168話 レンとネク (完成、ヒートテック)
◇◇ネクside◇◇
レン様からヒートテックを作る依頼を受けて、カレン様に相談した次の日。
私はお鶴さんからレン様の服のサイズを伺って、とりあえずそれっぽいものを作って、昨日と同じくカレン様の部屋へとやって来ました。
「おぉー! これがネクさんの作ったヒートテック?」
私が作ったのをカレン様に見てもらいます。
「んー……手触りもいいし薄さもいいし暖かそう。機能の方はどうなの?」
「えっとえっと、一応魔力糸で作りましたけど、私が出来るのは壊死させる糸にしか出来ないので、カレン様の言っていた『吸湿発熱』? の機能はないと思います……すみません」
「えっ?! 壊死っ?! 私触っちゃったよ?!」
カレン様がバッとヒートテックを手放して自分の手のひらを慌てて見てます。
「あ……カレン様! 大丈夫です! その糸にそんな危険な機能つけてません! 空っぽのただ魔力が通りやすいだけの服ですから!」
「そ、そうだよね! よかった……まさか私も蓮くんと同じで義手にしないといけないのかと……」
うぅ……ごめんなさい、私の説明不足でした……。
「着たら身体が壊死していく洋服……なんて恐ろしいもの……」
そ、そうですよね……私もこんな能力私には扱いきれないと常々思ってます……はい。
「えっと、じゃあ今のネクさんが作ったこれって、薄くて手触りがいい魔力伝導率が高い特殊な糸の服ってこと?」
「は、はい……『吸湿発熱』の機能は私には過分すぎる能力でした……すみません」
「いやいや、出来ないことはそんな無理にやらなくていいって! うーーっと、これって魔法付与ができたりする?」
「はい、たぶんどちらかというと、やりやすいと思います」
「それじゃあさ! アウラに頼んでそういう機能つけてもらおうよ!」
「そうですね、それなら出来ると思います」
妖精族の魔法付与や魔道具作りは飛び抜けたものがありますから、アウラさんの手なら大丈夫ですね。
「それじゃあ、さっそくアウラのところに行こう!」
「お、おー!」
私達はヒートテックに『吸湿発熱』のような機能をつけてもらうためにアウラさんの家に向かうことになりました。
■■
アウラさんの家はコヴィルさんが妖精族の種族代表で魔道具関連の重鎮であるからなのか、迎賓区のほうにあるみたいです。
そこで、コヴィルさん、アウラさん、ナールさん、衛兵長さんの四人で住んでるようですね。
「はーーい! 今行きまーす!」
玄関の扉を叩くと、すぐにアウラさんの声が帰ってきました。
「アウラ! 来たよー」
「あ、カレンにネク! いらっしゃい、遊びに来てくれたの? 是非上がってって!」
「「お邪魔します」」
私たちはアウラさんに連れられてアウラさんの部屋に行きます。
「ちょっと散らかってるけど、あんまり気にしないで!」
確かに、アウラさんの部屋は結構散らかってますね……何に使うのか分からない道具とか部品とか、よくんからない魔道具とか。
「アウラ、これは片付けた方がいいよ? 汚部屋になるから」
どうやら、カレン様もそう思ったみたいです。
「あははー……エリュシオンに来てから色々楽しくて、レンの作った魔道具とかも興味深くて何回も壊して組みなおしてしてたらいつの間にかって感じ」
「あんまり散らかしてるとコヴィルさんに言っちゃうからね」
「えっ?! えぇー! それだけは勘弁して!」
この二人は相変わらず出会った時から賑やかですね、一緒にいると私も自然と笑みがこぼれそうになります。
それから、数分の間カレン様とアウラさんのじゃれ合いが続いて、さっそく本題に入ることになりました。
「えっと、アウラ。今日は頼みたいことがあって来たの」
「ん? なになに? 何か面白いこと?!」
お、面白いことでしょうか? そこまで、面白いような事じゃないと思うんですが……。
それで、カレン様がアウラさんにレン様が暖かい服を欲しがっていること、それを私が作って仲良くなろうとしていることを話しました。
「あぁー、なるほどね。確かにレンってネクのこと少し苦手にしてるような感じがするよね。みんなとは違って一歩距離を置いているような」
あう……やっぱり、アウラさんからもそう見えるんですね……本当に仲良くしてくれるでしょうか……。
