166話 レンとネク (ヒートテックを求めて)
◇◇レンside◇◇
トンネル掘りを始めた次の日。
「出たくないな……」
布団とお友達になった僕は、その誘惑に勝つことが出来ないでいた。
もうくどいよだけど、僕は冬はダメなんだ。お布団の外に出てはいけないんだよ。日に日に寒くなってる気がするし。
いつもなら朝ごはん作りに行ったりするけど、冬の早起きは無理。まぁ、もう僕が厨房に立つこともあまりないと思うけど。
エリュシオンの人数が増えたことでそういう家事ができる人はお城勤めの人も多くいるようになったし。
と、その時寝室の扉がコンコンとノックされた。
「レン様ー、朝ですよー! 起きてください!」
どうやらミーナがなかなか起きてこない僕を呼びに来たみたい。
ガチャガチャとドアノブを回してるみたいだけど残念。僕は寝る時はしっかりと鍵をかけるようにしてるのさ!
しばらく開けられないか悪戦苦闘してたみたいだけど、諦めたのか静かになった。ドアから離れてく足音も聞こえる。
よしっ! 僕の勝ちだね! まだ外は寒いしもう少し暖かくなるお昼頃まではゆっくり寝てよう。
僕はお布団をかけ直して再び目を瞑って夢の中へ。
ガタンっ! ドンドン! ガチャッ!
「ふぅ……あ、レン様! 早く起きないと朝ごはんなくなっちゃいますよ!」
んーー? あれ? おかしいな、ミーナの声がすぐ近くで聞こえるような?
「ほーーら! 起きてくださいってば!」
ゆさゆさと揺すられて僕は目を開ける。
すると、目の前には楽しそうな顔をしたミーナの顔が……って、あれ?
「なんで、ミーナが?」
「なんでって、起こしに来たからです!」
「いやいや! そうじゃなくってさ! あれ? 僕ちゃんと鍵かけたよね?」
「はい、かかってました。だから入れなかったんですよ? 今度からは空けておいてくたさいね! さぁ、早く着替えてご飯を食べに行きましょ!」
なんでもないような風にミーナが言う。
けど待って、じゃあなんであなたはここにいるんですか?
じどーーっとした目をミーナに向けるけど、ニコって笑って誤魔化される。これはあれだな、あとでもう一回僕の寝室を隅々まで調べ直す必要がありそうだ。
「はぁ……分かったよ、バイバイお布団。また来るからね」
僕は断腸の思いでベッドから起き上がる。
冷っとした空気が体を撫でてブルっと震えた。
とりあえず、ドアの鍵を確認。うん、ちゃんと鍵はかかってるね。
「はい、着替えるからミーナはちょっと外で待ってて」
「……? お着替え、お手伝いしますよ?」
「へ? いやいや、いいよ。着替えくらい自分でできるから」
「レン様、何言ってるんですか? 私は国王補佐ですよ? ちゃんと仕事なんです! さぁ、お着替えしましょう!」
え、えぇ〜……まぁ、言ってることは分かるけど。なんか、この歳になって着替えるのを手伝わされるのは……しかもミーナだし。
そんなふうに思っている間に、ミーナはタンスから僕の普段着を取り出していく。
はぁ……もうこうなったら止められない。別に着替えを見られるのが恥ずかしい〜、なんて思ってないしいいか。
でも、うーーん、あれじゃあ寒いかな?
「ミーナ、足りない。上着あと二枚増やして」
「はい? いえいえ、これで四枚ですよ? 二枚増やしたら六枚になるんですけど……」
「うん、それでいいの。そうじゃないと寒い」
「…………レン様、身体おかしいんじゃないないですか? 熱があるとか……」
心配したような、いやあれはおかしなものでも見たような顔をして僕のおでこに手をつけてくるミーナ。
「ないよ! それくらい着ないと寒さに負けちゃうの! その顔はなんだし」
ちょっと引いたような顔をしたミーナ、失礼なこった。
それから、いつも通り着替えを済ませたら、脱いだものはミーナがシワが出来ないように畳んでくれた。本当にお手伝いしてくれるみたいだ。
二人で僕の部屋を出て、食堂にご飯を食べに行く。
まぁ、でもミーナが引くのも分からなくは無いかもしれない。僕のこの寒がり度は家族も引いてたし。
でも確かに六枚はモコモコして動きずらいし、見た目もベイマックスみたいになるからなぁー……。
あ、そうだ、お鶴さんにヒートテックみたいのを作ってもらおう。それを着ればこんなに沢山着なくても大丈夫。
僕はあとでお鶴さんのところに行くことに決めた。
■■
夕方、今日の分のトンネル掘りを終わらせて僕とエリュは帰ってきた。
エリュも相変わらず寒いのか布団を被ってる、その分僕より薄着みたいだけど。
エリュの為にもお鶴さんにヒートテックを作ってもらわなければ!
