160話 レンのいない一ヶ月 (エリュシオン政府)
◇◇カレンside◇◇
私とクルア、アーゼさんはお城の大会議室にやって来た。
ここは、おっきーーーーーーい円卓の机があって、全員の席が埋まればみんなの顔が見れるようになってる。
巨木な我が家の時も広い部屋に座って種族会議をやってたけどお城が出来たから今度から会議はここでやることになる。
今はここに私たち三人しか居なくて寂しいけど、もう少しすればたくさんの議題が上がる活発な会議室になると思う。
「それじゃあ、カレン様。とりあえず、最優先で解決しないといけないのは住居不足です」
「それは何とかできますよ。マンションやアパート……んー、巨木な我が家でそれぞれ部屋がありますよね? あんな感じに一人で住む分には何も問題ない位の大きさの部屋を何個か繋げるような共同住宅を作れば大丈夫です!」
「なるほど、では直ぐにコヴィル殿に手配しましょう。次にカレン様が心配していた食糧問題ですが、今年は既に十分な蓄えがあるので冬は越せるでしょう。が、来年は無理ですね。今の動けるうちに畑を増やす必要があるでしょう」
ふむふむ、今の畑の大きさでも足りないんだね。最悪土地は沢山余ってるし人手も十分、ただ時間が無いか。
「誰か畑を耕すのがすごく得意な人いないかな?」
「あ、それなら、あの魔物がいるわよ」
そこで、私の呟きが聞こえたのかクルアが話に入ってきた。
「そうなの?」
「えぇ、植物のことは植物に任せればいいのよ。という事で今からその魔物を呼んでくるわね!」
クルアはそう言うと、会議室に付いてるバルコニーから飛んで出ていった。妖精族のところに行った頃からクルアは移動をなるべく飛行でやってるみたい。
正直どんな魔物がいたか直感的にやってた時は覚えてないから、私は誰が来るのか分からないや。
そうして、しばらくすると緑色の髪に麦わら帽子が似合う少女を抱えてクルアが戻ってきた。
「お待たせ、この子が最適だと思うわよ」
「えーっと、お呼びですか? カレン様」
緑色の髪をした少女は同じような色の瞳を疑問に満ちた様子で向けてきた。えーっと、この子は……確かー……。
「カレン、アルラウネの幻獣種よ」
「はい、私はアルラウネです。カレン様にアルルーナという名前を貰いました」
「あぁ! 思い出した! ごめんね、あの時のことが少し記憶が曖昧で」
「いえいえ、あの時大変だったのは私も知ってるので。それで、私になにか用でしょうか?」
「そう、アルルーナさんは畑仕事得意だったりするかな?」
正直、アルルーナさんの細腕だと鍬とか持つの大変そうだなって思うのだけど……。
「えぇ、得意ですよ。カレン様が名前をくれて幻獣種にしてもらったので、植物関係全般のことはなんでも出来るようになりました」
アルルーナは花が咲くような笑顔でそう言う。アルルーナさん笑顔がかわよい、きっとこれからモテること間違いなしだよ。
「それじゃあ、アルルーナさんに勅命! アルラウネのみんなで畑をなるべく多く耕してください! 他に街で農業がしたいって言う人がいたらその人にも声をかけてあげて」
「分かりました! そういうことは得意分野なので任せてください!」
アルルーナさんはそう言って早速会議室を出ていった。あの子になら任せても大丈夫だと思う。それにこれで、農業に時間を取られてたエルフたちに家具の制作を依頼することもできる。
「うむ。これなら、食糧の方も大丈夫でしょうな。エリュシオンの作物はなかなか珍しい物も多い、きっとエリュシオンの特産品になってくれるでしょう」
特産品かぁ……そっか、交易して国庫を潤さないといけないんだもんね。お金……この世界の貨幣はどうなってるのか、人間の国に行ったことないから私には分からない。
「クルア、この世界のお金ってどうなってるの? 銀貨とか金貨とか?」
「そうね、下から銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、白金貨、魔金貨って感じで十進法で大きくなってくわ。今は流石に白金貨以上は持ってないわね」
そう言ってクルアはそれぞれのお金を白金貨と魔金貨以外一枚ずつ机に置いていく。
うーむ、日本円に換算すると、銅貨が一円で十進法で上がってって、魔金貨が百万円ってとこかな。
「白金貨は主に商人が魔金貨は国同士で扱うようなものですからな。一般では持ってないでしょう」
「なるほどなるほど。それより、今のエリュシオン、無一文じゃないですか?」
「いえ、そんなことはないですぞ! だいたい魔金貨五十枚分位はありますな」
「え? そんなんですか?! いつの間に……」
「エリュシオンはハルツァナ王国が合併したようなものですからな、城の隠し金庫に残ってた国家予算をそのまま使ってしまう予定です」
はえー、アーゼさん太っ腹すぎる! 魔金貨五十枚は日本円にすると………五千万円か………それって、国家予算的にどうなんだろう?
