169話 レンとネク (レンのトラウマ)
◇◇カレンside◇◇
「ネクさん大丈夫だよ! そんな心配しなくたって」
「そうだよ! レンだってネクは悪い蜘蛛じゃないって分かってくれるって!」
「で、でも……」
「ほらほら、今なら蓮くんの周り誰もいなくて一人だし渡しやすいでしょ? 早く行ってな!」
ヒートテックを完成させた私達は、蓮くんに渡すために探して、ちょうど城の裏手で一人で何かをしているところを見つけた。
いったい、こんなとこで一人でなにをしているのかは気になるところだけど、今はネクさんのためには好都合だから気にしないでおこう。
それで、後はネクさんが蓮くんにヒートテックを渡して仲良くなってめでたしめでたしなんだけど、ネクさんは自信が無いのか渋ってるのを私とアウラが応援してるとこ。
なんていうか、友達の告白を応援してるよみたいな感覚で、学校にいて友達が少なかったころには出来なかったことが出来ててちょっと楽しい。
まぁ、ほんとうに告白だったら相手が蓮くんなら妨害してたかもだけど。でも、別にネクさんはそんな下心なく本当に仲良くなりたいってだけみたいだから安心。
「そ、それじゃあ、渡してきますね……」
そして、ついに覚悟が決まったのか畳んで袋に入れたヒートテックを手に蓮くんの元へネクさんが進んでいく。
私達は物陰で邪魔しないように二人の動向を見守るつもり。さて、いったいどんな様子かなっと。
「うーん、やっぱりネクの足取りは重たいね」
アウラの言う通り、ゆっくりゆっくりと近づいてく。まるで、蜘蛛が捕食するために獲物に忍び寄るように。
あ、ネクさんが結構近づいたところでやっとレン様が気がついた。
なんだか、すっごい驚きよう……あんなに肩が跳ね上がることなんてあるんだね。
「レンは本当にネクのことが超苦手なんだね。ここからでも、レンの引き攣り顔がよくわかるよ」
確かに、冷や汗もかいてるのがわかる。そ、そんなにキツイのかな? 私が脅したやつそんなにトラウマになっちゃった……?
「あれ? ちょっとまずくない?」
「うん、まずいかも……」
私達が見てる先では、いかにも今用事思い出したって感じでこの場を離れようとしてる蓮くんと気弱な性格なためか強く引き止められずヒートテックを渡せじまいな様子のネクさん。
そして、ついに蓮くんは回れ右してこの場から立ち去っていこうとする。ネクさんはハッとして手を伸ばそうとしたもののその手は虚しくも空を切る。
なんていうか、少女漫画の振られたシーンのようになっちゃった。
とぼとぼと沈んだ足取りでネクさんが戻ってくる。
「うぅ……ダメでした。やっぱりレン様は蜘蛛の私なんか嫌いなんです……」
「えっと、ネク! そんな落ち込まないで! まだ一回失敗しただけだよ!」
「もう一回なんて無理ですよ……。それに、渡せなかったのは私のせいですし……緊張で言い淀んでしまって、本題を出すことが出来なかったんです……ごめんなさい」
あぁ、ネクさんが重症だ! シュンってしちゃってるよ!
というか、蓮くんがあんなに拒絶してるのって半分くらい私のせいな気がする。私がネクさんを使って脅かしたから。なんだか、罪悪感が……。
でも、あの蓮くんのビビりようはネクさんが脅かしただけじゃなくて、過去に何かあったようなそんな感じがする。
うん、ここは私が一肌脱ぐしかない!
「ネクさん、私が蓮くんにどうしてそんなにネクさんに苦手意識を持ってるのか聞いてくる! だから少し待ってて!」
「で、でも……私、もう一回レン様と向かい合う勇気が出ないです……」
う、うーーん……ネクさん本人にそう言われちゃうと、私は何も出来ないんだけど……。嫌々なら無理やりやるのは良くないし。けど、蓮くんとネクさんには仲良くして欲しいなぁ……。
そんなふうに困ってると、アウラが私に小声で耳打ちしてきた。
「カレン、ネクのことは私がなんとか立ち直らせておくから、カレンはレンに理由でも聞いてきて」
「分かった! それじゃあ、ネクさんのことはアウラに任せるね! ありがとう!」
アウラは気にしないでって手をヒラヒラと振ってネクさんを励ましにかかる。
よし、それじゃあ、私も蓮くんのところに行って蜘蛛が苦手な理由でも聞いてこよう!