ということで、お鶴さんの家にやってきた。
お鶴さんの家は居住区の一角のちょっと大きめの家になる。そこで、ヒロシさんと数人の折り鶴たちと住んでるみたい。
お鶴さん達なら、最古参といってもいいくらいにエリュシオンにいるんだからお城に住んでくれても良かったんだけど、丁重に断られてしまった。こっちの方がしょうに合ってるんだってさ。その気持ちはよくわかる。
まぁ、でもお鶴さんは種族代表だからお城に部屋はあるんだけど。
「こんちわー、お鶴さんいますかー?」
「はいはい? おや、レン様、いらっしゃい。何か用でありんすか?」
「うん、ちょっと作ってもらいたい服があって」
「分かったでありんす。どうぞ、中に入ってください」
「お邪魔しまーす」
お鶴さんに招かれて家の中にはいる。
まぁ、建てて数週間の新築さんだから、まだそんなに生活環ないよね、って思ったんだけど。
「おぉ〜、なんかお鶴さんちっぽいね」
「そうでありんすか? 今お茶もって来ますので、そこを右に曲がったところの部屋で待っててくださいな」
「分かりました」
お鶴さんちの玄関とか廊下には布で編まれたカーペットやタペストリーが飾られてる。あとは糸で編まれた小物とかのインテリとかも飾られてていい感じだ。
「おや? レン様、来てたっぺな!」
お? この独特な変な訛りが入った日本語は……。
「ヒロシさん、お邪魔してます」
「いらっしゃいだっぺ、レン様ならいつでも歓迎するっぺよ!」
うん、変な伸ばしが入ってたのは直ったけど、相変わらずなイントネーションと語尾の話し方の金髪のナイスガイな外人っぽい人。なのに、華憐の『命名』センスのミスで、外見と全く違う名前が着いたお鶴さんの夫のヒロシさん。
「お鶴になにか用事だっペ?」
「そう、ミーナたちにこの厚着はやめた方がいいって言われたから暖かい服を作ってもらおうと思って」
「それは私も興味あるっぺな〜、けどこれからちょっと用事があるんだっぺ、残念」
「用事?」
「みんなに服を配って来るっペ! じゃあ、レン様、そろそろ私は失礼するっぺ、またうちによってきたら話すっぺな!」
ヒロシさんはそう言って出かけに行った。
さて、僕も指示された部屋に行こう。コンコンと扉をノックする。
「失礼しまーす」
「ひっ?!」
「あっ……」
ドアを開けたら、どうやら僕の他にも先客が来てたみたいで、僕がドアを開けたのにびっくりしたのか方をビクッとさせてた。
「え、えーーと……こんにちは」
「こ、こんにちは……」
部屋にいたのは、お鶴さんたちと同じで糸を使って服を作ったり、攻撃したりすることができるグノーシス・スパイダーのネクさんがいた。
僕、正直ネクさん苦手なんだ。ほら、この前起きた時のトラウマっていうかなんていうか、それともともと蜘蛛が大の苦手なんだよ。
一応、あの後に脅かしたことを謝ってくれたし、野生の蜘蛛じゃないっていうのは分かってるんだけど、やっぱり苦手なものは苦手っていうか。
部屋には向かい合ってソファーが並べられてて、僕はネクさんが座ってるソファーの向かいの一番遠いところに座ることにした。失礼なのは分かってるんだけど、蜘蛛って思うと鳥肌が……。
多分ここは服の注文を受けたりするところなんだろう。てことは、ネクさんもなにかお鶴さん達に注文したのかな?
「あ、あのぉ……」
「は、はい? なんですか?」
「い、いえ! やっぱりなんでもないです、はい」
ネクさんも僕に苦手意識を持ってるのか、それとも華憐から聞いた生粋の臆病な性格からか、ビクビクしながらチラッチラッと視線を向けてきたりする。
う、うーーん……気まずい。初対面であんなに怖がっちゃったから、ネクさんに僕が蜘蛛が大の苦手っていうのもバレてるし……。
お鶴さん、早く来てぇーーーーー!!
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