「それに、春になれば隣国へ行く予定でしょう? そこで、交易を開始しましょう。それと、街道と関所の設置で税金を取ります。エリュシオンはかなり僻地ではありますが、魅力的な作物が多い。きっと割と多くの人がやってくるでしょう」
おーおー、アーゼさん。たんたんと言ってくるけど、私には理解がまだ追いつかない……ていうか、まだ魔金貨の日本円換算の金額に恐れおののいてる状態なんだけど……。
「ま、まぁ、何はともあれ、そういうお金のことはアーゼさんにお任せします」
「はい。任されました」
アーゼさんは私の頭が追いついてないのに気がついたのか、苦笑しつつも請け負ってくれる。アーゼさんなら横領とか絶対にしないからしっかりと任せられるかな。
「さて、カレン様。前に国を作る授業をしましたよね? その時言った四つの必要な要素覚えてますか?」
「もちろんです! 国民、領土、政府、主権ですよね!」
「そうです。そして、今エリュシオンは国民、領土は解決でしょう。主権は後回しでいいとして、政府を決めましょう」
「そうね。このまま何もしないままだとそのうちエリュシオンは崩壊するわ」
アーゼさんがそう言うとクルアもそれに同意する。もう、私はだんだんいるだけの置物になってきたかもしれない。
「えぇ、本当に。とりあえず、今確実に必要なのは司法の最高責任者の最高裁判所長官と治安維持をする騎士を纏める軍部大臣ってところですな」
「そしたら、確か治安維持の方は今はザリュを中心にリーア、レーア、サイカ達がチームを組んでやってるのよね? それなら、ザリュを軍部大臣にして他のみんなもエリュシオン軍ってすれば……どうしたの、カレン?」
だんだん私にも分かるようになってきた。だから、クルアが喋ってる途中だけど気がついたことがあるから挙手した。
「軍は分けます!」
「「……………と、言うと?」」
あれ? 結構自信満々に言ったんだけど意味がわからなかったかな? 日本では当たり前だからこの世界の国にもそういう国がいると思ったんだけど……。
「軍は軍で一つの組織にして、もう一つ治安維持をする組織を作るんです。私のいた国ではそうでした、警察って言うんですけど……」
エリュシオンがあるのは一応魔物が住む森の中、だから軍の主な役目は、襲って来る魔物を狩ること。そして、警察は主に街の治安維持をする。こうして分けておけば、もし戦争とかになって街に軍の騎士たちがいなくなったとしてもしっかりと治安維持はされる。
私は二人にそういうことを説明した。
「なるほど、そういう事ですか。理解しました」
「それじゃあ、ザリュは警察庁長官ということにしましょう。軍のほうは今はまだ作らなくても大丈夫ね」
こうして、ザリュさんは警察庁長官になることが決まった。後で伝えに行かなくちゃ。
「それじゃあ、次に司法の最高裁判所長官だけど……」
クルアがそう言った時、会議室の扉がバタンっ! っと、行き良いよく開かれた。
「待つスラ! その役目、ルン以外に相応しいとは思えないスラ!」
そして、開かれた扉から現れたのは、今まで散々私が茶番裁判の時に裁判長役をやってくれたルンちゃんだった。
「でも、ルンちゃんは巨木な我が家にお城もお掃除する役目があるんじゃないの?」
「カレン、忘れたのかスラ?」
「「ルンは、今」」
「「「「二十人くらいに」」」」
「「「「「「「「分身できるスラ」」」」」」」」
おおぅ……。ルンちゃん、喋りながら分裂していって一気に八人に分裂した。ちょっとびっくり。
「でも、ルン。あなたの姿は子供でしょう? それじゃあ、最高裁判所長官に相応しくないって言う人も出てくるわ」
「クルア、舐めないで欲しいスラ。ルンは元々形なんてないスライム、こういうことが出来るスラ」
ルンちゃんはそう言うと、一度分裂を吸収して、ドロっとした流線ボディになる。それが、ぐにゅぐにゅと形を変えていき……
「これならどうスラ?」
「「「おぉ〜~」」」
中学生くらいの背格好だったルンちゃんが、キリッとしたスーパーウーマンの美人OLみたいな姿になった。思わず、三人で感嘆の声をあげちゃう。
「まぁ、これならいいんじゃないかな?」
「そうね。これなら問題ないんじゃないかしら」
「うむ。ならば決まりですな」
こうして、最高裁判所長官はルンちゃんの役職となった。まさか、私がお遊びで裁判長にしてたルンちゃんが最高裁判所長官になるなんて。
それから、ルンちゃんも交えて話し合いは続いた。