■■
蓮くんを探して追いかけると、蓮くんは自分の部屋の作業部屋のところで魔道具をいじってるみたい。
ちなみに、ここに来る間にまるでネクさんの心模様を表すようにしとしとと雪が降り始めた。
『飛耳長目』で蓮くんを探した時にブルブル震えてた。相変わらずの寒さの弱さ、私は夏の暑さがダメだから蓮くんと私は対極だね。そんなに寒いならネクさんのヒートテック貰って着ればいいのに。
そんなこと思いつつ蓮くんの作業部屋に入る。
「蓮くん、おじゃましまーす」
「ん? 華憐か、ちょうどいいとこに来たね」
ちょうどいいとこ? なんのことだろう?
不思議に思いつつ待っていると、蓮くんは今手元に持ってる物を私に差し出してきた。
「ほい、これお着替えBOXに入ってた華憐の服。ちゃんと取り出したよ」
あぁ、なるほど。頼んでいたやつが終わったんだ。
「ありがと! でも、メイド服着とかバニーガールの事、まだ聞いてないんだけど?」
「え、えーっと……それは、ねぇ? あはは……。あ、それより! 華憐はどうしてここに来たの? 僕に用事があったんでしょ?」
うわー、話の替え方が露骨……。ねぇ? じゃないよ、ねぇ? じゃ! まっ、いっか。今はそんなことよりネクさんの事だし。
「まぁ、そうなんだけど……蓮くんってさ、どうしてそんなにネクさんのこと苦手なの?」
私は搦手で話すのは苦手なので直球でいきます!
「う、うーーん……ネクさんのことは、確かに驚かされたので今でもビックリすることあるけど、ちゃんといい人だって分かってるし苦手ではないんだよ。人型のときは」
「それじゃあ、やっぱり蜘蛛が苦手ってこと?」
「まぁ、うん……そうだね。小さい頃に家族とキャンプに行った時に見ちゃったんだよ。僕の手のひらくらいの大きさの蜘蛛が巣に引っかかった虫を食べてるところ。そしたら、その日の寝てる時に僕が蜘蛛に食べられる夢を見て、目を覚ましたら僕の目の前に糸で吊り下がった蜘蛛がいて気絶した。たぶん、それが蜘蛛が苦手になった最初の理由」
ふむふむ、小さい頃のトラウマかー、私もあるな。イルカとか。まぁ、その話は後々。
「でも、小学校の高学年くらいになる時には蜘蛛はそんなに害を起こすやつじゃないことも理解して、ただ歩いてたり獲物を待つためにそこにいるだけなら大丈夫だった。だけど、小学校の卒業旅行で地中海の方に行ったんだけど……」
うわ、すごっ! 小学校の卒業旅行で海外かー……蓮くんって意外とお金持ちのボンボンだったりするのかな?
「その旅行で森林ツアーみたいのに行った時、テンション上がった僕は一人で色々探索してたらオオツチグモ、いわゆるタランチュラに出くわして……しかも、複数。パニックになった僕はどう思ったのか無謀にも撃退しようとして噛まれて九死に一生を得たんだよ」
その時のことでも思い出したのか蓮くんは真っ青な顔なってる。というか、撃退しようとって無法にも程があるよ……。
「それからというもの、蜘蛛を見れなくなって、見たら潰したくなる。後は蜘蛛が近づくだけで寒気と鳥肌がたつようになっちゃったんだよね」
「それじゃあ、ネクさんも?」
「………まぁ、うん。頭の中では仲間だっていうことも分かってるし、ネクさんは人間の姿かたちだから、パニックになったりはしないけど、本能的なもので冷や汗とかが出てくるんだよね。後は、知らなかったとはいえ初対面のとき本気で殺そうとしちゃったからなんというか気まずいなって」
「じゃあ、別にネクさんのことを拒絶してるわけじゃないの?」
「それはもちろん。できれば、仲良くしたいと思ってるよ?」
そっか、別にネクさんを拒絶してるんじゃなかったんだね。なんていうか、気持ちの問題? みたいなものか。
「ありがと、蓮くん! 私はやることが出来たからまた後でね!」
さて、蓮くんが蜘蛛が苦手な理由を話してどうやって作ったの?!仲良くなるか改めて作戦会議をしよう!




