛の手足は灰色に染って壊れていっている。
「既にこの巣は私の管理下に入ったんですよ……もう一度言います。即刻、この巣から出ていきなさい。さもなくば、私があなたを食いますよ?」
「ギィィ! キィィ! キィィ!」
ネクさんが見下すようにそう言うと、巨大蜘蛛は僕には何を言ってるのかはさっぱりだけど、たぶん理不尽さに憤ってるような感じがする。
とっ、巨大蜘蛛は壊れかけていく手足を使って後ろに飛びつつネクさんに向かって口から蜘蛛の糸を吐いた。
「愚かですね。蜘蛛の女王であるクイーンネクローシス・スパイダーの私に逆らうとは」
ネクさんは吐かれた糸を避けることも隠れることもせずに真正面から受け止めた。徐々に僕と同じように簀巻き状態になっていく。
けれど、ネクさんは焦った様子はなく、寧ろ苦しそうにしているのは巨大蜘蛛のほうだった。
よく目を凝らして見てみると、ネクさんを縛ってる糸から巨大蜘蛛から伸びている糸まで先程と同じように灰色に染まってる。
そして、巨大蜘蛛は最後、不気味な奇声をあげることも出来ずにその身体が崩れ去っていってしまった。
僕は正直、今何が起きたのかさっぱりなんだけど。
「ふぅ……あっ! れ、レン様! ごめんなさい今助けますね!」
ゆらゆらと揺られて今のひと騒動を見ていた僕に気がついたネクさんが、さっきまでの女王前とした姿はどうしたのかいつも通り気弱な感じに戻って、僕のことを縛ってる糸を切ってくれる。
と、とりあえず僕は助かった……のかな?
 