「あぁ! 大丈夫だよ! そのヒートテック? を渡せばレンだって仲良くしてくれるって!」
と、そんな感情が表情に出ていたのかアウラさんが慰めてくれます。
「それで、アウラにはこのヒートテックに魔法を付与して欲しいんだよね」
「お、お願いできないでしょうか……?」
「いいよ! 私もネクの仲良くなろう作戦を手伝う!」
「わぁ! ありがとうございます、ありがとうございます!」
「いいよいいよ。それじゃあ、さっそくそのヒートテックを見せてもらえる?」
「はい、これがそうです………どうでしょう?」
私はアウラさんに私が作ったヒートテックを渡します。
「んー…………って、え?! すごっ!」
すると、それを触って色々確かめていたアウラが驚きの表情を見せました。
「この布、どうやって作ったの?! 魔力が流れやすくてすごく魔法付与がしやすい!」
「え、えっとえっと、私が出した糸ですよ? こ、これでも私、グノーシス・スパイダーなので……」
「凄い凄い! これなら、もっと新しくて良い魔道具が作れそう! ネク、今度私もネクに依頼してもいい?」
やたらテンションが上がったアウラさんの剣幕に威圧されて私はコクコクと頷きます。
「は、はい! その……こんな私の糸でいいならいくらでも……」
「そんな卑下しなくてもいいんだよ! 充分凄いことだから! それで、どんな魔法を付与すればいいの?」
その機能については私はよく分からないので、カレン様にパスです。
カレン様がアウラさんにどんな魔法を付けて欲しいのか伝えるとアウラさんは立ち上がってさっそく付与してくれることになりました。
「それくらいなら、直ぐにできるよ! ちょっと待っててね!」
そう言うと、工房があるのか奥の部屋に嬉嬉として入っていきました。
「これで、ヒートテックができるね! あとは蓮くんに渡すだけだよ!」
「えっとえっと、私が渡すんでしょうか……?」
「それはそうだよ! ネクさんが作ったものなんだから!」
えーっと……みんなで作ったものだと思うんですが。
「それに、もし拒否されてしまったらどうしましょう……」
「そんな重く考えなくても大丈夫だって! 蓮くんは別に悪人じゃないし、ちゃんと受け取ってくれるってば」
カレン様はそう言ってくれますけど、やっぱり不安ですね……私、蜘蛛ですし。
それから、どうやってレン様に渡すのかという事などをカレン様と話していると、三十分くらいしたらアウラさんが戻ってきました。
本当に早いですね。妖精族であることにも加えて、私と違ってなにか才能があるんでしょうね……。
「お待たせ! いやー、ほんとにネクの糸の布は凄いよ! 時間短縮にもなったし、他にもいくつかの魔法を同時に付与することが出来るんだから! それに、丈夫で特殊加工することも出来るとみたいだし!」
「うわっ、何それ。なんか凄い高級なヒートテックができたんじゃないの?」
カレン様はご自分の能力の『鑑定』を使ったようで、顔を引き攣らせてます。
いったい、どんなものになったのか聞いてみると。当初の予定だった『吸湿発熱』に加えて、『自動魔力吸収』、『耐久性上昇』、『防御力上昇』が付いているそうです。
『自動魔力吸収』は『吸湿発熱』や他の付与魔法を発動させるためにいちいち魔力を流していたら面倒なので、空間中や体から発する魔力を勝手に吸収し魔法を発動してくれる付与魔法。
他の二つは名前の通り。けれど、効果の高さは普通のよりも桁違いのようで、下手な防具よりは守りが高いとの事。
アウラさんが言うには、これほど効果の高い魔法を付与したり、同時に四つも付与することは普通は絶対に出来ないそうです。
「ど、どうしてそんなおかしな服に……」
「うーん、やっぱりネクの素材がいいからだよ! 今度もっと作ってほしいな」
「あ、私も! 蓮くんよりは寒がりじゃないけど、それでも寒いものは寒いから私の分のヒートテック作って! それに、やっぱりネクさんは凄いね!」
うぅ……褒めてもらえるのは凄く嬉しいですけど、二人の過分な評価に小心者の私の心は死んじゃいそうです……。
「よっし! それじゃあ、さっそく蓮くんに渡しに行こう!」
「おー!」「お、おー……」




